side:▲■★「僕の名前は」
随分お待たせしてしまいました。
今月の国家試験に向けて猛勉強に励み、少しの間お休みさせてもらっていました。
久し振り過ぎてお話忘れてしまいましたか?大丈夫です、僕も同じなので…(おい)
今回も変わらず誰かさん視点でお送りさせてもらってます。
多分次回くらいで終わると思うので生々しい目で見守ってください。
それではどうぞ!
◇
「―――――あぃ?」
「人の道を外れたな。僕は、人ならざる者には容赦はしないぞ」
しかし人は人だ。殺すのはやはり抵抗があるので、取り敢えず両腕を切り飛ばしてバニッシュと思わしき女の子を奪い取った。
でかい口を叩くから余程の強敵なのかと思ったが、いざ斬ってみれば手応えはゼロだった。
幻術の類か、あるいは分身か。何にせよ物体を斬った感覚が無かったからまだ油断は出来ない。
僕は女の子を抱えたまま、未だ動く気配のない男の足を払い、倒れたところを踏み付ける事で男の動きを封じる。
「……あれ?」
「ぁ…ぁぎっ…ぎ、ぎゃあァァァァァァ!?!?」
少しして、自分の両腕が無い事に気が付いた男が白目を向いて発狂した。
(もしかして、僕に斬られた事に気が付いていなかったのか…?)
あくまで可能性の一つだが、この反応を見る限り大いに有り得る。
僕の力が男を圧倒していたのか、それともこの白い剣の斬れ味が凄過ぎただけなのかは分からないけど、とにかくこの男は確実に格下の存在だろう。
「«ミニリカバ»」
このままでは暴れ回って聞きたい事も聞けないから僕が唯一使える回復呪文を唱え、男の両腕の傷を止血する。
鎮痛の効果もある為、呪文を唱えて間もなく男は大人しくなり、荒い呼吸のまま僕を睨み付けた。
「な、何で俺の傷を…何が目的だ…?」
「少し聞きたい事があるんだ。…何故僕を狙う?」
警戒は欠かさず、男へそう問い掛ける。
男は代わりに醜悪な笑みを浮かべると、口を開いた。
「俺達の主、魔王様の命令だったからだぜ…!依代の様子を見てこいってやつさぁ!」
「依代?…あぁ、僕を弄ったのはそう言う事か」
男の発言で一つ思い出した事があった。
5年前に勇者エレキを名乗り、いもしない魔王討伐を掲げて旅を始める前の事だ。
僕は1000年前の戦いで、散り際の魔王が放った呪いにより死ねなくなった。オマケに呪いの影響で1000年近くも眠り、5年前ようやく目が覚めた。
不幸か幸いか、その呪いのおかげで魔王が健在である事も知り、5年前…とうとう魔界の奥地にある不可視の結界に覆われたセスタランドなる場所を見つけた。
そこに魔王は身を潜めていて、七神将なる配下を味方につけていた。
しかし、当時僕が唯一連れていた妖精のルミファが七神将を異世界の人間だと認識したから、僕は斬る事を躊躇い、なるべく説得する事で戦闘を避けようと試みた。
でもそれはようやく姿を見せた魔王により妨害され、僕は為す術なく敗北してしまい、その際に魔王の洗脳の力で人格を塗り替えられてしまった。
そこで生まれたのが偽りの勇者エレキだった。
回りくどくなってしまったけど、簡潔的に言えば魔王は僕に悪事を働かせることで精神ごと闇堕ちさせ、体を奪ってしまおうと計画していた訳だ。
だから、こいつらは僕のことを依代と呼ぶのだろう。
「それで?様子を見に来たら邪魔な女がいたから殺したと?」
「そ、そうだ!悪いかぁ?いやぁー悪くない筈だよなぁ!?だってそいつが邪魔し」
「もういいよ」
白い剣を振るい、男を跡形も無く消し飛ばす。
命を奪う必要までは無かったけどこいつは生かしておいては危険な存在だ。
ましてや魔王の手下となれば尚更だ。
周囲にざっと気を巡らせ、男が生存していない事を確認すると僕は鞘の無い白い剣を地面に刺し、抱えたままにしていた女の子の顔を伺う。
「……バニッシュ」
彼女は、間違いなくバニッシュだった。
もっと早く目覚めていれば、結果は違っていたかもしれない。
1日でも早く目覚めていれば、彼女を守れていたかもしれない。
そんなタラレバばかりが頭を巡る。
「ごめん…ごめんよ…!君は、死ぬべきではなかったのに…!」
僕の意思では無かったとは言え、悪事を働く僕に黙って着いて来てくれた。
どんなに酷い事を言ってもあくまで対等に居ようとしてくれた。
偽りの関係でも、君は心から僕を求めてくれた。
5年間、一時も離れる事なく傍に居てくれた。
「僕は、君を忘れない…君を生涯忘れる事はない。だって君は、最高の」
『あのー…?私生きてますよー…?』
「うん。君は僕の心の中で永遠に………………ん?」
今、バニッシュの声が聞こえた様な気がする。
「い、いや。そんな筈が…!だってバニッシュはこの通り死んで…」
『こっちです!』
白い剣を見る。
「…何を馬鹿な。幾ら生きてて欲しいからと言ってそんな事がある筈ないじゃないか」
『現実逃避!?この期に及んで現実逃避ですか!?』
「……本当に、バニッシュなのか?」
恐る恐る白い剣に語り掛ける。これで違ったら赤っ恥を掻いてしまう。
僕の問い掛けに答えるように、白い剣は独りでに浮き始めた。
『そうですよ、正真正銘の«バニッシュ・レイン»です。お久し振り…と言えば良いんですかね?』
不安そうに、しかし懐かしむ様に、彼女は続ける。
『―――――エレキ…いいえ、セスタ様。この5年間、アナタの目覚めをお待ちしてました』
セスタ。久しく聞く名前だ。
最後に呼ばれたのはいつだっけ?…1000年前?
「知ってた…のか?僕がセスタだって…」
『知ったのはこの姿になってからですよ。5年前、何をやっても穴に入れなかったので一か八かで私の十八番、霊魂術で魂だけを穴の中へ送り込んだんです。お陰でこの有り様ですよ!』
霊魂術とはバニッシュが使う霊魂と呼ばれる所謂人の魂を操る敵に回したくないレベルで凶悪な術だ。
対象の魂を引きずり出したり、自分の霊魂で見えない攻撃を繰り出したりと使い方は多種多様で、しかも自分が霊魂モードになっている間は残った本体は自動で考えて行動すると言った便利機能も兼ね備えている。
「なんでわざわざ僕を追ったんだ!追っていなければ今頃、生きていたかもしれないのに…!」
『でも、5年間ずっと待つのも退屈でしたし、こうしてセスタ様の役にも立てる様になりました!私、後悔はしてませんよ!』
「違うだろ!!バニッシュ…!!君はもう、二度と人には戻れないんだぞ…?」
『…承知の上です。確かに、生身の肉体でセスタ様と触れ合えないのはちょっと名残惜しい気もしますが』
本当に名残惜しそうな声音で、続けて彼女は言う。
『―――私は何より、アナタの剣として戦いたかったから…』
だからって本当に剣になる事はなかったのに。
僕はその言葉を呑み込み、剣にツーと撫でる様に触れる。
「…バニッシュの覚悟は分かった。でも、僕は諦めないよ。きっといつか、君を再び生身に戻してみせるから」
『それは楽しみですっ!そしたらまた、私と愛し合いましょうね!』
「えっと、愛し合うと言うのは…?」
『もー!惚けたって無駄ですよ!幾ら自分の意思ではなかったとは言え、昔はあんなにも激しく肌を重ね合わせた仲じゃないですかー!』
思い返すと、顔が熱くなる。
多分今顔を見られたら凄く赤くなってるんだろうな。
「あ、あの時の事はもう忘れて!僕はもうエレキじゃなくてセスタだよ!そんなに淫らな事は出来ないし、そもそもそう言うのは好きな人とするべきであって!」
『私の事、好きじゃないんですか?』
「うっ…!そ、それは……って、君、からかってるだろ」
『あれ、バレちゃいました?アハハ!本当、可愛いですねー、セスタ様は!』
「本当、君といると調子が狂うな…」
思えばエレキを名乗って一緒に旅をしていた時からそうだった。彼女にはいつも困らされてばかりで……。
『んー、それにしても剣の姿になっても何故かお腹空いちゃいますねー。あ、そうだ!私を食べちゃいましょう!』
「え?」
バクン。
白い剣の刀身が、大きな口の様に変形して僕の抱えるバニッシュの遺体にかぶりついてしまう。
当然の出来事で呆然とし、そうしている間にも為す術なくバニッシュの遺体は剣に丸呑みにされていく。
「な、何してるんだバニッシュ!?君の身体だ、ぞ………」
「我ながら中々美味ですなー!…って、どうかしました?」
「いや、え…?待ってくれ、思考が追いつかない…」
白い剣がバニッシュを完食したと同時にみるみる姿を変え、見た目はバニッシュその人だが配色が髪も目の色も何から何まで白で統一された2Pカラー的なものへと変貌を遂げてしまった。
その事を理解しようとすると頭が少々痛い。
つまりどう言う事だ。
「君、人になれたのか」
「え?あ、そうみたいですね」
人に戻すと言う約束が意外な形で瞬殺されて戸惑う僕なのであった。
なまこ、なすび、きゅうり。
後書きに何を書こうか考えた時に浮かんで来る三大単語。




