1話 編入
お久しぶりの方はお久しぶりです。
初めての方は初めまして。お楽しみいただけますと幸いです。
一話4000~6000字くらいにしたいです。
逝ったほうがいいのはわかってる。けど、怒られたくない。怒られないためには…行かなければいいんだ!
よし、そうと決まれば帰れるようになったら帰ろう。
キーンコーン
「チャイムか」
ですね、先生!机の上のものを鞄にシュート!
「演習してるやつ、残り宿題な。終礼は言うこともないからなし。風邪には気をつけろ」
了解です、先生!では、
『2年SB組矢倉櫂斗、矢倉櫂斗。近衛炎時先生が職員室でお呼びです』
はい、詰んだ。
「おーい、櫂?大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫。骨は拾ってくれ」
友達に心配をかけるわけにはいかない。ふふっ。準備したせいですぐにいけてしまうこの悲しさよ…。
「じゃあ、また。生きていれば」
「いや、生きれるでしょ」
ふふっ。僕の惨状を知らないからそう言えるんだい。愚痴っても仕方ないから言わないけど。
「いや、口に出てるけど…。とりあえず、ドンマイ」
ぴえん。
部屋を出て陰鬱な気持ちで歩いてたらついてしまった。すれ違う人全員、僕を見てドン引きするか声をかけてきてくれたけど、大丈夫です。ふふっ。覚悟は決まった。もはや怖いものなどあんまりない!
「失礼します!矢倉出頭しました!近衛先生は…」
「こっちだ。矢倉」
隣の部屋にいらっしゃると。好都合。
部屋に入って、戸を閉める。
「矢倉、出頭って…」
すかさずジャンピング土下座!
「ごめんなさい!」
足が痛い。だけどこの先生きのこるにはこれしかない!
「ちょっ、お前。大丈夫か?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「お前が何に謝ってるのかさっぱりわからんのだが、今はお前の足だ。足。見せろ」
なんか声が怖い。逆らっては駄目だ。ここはおとなしく見せる。
「うわぁ」
先生、足を見てうわぁはひどいと思います。
「いや、これはないだろ…。ジャンピング土下座とかわけのわからないことするから…、とりあえず、保健室行こうか」
「え?一面真っ青に見えますけど、体質的なものですよ?たぶん」
バレーの後とか下手くそすぎて腕が真っ青になりますから。
「もしそうだとしても、だ。バレーとは違うんだ。おんぶされるのは嫌か?」
「いえ、嫌ではありませんが…。」
「なら、行くか。あの、誰かお手すきの方いらっしゃいますか?」
「では、私が。荷物を持てば?」
「お願いします。七条先生」
え。先生二人に付き添っていただいて保健室に?嘘ですよね?重役出勤過ぎません?
「嘘じゃないぞ」
「細々言わずに行きますよ」
え?僕、細々も何も喋ってない…。
「「考えてることがもろに出てる」」
おうふ。となると、授業中とかテスト中も考えてることが出てる可能性が…、
「それはないな。俺の授業中は。だが…」
「私の授業中もないわね。たぶん、緊張しているときとかに出るんじゃないかしら。つきましたね。荷物は籠の中に入れておきます。では、お大事に」
えっ、あっ。
「ありがとうございます」
僕一人だけ残されるわけですが。いや、まだだ、まだ終わらぬ。保健の先生が…、
怒られた。
「そりゃな。怪我の理由がほぼほぼ自傷だからな…」
伝家の宝刀ジャンピング土下座は怒られる理由を増やしただけでした。丸。
「打ち身くらいっぽいのは幸いだな。で、」
「ごめんなさい」
忘れられていないのならば、普通に謝るのみ!
「いや、だから、何に対して謝ってるのか先生はわからな「あれ?成績じゃないんですか?」その話であるにはあるが、お前を怒るやつはいないだろ…」
空を見上げる先生。あの、部屋の中ですから電灯しか見えないと思いますが。
あぁっ、頭を抱えていらっしゃる!誰だ、抱えさせたの。
「お前だよ」
「やはり…、僕だけクラスで唯一、八重桜にE判定だからですか」
「お前、できるはずなのにテンパってるのか?めちゃくちゃだぞ。深呼吸してくれ」
?わかりました。すーはー、すーはー。
「…何の話でしたっけ?」
「全部飛ばすな」
冗談です。
「怒らないのですか?」
「怠惰の結果なら怒るかもしれんが…、まともにやっててかつ、去年地獄だったろ?」
ですね。確か…、
「始業式始まってゴールデンウィーク終わったくらいに盲腸で入院。なんだかんだで本復帰まで1ヶ月かかって、さぁ6月ってところで事故って足骨折。足が治ったら夏休みで開けたら、母が鬼籍に入った。しばらく無事でインフルエンザ…でしたかね?」
「改めて口にされると凄惨だな。父も鬼籍だったよな」
ですです。シングルマザーでしたので。
「それで怒られると思ったのか?」
「はい」
じゃなきゃ謝りません。
「去年の事態が成績に影響しているのは確実でしょうが、外部要因です。僕の頑張りが足らなかったのです」
「とはいうが、限度があるだろ。前世でお前何したってレベルの可哀想さだぞ」
そう…なのです?
「あぁ。もう逆に誇っていい。で、一つ聞きたいのだが、八重桜を目指すつもりはまだあるか?折れてないか?」
「え?はい。もちろん。母にも言いましたが…、やはり自分の意思で行きたいです。というか、切実にお金がないです」
私立行ったらお金がなくて死ねます。遺産がありますが、食い潰すのは…。
「具体的にはどこだ?」
「近くの菊か、天辺の東ですね」
「菊桜大学と、東桜大学…、つまりトップを狙うと?」
そうなります…ね。国立の西の菊、東の東ですし。
「まぁ、いい。なら好都合だ。矢倉。お前、個別授業を受けたくないか?」
「え?個別ですか?受けられるなら受けたいですが…、」
お金が!ない!です!
「お金の心配はするな。同じ授業料で受けられる」
お?
「そして、場所はうちだ」
おぉー!
「ただし、先着一名!」
お?先着一名……?何十も枠があって、一人だけ枠があいている…って訳ではないはず。あったら誰かが僕にどこかで教えてくれているはず。
一人。一人…ね。あ。
「あの、まさかですが、最精鋭の穴埋めではないですよね?」
「そのまさかだ。最精鋭の穴埋めだ」
まじか。
「え、あの最精鋭ですよね?」
「おう。俗称で言ってたらなんか世界中で定着した最精鋭だ」
ということはつまり…、
「去年の3年A組ですよね?」
「あぁ。去年の始業式の日に突如姿を消し、1月くらいに帰ってきた彼らだよ」
あの先輩方か。確か…、
始業式に姿を消したら、1月くらいに帰ってきた。この時点で出席日数足らないから留年確定という可哀想な人たち…なんだけど、暇だから受けたセンター試験で、950点満点中平均点で900点(正答率94.7%)以上をたたき出し、模試でもA判定を連打するやばい人らの集まり。だったかな?
何故か優秀な人らばかりがA組に集まっていたから、行方不明時点で、八重桜はもちろん、三食物といった合格実績激減がほぼ確定。職員室を阿鼻叫喚にたたき込んだとかなんとか。
「あぁ、全部事実だぞ」
……マジですか。
「あぁ。だからこそ、個別ができる。そもそも、この個別はさっきも言ったが穴埋めだ」
何故穴埋めする必要が…?誰か欠けたわけでもあるまいし…、あのクラスで誰か卒業/退学したとも聞いてないですが…。
「そもそも、あのクラス何故か30人しかいないんだよ。見てわかるように例年33か32人で組んでたんだが…。今年のクラス編成は基本32で、一つだけ33。その中に一つだけ30のクラスがあるとだな、「差別だ!」とか叫ぶやつがいるかもしれなくてウザい」
「ぶっちゃけますね」
生徒相手に。
「まぁ、本音で喋った方が受け入れてもらいやすいだろ?クーリングオフさせてー。とか言われるとまた考え直さなきゃならんし…」
「だから全部言うと?」
というか、そもそもクーリングオフってできるんですかね、この場合。訪問販売とかならできるイメージあるけど、店頭?ですよね。これって。
「知らん。専門家に聞いてくれ。とりあえず、こっちとしてはぽしゃるのを避けたい」
マジでぶっちゃけますね。
「誠意みたいなもんだな。穴を埋めてもらいたいってのはほんとにこっちの都合。とはいえ、最精鋭はマジでそう言われるだけの実力有るぞ。頭張れるやつが矢鱈集まってるのに、ちゃんと動くとか、勉強できるとか、人格も…あ、あー」
?何故いきなり頭を抱えだされたのだろう?
「たまにぶっとんだやつがいるが、まぁ、いい奴らだよ」
「そのぶっ飛んだ人が残り全部喰らい尽くすくらいひどいとかないですよね」
「あはは、そんなわけない……ぞ?」
沈黙が不安。沈黙は雄弁にものを語るとはこのことか…!
「繰り返しになるが、個別になるのは最精鋭だからこそ。あいつら授業日数が足りないとか言う糞みたいな理由で駄目なだけで、放っておいても勝手になんとかする。というか、した。それがあの正答率だ」
94%オーバーとかいうえっぐい成績でてますもんね…。しかも平均。
「だから、5教科…、国語、数学、英語、理科、社会は全部お前に当てれる。唯一、体育と、家庭科だけは受けてもらう必要があるが、これはお前もいるから問題ないだろう」
行方不明になってたはずなのに、何でそんなことできるんでしょう…。
「だから最精鋭なんだろ。俺らが教えた子らより成績いいとか泣くぞ…」
「元が違いすぎるのでは…?」
「先生が「元が駄目だから駄目です」って言えると思うか?」
思いません。元が駄目なら駄目なりにあげないと怒られるでしょうね…。
「そんなんだから暇なとき最精鋭に声をかければ教えてもらえると思うぞ」
「受けるとそういうメリットがあると?」
最精鋭って言われるくらいの人たちに声をかけやすいってのはいいかも…。あ。でも、その前に。
「何で僕に声をかけてくれたんです?」
別に誰でもいいはずですが、
「え?だって、頑張ろうとしてるだろ?なのに去年あれだった。挽回できないとやばそうだから、よさげな機会をあげようっていうお節介。いくら先生でも、やる気ないやつには声をかけないぞ」
そういう理由ですか…。なら、よし。
「近衛先生。そのお話。受けさせていただきたいと思います」
「今決めてしまっていいのか?」
「はい。後だと少し先輩方に臆しちゃうかもしれないので、今がいいです」
数日悩む時間をくれる気だったようだけど、決めちゃおう。退路を断った方が頑張れる気がする!
「そうか。ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
先生と握手。よし、帰ろう。
「じゃ、送ってやろう」
「え?何故です?」
「足」
え?あ。はい。多分まだ真っ青ですね。
「歩けますが…」
「長ズボンはいているとはいえ、見た目がひどすぎる。諦めて送られろ」
「はい」
別に悪い話でもないし、素直に送ってもらおう。
お読みいただきありがとうございます。
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2020年5/28 1~8話誤字修正