116話 クリスマスイブ
今日はクリスマスイブ……だけど、今日も今日とて受験勉強。……うーん、この問題わからん。解説読んでもわからん。ネットで調べてもロクな情報が無くてわからん。
えーっと、今は20時か。習先輩達はどう考えても家族で過ごされてるだろうし……。どうしよっかな。まぁ、明日にでも聞けばいっか。
ん? 牙狼からメッセージが。習先輩達がいちゃついてて辛いとかそういう愚痴……っちゃ愚痴だね。うん。「父ちゃんと母ちゃん、今日は帰らないからよろしく!っつって街に出てったんだが。なーんで親のそういう感じの話を聞かにゃならんのか」って来てるもん。……ふむ。お二人がいないのか。
お二人の子供たちが予定ないか聞いてみようかな。勉強用のお部屋があるし、そこにお邪魔させてもらえないかな。
『解いてて分かんない問題あるんだけど、見てもらっていい?』
『了解。そっち行っても?』
返答が早い。勿論、OK! 愛理ちゃんなら魔法使えるし、変に気負わなくていい。
『なら行くね。いつも通りのところに出るよ』
いつものところ──御飯用の机の周辺が片付いていることを確認。了解の返信をすると、すぐに愛理ちゃんの声がした。
「…こんばんは。わたしが部屋に入るのは色々とあれだから、こっち来て」
「了解」
習先輩達がいらっしゃるときによくやることだね。そっちに行かせてもらうの。裂け目をくぐると習先輩達のおうちのリビング。
「こんばんは」
子供達はみんなここに集まってて全員から声が聞こえてきた。やっぱ数多いなぁ。テレビつけて何を見てるのか気になるけど……、さっさと用件を済ませちゃおう。
リビングの部屋の一角。魔法で周囲からの音や光を断ち、勉強阻害要因を抹殺しているのに、中から外は音も光も通るっていう勉強用スペースへ。ここ、勉強を教えてもらうって理由でも二人にならないから便利なんだよね。普通に広いし。
「あぁ、こんばんは」
「こんばんは。小鳥。ちょっと話すけど、大丈夫?」
「へーきです。宿題しているだけですし。何より、それくらいの声に気を取られていては、本番の雑音に耐えれませんよ」
「それはそう。まぁ、雑談に発展しまくってうるさい!とかあれば言ってね」
コクっと頷く小鳥。ちゃんと集中してるみたい。じゃあ、僕もさっさと済ませちゃうか。
「愛理ちゃん。これなんだけど……」
「…ん。……なるほど。これね。わかった」
さすが。なら、後はどこがわからないのかを言えば、詰めてってくれるね。
よし。結構、頑張った。時刻は既に22時。30分くらいで教えてもらうのは終わったから、1.5時間続けて勉強してたのか。……時間で評価するより中身でするほうがいいんだけど、結構、進められた。
22時ってのは普通によそ様の家に居ちゃダメな時間だけど、そこは習先輩達のおうち。魔法でどうとでもなる。そろそろ帰らなきゃなーとは思うけど、ちょっとだらけよう。んーーー。伸びると気持ちがいい。
「あ。終わりました?」
「うん。教えてもらうのが早かったから、そっからさらにやったしね。小鳥も?」
「同じくです」
「お疲れ」
宿題とはいえ、2年なんだし、僕らみたいに根詰めてゴリゴリやる必要はないはず。
「めんどくさいのはさっさと片付けておきませんと」
「それはそう。でも、んな一気にやらなくてもいいのでは」
まぁうち、自称進だからそれに恥じないくらいの量出してくるけど。
「それはそうですが、一応、わたしは高2なわけでして。愛理たちに負けてるのは……、まぁ、姉としてどうなん?と思いまして」
「あの子らは別だと思うよ…」
特に愛理ちゃん、幸樹、瑞樹ちゃん。
お子さん達は全員、ちゃんと勉強してる。じゃないと、うちにこれない。だけど、この三人は別格。習先輩達の力を借りて当然のように時間を捻じ曲げる。その上で、目標がえげつないくらい高いから勝手に自分で負荷かけまくるんだよねぇ。
だからこそ、今日みたいに年下なのに愛理ちゃんに教えてもらえるのよね。
「逆にお聞きしたいのですけど、よくカイさんは愛理に聞けますね」
「僕より出来るのわかってるしねぇ。そこに変なプライド挟む余地はあんまないかなぁ」
聞けないなぁ。って思って聞かずに落ちたら笑えないし。薫さんとか、他にも教えていただける人はいる。でも、今すぐとなると、愛理ちゃんが最速だったんだよね。……どっかでお礼しなきゃ。
「小鳥の思ってることはわかるけどね?」
さっきも言ってたように小鳥は姉(実際は叔母だけど)として、あんまり情けない姿は見せたくないもんね。
「ま。無茶はしないようにね。あの子らがすごいで終わらせたくはあんまないけれど、あの子らは異世界で結構な修羅場くぐってるはずだし、魔法でその辺誤魔化せるかもだから」
「はい。その辺りの線引きはちゃんとするつもりです。さすがに格闘とか挑む気にもなりません」
「それはマジでそう」
勝てる気微塵もしないもん。僕らは全員に負けるぞー!
「てか、ふと思ったのですが、別に愛理じゃなくて、彩に聞いちゃ駄目だったんです?」
「え?……あ。あー!豊穣寺先輩が主体になって作ったAIね。そういやいたね。聞く選択肢に入ってなかったなぁ」
聞けば答えてくれたんだろうけど。…よし、実際にやってみようか。この問題の考え方とか教えておーくれ。
返ってきた。結構、解答長い。
「どうです?」
「できた。ちょっと待ってね。解答読むから」
えーっと……うわ。こっわ。このレベルの解答返ってくるの!?
「割とやばいね。彩。彩をあんま頼ってないからか、僕の理解度が低くて愛理ちゃんに比べてちょい欲しい情報と外れてる。でも、80点くらいの解答」
「そのレベルのことできるんですね。シンギュラリティを越えた生成AIとは聞いていましたが……。人間いらなくなるのでは?」
「かもねぇ。まぁ、僕らはそんな未来が来るなら怠惰でいいやーなんてしてたら、来なかったときに詰むから、頑張っていかざるを得ないんだけどね」
「ですねー」
世界滅亡の予言とかと同じだね。滅ぶなら適当にやるぜ! で滅ばなかったら詰むし。
「さて、わたしはリビングに行きますが、カイさんはどうします?」
「小鳥が行くなら僕も行く」
もう勉強する元気もないしね。愛理ちゃんか華蓮ちゃんいないかしら。
「んあ?あ。終わったのか?」
「うん。終わったよ。もう少しだけのんびりさせてもらおうと思ってるけど…、いい?」
コクっと頷いてくれる牙狼。それに礼子ちゃんと幸樹、瑞樹ちゃんも続く。瑠奈ちゃんは……多分、寝た。
あれ。愛理ちゃんと華蓮ちゃんいなくない? 帰れなくない?
「…いるよ」
「ねー!」
「心読まれた定期」
二人とも廊下の前にいるから自室から出て来たばっかのはずなんだけどね!
「なんかしてたの?」
「…ん。クリスマスイブなので公式動画配信してた」
「あれ?あの配信って習先輩達……もとい隠れ蓑と化してきてる望月先輩の鶴月グループの広報用じゃなかったっけ?」
わざわざ3Dモデル作ってやってたとはいえ、普通の配信はお仕事外では。
「…ほんとの初期の初期は動画配信プラットフォーム『フォレシズニア』の宣伝用だったけどね。…徐々にカイさんが言う運用になってって、今はそれに加えてたまに雑談やゲーム配信してる」
「なんか意外」
「…なんか人気出て来た」
なんかて。客観視、人気出る要素しかないのに。ゲームは普通にうまいほうだし、キャラもクール系っぽいのに超ファザコンマザコンって埋まる余地ないくらい濃いし。
「今日の配信はー、ふつーに雑談配信だよー」
「…クリスマスイブに配信しないの?ってのが多かったからやった」
「らしいね」
まともに配信してるって知らなかったから調べてなかったけど…、今日の配信の感想みたいなとこにそういうの書いてるね。配信終了直後だからか、今日の振り返り的な感じになってる。
『冒頭のQ&A
Q. 何で21時からなの?
A. 親と過ごしてた
Q. 何で21時から初めれたの?
A. 親がデート行った。家族増えるかも
Q. 子供だけで留守番していいの?
A. そこまで子供じゃない。配信は未成年だから22時で切るけど
の会話の後でほんとに22時ちょうどで切ってて草』
『有 言 実 行。弊社も見習えゴミカス』
『休日出勤&残業ニキお疲れ様。
それはそれとして、アイリーンがカーリンちゃんがまだ話しそうだったのに、肩叩いて「…ん。時間」で、容赦なくぶった切らせたのマジで笑った』
『カーリンちゃんも、「そーだね!」で即座にぶった切ったしな』
『カーリンちゃんは割と通常配信乗り気っぽいけど、アイリーンちゃんはたぶん広報のお仕事以外、あんま乗り気じゃない感あるよね。でも、お父さん達と過ごしたいだろうに、人気になって来てるっぽいからって時間割いてくれるの好き』
って書きこみあるし。さすが愛理ちゃん…。てか、配信前なのに教えてくれたのね。ヤバいな。
とか思ってる間に、愛理ちゃんも華蓮ちゃんもみんながいるところに行って座ってなんか見てる。んー。やっぱ瑠奈ちゃんいないよなぁ。
「愛理。瑠奈は?」
「…寝たと思う。よね?」
「だな」
小鳥と愛理ちゃんの会話で疑問解決。やっぱそうよね。
「なる。んで、愛理。今、何を見てるの?」
「…ん。地図」
「それは見たらわかった。何に注目してるの?」
確かに気になるよね。地図はありきたりな日本地図でみりゃわかる。だからこそ、何を見てるのかわからん。光点は何個かあるけど……。
「…ん。これはお父さんとお母さんを含む、友達の居場所。よく見たら名前書いてるでしょ?」
「確かに。で、何でまた見てるの。まさか、また何か異変とか攻撃とかあるの?」
マジで? まぁ、クリスマスイブだし、人の多そうなところが多いし、攻撃されてもおかしくはない……
「…ないよ」
ないんかい。え。待って。
「ないのに何で見て……って愛理ちゃんはまぁ、愛理ちゃんだしなぁ。礼子ちゃんもだけど」
「…む。その心は?」
少し不満げな愛理ちゃん。いや、
「どっちも割とカプ厨じゃん」
「…なるほど」
納得するんかーい。礼子ちゃんにいたっては反応さえしない。
「で、牙狼や幸樹、瑞樹ちゃんは何で見てんの?」
「カレン姉ちゃんやアイリ姉ちゃんいねぇと機動力めちゃ減るけど、明らか変な奴が出てきたら叩き潰すため」
「妖怪とかオカルトに属す奴らは引っかかるようになってんだよね。これ」
「後、彩とも連携していて、不審者情報も載るようになってるわ。もっとも、不審者情報は現地警察に回して解決に繋げてるみたい」
なるほど。……え。
「くそ暇では?こんな縮尺だったら、誰がどこに移動してるとかほとんどわからんでしょ」
「うん。だから、俺は正直、こっちに気を配りつつもレイコ達と話すのメイン」
「私は地図を見ています。携帯の地図を見ながら、どういうところで何をされているのか想像するだけでも楽しいのですよ?」
「僕はガロウ兄さんと同じ」
「アタシはそも魔法で現地にいるから、ここにいるアタシはみんなとほぼ会話楽しむだけねー」
やっぱ礼子ちゃんはこの地図で楽しんでるのね。
「位置情報を共有する許可とかもらって……るよね」
「勿論です。不都合があれば切ってくださいとも言っているそうです」
「むしろ、見せつけるのに使ってるのもいるみたいよ?神裏先輩と百引先輩ペアみたいに。まぁ、羅草先輩も巻き込まれてんだけど」
見せつけるって……。どうやって?
「え。普通にんな会話してたのよ。ら……休憩場の近くで」
何やってんだあの人ら。瑞樹ちゃんが詳しい場所を知ってんのは、魔法でそばにいるか。まぁ、言葉を濁すよね。場所が場所だし。居場所が大阪の繁華街だし。
で、誰がどこにいるのかな。
「…お父さんとお母さんは東京だね。…イルミネーションを見に行ってる」
「固定カプで言うと、望月先輩と天上院先輩は舞鶴ね。鶴月グループの本拠があるから、もう休みに入ったから帰ったみたい」
望月先輩達は家族と京都市に住んでおられたはずだけど…、年末年始が近いから本拠に帰ったと。…天上院先輩の御実家もそちらと。マジで家族ぐるみですやん。
二人は付き合ってないけど、実は許嫁なんですよー!ってことさえあり得そう。
「かもねぇ。あ。二人だけが固定カプの中で唯一、自宅にいるわね。臥門先輩と蔵和先輩は呉ね。二人で一緒に博物館に行ってたわ」
「クリスマスに?」
「クリスマスに」
イルミネーションじゃないの、普通。いやまぁ、どこ行こうが自由だけど。博物館もなんかしてるのかもだし。
「…有宮先輩と久我先輩は他の幼馴染と違ってこの辺にいるね」
夜も遅いし、どっか見に行って帰ってきたのかな? 実家にいないけど。
「わね。で、青釧先輩と座馬井兄妹は名古屋。伊勢でなんか催し物に参加したついでに、名古屋にまで行ってイルミネーション見てたわ。兄妹の部屋は別みたい」
マジで後ろから観察してないと出ない情報じゃん。何してんの。
「西光寺姉弟は室蘭ね。これは純然たるお仕事。…何で受験期にお仕事してるのかしら」
「それは青釧先輩もでは。ほんでもって、受験期に旅行行ってんのなかなかヤバいよ」
人のことあんま言えないけどさ。しかも年末に。もうすぐセンター試験だよ?
「確かに。どっちもそれもそうね。後は……んー。付き合いそうな雰囲気がないこともない人らもいるけど、まだ固定カプじゃないのよね」
「…拓也先輩は?」
「あ。確かに。拓也先輩はルキィ様……あー、父さま達を召喚した国の女王様ね。彼女と一緒に関東巡り」
「ふぁっ!?異世界の人連れて来たの!?」
「見た目もろ人間だし、へーきよ。婚約者みたいなもんだし、こういうときくらいは……って連れて来たみたい。父さまたちが」
連れて来たのがお二人なのはそらそうだろうね。習、四季先輩か愛理ちゃん、華蓮ちゃんじゃないと世界渡るのきつそうだし。…って、え。
「婚約者!?聞いてないんだけど」
「そういう話にならなかったんでしょ?なら、言わないわよ」
「それもそっか」
好きな人いるんですかー? とか、僕から聞かないし。拓也先輩と一緒になるにしても習先輩がいる。僕がいるとき、あんま異世界の込み入った話はされないからなぁ。
「あ。さっき反応しきれなかったんだけど、クリスマスって伝わるの?」
「あの世界なら大丈夫よ。もう勇者は生まれないけれど…。これまでにちょくちょくこの世界、この時代付近の日本人と日本人に近い人が召喚されてるもの」
「あぁ。そういう系ね……」
なら、伝わるか。
「年齢もそんな変わらないし、好き合ってるみたいだし、いい縁だと思うわよ」
素敵なデートになってるといい……ふわぁ。
「…眠い?」
「多少は。でも」
…ん? いや、まだいるって言うのはヤバくない? だって既に22時過ぎてんだよ?来た時間からして終わってるけど()。
「…なら、おくるね」
「お願い」
来た時と同じように鎌を振るって空間を切り裂く。出来た裂け目をくぐると僕の家。ほんと、移動が楽すぎる。
「今日は色々ありがとう。またね」
「…ん。バイバイ」
愛理ちゃんの後ろで皆が手を振ってくれているから、手を振り返しているうちに裂け目が閉じる。
よし、お風呂入って寝よう。
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