side:セスタ「未来の為に」
お、もしかして連続投稿なるか????
という事でセスタ視点終わりです!
次からは再びレイ視点に戻りますのでお楽しみに!!
◇
より特殊な存在となってしまったバニッシュを見て頭を抱えていると、不意に邪悪な気配が辺り一体を覆ったのを感じ取った。
かなり近い場所まで来ている。
「バニッシュ」
『戦闘モード移行ですね!イエーイ!』
「使いこなすの早…じゃなくて!流石だ、バニッシュ」
『うははー、褒めても何も出ませんよー!』
刀身からミラーボールの如く光を飛ばすバニッシュを見て、敢えて何も言わないでおこうと口を噤む。
そうこうしていると、邪悪な気配の持ち主が木々を掻き分けながら姿を現した。
「おんやぁー?先に向かったビスタくんの反応が無くなったから様子見に来てみればぁ、ビッグスペシャルゲストがご健在じゃないですかぁー?」
金髪褐色ギャルが首を傾げて間延びした口調で続ける。
「もしかしてぇ、アナタが勇者くぅん?」
「…だったらどうする気?」
「いちおぅー、ビスタくんってばアタシの部下だったんだよねぇー…って事はぁ、殺ることは決まってるでしょぉぉ??」
そろそろ癪に障ってきた。
「話が早くて助かるよ、ホント。とっとと倒れてもらおうかな」
バニッシュを構えると、同じくギャル女も己の得物を構える。
見たところ何の変哲もない黒一色の剣だが、禍々しさが尋常ではない。
魔剣の類か。
「あ、その前にぃ…アタシ、魔王軍八裂衆が祿ノ刃«ミルトレーヌ・ブルゼルヴァ»って言いますぅー。どうぞよろしくねぇー」
こんな時に自己紹介とは随分余裕のようだ。
「僕は…名乗るまでもないか」
一歩踏み込み、前方へ飛び出す。
バニッシュで空を切り裂きつつ瞬きの暇すら与えずミルトレーヌを名乗る女の間合いに入る。
遅れて、ミルトレーヌの視線が僕へと向く。やや焦りを感じる表情をしているが、既に手遅れだ。
「バニッシュ、切り裂くよ」
『お任せあれ!』
「ちょ、ま……速すぎぃ」
「«風牙»!!」
風牙派生のワザの中でも最もシンプルな風をも切り裂く一閃を繰り出す。
ミルトレーヌは青い顔のまま仰け反ることでそれを紙一重で回避するが、剣風に煽られて後方へ吹き飛んでしまった。
(やばい…やばぃやばぃやばぃ!こんままだとぉ、殺られちゃうぅー!これはもう魔剣解放するしかぁ―――――)
そんなミルトレーヌの思考もいざ知らず、僕は続けてワザを放つ。
「«風連追牙葬»!!」
目にも止まらぬ疾風の刃が次々とミルトレーヌを襲うが、彼女はそれをまたもや紙一重で避けていく。
避けないと死ぬ。だから持てる力の全てを回避行動の為に使っているのだ。
(無理だし無理無理ぃ…!魔剣解放する隙もないしぃ…!!)
「あっ……や、やばっ…!?」
「そこだっ!!」
鈍い金属音が響く。
足下の石ころに躓いて後ろに倒れていくミルトレーヌを、確実に仕留めんとバニッシュを振るう。
しかし、その攻撃は突然割り込んで来た何者かに防がれてしまった。
「誰だ、お前」
「魔王軍八裂衆、惢ノ刃«ステイツ・リングブルム»…とだけ名乗っておこう。今は時間がない故、あまり相手をしてやる事が出来ない。つまり、また今度…と言う事だ」
ミルトレーヌの同じく漆黒の剣を持ったステイツと言う男は僕の剣を受け流すとミルトレーヌを脇に抱えてそのまま姿を消してしまった。
咄嗟に気を探るとまだ近くに気配は残っていたが、深追いをするのは愚策だと考え、追撃はせずにおく。
「何だったんだあの2人…」
『魔王軍八裂衆って言ってましたね…あの感じだとあと6人は居ますね』
「うん。それにあの黒い剣は一体…」
そこで、ふと未来の記憶を思い出す。
人の姿をしたテンペストドラゴンが黒い剣を持って聖月レイと戦っている光景だ。
「嫌な予感がする…バニッシュ、これからヴェクトリッヒに向かうよ」
『ヴェクトリッヒと言えばセスタ様の故郷ですよね?』
「うん。そこで聖月レイの仲間を待とうと思うんだ」
『いいですね!お供しますよ!』
とにかく、今僕に出来る事は聖月レイの仲間達と合流する事だけだ。
仲間を集め、魔王に対抗出来る面々を揃えなければいけない。
きっと、大穴の中で授かった未来の記憶はそう言う事なんだろう。
会えるのはまだまだ先になるけど、ヴェクトリッヒに戻って対策を練ろうと思う。
帰る道中、強い人を見つけたら仲間に誘ってみてもいいかもしれない。
そう言えば僕はヴェクトリッヒの皆に中々酷い事をしてしまったけど、帰っても怒られないだろうか?
少し心配になりつつ、僕は帰路に着く。
「ここからだとヴェクトリッヒまで結構あるね」
「確か5年前は10日程掛けてここに来ましたよね」
「うぇっ!?いつの間に人に!?」
「そんなに驚かなくても!まるで私がオバケみたいじゃないですか!」
「実際そんな感じなんだけど…」
「あー!酷いです!今はもうちゃんとした人ですよ!…人?」
「人…なのかな?」
「少し自信が無くなってきました…」
「元気出して、バニッシュ…」
嘘のような、他愛もない話をバニッシュと交わしながら僕はしみじみと今生きている事を実感する。
勇者エレキとしての虚ろな人生ではなく、セスタとして平和になった世界を謳歌出来る事に喜びを感じる。
そして、同時に守りたいと思った。
隣で能天気に歩くバニッシュを。
光が指す広大な世界を。
そこで暮らす、多くの人々を。
今迫る脅威から守りたいと、切に。
あの日、魔王を倒しきれなかった僕に出来る事。
それは今度こそ魔王を倒す事に他ならない。
「待っていろ、魔王」
密かに、胸の内にある炎を燃やしながら、僕は空を仰ぎ見る―――。
最近ね、寒いの。とってもね。




