5年経て聖女が死んでいた
VRって凄く酔うんですね。頭痛が痛い。
◇
落ちるのが好きなんじゃない。
いつも、気が付くと落ちているのだ。
――地面に不時着する少し前。
「おーい、クンリ!陣で足場とか作れねえか!?……くそ!聞こえてねえか!」
一緒に何かに弾かれたクンリとの距離は微妙に離れている。
落下する際の空を切る音風の音、距離の問題かで返事はない。
俺の声は残念ながら届いちゃいないだろう。
しかもどう言うわけか、クンリの服は布切れ1枚残さず消し飛んでいてもう訳が分からない。
俺の村人の正装は無傷なのに。
「え!?陣で足場作るんですか!?」
「聞こえてんのかよ!!」
「耳は結構自信ありますよ!」
「どうでもいいわ!とにかく聞こえたんなら陣でなんとかしてくれ!」
「鳥頭ですねー!?今アナタが陣に触れて爆発したの覚えてないんですかー!?」
誰が鳥頭だ。俺を鶏か何かだと思ってるのか。
でも言われてみれば確かに陣は俺が手で触れた途端に爆発した。
もう一度試すにはややリスクが高い。
だが試してみないことには何も始まらないのも事実。
村の向かいに住んでいた花咲さんも毎朝「リスクを気にする者に未来はない 」とよく囀っていた。
花咲さんを信じてやってみるしかない。
「いいからやってみてくれ!なんとかしてみせる!」
「仕方がないですね!もし無事に着陸出来なかったら三十一のアイス奢ってくださいね!」
「何それ!?」
「いきますよ!」
クンリが手を翳すと俺の足下にやはり幾何学模様の白い陣が刻まれて実体化する。
今回は色が違う。前回は赤色だった筈だ。
推測だけどもしかするとこの陣は直接手で触れることで何か反応を起こす物なのではないか?
さっき爆発が起こったのは赤色だったから。
そう考えるとこの白い陣は安全な気がしてきた。
「クンリ!俺の手に捕まれ!」
「裸の女の子に触れるんですか!?」
「言ってる場合か!」
何だかんだ俺の手を握ったクンリを引いて抱き寄せ、陣に手を伸ばして触れる。
隣でセクハラだのえっちだの騒いでいるけどこの際無視だ。
瞬間、俺の身体は加速した。
白は加速だったかー。
「ああああああああああああああああっ!!!!」
落下速度は緩まることを知らず、逆に増していく。
空を切る音がもう今まで聞いたことのないモノへと変貌してしまっている。
命名、ソニックブーム。
地面間近。咄嗟に俺はクンリを守るように抱いて目を瞑った。
この肉体は割と頑丈だ。きっと耐えてくれるに違いない。
激突。俺の意識はそこでプツンと途切れた。
死んでないよ。
――目が覚める。
知らない天井が最初に視界に入り、徐々に思考が回復する。
確か俺達は外にいた筈だ。クンリか誰かが気絶した俺を宿まで運んだんだろうか。
「ここは…」
「むにゃむにゃ……くかー」
「……うおっ!?」
ずっと隣に謎の存在感と温もりを感じていた。
そして今の寝息でやっと誰かがいることに気付く。
慌てて起き上がると一緒に毛布までめくれてしまい、完全に露となったその正体。
「なんでクンリが同じベッドで寝てんだよ!」
クンリだった。相変わらず全裸でいる。
「ん……あ、おきたんですね」
寝起きのせいかふにゃふにゃ声を発して体を起こし、眠そうに目をこする姿だけを見ると普通に可愛いとは思う。
クンリの容姿は美少女に分類されるしその姿を見られたならそれはラッキーなんだ。
でも彼女はクンリ。恥ずかしげもなくその裸体を晒し、言動も究極に面倒臭い女、クンリだ。
俺の想いは1つ。寝てる間に面倒臭い状況になっている!
「1つ聞くけどなんで同じベッドに?」
「私も分かりませんね。気付いたらここにいて、1度は目が覚めたんですがまだアナタが寝ていたので2度寝を決め込んでいました」
それならば仕方があるまい。
全裸で外に出るわけにもいかないしそもそも爆発を起こしてクンリをひん剥いたのは誰でもない俺だ。
責める立場には立てない。
「ってことはあの後助けてくれた人がいるんだな」
「その通り」
まるで様子を伺っていたかのようなタイミングで部屋に訪れた客人。
何奴!
「誰だ!?」
「ビキニアーマーをこよなく愛するビキニアーマーに神託を与えられしビキニアーマーの使者、キリエだ」
ビキニアーマービキニアーマーうるさいけどこの銀髪ショートカットでビキニアーマーに襟のたったマントを着用したド変態女は今、耳を疑うような発言をした。
「キリエ!?キリエってあの聖女の!?」
まさかの本命と遭遇か!?
俺が嬉々として訊ねるとキリエを名乗る女(美少女)は静かに首を横に振った。
「聖女キリエは死んだ。今はビキニアーマーの使者として生きてる」
死んだとか言うからまさかとは思ったけど最悪な展開にはならなかったようだ。
どうやらキリエは既に聖女としての自分を捨てたらしい。
でもどうやってもビキニアーマーの使者にはならないよね。
「えっと、そのビキニアーマーの使者キリエ様は一体ここで何を…?」
俺の記憶が正しければ聖女キリエは銀髪の髪を腰まで伸ばして多少露出が多かったとは言え、神聖な法衣に身を包んだお淑やかな雰囲気の女の子だった筈だ。
そんな彼女が何故こんなビキニアーマー好きの変態女に成り下がっているのか。
そして何故、聖女キリエを探していた俺達に応じるようにキリエ側からやって来たのか。
気になる。気になって多分謎が晴れるまで眠れない。
「簡単な話。私がこのマレボスに向かっている最中に偶然道端で倒れている君達を見つけて、そしてこの宿に目が覚めるまで寝かせていただけのこと。怪我人の様子を見に来るのはおかしいか?」
「なるほどね。丁度俺もアンタを探してたんだ、会えてよかった」
「私も会えてよかったと思ってる。特に……君に」
突然ガシッとクンリの両手を包み込むように掴むキリエに流石のクンリも戸惑いを見せる。
「私に、ですか?」
「うん。君は凄まじい素質を持ってる。その裸を晒しても恥じらわないのが何よりの証拠。私は君のような素質ある者を探していた」
何か嫌な方向に向かっている気がする。
ビキニアーマーの素質とか言わないだろうな?
「素質…?」
「そう、素質。肌を露出させる勇気、裸を見られても動じない度胸、立ち振る舞いから感じられる裸でも構わないと言う信念。君はそれらの神なるビキニアーマーを身に付ける為の条件を全て満たしている」
言った!!この人クンリにビキニアーマー着せる気だ!!
「君に問う。ビキニアーマーに、身を委ねてみないか?」
「イエス」
「マジかよ」
聖女にやっと会えたかと思えば聖女はビキニアーマーの使者になっていてしかもビキニアーマー勧誘をしてくるやばい人だった。
5年で一体彼女の身に何があったと言うのか。
故郷に少しだけ近付けた気がするが、それと同時に勇者一行への理解がさらに遠ざかったのだった。
スフィンクスのモノマネします。
(:D)| ̄|_