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12話 愛理

 あれ? ここどこ? ……完全に迷った。えっと、何しようと思ってこうなってたんだっけ?



 今日は4/20日の月曜日。なんか新聞に物騒なことを書いてた日で、しかも赤口(しゃっく)。正午以外大凶の日。



 こないだ清水先輩に会った時の図書室で見た新聞の通りなら、京都に残る売人とかにとってはまさに厄日なんだけど、僕には関係ない!



 みたいなノリだったっけ? 違うよね。



 授業終わって帰ろうと思ったら、習先輩達は忙しそうにされてた。だから、他の先輩方に捕まらないようにとっとと出ようと思って教室を出た。



 家に帰ったら買い物に行って、勉強するつもりだった。けど、学校で勉強して疲れたからあんまり早く家に帰りたくはない。



 だから十字路見つけたら絶対曲がるルールで帰ろ……って、これじゃん。これしかないじゃん。新発見があるかもしれない! って思ってやってみたんだ。



 ノリと言ってしまっても何ら支障がないくらいだ……。



「…こんにちは」


 ! この声は確か……、愛理(アイリ)ちゃん! 習先輩たちのお子さんの長女! やった! これで帰れる! って、



「こんにちは」


 挨拶してくれてるんだから返さなきゃ。……返したら返したで『なんでこの人困ってるんだろう……』って、綺麗な赤い目が言ってる気がする!



「…ん。…迷ってるのは顔を見てたらわかった。けど、ちょっと行ったら常華(じょうか)川流れてるよ? 駅もあるし……」


 そういえばあったね。駅あれば現在地わかるし、わかんなくても中に入れば案内見て最寄り駅を探せる。



 常華川はもっといい。僕の家はその流域にある。



「ありがと。これで帰れるよ」

「…携帯あるでしょ?」


 棒付きの飴をきゅぽんっと取り出して、首をこてっとかしげる愛理ちゃん。可愛らしい。



 ……身長150 cmくらいあるから幼子って感じではないから、たぶんこれはクールっぽく見える人が、咥えていた飴を持って首をかしげている……っていうギャップが原因に違いない。



「…大丈夫?なんだかテンションがおかしいよ?」

「あんまり大丈夫じゃないかもしれない」


 だって、さっきからスルーしまくってたけど、愛理ちゃんの飴を持っていない方の手。そっちにやたらデカい鎌を持ってるんだもの。



「…あぁ。これが怖いのね。ちょっと待ってて。お仕事済ませてくる」


 愛理ちゃんが鎌をひゅっと振るうと、空が斬れる。そこへ体を放り込むと、愛理ちゃんの体が掻き消え、亀裂も消えた。



 よくわかんないけど、のんびり水筒のお茶でも飲んでようか。自転車が倒れないように、降りてちゃんと止める。



 水筒のコップにお茶を注いで……、



「…ただいま」


 早いね。そして、喋り終わるたびに手に持ってる飴を口に放り込むのね。



「…昔の名残。もはや癖と化しているから気にしないでくれると嬉しい」


 なるほど。ほんの一瞬だけど、顔が曇った気がするから気にしないでおこう。



「ところで愛理ちゃん。愛理ちゃんこそどうしてこんなところに?」

「…お仕事の関係。このあたりが今日の仕事場。…ワープで来たんだけど、その瞬間を人に見られないところ、もしくは見られても問題ない人のところに、ワープ先を作った」


 あぁ、なるほど。だからたまたまこの辺にいた、既に最精鋭の皆様が魔法を使えるって知ってる僕のところに来たと。



「…ん」


 でも、さっきもワープしてたよね?わざわざ一度こっちに来る必要がなかったんじゃ?



「…見られると面倒。…ここから周囲に人がいないっぽいことを確認したかった」


 むふーと、胸を張る愛理ちゃん。ちゃんと理由はあったらしい。でも…、



「習先輩と清水先輩は動けないの?」

「…確かに頼るとすぐに終わるよ?…けど、これくらいはわたしたちがやりたい」


 親……お二人に自分で出来るよ! ってところを見せたいのね。



「…ん。聞かれる前に言っておくと、お仕事は害虫駆除とリクルート」


 ? 害虫駆除とリクルート? その二つ、一切関連ないんじゃない?



「…ある。害虫駆除は簡単。引きずり出せば死ぬ。…赤くて7~9 mくらいある。赤虫がでかくなった奴みたいだから、見ない方がいい。…中に茶色いものあったりするからね」


 忠告通り見ない方がいいね。小学校の時、学校で飼ってるメダカにあげるために冷凍赤虫があったけど…、解凍されたやつは気持ち悪かった。それのでかい版とか絶対無理。



「…リクルートはそのまま。…雇って会社の警備員さんにする」


 会社? 何故に会社?



「…日本に資源湧いたけど、あれがお父さんたちのせいだってのは察してるよね?」


 うん。資源ありますやん! って言ったらめっちゃ微妙な顔されてたからね。



「…ん。その資源開発を一手に担うのが、お父さんたちが作った『日本天然資源開発管理公社』。英名” Japan Natural Resource Development and Management Corporation”、通称JNRDMC」


 びっくりするくらい英語の発音がいい……。英語がそれであってるか疑問だけど。



「…わたしもお父さんたちと一緒で言語の加護を持ってるから発音はいいよ。…英語は合ってるんじゃない?知らないけど」


 知らないのかぁ……。てか、よく資源を全部握れたね。普通、国の傘下に置かれるんじゃ。



「…湧かせたのがお父さんとお母さん」


 なら消すこともできるか……。そりゃ握れる。



「…会社作っといて、そいつらにさせたという体で見つけたのもある」


 脅しだけじゃだめだと踏んで、うまいこと出来るような隠れ蓑を作ったと。ちゃんと考えておられるのね……。



 …外野が五月蠅そうだけど。



「…そのための警備員さん」


 ? なるほど。五月蠅ければ力で黙らせようそうしよう……と。絶対それ、警備員さんじゃねぇ。暴力装置じゃん!



「…だからリクルートしてきてる。…待遇は悪くないと思うけど、荒事に慣れてなきゃ駄目だから。」


 雇う(はみ出し者っぽい人らをぶん殴って言うことを聞かせる)なんだろうなぁ……。かっこの中が長すぎる!



 あ、あぁ……。なんでリクルートと害虫駆除が関連してるか、なんとなく理由が分かった。



 あんまり気にしない方がいい。ただ一つ確実に言えるのは、この子、何でもないような顔して、エッグいことをしてきたということだけ。



「…ん。詳しくは明日の朝刊」


 折込チラシか何かか?



「…聞きたくないでしょ?知りたければそっちを見て…ということで。…で、そのコップはいつまで持ってるの?」


 ? あ。忘れてた。飲んどこう。



 うん、美味しい。ただの麦茶だけど、乾いた喉が潤う。



「…道が分かるところまで送っていこうか?」

「お願いします」


 自分より年下の子に頼むのは少し情けないけれど、川か駅までお願いします…。



「…ん。任された。…情けないというけれど、つまらない意地を張って滅茶苦茶になるよりはいいと思う。確か……『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』だっけ?」


 慰められた。少しハズイ。けど……、よくことわざを知ってるね…。翻訳の質がいいのかな?



「…違う。日本語はちゃんとお父さんたちと勉強した」


 愛理ちゃんの声が少し不機嫌。わざわざ「お父さんたち」と言っているから、習先輩達と勉強したのを無にされた──そんな風に感じちゃうから嫌なんだろう。



「ごめん」

「…こっちこそ、ごめん」


 ぺこっと頭を下げる愛理ちゃん。いや、悪いのはこっちで……、



「…やめよ。堂々巡り」


 …だね。絶対にそうなる。正味、どっちが悪いとかはないんだし。



 …ほんと、愛理ちゃんは習先輩達が好きなんだね…。



「…ん。大好き」


 愛理ちゃんが珍しくハッキリと頬を緩ませながら言う。可愛らしい顔だ。



 でも、その赤い目に宿る感情は一言では表せないくらい複雑なもので……、ともすれば狂気ととられかねてしまいない。



 拓也(たくや)先輩にこっそり聞いてはいたけれど、強烈だ。習先輩と清水先輩の地雷に匹敵しかねないくらい、この子にとって習先輩と清水先輩は地雷だ。



 二人に危害を加えようとすることはもちろん、悪しざまに言うことさえ危うそう。



「…基本的にわたしも、弟妹も、お父さんたちが地雷だよ?」


 今日最初に会った時と同じように飴を手に持って、こてっと首をかしげる愛理ちゃん。だけど、僕が少し怖がってしまっているのか、最初に見た時のように「かわいいなぁ…」とは思えない。



 まぁ、この子らがいい子らなのは知ってるから、この気持ちはきっと今だけなんだろうけど。



「…お父さんとお母さんの時はすぐにでも復帰できてたって聞いてるのに、何故」


 目のせいじゃないかなぁ…。お二人は純度の高い殺意で、いろんな意味で死んだわ。ってなる。けれど、愛理ちゃんのはどこか狂気を含んでいるように感じるから、具体的な想像が出来ない。だから怖いって思えてしまう。



「…なるほど。…たぶん二人の方がえぐいことすると思うんだけど」


 ……流そう。



「送ってくれるって言ってたけれど、さっきの空間の切れ目?は使えないの?」

「…なんでさっき怖がってたのってくらい復帰早いね」


 仕方ないじゃん。興味あるんだもの。流したいのもあるけど、そっちのがでかいよ!



「…叔父さんや叔母さんの魔法に興味を持てれば、声を掛けられるんじゃ……」


 どこか呆れた顔でいう愛理ちゃん。



 …ごめん。それとこれとはなんか別。



「…そっか、なんか別なのね……」


 愛理ちゃんはすっごい残念そうな顔で言うと、どこからともなく巨大な鎌を取り出してきた。



「…どこからともなくじゃないよ。キーホルダーっぽいのあったでしょ?あれが大きくなっただけ」


 そんなとこまで見てないよ!



 と思ったら、愛理ちゃんが鎌をちっちゃくして腰のベルトのあたりに吊り下げるふりをしてくれた。



 …うん、そんなとこまで見ないよ。見ても服装とか体形ぐらいじゃないかな…。



「…そう。…ん、行くよ」


 ガリっと飴をかみ砕くと、残った飴の棒をプッと空へ吐き出す。



 大きな鎌に両手を添えると、鎌が分裂。両手に一本ずつちっさい鎌が出来た。その鎌で棒をみじん切りにして消滅させた。



「…これがわたしの武器『呪断結幸双鎌じゅだんけっさいそうれん カクトぺ・リピイズ』」


 両手の鎌を一瞬だけ掲げると、すぐにがちょんと合体。一つに戻してぽいっと口の中へ飴を放り込む。



 心なしか、瞬きの間だけ愛理ちゃんの顔がほころんだ気がする。



「…一応、左がカク。右がリピって名前を付けてるけど、あんまり意味はないよ」


 意味ないのね……。それで、その武器……というか魔法を使うための道具? はどんなやつなの?



「…呼ぶなら『魔法武器』で良いと思う。一応、向こうではこういう道具は『シャイツァー』って言う。…これの効果は漢字の通り。…呪いを断ち、幸せを結ぶ双鎌」


 ごめん、よくわかんない。呪いを断つ……ってところから『呪い特攻』──呪い相手が超得意──かな?とは思うけど…。



「…ん。『呪い特攻』はあるよ。…それに、わたしに呪いは効かないよ」


 得意げな愛理ちゃん。でも、さっき言ってくれた効果しかないのに、何でワープ出来るのかが分からない。



「…ん。『呪い』とはわたしの気に入らないもの全て」


 ん? 暴論では?



「…暴論じゃないよ。出来てるもん」


 …わーお、言い返しようもない反論。でも、それだと何でも斬れそうだけど…。



「…斬れると思う。もちろん、当たれば。だけど。…縁とかも斬ろうと思えば斬れるよ?」


 斬っちゃだめな奴でしょ。それ……。



「…ん。わたしには悪縁、良縁の区別なんてつかないから、適当に斬るしかない。悪縁断って、良縁結びたい!なら、素直に神社に行った方がいい」


 だね。この辺なら安井金毘羅(やすいこんぴら)さんとか、貴船(きふね)神社さんとかあるものね。



「僕には見えないモノでも斬れるなら、めっちゃ硬いものとかはどうなの?」

「…最初は斬れないと思う。でも、次第に斬れるようになると思う」


 えぐいなぁ…。原理的にはたぶん、愛理ちゃんにとって邪魔であればあるほど、呪い認定が強くなるから、呪いを断つ力……破壊力が増すってところだと思う。



 だから最初は斬れなくても、いずれは斬れる。えっぐい……。



「…幸せを結ぶ方は、わたしが幸せになれるように繋げられるものは繋げられる」


 となると、縁結びできる?



「…たぶん。ただ、結ぼうとしたらかなり近づいてないとだめだと思うから、放っておいても結ばれる。…ついでに、怪我も治せるよ。裂けたところを結べばいいから。気に入らない相手を吊るすのにも使えて便利」


 追加情報の最後は聞かなかったことにしよう……。で、それがなんでワープと関連するの?



「…わたしはお父さんとお母さんが好き」


 そうだね。好きって言葉じゃ足りないくらい二人が好きだよね。



「…二人から離れたところにいると、そばに居たいわたしからすると間にある空間が邪魔(呪い)。斬れる」


 雑な理論で空間が斬られている気がする。



「…空間を斬っても、ただの空間の裂け目。そのまま飛び込んでも世界樹のあるところに出るだけ。切れ目と切れ目を結べば、直行出来てわたしは幸せ。だから結んだ」


 あぁ、それがワープホールなのね。



 さっき見せてくれた切れ目はその発展形。愛理ちゃんと愛理ちゃんが行きたいところの間にある空間が邪魔で、それを結べれば幸せ……そんな理論で作られた穴。



「だから脆いの?」

「…ん。幸せ度が足りない」


 何そのパワーワード。



「…お父さんたちのところに行く分には誰であっても大丈夫。…悪人がこっそりついてきたら世界樹の狭間に突き落とすけど」


 スルーして説明してくれるのね。



「…で、弟妹のところに行くには少しだけ不安定。…悪人は通れない」


 通れない(異界に落ちはしないけど生きてるとは言ってない)なんだろうなぁ…。



「…それ以外は一律、わたしが認めて、そこそこの時間を一緒に過ごしてないと駄目。…櫂斗(かいと)さんは時間が足りない」


 おぉ、認めてくれてるのね。



「…ん。お父さんとお母さんが認めてるし、見た感じ大丈夫そうだから」


 一瞬、習先輩と清水先輩のおかげか! とガックリしかけたけれど、これは素直に喜んでよさそう。



「…お父さんとお母さんはたまに抜けてる。から、全部そのまま受け入れることは出来ない」


 そっか。しっかりしてるのね…。あぁ、川が見えてきた。ついでに橋も。



 橋なら欄干(らんかん)に名前と河川名が書いて……あった。よっし、常華川だ。



「ありがと、愛理ちゃん。こっからは一人で帰れるよ」

「…ん。でも、いいの?別に家に帰るまでついて行ってあげてもいいよ?」


 いや、いいよ。ここまで来たら帰れるし。それより、



「なんかしたいことあるでしょ?そっち優先して」


 僕にバレない様にチラチラ時計を見てた。きっと何かあるんでしょ。だから、そっちに行った方がいい。



 愛理ちゃんは僕の言葉に驚いたのか目を丸くすると、ごめんなさい。ありがとう。と頭を下げながら言って、鎌で空間を切り裂いた。



「…さようなら」

「うん、さよなら」


 口に飴を咥えたままの愛理ちゃんが空間に身をひるがえすと、亀裂諸共姿が掻き消える。



 さて、諦めて帰って買い物して、勉強しますか……。

注)

 常華(じょうか)川は架空ですが、本編に出てきた神社さんは実在します。


安井金毘羅宮(やすいこんぴらぐう)』さん

 こちらは、一時期ネットで話題になっていたような気がする、縁結びおよび、縁断ちで有名な神社さんです。

 最寄は京阪『祇園四条(ぎおんしじょう)』駅か、京急『京都河原町』駅と、京都市内にあるので、訪れやすいです。直線距離で500 mくらいあるので、バスで行く方がよさげですが。


貴船(きふね)神社』さん

 貴船(きぶね)にある縁結びで有名な神社さん。神社名は漢字で『貴船』と書きますが、水神様を祭神としているため、濁らず『きふね』と読むそうです。

 最寄り駅は|叡山(えいざん)電鉄鞍馬(くらま)線の貴船口(きぶねぐちえき)。そこから徒歩30分か、バス+徒歩で14分くらいのところにあります。

 住所は京都市ですが、『京都の奥座敷』とも呼ばれる場所なので、ちょっと遠いです。


 今はコロナが流行っているので駄目ですが、落ち着いた後、興味のある方は一度訪問してみてくださいませ。

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