14話 華蓮
勉強にも飽きてきたし、そろそろ携帯で遊ぼうかな。スタミナもったいないとかイベント完走できないとかの要素をガン無視すれば、割とソシャゲの一回分は気分転換にちょうどいいんだよね。……やめるためには鋼の精神がいるけど。
そ、それでも一試合15分とかよりマシだと思う。ひどい時とか50分くらいかかるもの。うん。
ん? あれ? 携帯がない……。まさか、向こうに忘れてきた?
えっと、こんな時は慌てずパソコン開いて、位置情報サービスにアクセス。……うん。思いっきり学校。たぶん教室。電話に出るくらいじゃロック外す必要もないし、電話かけてみようかな。
慣れてない人が出たら詰むけど……。習先輩達は今日、教室にいらっしゃったはず。……よし! お祈りしよう! 知ってる人が出てくれますよーに! 発信! ポチ。
ブッブッブッ、プルルーガチャ。
早い。ワンコールで取ってくださった。
『もしもしー。カレンだよー』
華蓮ちゃんが取ってくれたのね。彼女なら知ってるから安心……
『矢倉先輩―』
!?
『えっと、ありがとう。華蓮ちゃん。確かに僕のなんだけど、なんでわかったの?』
『えー?だってー、先輩の机の中に置き去りにされててー、画面に「家」って出てたからー』
なるほど。そりゃ、僕のだってわかるか。…僕の机の中に携帯入れていくような人なんて、いないだろうし。
『でー、これどーしたらいいの?』
『あぁ、ありがとね。取りに行くよ。検索サービスじゃ位置(xy座標)はわかっても、高さ(z座標)まではわからないから。ちゃんと確認しておきたかったの』
とはいえGPS使ってるから、微妙にxyがずれてたりするんだけど。
『なるほどー。じゃー、ボクが届けよーか?』
『ありがたいけど…。いいよ。時間とらせちゃ悪いし』
『ボクはテレポート出来るから、時間なんてかからないけどー?』
え。マジで。
『マジだよー』
顔見られてないのに心読まれた!?
『予想できるからねー。ははー。でー、どーする?』
『お願いします』
見えないのはわかっているのに、携帯越しに華蓮ちゃんに頭を下げる。
『ぃー、じゃー、矢倉先輩。今いるところって家―?』
出だしが吹っ飛んでるのは頭下げてるときに華蓮ちゃんが喋ったからかな?
あぁっと、質問に答えないと。
『うん。家だよ。僕の部屋』
『ボクがそっちにいっても大丈夫な空間はあるー?』
……大丈夫な空間ってどれくらいだろう。
ベッドの上は空いてるし、床はちゃんと片付けてるから人が4人くらい寝転がれるスペースはある。大丈夫でしょ。
『大丈夫なはず』
『りょーかい!じゃー、そっちに今から行くけどー、何か見られちゃまずいものとかあるー?』
『大丈夫!』
パスワードメモとかあるけど、暗号化してるし。てか、先輩達だとそもそもパスワード自体無価値でしょ。
『じゃ、行くねー。驚かさないよーに、3からカウントするー。0になったら、そっち行くよー!』
『了解』
『じゃー、行くよー。3―、2―、1―、』
「0―」
おぉう……ほんとにワープしてきた。愛理ちゃんみたいに空間の裂け目を通る……というより、シュッと来た! って感じ。
「こんにちはー」
「あ、こんにちは」
今日、顔を合わせるのは初めてだったね。
「だよー。挨拶は大事―」
知ってる。だから、挨拶してくれたんでしょ? 先輩方はそのあたりキッチリされてるから……。
「こんな姿勢だけどー。そこはごめんねー」
うん。大丈夫。矢? に掴まって浮いてるけど…、僕が降りていいよ! って言ってないから仕方なし。
「忘れないうちに、はい!けーたい!」
「ありがと」
一応確認。100%無駄だろうけど……、うん、大丈夫そう。
「届けてくれたお礼に、お菓子くらい食べてく?それとも、帰る?」
僕的には食べていくついでに魔法の話を聞かせてくれると嬉しい! 何で浮いてるかとかめっちゃ気になる!
「わかったー。じゃあ、食べてくー。降りていいよねー?」
あ。心読んで僕の希望を汲んでくれたっぽい。申し訳なさがっ。
「どーせ暇だしー。いいよー!いつかお話しておいた方がいいことだしねー!」
ありがと。
「じゃ、その辺に適当に降りて座っておいて」
「わかったー」
確かポテチがあったはず。飲み物は……清涼飲料水が全然ない。
「紅茶で良いー?」
「だいじょーぶ!」
紙パックのやつをトクトクと。……これでよし。
「はい。どうぞ」
「ありがとー!」
コップを差し出し、袋を真ん中から引き裂き、パーティ開けに。これで準備完了。
「じゃー、ボクの魔法について話すねー。ボクのシャイツァー……あぁ、これは魔法武器?とか魔法触媒って捉えてくれればいーよ!」
補足ありがと。でも、愛理ちゃんから聞いて知ってる。
「そっかー。でねー」
切り替え速ッ!?
「うじうじしてても仕方ないからねー。でー、シャイツァーはこの『越弓 ユヴァーゲ』」
地べたに座っていた華蓮ちゃんが、危なくないように少し広い場所にわざわざ移動してから、弓を天に掲げる。
見た目は木と蔓でできた弓。ゲームで世界樹を材料に作ればこんな感じになりそう。あぁ、よく見れば一部に翡翠っぽい宝石も埋まってる。
「見た目はボクの生まれと関係あるだろーけど、置いとくよー。これはボクの魔力で自在に矢が作れるのー!」
言いながらさっき掴んでた矢、めっちゃ太くて長い矢。めっちゃ細くて短い矢……色んなものをぽんぽんと作り出す。すごい……。
「すごくはないと思うなー。ただの矢だしー。重さとか変わるけど、燃えたりしないからねー」
なんて言いながら今まで作り出した矢から適当に5本つがえて発射。一瞬だけ「壁がッ!」って思ったけど、心配する必要なんてなかった。ちゃんとその辺はしっかりしてくれてる。
矢は壁の直前でクルリ反転。ゆっくり戻ってきて浮いている。
「見てもらったよーに、放った矢はボクが操作できるよー。しゅぎょーしたから、矢の周囲の情報もえ得られるよーになったよ!」
嬉しそうに言う華蓮ちゃん。矢の周囲も見れるって……、どんな感じで、どう処理するんだろ?
「見え方は矢を中心に全周を捉えるカメラがある感じー。処理は気合ー!人が入れないところとかの監視に使えるのー!」
エヘンと胸を張る華蓮ちゃん。態度は可愛らしいけど、言ってることはなんか物騒。先輩一家の伝統か何かなんだろうか。
「後ー、ボクが対象を認識さえできれば、ターゲッティングが出来るのー。これをしとくと、勝手に矢が飛んでいってくれて便利ー」
便利……、便利なの……? 人間なら一発、頭にぶっ刺せば死にそうなんだけど。
「人間みたいに弱いとあれだけどー、硬い敵をいじめる時とかー。家族がどこにいるかわかんない時とかー、便利だよー!」
なるほど。確かに便利そう。特に後者。
矢を撃ってついていけば合流できるってことだもんね。でも「対象を認識できさえすれば」って言ってたはず。ターゲッティングする相手をブクマでもしてるんだろうか。
「概念的にはそれでいーと思う!」
いいんだ。いいのか……。やっぱ華蓮ちゃんも、習先輩たちのこと好きなんだね…。
「二人がいないと生まれてないからねー。そっちの話も後にするとしてー、最後!ボクの弓は名前の通り!境界を越えられるのー!」
名前の通り? 名前は確か……『越弓 ユヴァーゲ』。なるほど。越えるって入ってるね。……境界ってなんぞ?
「境を越えるって感じー。例えば、壁とか外と内を区切るでしょー?それをひょいと越えるの。特別な対策されてなければむじょーけんでいけるよー!」
うわぁ。となると、こっちの世界だとどこでも行けそう……。
「案外、そーでもなかったりするー。まー、その場合はごり押しでぶち抜くか、アイリおねーちゃんに頼むー!」
愛理ちゃんに? ……あぁ、彼女、呪い特攻持ちでしたね。邪魔なもの=呪いという押し付けかませば一撃か。
「そー。壁以外にもー、目的地までの間にあるものも境界って出来るからー、たいていのとこには飛べるよー!」
なるほど。滅茶苦茶さは愛理ちゃんと同じくらい。性能も一緒っぽくて、違いはワープの仕方かな?
「性能はたぶんあっちのが高いー。あっちはつなぐけどー、こっちは越えて行くのー。だから、境界設定がうまくいかないとー、何回かワープしないと駄目ー。世界樹のほーにワープして、戻ってくると確実なんだけどー」
世界樹? 前に聞いたあれかな? いくつもある世界が樹みたいになってるっていう…。
「うん。世界の境界を越えてー、世界樹のとこに出てー、戻ってくるとー、確実に2回で済むのー」
スケールデカすぎでよくわからん…。
「まー。わからなくても問題ないよー。あ。でもー、ボクのワープ法だとー、矢にしがみつくなり、乗るなりしないと駄目だからー、大変かもー。世界樹のところで落ちちゃうと、戻ってこれなくなるからー」
なんか怖いこと言ってる気がする!
「気のせー。気のせー。それより、身の上話するねー!」
「あ、うん。了解」
この子、割とマイペースだなぁ……。
「ボクはねー。習おとーさんと四季おかーさんの次女華蓮!……って言ってるけどー、次女ってのは嘘でー、ほんとはむせー!子供って言ってるけど子供のようなモノでー、実は世界樹になった蕾から生まれたハイエルフなのー!」
待って待って。情報量が多すぎる。よくわかんない。
「うん。待つー」
あ。ここは待ってくれるのね。
「矢倉先輩に関わりある話だしー」
なるほど。えっと、最初から行こう。
「無性なの?」
「うん。見るー?」
「見ない!」
華蓮ちゃんから言ってくれたにしても、ボクが見たってばれたら殺されそう。
「だいじょーぶだと思うけどなー。たぶん」
たぶん!?
「ボクが怒られるかもしれないってことー。先輩は多分へーき」
体を大事にしなさい! ってことね。お二人なら言いそう。でも、やっぱり多分なのね。
「うん。女の子扱いなのはー、そっちのが胸とか股間とか隠しやすいからー」
その辺、特に性差あるもんね…。肩幅とか、喉ぼとけとかも性差出るけど……、見る限りどっちでも通りそうな感じ。
「だから女の子なのー。もし触られて、ないのばれても、へーき!あ!もちろん、勝手に触られたら変態扱いして、けーさつ呼ぶよー!」
そうして。行動に移した変質者に慈悲はいらない。
で。実子じゃないと。それは知ってる。先輩方は説明難しいって投げてたような。
「うん。ボクは世界樹……あぁ、おとーさんたちが召喚された世界にあるほーの樹だよー。さっきワープ云々で出てきた世界そのものが連なってできた世界樹……、世連樹?とはまた別―」
ややこしい……。
「わかりやすいように、さっきのめいしょーでとーいつするから、頑張ってー!」
わかった。頑張る……。
「世界樹はただのでかい樹ー、ってのは可哀そーか。世界樹は樹の形をしたー、世界に散った瘴気っていうー、悪いものの浄化装置なのー!」
なんかすごそう。
「そんなにすごくないよー。でー、ハイエルフは世界樹になった特別な蕾にー、特別力を注がれたら生まれるエルフのことー!だからボクの名前はー、華蓮なのー!蓮みたいな蕾から生まれたー。華のよーな子!そんな意味らしーよ!」
なるほど。ということは親みたいなものってのは、力を注いだのがお二人ってこと?
「そー!二人に偶然拾われて、一杯力をもらったのー!貰ってなかったらそのまま枯れてただろーね」
マジか……。そりゃ、親認定するか…。
「特別な力って何?魔力?」
「愛だよー!」
!? 愛!?
「えっと…、Loveで合ってる?」
「うんー」
えぇ……。蕾をかわいいかわいいって愛でていらっしゃったの? イメージと違う…。
「違う違うー。おとーさんとおかーさんが仲良さそーにしてたのを見てたのー!二人ともものすごく互いが好きだったからー、キスすらしてないピュアな付き合いでも割と力もらえたのー!」
お、おう…。僕はどう反応すればいいんだろう。同級生とかなら茶化せるんだろうけど、先輩のを茶化す気概はない。
「笑えばいいと思うよー。ボクの誕生はー、おとーさんとおかーさんが半ば事故で混浴したときに「つきあってください」って告白したことだねー」
反応の仕方がわからないからやめれ。てか、先輩たちも恥ずかしいでしょうに!
「たぶんねー。だから、これ以上はないしょー!」
そうして。僕のためにも、先輩たちのためにも。
「ところで、ハイエルフって普通のエルフと何が違うの?」
「エルフは性があるけど、ハイエルフにはないってのとー。増え方と精神こーぞーかなー?」
増え方と精神構造?
「そー。ハイエルフは特別な蕾に愛をあげればいいんだけどー、エルフは勝手に世界樹に成るのー」
成るのか……。
「一応、生殖でも増えるよー。あ、あと、ハイエルフの魂はワンオフだけどー、エルフは使いまわしってとこも違うねー」
使いまわし?
「いわゆるてんせー。エルフが死んだら世界樹に回収されてまたエルフになるのー。世界樹を護ることが存在意義だからー、記憶でも無くさない限りー、敵が排除できるまでゾンビアタック繰り返すよー。あ。たまーに魂が摩耗して消え去るよー」
うわぁ…。あんまり愉快な話じゃない。
「ボクもそー思う。けどー、そーいう生き物として作られてるからねー。仕方ないよー。どーしようもない。その辺りは時間がなくて適当に作った女神様が悪いのー」
そういう華蓮ちゃんの顔は複雑そうな顔。色々思うところがあるんだろう。
そして、そういうことが言えるってことは、華蓮ちゃんはそういう精神構造をしていない。
「え、えっと。エルフの役目が世界樹の守護なら、ハイエルフの役目って何なの?」
「え?えっとねー。うんとねー」
ん? まさか、考えてる?
「確か……。あー!そうだ!世界樹の声を聴くこと。かなー!あと、ハイエルフは漏れなくシャイツァーを持つから、武力面でも強いよー」
……忘れてたね。この子。
「しっけいな!覚えてたよー!ただ優先順位が低すぎるだけで……」
威勢のいい声だったのが、しりすぼみに消えた。
……習先輩達関連のことに押し流されたんだろうなぁ。
「あ。ごめーん。メッセージが…」
了解。時間はそろそろ17時。習先輩たちかな?
「おとーさんとおかーさんだったー。悪いけどー、帰っていいー?ほぼ喋り終わったしー、「ご飯作るの手伝って」って言われてるのー」
やっぱりね。
「勿論。というか、早く帰って手伝ってあげて」
お二人もその方が喜ぶ。
「わかったー。ありがとー」
グイっとコップに入っていた紅茶を流し込むと、弓を取り出して、矢をつがえる。
「ん。それじゃあ、またね」
「うんー!次確実に会えるのはー、らいしゅーの球技大会かなー?」
かな? 偶然会うとか、先輩に会いに来て会うとかありそうだけど。
「じゃーね!バイバイー!」
笑顔で手を振って矢を発射すると、華蓮ちゃん諸共、矢が虚空に消えた。あっという間だった。
さて、片付けしようか。華蓮ちゃん、ポテチに手をつけなかったから、まずはこれを完食しよう。
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