120話 ごり押し Second
「…超絶進化させたら駄目と言ってるけど、技術方面は「過去を見る」とかやらかしてるよね」
「冤罪叩き潰して真犯人見つけるのに便利だからセーフ」
愛理ちゃんの呟きに即座に反応する習先輩。まぁ、おっしゃることは間違っていませんね。明らかに人の人生に絡んできますし。オーバーテクノロジーなのは明らかに否定できませんが。
「傷害罪系での懸念は映像がグロいところってのがテレビでやってましたね」
改ざんしたら証拠としてどうなの? ってのがあるからか、モザイクなしのが基本。やらかした瞬間が出てくるから血がぶしゃーってのがあるらしいし、普通にグロい。
「性犯罪系はセカンドレイプ対策で音声のみとかにしているけれど、それはそれで彩がいるから…」
「それ言い出したら動画もですけどね」
彩くらいの高性能AIなら動画であれ音声であれでっち上げられますものね。まぁ、信用しない人に「うるせぇ!」って言って、害のない程度の過去の行動列挙動画とか投げつけるとかやってある程度、黙らさられていましたが。
なお、それでも信用しない人はいる模様。
「彩が映像でっち上げていないか?については、彩の根幹に「嘘はつかない」ってのがあるから、そこを信用しろとしかいえんな。AIでない保証は彩でしているのだから」
「であれば、嘘はつかないのです?」
豊穣寺先輩?
「いや。ここだけの話、都合が悪い時は嘘をつく」
草。いやまぁ、元が豊穣寺先輩の人格なんだから、その辺の先輩方の都合に合わせてくれるのは当然なんでしょうけど。そこがバレたら信頼落ちそう。
「仕方あるまい。そも彩は根幹を見せられるものじゃないしな。どうやってもその疑いは払しょくできん。なにせ、根幹を公開なんぞしたら、攻撃され放題。セキリュティ的に無理だ」
それ、バレたら云々への返答になっていないんですけど。
「バレるってことは、彩のセキュリティが破られてその辺が晒されてるってことだ。最も重要なセキュリティへの信頼が崩壊している時点で、そこの信頼なんざどうでもいいだろ」
一理ありますね。そこの信頼がぶち壊れると大混乱待ったなしですし。嘘ついてたじゃん!? なんてのは些末ですか。
「うちのセキリュティは破られない(キリッ)が嘘になってるけど」
「それにゃー。2!」
ツッコミ入れてんじゃないですよ。百引先輩。有宮先輩に至ってはどんなツッコミしてんですか。
「もっと安全性を高めるなら彩のあるサーバールームだけこの場所みたいな異空間にぶち込むことだが……出来ないか」
「なんか自己解決されてる」
うっきうきで言いかけられてたのに、何故に。
「異空間とかいう習先輩達が死んだ後にメンテするのほぼ無理ゲーな場所は使えないなぁってことですか?」
「だな。障壁は張ってるだけでいい。壊れたら壊れたでそれまで。だが、サーバーを置く空間は消し飛んだら復旧出来ん。人間がどうしようもないところでそれは良くない」
障壁も壊れちゃ駄目なんですけどね。信仰心使ってある程度、回せるシステムを作ってるからいいかぁってなるだけで。
「この場所のように時間を歪曲させれば、外から見れば超スピードで反応できるように見えるかと思ったんだが…。パソコン自体のスペックを上げるしかないか」
「パソコン関係に一番詳しいの豊穣寺先輩では?」
だから豊穣寺先輩に案が無ければ打つ手なしですよ?
「打つ手はないな。プログラムの効率化とかはもはや出来ない。人間の人格を搭載して構築した時点で、プログラムは私の手を離れている」
それは駄目じゃない? と思ったけど、前も聞きましたね。AIに自己進化を許すと、人間が制御できない可能性が生まれる。でも、AIが人間より賢くなっちゃうシンギュラリティに到達してる時点で、半ばどうしようもない問題。だから、人格のもとになった私らを信じる。みたいな結論だったはず。
前も思ったかもだけど…。彩達、人間の存続は考えてくれるだろうけど、最精鋭の皆さんが元だから、効率的と判断したら普通にディストピアっぽいの作りそうだよね。
「いかなる決断も、その当時は基本的に最良のものを選ぶだろうさ。予期せぬ変数とかで結論は大いに変わりうるが。おっと、駄目とは言わさんぞ。今の彩が入ってるパソコンは世界最高峰のスパコンだ。それでシミュレーションしているんだ。それでシミュレート出来ないってのは、今の技術的に考えられないか実用に耐えないのだから」
えっと、つまりどういうことです?
「雑に言えば「時代が追い付いてない」だ。シミュレーションはパソコンで計算するために現実を数式に落とし込んでる。技術的にってのは、複雑な現実を考慮するための妥当なモデルがないってことだ。今あるモデルは基本的にある程度、現実を簡略化したものだがそれでは精度が足りないってことだ。実用に耐えられないってのは工場とかで製品品質の予想に使う!ってなったら、シミュレーションに1か月もかけてられない。時間がかかりすぎってことだ」
なるほどです。前者はモデルがあればできる。後者は物理的にパソコンのスペックが足りてないとかですか。
「実際には複合的なものだがな。多少、精度を犠牲にしてでも計算速度を上げる粗視化なんかの技術開発がされてる。後者のスペックが足りない!は、多少の誤差を十分に許容できる手法がないって意味でとらえるなら前者になる」
なるほどです。なら、そういうモデルを開発するのは……。無理か。どこまでの精度を求めるかにもよるけど、バタフライエフェクトの元になった例がありますしね。
「あぁ。完璧な予想を求めるならどれだけ精度があれば許容できるのかがわからない。バタフライエフェクトの事例では、入力値の小数点以下第四位~六位の有無が大きな違いを産んだ。それを踏まえると、どこまでの誤差を許容できるのかは不明だな。勿論、初期値と途中で生まれる誤差という違いはあるがな。途中で生まれる誤差も効くとは私は思っているのだが、どうなんだ?」
「咲景嬢も知ってるだろう?誤差は蓄積する。高精度が必要なものを長時間予測するとなると、間違いなく誤差は効くさ」
「だよな」
「ていうか、そもそも論、有効数字があるだろ。どうせ温度なんかMaxでも小数点以下第二位までしか測定しない。むしろそっちの測定機器の精度を上げるべきでは?」
「まぁ、小数点以下第四位に足りていないものな」
なんか豊穣寺先輩と薫先輩が難しい話をしておられる。
「姉。豊穣寺。脱線がすごい」
「っと。だな。賢人。結論はさっき言ったのと変わらん。彩たちは今の最良を選ぶ。未来のことは未来が判断を下す。だな」
結局、そうなりますか。
「後は少子化対策のために政策面だけじゃなくて、意識改革もしていくよ」
あれ? そんな政策取ってました? 意識改革ってことだし、宣伝とかかな?
「そう。宣伝。宣伝でじわじわーっと意識を誘導する」
「それ、洗脳とあんま変わらないのでは?」
「見方を変えればそうかもです」
えぇ……。世界中を丸っと洗脳しちゃうと、同じ意見しか出なくなってよくないかもとかおっしゃってませんでしたっけ?
「人口はだって増やしてもらわないとどうしようもないもん」
「デザイナーズベイビーとかロクなことになりませんよ」
それはそうですけども! いいんです?
「国を維持するという面ではやらなきゃどうしようもないしね」
「そも、お金の給付と言う劇薬を投げつけたのでやるまでが責任かと」
え。責任……ですか?
「そうです。ただでさえ、ベーシックインカムがあります。子供を産めばさらにお金も増えます」
「となると、お金目当てで産んで、こんなはずじゃなかった!ってなりかねない。それで放置されたらたまったもんじゃない」
「子供は望まれて生まれて幸せに生きるべきです。私達はそこで妥協はしません。ネグレクトだけはさせませんよ。例外はありますが」
思想が入ってくると碌なことにならない気もしますが…、まぁ、うん。そんなにひどいことにはならないでしょう。
「ねぇ。四季義姉。例外って何?」
「親が犯罪者の場合は残念ながら例外でしょうよ。子への悪影響待ったなしですし…。まぁ、虐待やら性犯罪やらそういうのを子供にさせないための思考誘導って面もありますがね」
「どうしようもないのは不法滞在者がやらかした時かねぇ。まぁ、まとめて追放すれば親といれて幸せかな?後は、無戸籍の人よろしく洗脳するか」
それはいいのです?
「よくはないだろうけど、諦めてる」
「私達の基本的な考え方は「まともな人が割を喰っちゃ駄目」です」
土地とか外国の人らが割喰ってません?
「そこは諦めてもらうしか」
「ですね」
あ。最精鋭の皆さんの意見が揃った。まぁ、必要なのでしょうし、仕方ないですね。…障壁あるから出来る強権だぁ。
「…洗脳ってどうするの?割とがっつり目のがいるよね?」
「うん。だからめんどいね」
めんどいのです?
「無戸籍の人は多分、そこまで過激なのはいないからかるーく思考誘導すればいい。けど、不法滞在者は割とやらかしてるのがいるから」
「急に大人しくなるとおかしいんですよねー。ここで神様の名前を使いたくないですし」
洗脳なんてあきらか悪の行為ですしね。
「あ。いいこと思いついた。習四季。なんか謎の現象起こせ」
「そん時に洗脳してその現象のせいにしてしまえ☆」
超常現象のせいは草も生えないんですよ。百引先輩。有宮先輩。それはそれでまた神様のせいか! ってなるのでは? って、何で習先輩達はいいんじゃない? って顔されてんですか。
「あの障壁は明確に神様のおかげって言ったけど、その超常現象には言及しなければいい」
「海外の魔法を扱える秘密組織は「またなんかやったな!?」ってなるかもですが、一般人からすれば、ただの超常現象。いかようにも解釈してくれるでしょうよ」
「その解釈の中に、神様説が出てくると思うのですけど」
そうなると結局、神様に悪名押し付けていることになりません?
「かもねぇ。でも、謎の現象と観測される事象──突然、人が変わったの因果関係は不明だよ?」
「ていうか、謎の現象を起こす必要もないですね。懸案をまとめて解決してしまいましょう。そうすれば、それ自体が謎の現象になります。障壁のように神様からのアナウンスをしなければ、どうとでもなりますよ」
「好ましい流れに誘導できるように彩も動員すればいいしな」
言ってることえぐくて草も生えないんですけど。
「テレビとか新聞をどっか一社でも使えたらいいんだけどね。僕の……もはや僕のっていいっていいのか怪しくなってるけど、鶴月グループも持ってないし」
「そもそも放送法の規制で独占的に放送局を占有すること自体が不可能に近いですけど。確か最大でも20%だったはずです」
何で天上院先輩がそんなこと知っておられるんですかね。望月先輩なら兎も角。
「勉強しましたから。まだ世論形成には新聞やテレビは一定の影響力がありますしね」
「なるほどです。ふと思ったんですけど、世論誘導も危うくないです?意見のメインストリームがそれになるってことですよね?」
習先輩達が魔法で全世界洗脳! とかしない理由は「強引に捻じ曲げた流れが正しいかわからない」からでしたでしょう?
「ですね。でも、一社ですから。一社なら影響力はそこまででしょう。……さすがに彩がいる現状、放送局にまで手を伸ばそうとは思いませんが。ねぇ、光太?」
「だね。後、そもそも手に入れる流れが分かんない。手に入れるならがっつり方向転換することになるんだけど…、それに値する何かがないとまた超常現象(僕らの鶴月グループに超有利)になる。さすがにおかしいでしょ」
「別に方向転換くらいならいいのでは」
あーでも、何でその一社だけ方向転換してるのってなりますか。全社方向転換はそれこそ意見の多様性を全力で潰してるし。
「うん?時間かかるけど、必要なら取れるわよ?大蔵省の再編が終わってから、富嶽放送限定だけども」
なんか瑞樹ちゃんがえぐいこと言い出した。
「えぐくは……ないとはいえないわね。筋道は簡単。総務省はかつて、富嶽放送は放送法違反してない?って言われて「じゃない」って言ったわ。それを大蔵省再編が終わって余力が出たら、総務省再編して、再編中に新資料が見つかった!とかで富嶽放送の疑惑を蒸し返してしまえばいいわ。潰して新しく作るもよし、そん時に出るだろう株を買いまくって出資率を一気に上げてもよし。まぁ、それでも傘下に入れてるかと言われると微妙だけどね」
まぁ法律で一人で全部占領! とかは出来ないだろうしね……。
「それ考えたけど、法の不遡及とかにならない?」
「新しい資料が見つかった!ならセーフじゃない?まぁ、それ回避するためにいるのが総務省再編なんだけど」
テレビ局手に入れるのに省再編は草も生えない。
「流石に今はそこまではやらないかな」
「ていうか、雫の繰り返しになりますが、彩がいるから優先度も低下していますし」
「わかってるわよ。父さま。母さま。他にやることもあるし、言ってみただけよ。やろうって言われない限り、やらないわ」
やれって言われたらやっちゃうのね。まぁ、らしいっちゃらしいけども。
「さて、割と話が脱線したから戻そうか」
「といっても、何か鶏さんに言わなきゃいけないことってまだ何かある?」
「文らはないと思うんだぞ☆」
いつもの軽い二人の声に、皆さん視線を宙にやる。もうない……ぽい?
「ないかもですね?後はせいぜい、AIを通販以外のところにも活用していくってくらいですね」
「鶏さん的にAIの活用に忌避感ってあります?」
「あったら話題に出た時点で止めていますよ。言うとすれば、失業対策はお忘れなくということですが……。まぁ、考えておられますよね」
配置転換不可避だけど……、どうにかなるもんなのかな。運転してた人に工場で働けっていきなり言っても無理だと思うんですが。
「だね。まぁ、その辺りは本人の希望を聞きつつ、時間をかけるしかないかなと」
「そこは臨機応変に。ですね。なまじ彩がほとんど出来ること人間と変わらないので。人手が足りない!ってところで「人の温かみが」とかでもない限り、彩をあてがえば済むのですよね」
人間の仕事なくなりませんかねそれ。…まぁいいか。
「ふむ。存外、変えるところは少ないのですね。前の資源出現のようにドーンと変えるのかと思っていましたが」
「その規模のことをしはしますがね」
「国土をいじるってのはちょっとあれですし。高速道路や新幹線なんかは土建屋の仕事とっちゃいますし、何より維持管理が私達には出来ないので」
押し付けることになっちゃいますものね。特に電車の方。既存と路線被ってたらどうするの! ってなりますし。採算取れるかが分かりませんし。
「なるほど……。あ。でしたら、既に動き出してるリニアはどうです?4年経っていますし、魔法でいい感じにトンネルぶち抜いてあげると楽では?」
「……ですね」
「影響考えた後でやってみます」
鶏さんがめっちゃ嬉しそうな顔でおっしゃったからか、習先輩と清水先輩が同意された!? え。いいんですか。「どうせ難工事になる」……って、そういうのを経験しないと経験値にならないのでは。あー、まぁ、他のところで積めるかぁ。
鶏さんが楽しみですねーとかおっしゃっているのを見たら、なんも言えないわ。神様もリニアとか興味お持ちなんですね。
「今日はそんな感じです」
あ。一気にたたみに入られた。他の最精鋭の皆さんもお子さん達も小鳥も否はなさそう。
「わかりました。では、のんびり新年を皆さんとお祝い……と行きたいのですが、多少、良心が咎めますので持ち場へ帰ります。皆さんはご自由に。では!」
しゅぱっと消える鶏さん。
「じゃあ伊勢神宮に参拝してから帰ろうか」
はーい。今、お会いしたのは鶏さんですものね。ちゃんと主神様にもご挨拶しないと。参拝した後は……、超常現象再びになるんだろうなぁ。
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