106話 射的
対戦が終わって一言二言だけ赤鉾先輩と言葉を交わしてこっちに来る小鳥。
「お待たせしました」
「ううん。見てて楽しかったから、待ってないよ。それより、言葉を交わすのはあんだけでいいの?」
「はい。語るくらいなら、もう一回ゲームする方がいいですね。大会とか関係ないエキシビション的に」
拳で語るってやつかな? 小鳥がいいならそれでいいけど。
「待って。小鳥。一応、優勝賞品あるんだから」
「え。あるの?」
「あるの知らなかったの!?」
「うん」
だよね。僕も知らない。だって、そういうの聞く前にひっぱられてったし。
「あぁ、なるほど……」
「待って。何も言ってないのに、なるほどって何」
「え?先輩の顔に書いてましたけど?」
い つ も の。初対面なのに心読まれるとかマジ?
「マジですね。とはいえ、顔と小鳥を誘った時の状況から推測しただけですが。合ってるようでよかったです。それより!はい、これ賞状。ちゃんとここの第三ターム優勝って書いてるから。後、エキシビションに勝ったから千円」
「「千円」」
「うん。千円」
まさかの現金で草。えぇ……こういうのって、図書カードとか、大手通販サイトのOceanギフトカードとか、鶴月グループのやってる通販サイトで使えるクレインギフトカードとか、そういうのでやるべきでは?
「いやまぁ、一番、使い勝手がいいのはやっぱり現金かなと」
「規制されてなかったっけ?」
「されてなかったはずですよ?管理をしっかりしとかないと誰がとっただの、取られただのとくっそややこしいことになるだけで」
「だけ」が一番重いんだけどなぁ。高校でそんなことあったら疑心暗鬼で大変だろうに。
「ま、気にしたら負けです。少なくとも、賞品の管理はしっかりしてます。何かあれば内部犯ですよ」
「さよか。ならいいけど」
「ですねぇ。わたし達には何の関係もないですし。…それはそうと、わたしはいたほうがいいの?赤鉾先輩がいるんだし」
「どっちでも。あの人はずっといてくれるみたいだから、エキシビションはあの人に任せたらできるし。別に絶対にしないといけないわけじゃないし」
「そ。なら、見て回ってくる」
「うぃ」
じゃあ、またどっかに行こうか。とはいえ、行くところは決まっているけど。愛理ちゃん達のクラスに行かなきゃ。多分、あの子らいないけど。
「にしても、えぐいぐらい強かったね」
「まぁ、ずーっと習兄とやってましたし。それなりに強い人とそれなりにやってれば強くもなりますよ」
「そらそうだけど、それだけだと「それなり」にしかならないんじゃない?」
前の話的にずっとそのゲームだけやっているわけでもなし。他のゲームもやってるのに、案だけ強いのはよくわからん。それに、習先輩達が居なかった時期に小鳥ちゃんがゲームに熱中できそうもなし。
「言っちゃあ何ですが、うちは自称進とはいえまぁそれなりの自称進ではあります。レベルが高くは見えても最高クラスに高いわけじゃないです。後、おっしゃる通り……もとい思っていらっしゃる通り、ずっとできてるわけじゃないのはそうです。ですが、知っての通り、わたしと習兄は仲がいいわけです」
だね。割とブラコンの気があるよね?
「です」
「頷くんだ」
「事実ですし。否定しても意味ないですよね?ついでに、逆も然り、です!で、です。逆にお尋ねしますが、そんな感じのわたし達が無事に帰って来てるのに遊ばないとでも?」
「思わないね」
というか、積極的に遊んでもらってるよね。ちょくちょく習先輩に遠くに連れて行ってもらった時に、小鳥もいたし。
「ですです。四季義姉や子供たちもいますが、ちゃんと時間は取ってくれてるんです。普通の人だとかなり厳しいでしょうが…」
「魔法使ってるの!?」
「ですよー」
マジか。勝手に使ってないものかと思ってた。魔法を使って小鳥と習先輩、遊ばれてたのか……。あれ? 魔法を使うと時間を止めるに近いことができたような。まさか、習先輩があっちに行かれる前よりも長い時間をゲームに割いてる?
「ですね。時間が止まっているのでわたし達を遮るものは事実上何もなく。強いて言うなら遊びに熱中しすぎると、勉強したこと忘れかねないってくらいです」
こっちの世界で1秒くらいしかたってない間に、一日ゲームしてるとかやってそう。そりゃ、強いわ。てか、そんだけ長くゲームできるってことは……、
「それはないです。恋愛感情ですよね?間違いなく、家族愛に収まっていますとも。こんなこと言うのもアレですが、四季義姉を見たときに、遊び相手が取られちゃう!とは思っても、きっと浮気相手を見たときに思うであろう「この泥棒猫!」とかは一切、思わなかったので」
また先回りされた。ならいい……のかな。恋がわかってないだけという可能性が。
「んーー。0ではないかもですが、そうだとしても四季義姉がいるので手遅れでしょうに。ワンチャン勝てるかもですが、法律と倫理の壁が分厚すぎますね。それをぶち破ろうとするくらいなら、四季義姉に習兄幸せにしてあげてーっていう方が絶対、いいです。てか、まず魔法で負けますし」
それはそう。習先輩がいるところでは、清水先輩はなにもしなさそう。でも、習先輩がいなくなった途端、容赦なく魔法使って殺しに来るよね。
「なんちゅー話してんのよ…」
「「あ。瑞樹ちゃん」」
すんごい顔で目の前に出て来たね。しかも一人。皆と一緒にいるイメージがあるのに、珍しい。
「さすがに店番とかあるからね」
「あ。店番、あるんだ」
「あるわよ。魔法でごり押しとかもしてないしね。割とうちのクラスは楽しむことへの熱量が高かったみたい」
なるほど。最初にみんながそろってうちのクラスに来ていたのは……ただの店番の関係か。
「そうよ。で、店番してたら見覚えのある二人が小声とはいえ、ひっどい話してるもんだから、思わず声をかけたってわけ」
「そんな酷い?」
「んーーー。改めて問われるとただの恋愛の話ではあるわね。ただ、倫理の問題が混じってるのがちょいヤバ。とはいえ、アタシはさっきの結論には別の意見あるけどねー。小鳥姉さんクラスだと筋を通しさえすればワンチャンあると思うわよ」
酷いとか言ってたのに乗ってくるのかーい。
「まぁ、母さまが誤解……誤解かしら?されたままだと可哀想だし」
疑問符付いてるじゃん。草。てか、小声とはいえそんな話をしていていいものか。清水先輩、習先輩に嫉妬深いと思われたくないと思っておられるはず。……それに気づかない習先輩も習先輩だけど。何でその一点だけクソ鈍くなってんですかね。
「さぁ……?二人ともクソ神の成分が割と入ってるから、その成分がなんかいい感じに干渉してるのかも」
クソ神て。えぇ……。
「心配しなくてもこの世界じゃなくて、アタシの故郷たるアークラインの神よ。主神たるシュファラトとラーヴェの二柱。父さま達と会わせてくれたのは感謝するけど、それ以上はないわよ。余計なことして自爆した上に盛大にこっちまで巻き込みやがってからに……」
恨み節がすごい。僕らには想像もできない何かがあったんだろうなぁ。
「っと、声をかけに行ったのにアタシもなかなかひっどい話してるわね。で、声かけたし、よってく?」
「うん。そもそも目的地にしてたしね」
「あ。そうなの?それじゃあ、2名様ごあんなーい!」
パンフの店の名前からは何をやってるかわかんなかったし、横の補足でも(投げ物屋)で、イマイチ何やってるかわかんなかった。一体、何をやってるのやら。……店として致命的だね!?
中は……あー、見ればわかるやつ。射的と輪投げと……水槽? あぁ。一円玉落としか。投げものとは。まーたタイトル詐欺かぁ。
「おー!来てくれたのねー!」
「華蓮ちゃんもいるのね」
「そー!ボクとミズキ以外はいないよー!」
「習先輩達と一緒?」
「たぶんー?ずっと一緒は二人に悪いしねー」
なる。二人でデートする時間とか取ってほしいもんね。お二人が結婚されていることはうちの高校では周知の事実。もう外部の人でもない限り、無粋な真似をしてくるやつはいない。
「でー、ここではどのゲームも一回200円。うまくいくと景品でお菓子がもらえるよー。勿論、既製品だけどー。全部やるなら500円!全部うまいことやるとー、豪華賞品がもらえるかもー!」
「豪華賞品って?」
「豪華賞品だよー!」
あ。これ、教えてもらえないやつだ。きっと、豪華()なんだろうなぁ。文化祭だし。
「なら、全部やってく」
「うぃー。小鳥おねーちゃんは?」
「んー。せっかくだし、やってこうかな?」
「毎度ありー!えっとー、輪投げは5個輪をあげる。三本あるターゲット全部に入れれば大成功だよ!」
地味に難度高くない? 輪のサイズは全部同じだけど、一個くっそ遠い壁のところから生えてるし、一個は机の上に載ってる。暴投したら大惨事になりそうなんだけど、どういう発想でこんなことにしたのやら。
まぁいいか。せっかくだし、遠いの狙おう。ラインを引いてあるから、そこを越えないように……、とー! あ。届きはするけどムリゲーでは? なんか思いっきり右に曲がってったし。
てか、小鳥もはじめはそこ狙うのね。
「まぁ、全制覇目指すなら、最後、一番難度高いところもいるので」
「それはそう」
さー、もう一回ー! も、駄目! 左行ったし! 次! ちょっと修正して……いい感じになったけど高さ高すぎ! 壁から生えてるからって、壁に激突させるだけじゃ入らないか! えぇい、何もなしは悔しいから一番、簡単なところ! ほい!
「「入った!」」
小鳥も同じところ狙ってたのね。タイミングが微妙にずれてて良かった。最後は……、奥狙いますか! これで……あ。無理!
「同じとこ狙ってて草生えるわね」
「ねー」
「僕と小鳥が若干、思考似てんじゃない?」
最初は全部目指すならーで、一番むずいとこ余裕あるうちに潰して、無理になったら悔しいからで難度下げて、最後はせっかくだからーで難しいのっていう。
「まぁ、余裕で失敗だし、次だね。射的……って、よく考えるとよく射的用の銃を用意できたね」
「クラスにそういうの扱ってる子がいたのー」
「だからこそ、こういうのをやってるのよね」
普通だったら用意できないもんね。かなり被りにくいか。…射的以外は被りそうなものだけど。いや、1円玉落としは逆に被らないか。
「で、これはどうしたらいいの?」
景品はお菓子とか言っていたはずなのに、ゲーム機とかソフトとか置いてんだけど。
「5回で何か落とせたら成功ね。ゲーム機とかは箱を置いてるだけ」
「悪質で草」
「ちゃんとゲーム説明のところと、狙いつけるための台のとこにもそう書いてあるわよ」
「え?」
うわ。ほんとだ。箱は置いてるだけです。中に重量物が詰まってるので落ちませんし、落ちたところで空箱ですって。…見ない人も出てきそうだなぁ。
「見ない方が悪いわよ」
「それにー、絶対に落ちないように磁石で挟んでるしねー」
磁石で挟む……? あぁ。箱の中と台の下に強力な磁石を置いておいて、それで引き合わせてるのね。無駄に手が凝ってるなぁ!
まぁ、んなことはいいや。適当に小物狙って落とそう。小さいチョコ…は、当たったけど倒れただけ。まぁ、何回かやってたら落とせるか。っ、次は外したけど次で回収。残り二発は…、長めの狙おうか。それで倒れてくれれば。あたった……けど、駄目! んー。
「カイさん。さっき狙っておられたの、私も狙うので同時に両端撃ちません?」
「ん?了解。じゃあ、カウント任せた。0で撃つね」
「はーい。では、早速。3ー、2ー、1ー、0!」
よし! 命中! そして無事に倒れて落下。これで良し。…あれ、これの扱いってどうなるんだろ。
「今の場合だと、強制半分この刑ね。まぁ、二人ならこっちがしなくてもどうとでもなるでしょ。商品は後で渡すわね」
「あ、ありがと」
ちっちゃいチョコと箱に入ってるケーキゲット! で、最後は1円玉落としか。縁日でよくあるけど、うまくいった試しがない。
「わたしもないです」
「よねー」
まぁ、やってこっか。弾数は5。入れ物は100 mLビーカーか。縁日のよりは口のサイズが大きいけど、2個しか沈んでない。口の総面積的には縁日と変わらないかな? 縦向きにして落とすのは反則! と。
いやでも、縁日だとあー! 惜しい! ってのがちょくちょくあったし、大きいならいけるはず!
まずは様子見の一投。……ちょっと右? めっちゃひらってなってどっか行ったし。んん――、ここ? あ。いれた瞬間に希望なし。なら、ここ! ……あーー駄目! ラストぉ! あ。なんか入ったぁ!
「おめでとです」
「おめでとー!」
「おめでと」
奇跡的に入ったわ。小鳥、華蓮ちゃん、瑞樹ちゃん!
「では、わたしも……お。奇跡的に一撃で行きましたね。じゃあ、同じように……やってるはずなんですけどねぇ」
二投目は駄目。そっから落としていっても駄目。何でこんなむずいのやら。
「これだけはボクも割とどーしようもないからねー」
「そうなの?」
「だよー?輪投げはよゆーだし。ほら」
どこからともなく取り出した5個の輪っかをその場から放り投げる華蓮ちゃん。本来投げるところからに比べて、さらに入れ物が遠いのに余裕で入った。三個同時に放り投げたのに別のところに入るとか、やばすぎない?
「矢を使ってるしねー。よゆーよゆー。射的もー」
台に並んだ五挺の銃にコルクを詰めると、流れるように発射。簡単に一個のお菓子を叩き落すと、素早く発射。落ちるお菓子にコルクを命中させる。さらにもう一射。次は命中して跳ね上がっていた二射目のコルクに命中。最後は二挺を同時に構えて発射。またお菓子を叩き落した。
「こんな感じー。まぁ、さすがに一回も試射してなかったらきびしーけど。多少、銃によってくせあるしねー。今回はー、試射してたからできたー」
だとしてもやってることが異次元。よーやるよ…。
「でも、一円玉落としはねー。ここ……かなー?」
丸い面を下にして落ちるコイン。なんかほとんどひらひらせずに落ちてない? あー、入った。
「いけたねー。半分、ズルしてるけどー」
「ズル?」
「入れ物が振動とか受けると、中で小さな水流が出来るでしょー?一円玉くらいだと軽すぎてその影響を受けるから、こっそーり、動かないようにしてたのー」
「そんなのしてたように見えないけど…」
「まぁ、最初からそーしてるからねー。ほら、すんごい見にくいけどー、ビミョーに空間がねじれてるでしょー?」
ごめん。わかんない。けど、魔法使ってなんか固定してたのはわかった。でも、だとしても、僕ら……特に僕は散々だったんだけど?
「後は気合ー!容器はほぼ完全水平だからー、水面と並行になるよーに落とせば、物理的にはどの面も受ける流体抗力は等しくなるからねー!」
ほんとに気合じゃん。
「なお、そこまでしてもー、一円玉は印刷があって完全な板じゃないからー、びみょーに受ける力が変わってめんどくさいんだけど」
「よくやるよ…」
いや、だからこそ、弓に限らず射撃がうまいのかな。空気とか読むだけじゃなくて、尋常じゃなく精緻な動きが出来るから。
「そー!あー。そーそー。しょーひん、どーぞ!」
「射撃は落としたのそのまま渡すわ。同時に落としたやつはさっきも言ったように、二人は知り合いだからよしなにして。輪投げと一円玉落としは……、カイさんは駄菓子一個。小鳥お姉さまは駄菓子三個かしらね」
一円玉落としのレートよ。まぁ、むずいもんね。さて、次は…どうしよ。見たいとこは見たような。
「ですねー。…んー。さっき、用がなければまたゲームしに来てと言われてましたし、わたしは戻ろうかなと思いますが、来ます?」
「そうする」
やることないしね。変なちょっかいを小鳥にかけるやつはいないと思うけど、一応、保護者的に見守っとこうか。
お読みいただきありがとうございます。
誤字や脱字そのほか色々、もし何かありましたらお知らせください。
次回は……そもそも書き溜めがないのでいつものペースで投稿できないかもです。申し訳ありませんが、なければ察してください。