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103話 文化祭見回り

 無事に一回目の公演終了。台本はカオスだったけれど、きっと先輩達の目標は達成できたはず。次の公演の準備をしないと。……まぁ、すこーし文化祭を見に行きたかったなぁと思わないでもないけれど。このシフトだと自由時間はあんまりない。でも、やるって決めたし、最後まで。



「と思っていたのですが、」

「カイ」

「はい、なんです?」


 習先輩に清水先輩。てか、会話の切り出しに「と思っていたのですが」はおかしいですよ? きっとまた、僕の心が読まれてんでしょうけど。後ろ向いてたはずなんだけどなぁ。



「私達がずっと劇をやる必要はないと思いません?」

「あ。魔法で何とかするんですね」

「そ」


 楽と言えば楽ですけど、何故にそんな急な方向転換を? 



「単に雰囲気に流されてそうしないと駄目って思ってただけだね」

「後、さすがにこのレベルの魔法を使えるのは私と習君だけになっちゃいますし、」

「やったこともなかったから、俎上に載らなかったんだよ」


 なるほどです。誰かが「あれ?こうすればいいんじゃない?」って気づいたと。その誰かってのは、



「私だよーん!へへーん!こーゆーことに対する発想力には、自信があるカーネーション!」

「さいですか」


 何故はこの人に無意味。やりたいから。でしかない。百引(ひゃくび)先輩ェ……。



「具体的にはどうされるんです?」

「過去を変えることはできないって言ってたよね?」

「おっしゃってましたね」


 正確には変えようと過去に介入した瞬間、新しい分岐が生えてくる。そのせいで、基底世界だったか幹世界だったかそんな感じの世界たるこの世界では、100その過去改変は反映されない。だったはずですが。



「ですです。それは正しいです。ですが、過去を見ることや、過去を引っ張り出すことは出来るわけです」

「というわけで、この劇場に観客以外の過去を引っ張り出す。そうすれば、俺らはいなくても決まった時間に魔法を使えば、勝手に劇ができるって寸法」

「なる……ほど?」


 いまいち完全に理解しきれてない気がするけど、まぁ、映画のすごい版をするってことですね。映像だけでなくて、衝撃波的なものとかも再現できるやつ。



「ですから、後は私達に任せて見学に行っちゃってください!」

「「劇してるんじゃ……?」って言われたら「してるよ!」とか言ってアピールしてきて!」


 あ。誤魔化さないのですね。まぁ、そのほうが宣伝になりますか。了解です。ですが、魔法を使われるところに興味があります。見せていただいても?



「「勿論」」


 こくっと頷いたお二人は手招きしながら舞台のそばへ。…まだ時間はあるはずなのですけど? 9:30-10:30の次は11:00-だったはず。今、魔法を使っちゃうと、早いような。いやまぁ、お二人がそんなのを理解されていないはずがないか。



 そして、舞台のそばでお二人が作業を開始。相変わらず手を繋がれているけど、空いている手を清水先輩がファイルに突っ込み、明らかに変な形の紙を引っ張り出す。それを4回繰り返す。



 見ているだけだと紙を取り出しているだけにしか見えない。けど、お二人の顔に汗が浮かんでいて、少し息が上がっておられる。いつもならささっとすんじゃうのに、この消耗。めちゃくちゃな魔法を使われるつもりなのですね…。



 続いて、習先輩がその紙をなぞっていく。見た目は変わった形の紙でしかないのに、なんかすっごく書きにくそう。滑りやすそうに見えるなーと思ったら、滑りにくそうにも見えることもあって、滅茶苦茶。



 それでも、書ききられた。明らかにさっきよりも疲れておられる。でも、肩で息をされるほどじゃない。いそいそと完成した紙を並べて、空いている手で持ち上げた。真ん中でつながっているわけでもないはずなのに、4枚の紙は繋がってるかのようにふるまう。



「「『『再演結界』』」」


 言葉と同時に紙が浮かび上がる。そこでようやく、『再演結界』と紙で書かれていて、習先輩がそれをなぞっていたことを認識できた。



浮かんだ紙は消え、光が部屋中に広がり……あれ、それだけ? それ以上に何も起きない?



「今、何か起こしても仕方ないし」

「あくまでのこの空間の中に結界を展開しただけです。今のところは。時間になれば勝手に、私達がやっていたことが流れますよ。…心配なので、ちゃんと動くかどうかは確認しますが」


 今はその時じゃないと。んん-、なんかこの空間を作る時とか、日本守る結界作る時とかよりも楽そうなのに、今までされてたの見たことないような魔法を使われてたのが少し違和感が。



「そう見えるのは見えるだけかな」

「ですね。2つくらい今までと違うのがありますから」


 その心は?



「まず、今までしてなかったように見えるだけで、裏では頑張ってたよ?」

「私達の魔法は紙を作る時に注いだ魔力が減衰するとかないです。いるってわかり切ってれば先に用意してます」


 なるほど。そういう特性なら、そうしたほうがいいですね。



「二つ目が、過去を展開しないといけないからだね」

「やることは過去の情報を引っ張り出してきて再生するだけです。ただ、現在と重ね合わせないといけないので、そこミスると人死にます」


 !? あ。あー。風とかも再現するなら、空気にも干渉しないといけないですものね。そりゃしくじると人が死にますね。



「そそ。これまでのは現在だけで足りてたしね」

「時間の流れを変えてますよね?と思うかもですが、それは作った世界の時間をこっちと変えればいいだけなので楽なのですよ」

「そうなのですか?それだと、多用しまくるとまだ30歳のはずなのにおじいちゃんにしか見えない…とか起きそうですけど」


 そこの調整も要りますよね? それはまた別口なんです?



「それは要る」

「ですが、何度も使ってますから…」

「長々とこういう仕様でお願い!って世界に頼まなくても」

「前と同じでお願いします!と言えば、それで通るのです」


 それで通っちゃうのですね。だから、そんなに複雑な手順が要らないと。…最初のころはどんだけ頑張られたんだろ。



「かなり」

「ですが、こういうのはフィクションによくあります。こういう感じでーって情報足せます」

「その分だけ、楽だったよ。まぁ、何回も頼んでるとはいえ魔力はそれなりに持ってかれるけど…」

「どうしたらいいのか世界が理解できてないから、適当に補うとか、そういうのがない分、ロスもないです」


 なるほどです。



「あ、そうだ。念のため言っとくけど、」

「後は動くか見てるだけです。それでも、見ていますか?」

「どうなるのか見たいので!でも、初手を見たら外に出ようかと」


 僕の立場はアナウンス。俯瞰的な視点で見れる場所でやらせてもらっていたから、劇の流れやどんなのだったかはわかってる。でも、見たい。



 だよね。という顔でほほ笑まれたお二人はそのまま真剣に空間を見つめてる。



 やることのない僕がぼーっと待っていると、2回目の時間。そういや、普通に愛理(アイリ)ちゃん達は下にいるね。文化祭の出店の割り当てとかないのかな。あるにしても、ずっといそうな気がしないでもないけど…。



 友達と動くよ! って感じの子らではないし。唯一の例外は牙狼(ガロウ)だけど、礼子(レイコ)ちゃんがいるなら動かないだろうし。



 さっきはまだ余裕があったはずの客席も、今度はかなり埋まった。2階席まで開放してるね。お、照明が落ちてきた。そろそろだ。



 僕がここにいるのに、僕の声が降ってくる。これはまぁ、録音とかしてれば普通。でも、下を見ればそこにいるはずのない人が動いて喋ってる。しかも、スクリーンを見ているんじゃなくて、本当に劇を見ているような感じで。



 ほんとに劇の再放送をしてる。そんな感じ。裏側知ってるとすごいと同時になんか気持ち悪いって感想が浮かんでくるね。なんだろ、ドッペルゲンガー……というか、本人を見かねないからかな? さて、どういう感じかわかった。遊びに行かせてもらお。



 入口の仕切りはただのカーテン。だのに開いたときに向こう側から一切、光が入ってこないの、やばいよね。ここでもさらっとヤバさをアピールするスタイル。…果たして、何人が気づくんだろ。



 さて、11時10分か。なら、ちょっと早いけどご飯を食べようかな。外に屋台がいっぱい来てるし、そこ行こう。



 で、高城君どこだろ。見に来てくれるって言ってたけど……、僕が興味を優先しちゃったから、さすがにどっか行っちゃったかな? スマホに連絡……は、なし! んー。珍し。まぁ、いいか。一人で行こ。慣れてる。



 さて、しおりというか、文化祭の案内によると今日の屋台は全部、学外からのお店。食中毒とかめんどくさいもんね。僕らが出来るのはカフェとかで市販品出すくらい。で、屋台が何かは…、書いてないか。



 書いてるのは”当日のお楽しみだよっ”だけ。終わってるね! 実際に見てみよ。



 えーと、海外の多くない? ケバブ (トルコ), サムギョプサル (韓国), 点心 (中国), タコス (メキシコ), ホットドッグ (本場ドイツのフランクフルト使用), フィッシュ&チップス (イギリス), ピザ (イタリア)…。



 しかも、ちゃんとした専門店ぽいし。例えば、ピザはイタリア人が発狂するような分厚い奴じゃなくて、薄いの。



 で、日本料理もないかというとそういうわけじゃなく、ご当地グルメがいっぱい。ひるぜん焼きそば (岡山)に、ジンギスカン (北海道)に、盛岡冷麺 (岩手)に、タコライス (沖縄)、お好み焼きにたこ焼き (大阪)。ラインナップ豊富。後は飲み物屋さんくらいか。



軽食があんまないかな? 気のせい? デザートは台湾かき氷 (台湾), バームクーヘン (ドイツ), わらび餅, ご当地味たくさんのソフトクリームに、流行おくれな気がするタピオカジュースと割とあるのに。



 まぁいいや。何食べよかな。せっかくなら、あんま食べる機会がないもの食べたいな。となると、ケバブとタコライスかな? 盛岡冷麺は売ってるの見たことあるし、ひるぜん焼きそばは食べたことないけど、お腹空いてたら行こうかな。よし!



「あの」

「ん?どしたの、小鳥」


 まだ顔見てないけど、この声は小鳥でしょ。だよね。合ってた。どう見ても一人。いや、ほんとにどうしたの。友達どこ行ったし。



「その友達に「あ、あの人、先輩だよね!声かけてきなよ!」と押し出されました」


 笑みを浮かべて言う小鳥。んー、小鳥の友達に配慮されてる? 何でだ。



「わたしにもわかんないです」

「それもそっか。で、どうする?見ての通り僕も一人だし、これからご飯食べようかなと思ってるところなんだけど、よかったら一緒に行く?」

「押し出されましたし、お願いします」

「了解」


 それなら、もう一回、どこ行くか考え直した方がいいか



「あ。考え直す必要はないですよ?多分、食べる頻度の低そうなものを食べよう!ですよね?わたしもそんなノリで行くつもりでしたので」

「そか。なら、さっそく」

「ケバブですね」

「だね」


 たまに見かけることはあるけど、食べたことないランキング第一位 (アンケート対象者僕だけ)を食べに行こう!



 相変わらずぐるぐる回ってるおっきなお肉。そこから削り落としたお肉をキャベツ、トマトと一緒に何か……たぶんトルティーヤ? に挟んでたれをかけたのを受け取る。なんか思ってたのと違う。



「どうしました?…あぁ。なるほど。とりあえず、端に寄りましょ」

「了解」


 何も言ってないのに察された定期。



「ケバブと聞いてくるくる回ってるお肉だけ食べるのイメージしてましたね?」

「うん」


 マジで察されてたし。何でわかるのさ。



「カイさんわかりやすいですから。その認識は間違ってませんよ。あのぐるぐる回るタイプのケバブはドネルケバブと言って、削ったお肉を食べます。今回、わたし達が買ったのはドイツで生まれたとされるケバブラップですね。ケバブや他の具をトルティーヤで包んだやつです。あの屋台、ちゃんとケバブラップって書いてますよ」

「あ。ほんとだ」


 ぜんっぜん気にしてなかったけど。



「まぁ、そのケバブラップもケバブラップで、お肉だけしか包まないお店とかもあるみたいですけどね?」

「なーる。お肉ばっかのを食べたいなら、そういうお店に行こうってことね」


 お肉だけ! ってのは屋台だとあんまなさそうだなぁ。食べにくいもん。



「ですです。あ。食べましょ。冷めちゃいます」

「だね」


 いただきます。がぶっと一口。ちょっと辛めのソースがお肉と生地にベストマッチ。トマトの酸味が程よく辛さを中和してくれててなかなか美味しい。このお肉は牛かな? お値段は学校が一部持ってくれてるのか、300円。この量と味だとどう考えても安い。



「牛であってますね。トルコはイスラム圏ですから、本場だと羊や牛が多いみたいです。日本だと手に入れやすい牛や鳥でやるっぽいですね。後、イスラム圏でないので、豚もあることもあるみたいです」

「そうなのね」


 牛かぁ。牛でこのお値段なら間違いなく安いね。パクパクと食べて完食。さて、次はタコライス食べたいけど…、



「小鳥、お腹の調子はどう?」

「大丈夫です。それよりカイさん。タコライスも辛い系の味付けらしいですけど、大丈夫です?ちょいケバブと味、被りますよ?わたしは食べてみたいですが」

「あ。そうなの?ありがと。でも、小鳥ならなんていうかわかるでしょ?」


 だって既に僕が言うこと言ってるし。「わたしも食べてみたい」って。わたしを僕に変えたら僕が言うことだよ。



「なら、」

「いざ!」


 ごみはゴミ箱に捨てて次のお店へ。時間が12時近くなってきたからか、ちょっと人は多め。だけど、さすがは文化祭に出てくる屋台と言うべきか、お仕事が早い。すぐに僕らの版。



 これも300円。そのくせ、1合くらいのご飯の上に、たっぷりのタコスミートと、レタス、ミニトマトとチーズがかかってる。安い。横にあるチリパウダーは辛味増しに自由に使えと。最初だし、なしでいいかな。



「混ぜるんだったっけ?」

「だったはずです。とろけるチーズがとろけてないので混ぜて、お肉やご飯の熱で融かすんです」


 ありがと。さっそく混ぜ混ぜ。紙皿じゃなくて、プラスチックのお皿で出してくれてるから、ヘリがあって混ぜやすい。よし、こんなものかな? いただきます。



 んっ、美味しい。辛いタコスミートとチーズ、トマトにご飯がうまく絡み合ってる。まぁ、ご飯にはなんでも合う感あるけど。そして、ねちゃっとした触感の中に、シャキシャキしたレタスがアクセントにひょっこり顔を出す。辛さはかなり控えめで食べやすい。



 万人受けするようにしてるのかな? 辛さを求める人はチリパウダーで調整しろと。さて、完食。んー。こんだけ人がいるのに僕の友達あんま見ないな。まぁ、よくしゃべる友達は高城君をはじめとするごく少数なんだけど。



「そういえば、タコ入ってないのに、何でタコライスなんだろ」

「タコライスのタコはタコスから来てるらしいですよ?だからかは知りませんが、トルティーヤを刺すお店もあるそうです」

「あ。そうなのね…。あぁ、だからタコスミートなのか…」


 いや、言い訳させて。台湾混ぜそばに載ってるお肉、台湾ミンチっていうけど、あれ台湾生まれじゃないやん。名古屋やん。



「言い訳しなくても……いやまぁ、口にしてませんが、大丈夫ですよー。そういうこともありますよ」

「だよね!っと、そういえば小鳥、食べきれる?」


 さっきよりも食べる速度が落ちてる気がするけど。いやまぁ、無理って言われたとてどうしようもないけど。さすがに小鳥の食べたのを食べるのはマズいでしょ。



「その心配は無用です。ちょっとだけ減らしてもらってますから。ですから、ちょっと待ってくださいね」

「あ。焦らなくていいよ!?」


 急いで口にかきこむ小鳥。小動物みたいで可愛らしいけどそんな無茶しちゃだめだよ? …あ。この子、礼儀正しいから食べてる間、喋らない! 



「です。とまぁ、この通りです。ちょっと満腹という感じにはなりかけてますが」

「おー」


 見事に器が空になったね。なら、この器は一応、エコ云々で回収されてるらしいからそこに返そうか。その後はどうしよ。



「それなら、デザート食べましょ!デザートは別腹!です!」


 嬉しそうに笑う小鳥。なら、無粋なことは何も言わないよ。行こうか。デザートが集まってるところに!

お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字衍字、その他色々。もし何かございましたらお知らせいただけると喜びます。


次回はごめんなさい。出張の関係で1回飛ばします。ほぼ1月後の10/21か25のいつもの時間に投稿します。

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