100話 すっとばした体育祭の総括
「さて、体育祭も終わったし、文化祭の準備を本格的に始めていくわけだが…。お前ら、既にやってるよな?」
ですね。僕は冷静にならなくても魔法が使えない。がっつり参加すると僕が死ぬ。そう悟ったから、ナレーターとして参加させてもらうわけだけども。
先輩達は既にがっつりと準備を色々とやっておられる。僕は用意してもらった台本を読んで覚えるだけ。後、発声練習も。
まぁ、台本作っていただいたけど、「台本?んなもんいらないでしょ。上等でしょ!?」なーんてほざ……げふんげふん、言いそうな人がいるのがちょっとアレだけど。
「なら、言うことねぇわな。俺からは。頑張って準備してくれ。一応、俺、クラス担当だし、監督しとかにゃならんのだが…」
「全力でやるから、監督なんていらないわ!」
「そうだぜっ。監督如きが、文らの全力を止められると思ってもらっちゃあ困るってもんじゃ焼き」
言いそうな人がまーた無茶苦茶なこと言ってる。…と言いたいところだけれど、今回、習先輩達が演劇に全力なのは確定事項なわけで。あながち間違いじゃない。
「だよな。知ってた。頑張れ」
「うぃ!ま、心配しなくても近衛先生には迷惑かからんようにするから!」
「主にしゅーや、しーちゃんが。だけどな!」
「「がっはっは!」」
胸を張って笑う二人。自分の力じゃないのに何でそこまで元気よく笑えるんだろ。
笑いつかれたのか、せき込んでるし。|保護者《瞬先輩、羅草先輩、謙三先輩》から自分の水筒のお茶を貰って一息に飲む。
「「そうめんつゆだこれ!」」
「「「えぇ……」」」
えぇ……。てか、その水筒、貴方たちのなんだから、そうめんつゆ入れたのお二人では。その割に、お昼ごはんは普通にお弁当だったような。
何のための水筒なんだろ。
「……森野達の子供も来てるし、終わるか。解散!」
「「ひゃっはー!しゃばだー!」」
ここが既にしゃばです。てか、毎度思うんだけど、魔法で気にできないようにされているんでしょうけど…、先生が「習先輩達の子供が来てる」って平然と言うの違和感しかない。
先輩達、一浪させられているようなもんだから法律的には子供がいてもおかしくはないけれど、その子供が高校にいるってやばいよね。普通なら赤ちゃんだもの。
先生は出て行ったけれども、先輩たちの動きは遅い。しゃばだー! とか言ってた二人さえ、動いてない。むしろ、お子さん達が入って来て人数が増えた。
「…帰る?」
「んー」
ちらっと清水先輩の方を見る習先輩。清水先輩も悩まれてるっぽい?
「…なるほど。デートする?」
「したい感じはある」
「ですね」
「…把握。なら、行ってらっしゃい。…今日は帰ってこない想定で動くね」
愛理ちゃんがそう言うと、皆、手を振って見送った。見送られる側のお二人は少しだけ恥ずかしそう。これはあれか。否定しないってことはそういうことってみんなにバレるからかな。普通、はずいですよね。
にしても、珍しい。子供たちがこっち来てるのに、デートに行かれるなんて。初めてでは?
「…そりゃ、一週間前にはこの日はデートする。って決めてるもん」
「あ。決めてるんだ」
そうでもなきゃ、行違いが発生するよね感はある。けど、決めてるんだ。牙狼以外は別に「親の情事なんて聞きたくない!」なんて言わないだろうけど……、言うんだ。
どういうお気持ちなんだろ?
「…さすがにちょっと気恥ずかしそうではある。今みたいに」
「ねー」
だよね。あのお二人が「いいだろー」って言って出ていくのあんまり想像できない。
「それはそうと、聞いていいのかわかんないけど……、何で今日は唐突にデートに行きたくなったの?」
「…体育祭があったでしょ?そこで色々頑張ったから、そのご褒美に一人一日時間貰ってた。多分、その関係」
一日!? ってのはさすがに比喩よね。放課後から寝る前の間って感じかな。いやでも、土日もあるし…。
「…土日は全体のご褒美」
「全員でどっかに行ったのね」
「…ん」
なる。それでお二人は常に一緒にいたけれど、二人だけってのは無かったからデート欲求が高まっていたと。まぁ、お子さん達だけで7人。土日も合わせると9日消し飛ぶと。多いね。
お二人は時間を止めれる。けど、止めちゃうと自分たちで完結すること……、勉強するとか、二人でいちゃいちゃするとか、ゲームするとかしか出来ない。
他の人が介在しないと駄目な買い物とか、遊園地で遊ぶとかは出来ない。人が動かないと動かないから。仮に施設として動いていても雰囲気が死滅してる。
動物園やら水族館は論外だし。植物園や博物館は時間を止めても楽しいかもしれない。でも、そこにいる人が全く動いていないってのは、自分で時間を止めていても面白くないかも。非日常感がどこかに行ってしまうから。
そう考えると、一人一日(放課後からだから、実際は6時間もないけれど)のご褒美は結構、時間が消し飛ぶ。
「で、みんなが頑張ってないとは微塵も思わないけど、体育祭でご褒美なの?」
皆の身体能力なら蹂躙余裕でしょ。だのに、そこまで蹂躙してなかったような。それなら、皆が頑張ってるだろうテストでご褒美もらってる方がしっくりくる。
「…テストはテストで貰ってる」
「割と基準が甘いからー、今のところ失敗した子はいないよー」
「油断してサボると落としてしまいかねませんが」
だろうね。あのお二人ならできるのにボーダーを余裕のラインに設定しないでしょ。だから、ボーダー平均点とかはありえない。平均+20点。それが80を超えるなら80点とかにしそう。
「じゃあ、何故に」
「…手加減をいい感じにしたで賞」
「なるほど」
それは……うん? あれ?
「あの。皆、球技大会で割と全力かましてなかったっけ?」
こくっと頷く皆。だよね。だったら、
「皆の実力がおかしいことはバレてるよね。それで手加減なんてしたら面倒なことにならない?いやまぁ、逆に全力だしたら出したで、もっとめんどくさくさ……あ。あー」
なるほど。それで、いい感じに手加減したで賞。なのね。
「…ん。手を抜くとガタガタうるさい。かといって、本気を出しすぎると容赦なく陸上代表入りとかの結果が出る」
「チームプレーが皆無とはいわないけどー、50 m走とかだとチームプレーなんてないからねー」
だね。だからこそ、球技大会の時は強くても、「こ、個人的技量が高いだけだから(震え声)」とか、「牙狼と幸樹の連携が頭おかしいだけ(震え声)」という逃げ道がなくはなかった。けど、そこまで潰されると……という感じか。
あ。でも、習先輩達なら別に皆の運動神経がよすぎるからと言って、ギャースカ外野に言われようが、魔法で黙らせられる。わざわざその辺、ちゃんと調整するようにとか言う?
「そっちのほーがボクらのせいちょーに繋がるなら、言うよー」
「それもそか。なら、今回のケースは…」
「…こっちから持ちかけた」
のね。文字にすると酷いけど。いい感じに手加減出来たらご褒美おーくれって。
「具体的に何したの?」
手加減と言っていたけど、徒競走は圧勝とまでは行かないでも、普通に1位を総なめしてたし…。え。それが手加減?
「…ん。さっきカイさんが言ってないけど、言ってたように」
「そこは思ってたようにでいいよ」
心読まれた定期を表すならそっちのが早いでしょ。てか、どこかで普通に思ってたようにって言ってたくない?
「…そこの使い分けに特に頭は使ってないよ。…ん。さっきも言ったけど、手を抜きすぎると球技大会で実力が高いことはバレてる。だから、手を抜きすぎると一瞬でバレる。…他の子らには悪いけれど、それくらいがちょうど」
ちょうどなのか。まぁ、魔法も使えるし……そんなもんなのかな。
「…ん。高校生の陸上記録すれすれとかはあれど、それをぶっちぎってるのはないから」
「なお、リレーの一部区間」
「ガロウ。そこは気にしたら負けですよ。と言いますか、貴方とコウキが戦犯」
「お、俺らだけじゃないからセーフ」
草。言い方的に前後の走者と合わせるとそうでもない記録に落ち着いてるけれど、牙狼→幸樹とか、愛理ちゃん→華蓮ちゃんとかの区間だけずば抜けて早かったんだろうなぁ…。
実際、正確な時間はわからないけれど、傍から見てて早かったし。リレーはバトンパスであなり時間が変わる競技。そこを非の打ち所がないレベルで突破してたら早いよね。
時間的な意味でも早いし、受け渡し中の両者の速度という意味でも速い。
家族だし、友達とかよりは連携取りやすいのは確かなんだろう。けど、この子らと同じレベルの連携を求められると滅茶苦茶仲のいい家族でもきついと思う。そんな連携。…あれ、これ、習先輩達も気付いておられないかもだけど、一番、手を抜かないといけなかったのはここ説。
「家族だしもっとうまくできるでしょ!」だの「キミらならもっとできるはず!」なんて言説は、ここで見せてなければ「バトンパスしてるとこなんて見たことないだろ、おめー」で封殺できるはずだったし。いくら連携がうまかろうが、リレーのバトンパスと他は勝手が違うし。
まぁ、気にしても仕方ないか。この子らがそのレベルの連携出せるのは、この家族の組み合わせだけだろうし。バトンパスがグロうまくても、一般人にはわからない程度に手を抜いて、高校生にしては速いような。で、とどまっている限り日本陸上界から声がかかることはないでしょ。知らないけど。
「そういえば、ものすごく偏見に溢れたイメージだけど、体育が出来る男の子ってモテるじゃん?そういう観点で言えば、二人はどうなの?」
「!?」
牙狼が「何言ってんのこの人!?」みたいな目でこっちを見てくる。けど、幸樹は苦笑いしてる。この反応の差は……僕に抱いてるイメージの差かな。
「ふっふ。甘いよ。牙狼。他の子らがいるから聞かないと思った?聞けるときは聞くよ!一般論としては男の子のがそうなるイメージあるけど、別に女の子でもあるはずだしね!」
スポーツやっててかっこいい! って思った男の子が突撃することもあるかもだし。まぁ、イメージがしにくいのは男の方が女の子より強いし、そのほうがいい。なーんてイメージがあるからだろうけど。
「俺にはねぇよ」
「でしょうね」
牙狼が礼子ちゃんと恋仲なのはバレてるし。恥ずかしいからか習先輩達みたいに超露骨にいちゃつくことはしないだろうけど…。見てたら割り込めないことはわかるしね。
一応、うちは自称進。仮に割り込もうとする子がいても、他の良識ある子が止める。
「幸樹は?」
「あるにはある。でも、その辺はよくわかんないから……」
「その気持ちはわかる」
恋って何なんだろうね。好きと愛してるはどう違うんだろうね。…全然わからない。
「でも、僕と違って、相手になってもいいよ!って言ってくれてる子がいるんじゃない?なら、その子がよさそうなら試しに付き合うのはどうな……あ。あー。厳しい?」
僕みたいにわけのわからない現象に巻き込まれるようになるかもだし…。一回、巻き込んだら逃げれないよね?
「…そうでもない。わたしなら縁を切れる。…完全に他人にすることもできるし、普通に友人としては繋がったままだけど、わけのわからないものからの干渉はなくすとかもできるよ。…あ。カイさんは無理。さすがにお父さん達とクラスが同じってレベルだと、ちょっと繋がりが深すぎる。…干渉をなくそうとすると……んー。カイさんが引っ越すとは思えないから、神隠しに遭うとか、事故で即死するとかが起きかねない」
「うわぁ」
干渉をなくすためにはクラス同じってのをなんとかする必要がある。よし! ってことなんだね。わかる。…起こる事象はわかりたくないけど。
「なら、そこに障壁はないと」
お姉ちゃんに頼らないと駄目という幸樹のプライド的な問題はあるかもだけど。
「てことは、とっかえひっか「絶対、しない」わぁ。食い気味」
幸樹にしては珍しい。転生前に嫌なことでもあったのかな。てか、微妙に顔が青い?
「そんなことしたら、母さんにぶち殺される」
「あ。うん」
「殺される」じゃなくて「ぶち殺される」なんだ。たいそうでっかい釘を刺されたんだね…。
「…ん。レイコがいるガロウもついでに刺されてた。勿論、お父さんのいないタイミングに」
清水先輩、習先輩には黒い面を見せたくないのですね…。てか、それなら僕に言っちゃっていいの?
「…ある程度、察してるしいいでしょ」
「そか」
釘の刺し方ねー。イメージあんまりつかないけど。「あ。そうだ。コウキ君。後、ついでにガロウ君。お遊びで女の子泣かせたら承知しませんから。ね?」って首を傾げながら手に持ってた硬いものへし折ったりされたのかな。
「…残念。お母さんが持ってる武器を虚空から取り出して、すんごい硬くて本来、その武器じゃ貫通できないはずのお母さんの魔法の道具……、ファイルを貫通させた」
「えぇ……」
多分、修復効くんでしょうけど、何やってんですかね。思ったより脅し(物理)なんですけど。それだけ、許さん! ってことなんだろうなぁ。
「じゃあ、女の子勢はどうなの?」
「…わたし?わたしは興味ない」
「ボクはそもそもむせー。むせーってのを除いても、家族いじょーに好きってのはないかなー」
「私はガロウがいますので」
愛理ちゃん、華蓮ちゃん、礼子ちゃんはだよね。って感じ。恥ずかしがりながらも言ってのけた礼子ちゃんを見て、牙狼が少し赤くなってるのがほほえましい。
瑠奈ちゃんはそもそもわかってなさそうね。瑞樹ちゃんは…、
「アタシは魔法の関係で、そういうのは無理ね。アタシを増やすだけだけど、父さまと母さまの魔法を合わせれば、アタシは何にでもなれる。アタシが家族といるこのアタシが本体と認識している以上、本気の色恋ではないけれど……、増やしたアタシのうち何人かは所帯を持ってるわ。でも、そんなのしてるから、今ここにいる瑞樹としてのアタシは、本気の色恋なんてのは想像つかないわね。演技ならどうとでもなるけど」
まぁ、そうなるよねー。どう考えても増えてる瑞樹ちゃん、女の子以外もいたもん。性自認とかぐっちゃぐちゃになりかねない中で、色恋は難しいよね。
「へいへいへーい!もうこんな時間だよ!」
「一緒にご飯食べに、てきとーに街にいこーよ☆」
まだ帰ってなかったのか。あの二人。あぁ。確かに良い時間だ。
「ごめん、そろそろ僕は帰ろうと思うんだけど、どうする?」
「…ん。なら、わたし達も帰る」
「じゃ、一緒に帰ろっか」
受験生だけど、そんくらいはいいでしょ。もし、ご飯を誘われたら……どうしようかなぁ。ま、それは未来の僕に託そう。誘われるとも限らないけど!
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