16話 球技大会(サッカー観戦)
「既に承知の通り、今日は球技大会だ。だが、3年であるお前らは出ないって意思表明してるから、今日はなんもない日だ。帰って勉強するもよし、観戦してくもよし、ここで歓声聞きながら受験勉強の虚しさを堪能するもよし!」
最後。ソレ、殺意湧いてくるやつじゃないですか、やだー。先輩方も苦笑いされてるし…。
「じゃあ、解s……、あ。待て。大会会場に行くなら、ちゃんと大会運営側の指示に従うように。好き勝手動いて滅茶苦茶に……はやめろ。後、体操服のまま勉強したくない!帰りたくない!ってんなら男女とも、今日は体育館の更衣室を使うように。ここは誰でも入れるように開けとけ」
後、以下の内容は言い忘れちゃダメな奴では……?
「…そんな目で見ないでくれ。そ、それじゃ、解散!」
近衛先生はそう言うと、しょんぼりとウキウキが同居した奇妙な足取りで部屋を出ていく。
しょんぼりは今の皆さんの目だとして、ウキウキはなんだろう? なんかいいことでもあるんだろうか。
「特に何もないはずだけど…」
「ですね。先生方は私達が参加しようがしまいが、大会運営の方に回られるはずです。何なら私達が参加しない分、クラス全体の指揮をとらなくていいので、若干、仕事増えるはずですが……」
いつものことだけど、心読まれたー。しかも、いつの間にお二人はこちらに来られたんだ…?
「いつものことだし、さっき。」
「ですね。ウキウキの理由は、心読むとか、記憶漁るとかすれば理由分かるでしょうが…」
超さらっと流された!? そして、後半! そこまでしちゃだめでしょ!?
「わかってます。先生にはしませんよ」
には。……聞かなかったことにしよう。それはそうと、
「先輩達自身の口から、不参加理由聞いてなかったと思うので、聞いておきたいのですが何故です?」
先輩達なら勉強しなきゃ駄目だから! みたいな理由ではないでしょう?
「あぁ、それはこの大会が一応、クラスの親睦会を兼ねてるわけだけど……」
「私達は召喚されてなんやかんやあったので、親睦を深めるも何も、運命共同体も同然だったので、割と仲がいいのですよ。であれば、参加する必要はないでしょう?」
確かに。でも、僕が……、
「新しく入ったけど、人見知りするでしょうに」
ハイ。よくおわかりで。ごめんなさい。何言ってんだとばかりのWジト目やめてください…。
「ごめん。責めてない」
「です。ごめんなさい。言い方きつかったですね」
いえ、こちらこそ戯言いってごめんなさい。
「いや、別に構わないんだけど…、無限ループしそうだから打ち切るね」
はい。お願いします。
「スポーツで親睦を深めようと思うと、ある程度、負けた、勝ったの要素は必要だと思うんだ」
一人のせいで負けたように見えると地獄ですけどね……。
「そのあたりは全員参加にしてる制度上の欠陥でしょう。ま、一応、ここは進学校で偏差値そこそこあるので、一人フルボッコ発生頻度はないとこよりかはマシでしょう」
「というか、マシなことを前提にしてる節がある」
一応、学校の風土に合わせた運営と言えると思います!
「だね。ま、問題にしたいのはそこじゃない。勝ち負け要素は必要と言ったよね?」
言われてましたね。思いっきり。
「俺らは異世界召喚されたせいで、魔法が使える」
あ。ボロ勝ち出来てしまうのですね。
「です。そうなった場合、親睦を深めるも何もあったものじゃないでしょう?ですから、出ないのです。大惨事になってしまうが故に」
なるほど。納得できるのですが……。
「魔法を使わなければいいのでは?」
「クラスの半分は戦闘職なのですよね」
清水先輩がしみじみした顔で言う。
あっ……。
この大会は暗黙の了解でそのスポーツをガチでやってる人をその競技にあんまださないように! ってなってる。そんなところに命かかった戦いを経験してる人を放り込んだら……。相手は手も足も出なさそう。
「経験値の密度が違うのもあるけど、職に関わらず魔法的な作用で体もちょい強化されてるんだよね」
その辺は魔法を封印しても変わりませんよね……。心技体で言えば、心と体が強化された状態。技が太刀打ちできかも? だけど、暗黙の了解でほぼ無理。一人二人技が優れててもたぶん、ねじ伏せられる。……詰んでますね。
「というわけ」
「です」
なるほど。ありがとうございます。……ん? あれ? となると、先輩方の子供さんたちは……?
「強いよ。でも、この機会はうちの子らが魔法使わないでもどれくらい、一般的な人より強いかを自覚するのにちょうどいいでしょ」
「校風的に少し一般よりもモヤシな気がしないでもないですが、指標にはなります」
え。実験台にするのですか? さっきはお題目を尊重する的なことを言っておられたのに?
……何故にポカーンとされているのですか。
「え?だって、お題目ごときより、うちの子らのが大事でしょ?」
「性格悪すぎると強くても疎まれる可能性ありますが、うちの子らはたぶん大丈夫でしょうし……」
え。大丈夫じゃなければどうされるのですか?
「え?その場合、経験になるからよし。あぁ、心配しなくてもこのあたりのことはみんなに言って、理解してもらってる」
「ルナちゃんも大丈夫なはずです」
先手取られたー。で、でも実力行使とかに出られると困るんじゃあ…。
「その場合、叩き潰せる」
せ、精神的なものは……?
! 一気に微妙な顔になられた!?
「あー。櫂。そのあたりでやめてやれ。そいつらにとってもそのあたりは苦渋の決断らしいから」
拓也先輩が会話に混じって来た。苦渋の決断とは?
「肉体的に強くても精神的なものにまで対応できるわけじゃない。それで傷つくのを恐れてる。でも、鳥かごの中の鳥よろしくずっと囲い込んでると、二人が死んだ後に困るだろ?あと、子供たちの側からも、向こうでちょくちょく過保護って言われてる。だから、成長の芽を摘まないように動いてる。だから苦渋」
なるほど。先輩達も大変なのです……って、なんでお二人は少し顔が赤いのです?
「全部言われたからだろ。後、聞かれる前に言っとくけど、お題目の尊重とかいうのは苦渋に入ってないぞ。さっき言った言葉が本心だ」
わぁお。ちょくちょくぶっ飛んでおられるなぁ…。
「タク」
「なn、あ。ちょ。おまっ…」
なんか黒いオーラ出してる習先輩に拓也先輩が引きずられていった。……南無。
「さて、習君は放っておいても合流してくれると思うので、試合を見に行こうと思うのですが……。矢倉君はどうします?」
「同行させていただいてもいいですか?」
先輩のお子さんたちがどれくらい動けるのか見たいですが、一人だとほかの先輩におもちゃにされそうで怖いので!
「前も言ったような気がしますが、そんな人達ではないのですが…。ま、行きましょう」
少し困った顔をされていたけど、許可くれた! やったぜ!
「あ、でも、二人で歩いて問題ないのです?」
「え?あぁ、習君は狭量じゃないので、これくらいは問題ないですよ」
変なことしようとした場合は?
「ははっ、そんなの、私が叩き潰します」
あ。ごめんなさい。
「あの、矢倉君。土下座されても困るのですけど」
いちいち顔の位置までしゃがんでくださってる!? ……ごめんなさい。真顔の後ろに暗黒が見えたので、ハイ。本気でごめんなさい。
「そもそも、矢倉君にそんなことする度胸なんてないでしょうに」
その通りですけど、さらっと言われると微妙に心に来ます!
「はははー。む、微妙に混んでますね。矢倉君。さっさと履き替えていきますよ」
了解です!
急いで運動靴に履き替えて、外に。観戦組のために作られてる場所が割と人で埋まってる。出場しないクラスにはちゃんと場所が割り当てられてるはずだから、大丈夫なはずだけど……。
って、うちのクラスのスペースが先輩方で埋まってんじゃん。
「おー!しーちゃん!来たね!」
先輩方の中で、誰かが言いながら手を振っておられる。あの人は確か…、有宮先輩だったかな?
「しゅーは……」
やはり清水先輩と習先輩はセットらしい。僕がいても触れずに先輩の話にとんだ。……配慮してくださっているのかもしれないけど。
先輩は小さい体でぴょこぴょこと周囲を見渡されている。
……到達点が高い。人に囲まれているはずなのに思いっきり足が見えてる。2 mくらいありそう。高校生の平均って50 cmやそこらじゃなかったっけ?
「あ、いた!」
ぶんぶんと手を振られる先に習先輩が。さすがにもう拓也先輩を引きずってはいない。
「へいへい、お前らー!4人のために道開けろーい!」
もう一人の先輩……百引先輩かな? がそんなこと言って、スペースを作っておられる。
え? 4人? 僕も?
「そうですよ。晶さんが開けてくれてますし、行きましょ」
うぇっ、えっ……。はい。
促されるがままに移動して、一番見やすい最前列へ。位置的には、サッカーが見やすい場所。だからお子さんたちが出るのはサッカーなのかな?
とか思ってたら習先輩達も感謝を伝えながら来た。
「お待たせ、四季」
「いえ、待ってないです。サッカーに出るのはガロウ君とコウキ君ですが、決勝まで見れますかね?」
サッカーだった。
「娘たちは出る競技を午後に固めてくれてるから、大丈夫なはず。野球みたいにコールドはないけど、点取って試合が止まっても、タイマーは動き続けるから大丈夫だと思う」
ぽこじゃか点を取るのは確定なのですね……。
「サッカーは個人競技じゃないけど、」
「うちの子らが二人で、相手側の経験者も多くて2, 3人です。ダークホースがいればその限りではありませんが、6人サッカーですから…」
全員ダークホース! の可能性は少ない。だから、叩き潰せるね! と。
「うん。あぁ、第一戦が始まったね」
ですねー。幸樹は前の方……フォワードで、牙狼はキーパー。ボールを持ってるのは知らない子。その横に幸樹。
幸樹が駆けて、牙狼が守る! といったところかな?
「おそらく」
「だね」
またココロヨマレター。
「ん?コウキならあの位置からシュート叩き込むかと思ったけど、しなかったな」
「ですねぇ…。自重しているんでしょうか?……いえ、全力でやっておきなさいと言ったんですから、それはないはず。となると、作戦でしょうか?」
「かな?」
あの位置 (ド真ん中)。普通、入らないだろうけど「あぁ、やっぱりできるんですね?」という感想しか湧いてこない。
習先輩達の想定とは違うみたいだけど、幸樹の動きはたぶん良い感じ。うまい具合にもう一人の子とフィールドをかき乱してる。
「ディフェンスは一枚みたいだね」
「ですね。ミッドが2人ですから、一応、攻撃的な編成と言えるのではないでしょうか?」
「ガロウのディフェンス力を信頼した編成かな?ガンガンシュート撃って、取られた点以上に稼いで逃げ切る感じではなさそうだし」
「ですねぇ」
先輩の会話を聞いてたら幸樹の級友がゴールを決めた。早いなー。
取られた方の組も、子供たちの組も急いで真ん中に。やっぱり時計が止まらないというのは大きいみたい。まぁ、もとからボールの予備とか潤沢にあるから、怪我とかでもない限り、試合止まったら30秒以内に始める準備しろってルールなのも大きいかも。
幸樹の敵側の子がボール持ち。ボールに足を触れてスタート。
「ありゃ?コウキ、通したね」
「やろうと思えば一人で防げるでしょうが……。ガロウ君へ仕事を回しましたかね?」
「かな?」
抜いた子はそのまま真ん中の子も抜いて、最後の子も抜く。たぶん、あの子は経験者。抜かれた子もちゃんと防ごうとしてたのに、うまいことフェイント引っ掛けた。
そして、絶好の位置からシュート! だけど、危なげなく牙狼が止めた。蹴る前にフォームから弾道を予測して動いてる……?
「よ。あの子の身体能力なら訳無いから」
「あの大きさのゴールだと、見てからでも余裕なのですが……。やはり、縛ってるっぽいですね?」
「だね。ガロウのゴールキックもいい感じに真ん中に落としただけだし、コウキもそれをなんか走ったら取れた。みたいな感じに抑えてるし…」
えぇ……。でも、球技大会に出るなら、体育も球技大会の競技。その練習相手は同じ体育をしてる他クラスになるはずですが…。
「うん。だからその時から抑えてたんだろうね。その証拠に……」
習先輩と清水先輩が指さす。その先には愛理ちゃんをはじめとする習先輩の娘さん達がいる。
「なるほど」
!? いや、拓也先輩! 先輩方! 納得されてますけど、全然わかんないのですが!?
「え?櫂。アイリちゃんだぞ。あの子なら習達が意味不明な指示出してるなら兎も角、意図を説明されて、了承してる行動で手を抜くものかよ」
拓也先輩が真顔でそんなことを言う。……まぁ、確かに。
「だろ?習達のオーダーが簡単に言えば、思いっきりやれ。である以上、思いっきりやってないなら何か言ってるさ」
すごい説得力。となると、最後の試合とかで開放するのかな? ですが、
「思いっきりやりすぎると危ないと思ってると判断してるから、何も言っていない可能性は……?」
やりすぎると「一人で全部やっていきやがって」みたいにヘイト買うかもとか、最後に全開放すると「なんで今までやらなかったの!?」って怒られるとかで。
「その恐れは確かにある。けど、アイリちゃんだぞ。直前に言われたなら兎も角、だいぶ前から言われてんだ。その辺りはうまくやってるだろ。やれてなければ、まぁ、ギリギリで押し切ることになるだろうが」
愛理ちゃんへの信頼がデカすぎませんかね……。
「あの子はあの子で俺らが行く前から修羅場くぐってるからね」
「そのアイリちゃんが「任せて」と言ったのです。であれば、信頼してあげませんと」
そういう習先輩と清水先輩の声は、毅然としたもの。苦渋の決断ではあるけど、した以上、信頼する。そんなスタンスみたい。
「習。となると見どころは最終戦か?」
「本気を出す。というのが見どころならそこか、一個前からだろう」
「ですが。うちの子たちが出るんです。全部見どころに決まってるでしょう」
おぉう……。親バカ発言。でも、なんか清々しい。
でも、僕としてはこう言っちゃうと悪いですけれど、お子さんたちの本気が見たいので、早く最終戦になって欲しいなぁと、思ってしまう。
お読みいただきありがとうございます。
誤字や脱字などあればお知らせください。
中途半端なので次は早めに出したいです。