これが俗に言うチートってやつですか?
待ち過ぎて気が狂いそうになりました?
すみません、本当にお待たせしました。
ご感想いつもありがとうございます。近々コメ返したい所存であります…。
◇
「何か他に思い付く力はないのか?」
「そう言われてもなー」
奇跡的に操陣術の被害を受けなかった椅子に座り、項垂れてみる。
こう言う時は座って落ち着くのが大事だと思ったからだ。
そして、それは多分効果的だった。
「…アレ、試してみるか」
一先ず、落ち着いて思い出した事がある。
黒龍と完全融合の儀とやらを行った際のやり取りだ。
確か黒龍は俺の知識と本来の力を解放すると言っていた。
知識の方はあまり意識した事なかったし、本来の力に関しては光を操るのがそうなのだと勝手に判断していた。
しかし、グレイスはどう言う根拠があるのか、俺の本来の力はどんな力でも使える力だと予測している。事実、操陣術が使えた事でその信憑性は増した。
俺が知らないだけで本当にどんな力でも使えるのだと言うのなら、今こそ黒龍が解放してくれた知識の使い所なんだろう。
大穴の中で得た膨大な知識の中から、力を検索して行使する。
これが出来れば俺はどんな力でも使える事が証明でき、あの時黒龍が言っていたチートが実現出来てしまう。
そもそも、黒龍は最初からこの事を言っていたのではないかと思えてきた。
「アレ…とはなんだ?」
「お前と会ったあの日、俺は大穴の中で膨大な知識を得た。それを今、覗き見るんだよ」
「大穴―――異能儀式空間か」
「知ってるのか?」
「異能儀式空間とも呼ばれている。そこは選ばれし者に異能と黒剣を与える神出鬼没の大穴だ。まさしく我もそこへ用があってあの日、あの場所に居たのだ」
セスタランドでエレキは大穴の事を七英雄の名を冠した聖剣儀式の間と言っていたが、一体どちらが正しいのだろうか。
それに聖剣ではなく黒剣を与えると言うが、俺の闇桜は聖剣なんかじゃなくて黒剣だと言うのか。
大体、なんで異能儀式空間は俺を選んだんだ。
次々と浮上する疑問に頭を悩ませつつ、グレイスが腰に提げている黒い鞘に納まった剣に目をやる。俺とやり合った時にも使っていた剣だ。
「…もしかしてその剣は」
その問いに対し、グレイスは静かに首を振った。
「これは魔剣なのだ。エレキが選定し、黒剣から分け与えた八つあるうちの一振り。名を«魔剣ラグナジウス»」
「ま、待てよ。エレキも黒剣を持ってるのか!?」
「経緯は分からんがな」
エレキが異能儀式空間の事を知っていた理由が概ね分かった。
俺と出会う以前から、エレキは異能儀式空間に選ばれて黒剣を手にしていたとしか考えられない。
それは大体247日前より向こうの話だろう。
しかし、黒剣とやらが負の感情を吸って黒くなっているのならどうして同じく黒剣を持った負の塊の様な存在であるエレキは未だに負を抱いているのだろうか。
黒剣の力を持ってしても吸収し切れない程の負の量なのか。
そもそも負の感情を吸うと言う話自体が嘘なのか。
黒龍自身が負の感情云々を言っていたから後者はありえないと思うが、逆に前者なのだとすればそれはそれでえらいこっちゃ。
「この話は後でもよいだろう。今はとにかくどんな力でも使える力の検証を…」
「そのさ、検証する前にどんな力でも使える力に名前付けね?」
「……うむ、そうだな。では今までの貴様の力の名前に則り«全力»ではどうだ?」
「全力かぁ…いいじゃん!じゃあ全力って書いて«オール・ザ・ワン»って読める様にしよう!略してオザワ!」
「人の名前に聞こえるし極限にダサいからオザワは却下だ」
「オザワーーーー!!」
この世に生まれてまだ間もないオザワは惨殺されたのだ。
それはさておき、全力と言うのは俺の感性に雷鳴の如く響いた。
「…なら、パワー・オブ・エヴリってのはどうだ?」
「パワー・オブ・エヴリ…中々悪くない。ではこれよりどんな力でも使える力の名称を«全力»と呼ぼうではないか」
「よっしゃ!決まりだな!」
全ての力。安直ではあるが、どんな力でも使える力よりかは幾分マシだろう。
「そんじゃあ、そろそろ本題に移るか!」
「異能儀式空間で得た知識を見る…だったな」
「ああ。その中から適当な力を発動させる!」
目を閉じ、頭の中に意識を巡らせて知識が保管される領域へ到達する。
そこにはありとあらゆる知識が存在し、その殆どが俺の知らないものだ。
よく見てみると幾つか既に開示された知識があり、それは俺が大穴に落ちてここに至るまでの間に気付けば知っていた内容だった。
黒龍が知識の制限を解放してくれる以前は恐らく雨漏りでもするかの様に徐々に俺の中へと流れ込んでいたんだろう。
一つ一つ、知識を開示していくうちに衝撃的な事実まで発覚してしまう。吹雪の中で使ったこたつや、クンリの家に投げ込んだ手榴弾を覚えているだろうか。
俺はあの現象はエレキの呪いによる影響だと思っていたんだけど、実は違ったらしい。
あれこそが、俺の«全力»の力の一旦だったのだ。
どれも異世界の物質らしいが、開示した知識によるとクンリがこの世界の女神として就任する前の女神が転生を重視していたとか。
異世界であまりにも報われない死を遂げた人間をこの世界に生まれ変わらせ、第2の人生を歩んでもらおうと言う考えで、恐らくこの風習が後にエレキと言う怪物を産んでしまったんだろう。
その転生者と呼ばれる生まれ変わった人間にはエレキのように特典と称してチート能力が授けられ、そのチート能力の1つに、«創造»―――生命以外なら何でも創れる力があった。
この«創造»こそが、俺がこたつや手榴弾を当たり前の様に持っていた原因だった。
これは使える。このまま全ての知識を頭の中に叩き込んでいけば、膨大な知識の中から生命を除いた全てを自由に創る事が出来る。
例えば車とか。あれ1回乗ってみたいんだよな――――――。
「―――――理解」
「随分時間が掛かったな」
「膨大な知識故、多大な時を要した」
「戻って来い、馬鹿が」
頭部損傷。修復を推奨する。
「――――はっ!?」
俺は一体何を?
取り敢えず一つ一つ見ていくのは時間が掛かると思ったからほぼ同時に全ての知識を取り込んだんだけどそこからの記憶が一切無い。
もしかして知識量が多過ぎてバグってた??
「おいおい、スゲーよ俺!今なら何でも出来んじゃね!?」
それよりもあれだけの知識を頭にぶち込んだのに何も影響無いのが信じられない。
…いや、影響あったのか?
「では成果を披露してもらおうか?」
「任せとけよ。んぁー、そうだなぁ……じゃあこれで!」
転生者の特典の一つ、«逆再生»。
指定したものの時間を巻き戻す力だ。
「こ、これは…!」
「どうだ?凄くないか??」
元気良く殺傷力100パーセントの魔法陣が部屋を縦横無尽に飛び回り、まるで遊び疲れたと言わんばかりに俺の眼前で霧散して消えていく。
まるで見守る母の下へ帰って来るわんぱくな子供みたいだ。
更には荒れ果てていた部屋は綺麗に元に通り、傷一つ無い状態になっている。
オマケに誰かが1人蘇った。誰か知らないけどそんな気がする。
「追加でこんなのも創っちゃうぜ!」
俺の極限にまで美化された銅像まで創って部屋に飾る。
これにはグレイスも吃驚仰天で開いた口が塞がらない。人型になっても尚健在な強靭な顎が床を少し砕いた。
その砕けた部分もさり気に逆再生しちゃう。
「夢でも見ているのか、我は…?想像を絶する力ではないか…!」
「どうだよ?俺が凄過ぎて恋しちゃう?恋しちゃう??俺、男だけど!ぶははははっ!!」
腰に手を当て程良く実った胸を張ってドヤってみせる。
「調子に乗るでないわ!」
「俺に触れるんじゃねえ!!」
「でじゃぶっ!!!」
調子に乗る俺の頬に向けてグレイスが拳を振るって来たからすかさず強烈なカウンターをお見舞いしてやる。
俺を殴ろうだなんて永遠に早い。お前は俺の足下でも見てな。
優越感に浸りながら倒れ行くグレイスを尻目に、踵を返した俺は紅茶の入ったティーカップを創り出しソファーに座って優雅に紅茶を堪能する。
この力ならエレキにも対抗出来る。確固たる自信を持って、俺は明日を見据えた。
鳥になりたい。




