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17話 球技大会(サッカー決勝)

「危なげなく最終戦に来ましたね…」

「「(です)ねぇ」」


 習先輩と清水先輩がしみじみと頷く。ほんとに危なげなかった。



 牙狼(ガロウ)チームから始まると、そのまま幸樹(コウキ)がゴール決めるし、逆だったら早々にボールを奪ってゴールに叩き込んでる。



 さっさと一点先制してちゃうから、チーム全体の雰囲気も緩くなるかと思えば、そんなことはなく。真面目にちゃんと動いてた。



 真ん中の二人だけ、ちょっと下手だった気がするけど、僕のがもっと下手だから、問題ない程度でしかなかったし。



「…ガロウ!コウキ!思いっきりやるように」


 待機場から出ていく二人に愛理(アイリ)ちゃんが観客席から圧をかけてる。



 ……なんとなくわかっていたけど本気を出してなかったのね。「わかってるって」みたいな感じで二人も手を振ってるし。



 ……ただ、こういう大会で活躍できる人で、イケメンって割と女性陣からの人気が出やすい。だから、「主役級の二人に親しく声かけるアイツ誰や!?」みたいにざわっとした。



 ……愛理ちゃんは一切気にしてないけど。



「アイリだし」

「ですねぇ…。有象無象の負の念なんてあの子()気にしませんよ」


 ()。……ついさっきもこんなんあったなぁ。愛理ちゃんは気にせずとも、二人は気にされる。そういうことですよね……?



「「勿論」」


 真顔で頷かれても……。うぅ、お二人の圧で少し背中が寒い。



「ま、これくらいのかわいいのならどうでもいいだろ」

「ですね。どうせ家族ってまだ浸透しきってないだけでしょう。いずれ鎮静化するでしょうね」


 牙狼と礼子(レイコ)ちゃんが、家族なのに好きあっている時点で鎮静化しないのでは……?



「そんときゃそんときでしょ」

「恋愛絡みは怖いですが、基本対応出来るはず……です。ガロウ君を好きになっちゃった子はご愁傷様ですね」


 酷い……。



「と言われましても。ご愁傷様でしょうに。あの子達がハーレム容認するなら別ですけど、初恋の人に既に好きな人がいた!なんて状況、これ以外に言うことありますか?」


 ……ないですね! ほんとご愁傷様。



「でしょう?ま、対象が赤の他人で、私は既に生涯のパートナーを得ているという余裕的なものがあるのも否定しませんが」


 さらっと生涯のパートナーとかおっしゃいましたね、この人!



「おら、ひっつけ!」

「ひっつけぇい!」


 有宮(ありみや)先輩と百引(ひゃくび)先輩が後ろから来て、隣り合っていたけど、微妙に距離のあったお二人を密着させた。



 先輩方は押された瞬間、迷惑そうな顔。ぶつかってしばらくは申し訳なさそうな顔。謝りあって互いの体の感触に気づいて、気恥ずかしそうな顔になった後、ちょっと照れが混じっているけど、子供を見守る親の顔に戻って、視線をフィールドに戻した。



 ……体を引っ付けたまま。



「あー!裏山!羨ましい……!から、瞬!甘えさせろー!」

「ちょ……アキ、瞬君が迷惑っぽそうよ」

「ふっふーん、悔しいなら愛ちゃんもやるとよろし!」

「ッ……、なら、えい!」


 なんかお二人にあてられたのか百引先輩と瞬先輩と羅草(らそう)先輩がくんずほぐれつしてるし、



「ちょっ……。列。ここでそれするか?」

「皮、皮」

「ふぁっ!?皮は動物から「剥ぐ」。そっから発音つながりでハグ?どんな回路してんだ」


 ほんとにわけわかりませんね! ……てか、ほんとによく解読できますね。あの先輩。確か、臥門(がもん)先輩だったっけ? 胡坐欠いてる足のうえにすっぽり収まってるのが蔵和(くらわ)先輩だったはず…。



「え。待って。ハグ?……俺に抱けと?」


 コクっと頷かれる蔵和先輩。臥門先輩は超顔を赤くしながらも、大切なものを抱きしめるように、背中側から覆いかぶさるようにハグをされる。



 瞬間、ハグされた先輩はご満悦といった表情に。



「え。何このカオス」


 有宮先輩、元凶の一人なのに何ほざいてんですか。



「みなさん!そろそろ始まりますよ!」

「遊んでるならどっか行ってくれると嬉しい」


 元凶その3, 4っぽい習先輩と清水先輩が少し低い声で言うと、皆さんすごすごと座る。引っ付いた人は引っ付いたままで。



 えぇ……。



 とはいえ、砂糖を口にねじ込むような雰囲気は消えさった。独り身でものんびり見れる。



 スタートは牙狼チームから。ボールは今まで同様、級友が持ってる。



 監督の先生が笛を吹くと試合開始。幸樹にパスが渡され、すぐにシュートモーション。



 相手側が一瞬だけ「はぁ?」と怯んだ隙に、全員の隙間を縫ってゴールにボールが叩き込まれた。



 マジで出来るのね……。



 相手も決勝まで来てるからか、切り替えが早い。速攻で試合再開。相手側がパスして、幸樹のそばを抜けようとした途端、なんかうまいことやってボールを奪取。少し走るとそこからシュート。



 漫画みたいにバナナカーブを描き、ボールがゴールネットを揺ら……すかと思ったけど、弾かれた。



「ふぅん、キーパーは経験者確定かな」

「ですね。あのシュートは位置が遠く、速く、やたら曲がるだけです。よく見ていれば軌道は分かりますから、そりゃ弾けますよね」


 もっとポスポス入るかと思ってたのですが。



「魔力的な作用で体が強くなってるって言っても、それだけだしねぇ…」

「ましてやあれだけカーブするボールです。カーブするボールとしては強いでしょうが、たぶんプロサッカー選手が真正面から思いっきり蹴りこむ程度の威力しかないです」


 十分、威力おかしいです。



「でも、やっぱりそれだけだ。根性あれば弾ける」

「後、怪我させることは本意じゃないでしょうから、そのあたり気を使ってるかもですね」


 なるほど…。



 喋ってる間に幸樹の周りに二人くらい人が常駐するようになった。…だよね! あんなシュートどこからでも撃たれたらたまらないよね!



 でも、割と反則スレスレ。当たらないようにはしてるけど、体全体でディフェンスしてる。ディーフェンス、ディーフェンス! って言いそうなレベル。



 幸樹を封じてる二人を除いた三人が、うまいこと幸樹チームの防御を抜け、シュート!



 だけど、危なげなく防御。マジで見てから取りに行って、それで取ってる。本気出した牙狼をどうやって抜けと。



「直前で軌道を変えるか、ガロウごとゴールに叩き込むか、じゃない?」


 後者ェ……。ゲームじゃないんです……って、ガロウがゴール前から蹴ったボールが、ものっそい勢いで蹴りだされて、そのまま相手のゴールにシューッ!



「超!エキs」

「カイの心読んでボケかますな」

「あだっ!」


 拓也先輩が習先輩に叩かれた。先輩のおっしゃるように、心読んでボケてくるのはやめてくだしあ。ビクッ! としちゃうので…。



「てか、先輩。あれって認められるんです?」

「認められるだろ。キーパーがシュートしちゃいけないってルールはないはず」

「ですね。実際、公式試合でも超レアですけど、あるようですし……」


 えぇ……。



「だが、習。あんな低弾道のはないだろ?」

「それは知らん。まぁ、普通蹴るなら山型で蹴ると思う」

「ですから、ガロウ君のようにほぼ一直線に高速で飛んでいってネット破るのは早々ないかと」


 !? え? ネット破いたんです?



「え?見てなかったんですか?」


 たぶんビクッ! ってしてました。



「なるほど。であれば、ほら。私達からみて右側の真ん中あたりを見てください。一番、脆くなるところが引き裂かれてます」


 ……マジですやん。無残に引き裂かれてますやん。 あ! けが人は!?



「出てたらこんなのんびりしてないよ」

「ゴール裏は今みたいにネット破れなくても、叩き込まれたボールがグワッっとくることがあるので、基本、人はいませんしね。後、ネットが破られてもフェンスがあります」


 なるほど。でも、フェンスも牙狼、幸樹の全力なら破られるんじゃあ……。



「大丈夫。ガロウは人間じゃなくて、獣人で、種族として力強いけど…」

「その全力でも絶対に破れないように魔法で強化してますから!」


 じゃあ、平気……ん? あれ?



「ネット強化してないのはなんでです?」


 そっちの方がもっと安全でしょうに。



「ネットくらいは破れた方が、みんな「えぇ…」って反応しそうでしょ?こっちで半年くらい生きてるから力加減とか知ってるだろうけど、」

「何をどう壊したらやばいかはたぶん、実感として持ってないです。であれば、それを実感できる機会は残しておいて差し上げませんと……」


 なるほどです。苦渋って言ってた割にはノリノリですね、お二人。



「さっきも言ったけど、任せたからね」

「です。ですので、こちらも信頼して動きませんと…」


 フェンス強化は信頼してないことに入らないんでしょうか。



「それは俺らがこっちに帰ってきたらすぐやってる」

「今回の対策ではないので、セーフです」

「こいつら、割と理論はちゃんと詰めてくるぞ」


 ですよね。なんとなくそんな気がします。



「いっそ、かわいげないが、安心しろ。ネット未強化なのは、ネットくらい破れるってところを見て欲sギャグワッ!」


 先輩二人の手がスッと伸びてきたかと思うと、一瞥もせずにデコピン。



 ……それはいいのだけど、一瞥もしてないせいで当たり所が超悪く、目に直撃してる。大丈夫なのです? これ?



「「『『回復』』」」


 やっぱり拓也先輩を見ずに、魔法を撃つお二人。たぶん、目に入ってなくともやられたと思う。「義理でやっとくかー」感がすごいから。



 でも、直撃したのは目。おでこにあてるつもりだったんでしょうから、回復もきっとその程度。それで治るのかn



「治るぞ」


 !? 目を抑えて蹲ってたのにニュルっと復活してきた!? なんかキモイです!



「ひでぇな、おい」


 仕方ないです。だって、気持ち悪かったんですもの。なんでニュルっと動けるんですか。人間なんですから人間らしく動いてほしいです!



「お、おう」


 若干、引いておられる、いや、それよりも、



「大丈夫なのです?」

「ん?これくらいへーきへーき。死合(しあい)してたらもっとひどい怪我すんだから、じゃれあいでしかないさ」


 じゃれあい(眼球直撃)。じゃれあいとは……ウゴゴ。



「まぁ…、うん、確かにそうだわな。俺らも微妙に魔法ある分、怪我に対して適当になってんなぁ…。ま、うちはうち、よそはよそ。だ。その辺りの感性は持ってる。だからへーきへーき」


 あ。それに戻るんですね。



「あぁ。だから怒りもしないし、習達も罪悪感を覚える必要はない。もちろん、これが俺じゃなきゃ、全力謝罪不可避かつ、最悪失明からの慰謝料ドーン!だが。ま、俺らじゃなきゃ、あいつらもちゃんと見てやるさ。……一部以外」


 なんか最後に余計な言葉が付け足された気がします! たぶんこれも、気にしない方がいいんだろうなぁ…。



「そもそも、俺が言わなきゃよかったわけだしな。言ったら逆撃喰らうの予見してたのにやったわけだから自業自得」


 だったら言わなければよかったのでは…?



「いや、言いたいじゃん?わかってるだろうけど、こいつら親バカだから、自分たちの子供がすごいってとこを見てもらいギャベ」


 また!? また拓也先輩が沈んだ。今回は鼻の穴。一瞬、鼻が切り裂かれたように見えたような。そんで、『回復』する前に、お二人が『洗浄』を挟んだような。



「気のせいじゃないぞ。さすがに天丼はないと思ったが、天丼はあったわ」

「親バカなのは自覚しておられるけれど、それをまだ知らないっぽい僕や、子供たちの前で見せられたくない!ということなのでは?」


 まぁ、お二人が親バカっぽいのはお子さんたちに出会った時に察しましたし、お子さんたちも。お二人が親バカ──言い換えると、自分たちを大事にしてくれている──であることを誇りに思ってるぽいですけど。



「カイ。だいたいあってるけど」

「改めて言われると恥ずかしいので…」


 グリンとこちらに顔を向けてきたお二人の顔は少し赤い。了解です。



 声をかけてくださったのは、拓也先輩みたく僕を黙らせる気はないということ。その配慮に感謝して黙ります。



 試合に目を戻すと、点差は5-0。もうちょい取ってるかと思ったけど、幸樹の封殺が結構上手だったっぽい。



 それでも、点数差があるのは、幸樹の周りにもう一人増えてるあたり、強引にぶち抜いて得点したんだろう。



 見てる限り、幸樹に集中しすぎるあまり、他の人へまで手が回ってない。そりゃ、他の人への対応できるのが二人しかいないものね。



 ゴール防衛を牙狼に託しきってしまえば、こっちは4人フルで動ける。一人以外はそんなうまくないとはいえ、ド下手ではないから、ボール運びくらいは出来る。ただ、この子達ではキーパーが経験者だから決定力がない。



 得点のためにはパスを幸樹かうまい子に回したいところ。でも、うまい子に1人。幸樹には変わらず3人ついてる。ちょっとパスが難し…いかと思ったけど、幸樹が動いた。



 うまく幸樹が三人を出し抜いて走り出すと、うまい子についてた子が、フォローするためにうまい子から外れた。



 がら空きになった子へパスが通ると、その子がゴールまで駆け寄っていってシュート。見事にゴールネットを揺らした。



 これで6-0。試合時間はあんまりない。だからか、敵の子が真ん中からやけくそ気味にシュート。難なく牙狼は止めると、



「コウキ!派手に行け!」

「了解!ガロウ兄さん!」


 声を上げた。牙狼のゴール直行は既に警戒されてて入らないはず。でも、だからと言って声を上げるのは下策では?



 なんて思ってる間に牙狼がボールを山なりに蹴り上げる。



「ん?あの軌道だと入らなくないー?」

「だからガロウはコウキを呼んだんだろ、百引ェ…」


 瞬先輩に意図を問う間もなく、ボールはセンターラインを越える。



 幸樹は走ってボールめがけてバク転。頭が真下に来てるのに、頭は余裕で2 m以上の高さにある。そして、足が真上に来た時、ボールに足がヒット。



 撃力がボールに強烈な勢いを与え、軌道を捻じ曲げる。すっ飛んでいったボールがゴール右上の隅を通り、またゴールネットをぶち破った時、試合終了のホイッスルが甲高くなった。



 牙狼も、幸樹もたぶんヒーローだろうなぁ…。特に幸樹。大量得点よりも、キーパーのゴールよりも、あのサマーソルトキックの方が、印象に残ってかっこいい。



「姉ちゃん!コウキはちゃんとやったぜ!」

「…ん。でも、」

「姉さん。わかってる。ほら、兄さん。礼するよ。


 ぴょんぴょん跳ねてた牙狼がそそくさと列に戻った。



「なるほど。今の会話的に、アイリの作戦は本気を最後まで温存することで、絶対に優勝するってのと」

「ヒーローになっちゃうことで、強い=怖い。そんな風に結び付けられるのを避ける。そんな狙いがありそうですね?」


 肩を寄せ合ったままそんなことを言っておられるお二人。



 なんか愛理ちゃんがいつもの無表情で頷いてる。普通なら聞こえるはずがないけど、魔法使って聞いてたっぽい。



 なんか色々すごかった。午後はどうなるんだろう?

お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字、その他何かあればご連絡くださいませ。


次回はいつも通り不定期です

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