102話 一等星
『ふぁーはっはー!私達は成し遂げた!この傑作を我らの手に!』
『我が帝国の科学力は世界一ィ!!!』
場面変わって飛行船の中。百引先輩と有宮がなんか言ってる。時代背景まっっったくわからんが、もし、現代ならきっともっといい技術あったろ。なにせ、飛行船は水素で浮かすことが多くて爆発しまくったから廃れたんだ。
『甘い!甘いぞ!貴様ら!真の化学力とはこう使うのだ!』
『それはさすがに無理があると思うぞ姉』
声が響いた途端、飛行船の中からズームアウト。ゴンドラ部分に勢いよく三角形にしか見えない飛行機が突き刺さって、貫通。絵画を全力で持ち去っていく。
うん。確かに化学は無理があるな。明らかにケミストリー要素はそんなにない。化学要素どこ…? 素体がめちゃ優秀な金属でできてるとかそういうとこ? 要素うっす。明らかに科学、サイエンスの粋では? 飛行機なんて。
「わね。だからこそ、あの声をあげた子……、西光寺薫ちゃんも少しだけ恥ずかしそうなのよ」
「誰が台本書いたんで…いや、聞くまでもなかったですね」
つっこみまでぶち込むなんて、明らかに飛行船の中の二人の仕業だろ。
「あら。付き合い全然ないはずなのにわかるのね」
「まぁ、なんとなく」
てか、見てる人、全員が察してるかと。
飛行船を煽るようにぐるぐると周囲を旋回する飛行機。それを撃墜しようと飛行船から大量の弾幕が放たれる。…絵まで撃墜されるんじゃないかね。あれ。
『ちっ。かすった!』
『丁度肉ーーッ!』
ジャストミートだな。わかるわかる。わかりたくなかったなぁ。
『その弾は文の種子だ!』
「なんで劇なのに本名なのかしら」
「気にしたら負けかと」
ですねぇ。近衛先生。
『そらそら育て育て天高く!』
『既に天空にいるけどね!』
『それはそう!そら、天のもずくとなるがいい!!』
もくずだな。わざとだろうけど。そして、目の前ではただの植物が飛行機の装甲をぶち破って、すくすくと育ってる。劇だからセット……なわけないよなぁ。これは化学の敗北か?
『甘い。私の化学力を舐めるな!貴様らが出てくると予想していた時点で、有宮嬢の対策はばっりちなのだよ!』
急に植物が枯れたぁ!? だが、装甲に穴が開いている事実は変わらない。植物を枯らしたことによる悪影響の方がでかそう。
『姉。遊びは終わりだ。離脱するぞ』
『…む。もういいのか?』
『いいだろ』
「今の発言、ちょっとメタいわね」
そんな要素ありましたっけ?
「見てればわかるわ」
水城さんがそう言う最中、飛行機が勢いよく飛行船から遠ざかる。違和感なく見れてしまってるけど、ここ室内なんだよなぁ。教室が体育館になってる時点で空間的正しさなんて死に絶えてるんだろうが。
遠ざかった三角形の飛行機の背中がぱしゅっと開くと、球体が勢いよく発射。飛行船から撃墜のためにいくつもの攻撃が放たれるが、球に攻撃が命中した途端、球が爆発。先ほどの比じゃない勢いで鋭い金属の小さな刃が放たれた。
『ちょっ。おまっ!』
『フミ!防御!』
『間に合うと思うけど、無理かもね!』
勢い良く育った植物が飛行船の前に展開。だが、金属は植物を容易く引き裂き、飛行船のバルーンに命中。貫通して……あ。金属同士が激突した「チッ」という音がいやに響いた。
途端、発生した火花がバルーンの水素に引火。勢いよく爆ぜて乗っていた二人が『覚えてろー!』なんてギャグみたいに言いながら飛んで行った。
何であんな意味わからん形してる飛行機があるのに、飛行船に充填されてるのは水素なんだよ。時代背景が滅茶苦茶。…まさかこれが、「はちゃ☆めちゃ☆」? やばすぎんだろ。
『さぁ、戻るぞ!』
『あぁ。そう……ん?おい、姉。何をしやがった?』
『ん?姉は何も……うわっ!』
舞台が白に覆われる。そして、次に出てきたのはサイバーチックな大都会。サイバー空間というのをアピールしたいのか、何もかもが電気っぽいもので構築されている。
そんな大都会が端から瞬く間に崩れ落ちていく。これはどういう演出だ?
『ッ!サイバー攻撃されている!』
『はぁ!?この飛行機に外部からアクセスできるようなネットワーク経路なんざ……あ。あ。あー!まさか、GPSか!?』
『その通り!GPSからだとも!』
『ッ!だとしても、私達の作った防壁をやすやすと突破できるはずが…!』
『あるとも。このわたし、豊穣寺にかかれば、その程度、赤子の手をひねるよりも容易い。その証拠に』
ビーッ! っと俺の鞄に入れていた携帯電話をはじめとする、観客席の携帯群が音を立てる。え。待って。俺の携帯、マナーモードにしてたはず……あ。してるわ。まさか、あの一瞬で豊穣寺先輩に攻撃された!?
『とまぁ、観客の携帯を鳴らすこともできる』
マジでやってたんかーい! え。何で。…いやまぁ、きっとこんなこともできるってのを誇示したいんだろうが!
『そして、メタついでにいくと舞台上の都市が崩れていくのは演出だとも。今はまだ、キミたちには影響はないが、いずれ影響は出る。製作は大宮だ。別に絵里……あぁ、狩野に頼んでも良かったが、層の厚さをアピールする必要があるのでね』
メタにメタをかますな。没入感……はあんまないが、冷めるだろ!?
『姉!なんとかしろ!』
『無理だぞ。私らの中では電気系の担当は豊穣寺嬢だろうに』
『『メタいな!?』』
ほんとにね! どういう台本なんだよ!? 最精鋭の中では割り振りがそうでも、劇の中は別だろうに!?
『ま、まぁいい。落ちろ』
ガクンと急激に飛行機の高度が下がる。それと同時に酔いを防止するためか、画面は飛行機の外へ。
いや、さっきも突っ込んだが、絵はどうすんだよ!? 落ちたら滅茶苦茶になるぞ!? なんて心配をよそにぐんぐんと落ちていく飛行機。搭乗者の二人は既に脱出済。映画なんかでたまに見る射出式の椅子だったらしい。
そして絵も……無事っぽい? パラシュートに吊るされたコンテナに入ってるな。なお、回収方法。
『おい、姉。どうやって回収すんだよ』
『着陸後に回収すればいいだろ』
『いやっっっっっふーーーーー!』
誰の声だ。これ。唐突にまた新しいのが湧いてきた。場面が切り替わって、大地を疾走するバイクを横から捉える構図になった。あぁ、この人か。名前知らん上に、なんか明らかに場違いな帽子被ってる。なーんで海軍の帽子みたいなの被ってんのかね。
しかもバイクには思いっきりMATSUZAKIって書いてるし。どーみても市販車です本当にありがとうござい……いや、よく考えなくてもバイクなんかより飛行船と飛行機のがやべぇわ。
そして、そのバイクが都合よく斜面になっているところを勢いよく滑り降り、発射台のようになっているところから飛んだ。
どう見てもただの慣性でぶっとぶバイクはタイミングばっちりに絵の入ったコンテナをかすめ、えぇ……。なんか一瞬でコンテナ引き裂いたし、博物館の目玉って感じのえげつないサイズしてた絵を丸い球体に収めた。
わぁ、すっごーい! そんなことも出来るんだね!
「近衛先生も脳を溶かしているけど、心配しなくてもあれは一般人には使えないそうよ」
「物流革命が起きないなら安心……安心か?あれ?」
「安心ではない気がしますね」
だって、一般人には使えないにしても、使える人を拉致監禁できればその恩恵は計り知れない。どんだけ入るのかわかんないが、密輸に使える。そして、密輸に使えるならアングラな組織が躊躇する理由はあんまりない。同じ人じゃないと駄目とかいうセキリュティがないなら、二人拉致すりゃあ、密輸元と密輸先で万全の密輸体制になる。
そんな設備だぞ。あれ。
「まぁ、最後はなんかすごいで終わるし、大丈夫よ」
「「あっはい」」
記憶操作されるってことだな。うげっ。今、気づいたけど携帯、余裕で圏外だし。情報統制もばっちりってか。
飛んだバイクは水面に着地。なんの変哲もないバイクが水面を疾駆する。あれが魔法か? なんかライダーはめっちゃテンション高く叫んでるが……。魔法の代償がアレで効果が水面を走れるだけだと、嬉しくないなぁ。
「あれはライダーである葉蔵君の素ね。魔法は乗り物乗ってるときに無敵化するフィールドを展開するんだったかしら。水中も進めるはずだけど、水上も行けるのね」
素なんかい! ハンドル握ると性格変わる人いるけど…、あの人がその典型例なのか。魔法関係なく、車に乗らせたら駄目な人だな。事故って悲惨なことになる気がする。
「事故るのはダサい。みたいな美学あるから平気よ。ルールを守る気もあるし。交差点でドリフトなんてしないわよ」
山道ではドリフトしてそうだが。あの先輩。まぁいいや。あ。ついに場面が切り替わった。場面は博物館に戻った。警察っぽい恰好をした人がいっぱいいる中で、明らかに探偵って格好をした男女二人組にオーナーが相談している。
何故に警察じゃなくて探偵? 普通に被害届出せるんだし警察でいいのでは。
「おとっ……森野夫妻ね。探偵役は」
「だなぁ。…年齢的におかしくないし、普通に職員室でも「夫妻は点数いいなー」とか言ってんのに、夫妻って単語の破壊力がやばい」
「ですねぇ」
男なら18、女なら16で結婚できるって言っても、高校で夫婦がいるなんてほぼありえんし。特に男。健康上の理由とかでもなけりゃ、留年or高校浪人してる。それで結婚て、すごい決断。
『なるほど。わかりました。であれば、私達にお任せください』
『簡単に解決してみせます。とはいえ、敵の本拠地に殴りこむことになりますね』
『そこはご安心ください。お二人の噂は耳にしておりましたからな。高名な傭兵を雇っておりますとも』
殴りこみに傭兵? なんかすっごい物騒な単語が。警察周りにいるの……、ん? ひょっとして、あの人ら警備兵で警察じゃない!?
なんて思ってる間に前に出て来たのは男女二人組。
望月先輩と天上院先輩ですよね?あれ」
「そうね」
よかった。まぁ、見間違えんわな。何しろ、『常華高校の非リアが選ぶ! え!? 嘘!? あの二人付き合ってないの!? ランキング』の殿堂入りだし。
『忘るるな。我らもいる』
『次は、絶対、逃がさない』
あ。さっきの大砲の人。さっきは水城さんに説明されてようやく理解できたけど、今の二人並んでる状態ならわかる。まったく羨ましくない方のランキングで殿堂入りしそうな人らじゃん。
「臥門に蔵和だけか?旅島は?」
「普通にいますよ」
「あ。ほんとだ」
二人に隠れてるが、いるな。目立ちたくない系の人なのか? てか、それより、大砲なんて持ってる人を前面に押し出していいのか? 絵もろとも粉砕する定期では。
『お願いします』
『『お任せください』』
一切のためらいなく頷く7人。そして、森野夫妻が手を重ね合わせると、白いものがふわっと浮かび上がる。
『ご存じの通り、私達は空間を切り裂くことができます』
『その力を使って、本拠地までの門を開きます。行きますよ』
ご存じないな。なんてツッコんでる間にも白いものが光って空間が裂けた。そこに7人が飛び込んでいって、場面転換。
急展開すぎる気がしないでもないが、カイのナレーションはそんなの気にしてないかのように差し込まれる。ほんと、お前、馴染んじまったんだなぁ。
裂け目を抜けた先はなぁんということでしょう。立派すぎるお城があるではありませんか。なぁにこれ……。有宮先輩の植物が巻き付きまくっているから、ちょっと見た目は普通じゃないが、立派なお城だ。まぁ、お城の入り口付近に[大宮建設]って書いてるのは草だが。建設会社か何かか?
てか、尺的な都合だろうが、何で直行してねぇんだろ。直行するって言ってたはずなのに。
「馬鹿っぽくみえるけど、百引ちゃんは全力でやれば森野夫妻に劣らない出力が出せるもの。それで妨害したのでしょうよ。水晶球だからそんなぽこじゃか表に出てくるもんじゃないけど」
なるほど。っと、さっそく、蔵和先輩が大砲をぶち込んだァ! でも、足止めするかのように城から三人が出てきて、音楽……というか音符が降ってくる。ベースは風や雷っぽいけど、何で音符の形してて、よく見る緑や黄色をしてんだ。
「透明にも出来るけど、んなの演劇でやったら見えないからでしょ。音符の提供は座馬井兄妹と青釧さんね。出て来た3人は百引ちゃん達と仲のいい神裏君に羅草ちゃん、久我君ね」
水城さんが解説してくれている間にも場面は進む。望月先輩と天上院先輩が勇者や聖女っぽいやたら剣や杖が白く光る技を飛ばし、植物や音符を消し飛ばしながら三人を狙う。だが、その一撃は青い本を開きながら、氷柱を飛ばし、ブリザードを巻き起こす羅草先輩に叩き落される。
臥門先輩はスナイパーで虎視眈々と三人をぶっ飛ばそうとしているが、神裏先輩に素手でつかみ取られたり、大剣を振り回す久我先輩に防がれてる。えぇ…。
「あの先輩の銃、しょぼい?」
「逆よ。神裏君のグローブがやばいだけ。あのグローブは魔法の道具。魔法の道具は基本的に魔法の道具じゃないと壊せない。ただの発射された弾では貫けないわ」
あー。そういうからくりなんですね。
反対に城から植物も攻撃しようと頑張っているが、旅島先輩がぶっ放す機関銃の制圧力がえぐすぎる。ほとんど地表にすら到達できていない。
そして、森野夫妻は……剣や盾代わりにされてんが、習先輩がペンで、四季先輩がファイルを持ってんのか? 見た目がギャグにしか見えんのに、普通に戦えてるし、魔法もぶっぱしてんのがやべぇな。
ある種の演武的な感じで繰り広げられた戦いだが、いくら上からの援護があろうともさすがに多勢に無勢。城側の三人が押し切られて一行は中へ侵入。 明らかに休ませる気のない城付属のトラップやら止まらない音符や植物の猛攻を耐え忍んで……忍んでんのか、あれ。
|RTA《Real Time attack》か何かか? って勢いですいすい行ってるが。そして到着した最上階。
『ん。全力で、行く』
『ちょっ、おまっ!?』
目の前に豪華な扉が見えた途端、臥門先輩のツッコミも何のその。蔵和先輩はクソでか大砲を一気に小型化。レールガンでも模しているのか、かなり長い砲身から超速で弾が放たれ……、なんかかっこいいシールドに弾かれた。
『はっはっは!私はこんなことも出来るんだーい!』
自慢したかったんですね。そして、相変わらずの絵を気にしない攻撃よ。思いっきり、この部屋の後ろに置いてあるんだが?
『そして、あらかじめ言っておく!この絵にはなんの防御もしていない!』
『つまり!絵は守られていないということ!だからこそ、キミらは絵に配慮しないといけないんだよっ☆』
つまりが意味もなしてねぇ! 百引先輩と言ってること同じじゃん!
苦々しそうな顔をする突入組。だが、城側が待つはずもなく、攻撃が始まる。そして、少し毛色の変わった演武が始まった。
さっきよりも城側の人数は増えた。が、城側が持ってるものがまともなもんがねぇ。座馬井兄妹は太鼓に笛。青釧先輩は扇だし、有宮先輩は袋で、百引先輩は水晶玉。…水城さん曰く、魔法の道具は魔法の道具でしか壊せないらしいが、それでいいのか。
互いの武器と武器がぶつかり合い、絵に損害を与えないような弱めの魔法が混じる。重火器を持つ三人は位置取りを調整しながら、弾をぶっ放す。攻撃が自身の方に来ようとも、明らかに火器の使い方としては間違ってる「何も気にせずぶん回す」でごり押す。
そうやってまた存分に全員の実力を誇示するような戦いが繰り広げられている最中、森野夫妻が唐突に絵に向かって駆け出す。
『あっ。ちょっ!それは』
『『反則!』』
仲が良すぎて重なった百引先輩と有宮先輩の声を無視して、絵に向かって駆け寄って行く二人。手を繋ぐと勢いそのまま、紙飛行機を放り投げる。投げられたそれは二人よりも早く絵に激突、ピカッと光ると空間を切り裂いて、絵を消滅させた。
『撤退!』
習先輩の声に突入組が集合。まーた空間を切り裂いて消えるとともに、白い紙をはらっと残していく。そして、場面が切り替わって……城が爆ぜた。
CGにしか見えないはずなのに、何故か脳なのか、感覚なのか、どこが悪さしてんのかはわからないが、あれをCGだと思うことを拒否してる。城の残骸らしきものが飛んできているわけでも、耳に悪い爆音が響いているわけでも、熱い風が吹いているわけでもない。それなのに、CGだと思えない。…きっと、誰かに向けた示威行為なんだろうなぁ。既にどっかの国の機動艦隊が悲惨な目にあってた気がするけど。
『こうして、絵は無事に取り戻され、博物館は大盛況となったのです』
!? え。えぇ……!? これで終わり!? どんな脚本なんだよ!? まだ城は爆ぜてるんだぞ!?
『『爆発落ちなんて、サイテー!』だぞっ☆』
ほんとにな!? 百引先輩と有宮先輩に同意するわ! どんな脚本なんだよ!? あ、これ思うの二回目か。いや、マジでどんな脚本……。あーでも、キャッチコピーは『見るものすべてを圧倒する絵をきっかけに引き起こされる大騒動!魔法としか思えない光景をあなたに!』だったか。であれば、思惑は成功してるわな。どう見たって、魔法としか思えない光景が繰り広げられたもの。
てか、脚本書いたの、最後に叫んでた二人だったはずでは???
お読みいただきありがとうございます。誤字や脱字、その他もろもろ。
もし何かありましたらお知らせいただけますと嬉しいです。