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111話 鞍馬から貴船

 門をくぐると保育園があって、それをスルーするとケーブルが見えた。



「乗ります?」

「んー。今回はいいかな」

「ですね。距離は大したことないですし、その間に色々と見るものありますから」


 はーい。てってこ山を登ると、お稲荷さんがあって、その次に壊れた建物が見えた。



「壊れてるよー?」

「ですねぇ」

華蓮(カレン)、四季義姉(ねえ)。あの建物は横の滝ともども今年(2018)の台風で倒木に当たったらしいよ」


 台風かー。あんま被害出てないと思ってたけど、こういうところでやっぱり出てるんだねぇ。



「ここは何のための建物なの?」

鬼一法眼(きいちほうげん)を祀っている社です。鬼一法眼は鞍馬天狗さんとも同一視されることのある武芸の達人で、牛若丸……源義経に武芸を教えたとされてます」


 めっちゃビッグネームですやん…。壊れちゃってるけど、拝んでいこう。



 さらに登っていくとまた別の神社があって、さっき話題に出て来ていた義経さんの供養塔や、義経さんがいたとされる建物とかがある。そんな感じの色んな施設と紅葉を見ながらえっちらおっちら登っていくとケーブルとの合流地点。やっぱそんな遠くないね。まぁ階段だらけでそれなりに疲れたけど。



「まぁ、このケーブルは日本最短らしいですし。200 mしかないそうですよ?」

「短っ。それが売りになりそうなレベルじゃん」

「実際、売りになってるみたいです」

「わーお」


 まぁでも、売りになってお客さん……いや、参拝客さんかな? が多いほうがいいよね。作ったやつも維持管理しないといけないし。



 とか言ってたら本殿到着。拝んでからちょうど開けたところへ。なんやかんや色づいた木々に囲まれた道を歩いてきてはいた。けど、久しぶりの一望できる場所。少し木があるからはっきり一望できる!ってわけではない。けど、向かいにある山だけじゃなくて、木の切れ目から登ってきた道の木々が見える。いやーほんと、秋の広葉樹林の多い山って奇麗だよね。まさに山が燃えているって感じ。



『じゃろ?儂らのお気に入りじゃ』


 ……なんか頭の中に直接声がッ! どこに……あ。頭の上? これ。何かが乗ってる感触が!



『如何にも』


 羽ばたき音の後、欄干に停まってこちらを見る黒い鴉。あぁ、うん。察しました。これは伊勢神宮の鶏さんパターンのやつ!



『ふむ?……あぁ、なるほど。考えることは同じか。なら、接し方も同じで良いぞ』


 ありがとうございます。さすがに周囲に人がいるから、脈絡もない話をしたらおかしいので声は出せないですけど…。伝わりますよね?



『当然じゃな』

『えーと、俺らもカイにならって鴉さんとお呼びしますが、何用ですか?』


 ナチュラルに習先輩もテレパシー使われてて草。喋ってたら不自然ですものね…。



『特にないの。むしろそちらから何かないのかのう?』

『であれば、申し訳ありませんが、こちらも何もございません。先ほどおっしゃっていましたように、紅葉が奇麗ですから…』

『紅葉狩りか。クカカッ!儂も耄碌したものよな!そうか、そういう理由もあるか』

『反応しにくい言葉言うの止めてください』


 ほんとですね。どう考えても貴方、お歳がすさまじいことになってるじゃないですか。



『まぁ、俺らが帰ってきた当初は色々とやり取りをさせていただきましたからね…』

『皆さん、フットワークがお軽いですから…』

『クカカッ!儂ら天狗の取柄はそこじゃからの!さもなくば、ここまで多くの天狗伝説は残らんじゃろうに』


 それは確かにそうですね。でも、一体、どういうやり取りをされていたんだろう?



『大したことはしとらんよ。ほとんど顔合わせしただけのようなもんじゃ』

『ですね。天狗の皆さんはどちらかと言えば妖怪に近いということもあり、自力で何とかできることは多いですものね』

『クカカッ。褒めるな褒めるな。さりとて、それが神々が弱いというわけではないぞ』

『私も習も承知しておりますよ。どうしても相性がありますから…』


 なんか話題が飛びまくってるけど、神々は相性が悪くて妖怪は平気……? あ。穢れの話か。穢れの処理とか、その辺りのお話か。確かに、神々は弱いはずですね。神話上、穢れは天照大御神がガチギレして弟たる須佐之男命を高天原から追放した要因の一つになっていたはずですし。



『そうさの。まぁ、あれもやりすぎたわな』


 あれて。言い方ェ……。



『クカカッ。細かいことは気にするな!』


 細かくないんですよねぇ…。



「習兄。今日はこのまま貴船(きぶね)に行くから、奥に行くでいいんだよね?」

「うん。いいよ」

『博物館には寄らぬのか?』

『メインは紅葉ですし』

『そうか。…それより、儂が半ば割り込む形になってしもうたが、ここで休憩をとるつもりだったのではないのかの?ここはそれなりに眺めが良いしの。しばらく別れて行動する予定だったのではないかの?』


 え。そうなんです?



『そうだよ。てか、トイレはここより奥にはないし…』

『まぁ、言い出す前に子供たちは休憩しに行ってるのですけど』


 え? あ。ほんとだ。愛理(アイリ)ちゃんと華蓮ちゃんはいるけど、他のお子さんたちがいない! いつのまに。



「とりあえず、俺はトイレに行ってきます」

「なら、わたしも」

「俺も行っとくか」

「なら、私も」


 習先輩と清水先輩も行くということは、残ってる愛理ちゃんと華蓮ちゃんもついてくるわけで。鴉さんも習先輩の肩に移動して、そのまま。そんな珍しい光景、周囲の人の目がすんごいことに……なってない。習先輩か鴉さんが誤魔化してるんだろうなぁ。



 用を足して、水分補給や軽い休憩をしたらさらに奥へ。周囲は木々の生い茂る山道。電車で通ったところほど紅葉は密集していないけれど、途中まで覆いかぶさるように紅葉が付きだしている道を突き進むのは楽しい。



 そういえば、瑠奈(ルナ)ちゃんはもうちょいはしゃぐかなと思ってたけど、山道かつ人が多いからか跳ねまわったりせず、素直に紅葉を見ながら歩いてるね。…にしても、割と遠いなぁ。



『山一つ分越えていくようなもんじゃからの。距離で言えば洛中を南北縦断と変わらんくらいじゃろうが』

『山ですしね』

『じゃの』


 京都市内……というか、平安京の南北の端は一条通りと九条通り……のはず。電車で7駅くらいあるんだから、駅間を適当に700とすれば、だいたい5 kくらい。歩いたら45分くらいかな?



「ですねぇ。そろそろ……見えました。義経堂がありますね。源義経公をお祀りしているお堂です」

『クカカッ”公”か!あやつも未だに慕われておるのぅ』


 言い方ァ! と言いたいけれど、鴉さんの正体を考えると何も言えない!



『クカカッと、そういえば、小鳥嬢の内心は他人に伝わらぬのだったな……。カイ坊。儂がいうのもなんじゃが、お主。内心を読まれまくるのやばくないか?』

『やばいと思いますが、どうしたらいいのかわかりません』


 普通だったら小鳥が唐突に「ですねぇ」と言い出しただけなのに、会話成立してんですよね! でもこれ、魔法とかでなく、表情とかで読まれてるなんてどうしようもないんですよね!



『それもそうじゃの。まぁ、頑張れ。小鳥嬢は「未だに、ですか?」と尋ねてきたのじゃ』


 ぴえん。流された。どうしようもない……ってこと!?



『で、それの答えとしては「時が経ったから」じゃのぅ。古のころであらば儂らも民の前に姿を見せたことはあった。じゃが、関八州(関東)に府が移ったころであろうか、民の前に儂らが姿を見せることもめっきり減ってのぅ』


 鎌倉か江戸かどっちなんでしょう。これ。いやまぁ、鎌倉を立てた源頼朝さんと源義経さんがご兄弟なんだから、江戸なんでしょうけど。



『あぁ。江戸じゃの。じゃから、年を経た今でもあやつが慕われておるかどうかはイマイチわからぬのよ。儂らの前であやつのことを頭に思い浮かべる奴はそうそうおらぬし』


 今、思いっきり心お読みになっているのでは。であれば、この辺りや最初の方で見たところでその辺りの情報を拾えそうですが…。



『心を読むのは相対しているからじゃの。そうでもなきゃ、せぬわい』


 なるほどです。やたらと心を読まないように制限をかけておられるのですね。



『そうじゃの。やはりd……げふん。あやつがしっかり名を広めておるのはよいのぅ。……少々、あやつの兄には思うところもあるが』


 源頼朝さんですよね。やはり殺したからですか?



『半々じゃの。殺しやがって!もあるが、あやつは話をたまに聞かんかったからの。儂らの修行に関してはまともに話を聞いたが、時折のぅ……。故に、兄が重々やめてね!と言ってたことを何故やってしもうたんじゃ……というあやつへの呆れもある』


 なるほどです。



『それはいいじゃろ。それより、紅葉と山を楽しむがよい。儂らの山から力を受け取れ』


 鴉さんがそうおっしゃるとえぐいくらいのお力受け取りそうなんですけども。



『クカカッ。力の向きを制御するなどはせぬ故、特に影響はないわい』


 ないんですか。



『そらそろそろ儂らの境内の最後の建物じゃぞ』

「魔王殿が見えてきましたね。勿論、魔王といってもファンタジーの敵ではなく、護法魔王尊と同一視されるサナート・クマラをお祀りしているところです」

「え。てことは」


 ちらっと鴉さんを見る。にこっと笑顔を返された。…よし、気にしないでおこう! 軽く拝んで……なんか不思議な気持ち。そして、ここでお別れかと思いきや、まだ鴉さんはついてこられてる。



 ……うん? 最後って言ってたのに普通に建物あるんですけど。



『敷地の境を表す門は勘定外じゃろ』


 左様ですか。門にいた人がちょっと目を丸くしていた気がしないでもないけど、気にせずに門をくぐると、川。そこを橋で渡れば……、貴船(きぶね)かな。



『私の社に何用……ふむ、把握しました。鞍馬から一般の方……妹と友を引き連れやってこられたということは、紅葉を見に来られましたか』

『おっしゃる通りです』


 なんか増えたぁ! テレパシー使ってくる人……じゃない。生き物が増えた! 今度は蛇さん。



『ふむ。蛇さんとな。…構いませんよ。そこのは許可しているのに、私は許可しない。そんな狭量を発揮する訳には参りませぬ』


 許可された。ありがとうございます。



「ちなみにカイさん。知っているでしょうが、貴船(きふね)神社の御祭神は水の供給を司る高龗神(たかおかみのかみ)と呼ばれる水神様です」

「知ってる。水神様だから濁らずに「きふね」って言うんでしょ?」

「ですです」


 何で言ったし小鳥ぃ! 正体特定……はしてないね。ヨシ! 現実逃避? 知らないよそんなこと。



『私もついていかせてもらいます。後、一つ、頼まれてもらっても?』

『あぁ、いつものですか』

『えぇ』

『であれば、俺も』

『私も構いませんよ。子供たちも同じみたいですし』


 ですねー。異口同音(口にしてないけど)に、賛同の意が聞こえたもん。



『感謝します』


 そう言って、習先輩の首辺りに巻き付く蛇さん。今の習先輩、動物天国だぁ。右肩に鴉さん。首に蛇さんがいて左肩から蛇さんの頭がにゅっと出てる。普通、騒動になりそうなものだけど、お二人……数え方が分からぬ。いや、正しい数え方は分かってるけどさぁ! もういいや。人で。気にされないでしょ…笑っておられるし。お二人とも魔法で姿を隠しておられるんだろうなぁ。



「これからどこに行かれるんです?」

「貴船神社の一番奥。奥宮まで」

「貴船神社創設の地ですね。その近辺の森に用があります。ま、また山ですが、紅葉を見ながら行きましょう」


 はーい。



「本殿はすぐそばですけどね」

「え?あ。ほんとだ」


 橋からめっちゃ近いし。ちゃんとお参りして……順番にお参りしているから、後ろで待ってくださってた習先輩の首の蛇さんが目に入ったけど、気にしたら負けだね。御祭神は一柱じゃないし。その方にお願いをしていると考えれば…。



 本殿を出てまた歩く。真横に川が流れている道を紅葉を見ながら歩く。なんか、何とも言い難いけど乙な物だよねー。まぁ、観光地化されてるから、道にある建物は買い物ができるような商店が多いけど。



む。もう次のお社。多分、10分も歩いてないよ?



「次は結社(ゆいのやしろ)ですね」

「ですね!御祭神は磐長姫命(いわながひめのみこと)で、古くから縁結びの神様として知られている方です」

「だね。だから俺と四季はそんな用事はないんだよね」

『拗ねるから止めてやってくれ』

「まぁ、縁を保つと考えれば大事だよね!」


 手のひらくるりんじゃないですかーやーだー。まぁ、言われたらそういう反応にもなりますよね。



 でもまぁ、お姫さんも縁を結ぶの大変そう。既に固定カプの牙狼(ガロウ)礼子(レイコ)ちゃんはいい。性が物理的にない華蓮ちゃんもまぁ、いいでしょう。



 でも、残りよ。瑠奈ちゃんはまだワンチャンありそうだけど、愛理ちゃん幸樹(コウキ)瑞樹(ミズキ)ちゃんェ……。お父さんとお母さんとの縁が切れませんように! としかいいそうにない。



『その時はその時。なんとかするさ』

『クカカッ。その通りじゃの!あの娘が好きでやってることじゃ。誠心誠意お願いすればなんとかしてくれるじゃろ』


 左様ですか。では、ガラガラ。いい人に会えますよーに!



「あの。すんごい変なこと聞いていいです?いや、聞いたら駄目なのかもしれないですけど」

「何で……ってあぁ、お願いごとに絡むからか」

「です」


 教えちゃダメとかよく聞くもんね。…教えてないのに読まれてるときはどうしたらいいのやら。



「わかんないです。それはそれとして、結婚願望あったんですね」

「まぁね。若干、酷い理由だけど結婚と言うものに興味があるんだよね」

「なるほどです。では、愛理はどうです?」

「愛理ちゃんが彼女になってくれることに不満はないけど、ないでしょ」


 あの子の矢印が僕に向く未来が見えない。常に習先輩と清水先輩に矢印向いてるもん。



 華蓮ちゃんは論外だし、瑠奈ちゃんはそういう目で見れないし、瑞樹ちゃんも覚悟ガンギマリ勢だし。



「なるほど。では、わたしはどうです?」


 え? さらっと言われた言葉に思考が止まる。否が応でも視線が小鳥に吸い寄せられてしまう。そんな僕が面白いのか、小鳥は茶色い髪の毛を揺らしながらにこっとほほ笑んだ。



 えーと、小鳥と?



「んー。わかんないってのが正直なところかなぁ。色々と付き合いはあるけど、基本、習先輩達がいる時だし」

「ですよねー。わたしも正直、言ってみましたがよくわかりませんもの」


 よくわからんのかーい!



「でもまぁ、小鳥ならいっぱいお相手はいるでしょ。可愛いし」

「あははー。ありがとうございます」


 僕の言葉は小鳥にするっと受け入れられた。謙遜するでもなく、そうでしょ! と威張るでもなく。なんとも自然な感じで。実際、可愛いしねー。



「まぁ、いるようでいないんですけど」

「何か言った?小鳥」

「いえ。何も」


 そか。なら、ここでのお参りもしたし、次……最終目的地に行かないとね!

※20250225追記 

 後半に書くからいいかと思っていましたが、さすがに良くないと思ったので補足です。

 貴船神社さんは本宮→奥宮→結社の順が順路です(三社詣というそうです)


 お読みいただきありがとうございます。

 誤字や脱字その他もろもろ、何かあればお知らせいただけると嬉しいです!



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