色々な別れを越えて
大変お待たせ致しました!コメント読んでます!
本当にありがとうございます!
今回で神黎山篇もしくは修行篇終了となります!
これからもよろしくお願いします!!
◇
「七英雄!!6人だけど七英雄じゃないか!!」
まさかの登場に心が踊る。ピンチの時に駆け付けるとか英雄そのものだ。
偽りの英雄が本物の英雄になる瞬間に俺は立ち会っているのかもしれない。
…ユリウスとルナは元々英雄だけど。
『き、き、き、貴様ら〜〜!!!!クンリと言い!!恩知らずにも程があろう!!?』
『悪いな、セスタ様…いや、魔王エレキだっけか?』
ユリウスが頬を掻きながら背負った大剣の柄を掴み、引き抜く。
『お前が悪だってんなら、俺は斬るぜ』
『ユリウス…!!…いや、そうか。貴様は生粋の英雄であったな。儂とした事が、貴様の本質を忘れてしまっておったわ…!』
握った拳を震わせ、俯くエレキへ今度はアリアナが口撃を始める。
『私を助けてくれた事に関しては感謝してる…けど、私が差し伸べられたアナタの手を取ったのは、アナタの理想が素敵だと思ったから!でも、それは偽りの理想だったんだよね…単純な私は、すぐに騙されるからイケナイ。だから、まだ取り返しのつく今のうちに――――お前を倒す』
かつて故郷を滅亡の危機に陥れたアリアナは、二の舞は踏まんと心を鬼にして槍の先端をエレキへ突き立てる様に構える。
『お前つえーんだろ??だったら取り敢えず、俺と戦えヨ!!』
相変わらず戦う事しか脳の無いライオットは迸る程の電撃をその身に滾らせ、闘争心を剥き出しにする。
『この時をどれ程待ち侘びたか。此度の戦い、今度こそお前の好きなようにはさせぬ。――――――覚悟せよ、魔王』
英雄に憧れて英雄になったルナは闘志を奮い立たせ、エレキと対峙する。
ルナとエレキの戦いは因縁の対決と言っても過言ではないだろう。
『別に君に恨みがあるわけでもないし、何かをされたわけでもない。けど、レイが助けを求めるなら力になろう。久しく僕に触れる事が出来た唯一の人間だからね』
『同じく…私もレイの力になる。呪生の呪縛から解いてくれたお礼』
クレジアとライリアルの兄妹がそれぞれの得物を手に俺の為に戦ってくれる。
こうして七英雄とエレキが対峙して、それぞれの武器を構えて臨戦態勢に入る。
その6人の並ぶ背中は一言で表せば頼もしい。これに尽きた。
『……そこまでして死にたいか。儂に歯向かうと言う事はもう二度と生身には戻れぬと言う事であるぞ』
怒りを必死に抑えているのか、身体を震わせて七英雄を睨むエレキに対し、七英雄はそんな事構わない、覚悟の上だと言わんばかりに堂々としている。
その姿に流石にエレキも察したのか、説得を諦める様に目を伏せて震える手を横に突き出す。
そしてその手に握られたのは真っ赤な剣だった。
『そうか、ならばもう良い。纏めて儂の«魔剣カタストロフィア»の錆にしてやろう』
『御託はいいんだヨ。さっさとやろうぜ!!』
我慢の利かないライオットがフライング。
全身に電撃を纏い、弾丸の様にエレキへ飛び込んだ。
『ぬぅん!!』
『当たんねぇヨ!!』
決して反応が悪かった訳ではない。
寧ろ速過ぎるくらいの反応でエレキが迎撃に移り、真っ直ぐ間合いへ入ったライオットへ確かに神速の太刀を浴びせんと振るった。
しかし、ライオットはその神速の太刀をあり得ない挙動でジグザグに動く事で回避し、エレキの背後に回り込んだのだ。
まさに電光石火。これにはエレキも驚きを隠せない様子。
『喰らいな―――――«リミットオーバー・レイジングバニッシュ»!!!!』
轟音と共に雷鳴が鳴り響く。
離れた場所に居る俺でさえビリビリと感じる程の電撃の暴走が、今エレキへぶつけられたのだと思えば、身震いさえする。
『ぐぁ…がぁぁっ…!?』
『魔剣か…確かにやばそうだけどよ。それ、霊体で本物じゃないだろ?そんなんじゃ俺達は倒せねえぜ』
深いダメージを負って体勢を整える事も出来ないエレキへ追撃が入る。
魔剣へ指摘を入れながらエレキの懐へ潜り込んだユリウスが、燃え盛る大剣で地面を抉りながら斬り上げんとしていた。
『ワザ…だったか?使った事ねえからよく分かんねえけど!』
更に大剣に纏った炎の火力が増加する。
例えるならジェット噴射並の勢いだ。
『行くぜ、必殺!!―――«インフェルノブレイカー»!!!!』
『こ、れしきぃぃぃぃぃぃっ!!!!』
身の危険を感じたのか、無理な体勢からユリウスの剣技に応じるエレキへ無惨にも襲い掛かる周囲の温度まで上げてしまう程の熱量を発する炎熱纏いし剣。
当然、エレキが防御の為用いた魔剣も熱に溶かされて失くなり、為す術なく炎に焼かれ、宙へ放り出される。
『ぬぐぅぉおおおおおっ!!?』
炎の柱が渦を描いて結界を破壊し、それでも勢いを緩める事も知らず天の雲を突き抜ける。
熱風が頬を撫でて、少し焼ける感じがした。
『ァ…ァがっ……!!』
再生が追い付かないのか、そもそも再生の力が無いのか、一向に傷を癒やす素振りのないエレキに容赦無く追撃が加わる。
『畳み掛けるよ、ライリー!―――――«アンチグロリアス»』
『…ん。タイミング合わせる』
兄妹による同時攻撃。
クレジアの持つ棍に刃の様なエネルギー刃が出現し、その刃ありきによる棍ならではの軽快な連撃がエレキの肌を切り刻んでいく。
そして、トドメにエネルギー刃を棍の先端に集中させてからの極細ビーム。
腹に風穴が開き、当のエレキもこんなに酷い事されると思ってなかったのか目を見開きつつ吐血する。
だがまだ終わりではない。ライリアルがまだ、残っている。
『安心するの、早いよ』
『き、さまらぁぁぁぐぶっ!!?』
風穴なんて知らないと物語るライリアルの大鎌の刃が、クレジアの開けた風穴を上書きする様に背後からエレキを貫いた。
『―――――«ブレンデス・デリバリー»』
触れたものを壊す脅威的なワザが決まる。
攻撃を終えたライリアルが俺の元へ駆けて来て、ピース。
『イェーイ』
「よくやったぞ!」
放っておくのも可哀想なんで取り敢えず頭を撫でて褒めてあげる。
触れるって事は一応実体あるんだ。
『ぉ、ぉぉぉぉおおおおおおっ!?な、んだこれはァァァァ!!内、内から、崩れッ!!!!』
『何勝手に消えようとしている?次は私の番だ』
『アリアナッ!!』
既にトドメを刺された様なものなのに、崩壊し始める自分の体に悲鳴を上げていると、そんなエレキへ悪魔が囁いた。
これには流石のエレキも正気かと目を疑っている。
『これでは足りぬな。お前には復活の可能性すら残さん』
そこへ新たにルナの登場。
彼女はすかさず屈んだかと思えば地面に手を着き、力を解放する。
『捕縛せよ。蹂躙せよ。我の名に於いて古代の叡智を今此処に―――――«エンシェントルーン»!』
大地を揺るがす地響きと共に地を裂いて現れたのは、その身に幾許もの紋様を刻んだ目を奪われる程の美しさを持つ結晶体。
それは巨大な魔法陣を展開すると共に中央へエレキを磔にし、周囲へ並ぶ様にして展開された小型魔法陣と連結し合い、光を放つ。
『ぬぐグゥふぐぉおおおおおおォォォォおおおおおぉぅッ!!!?』
やがて悶絶し始めるエレキから、徐々に力が失われ始めているのを感じる。
恐らく、そう言う魔法なんだろう。
『この星は創世の時代より総てを観測している。そして、創世の時代より様々な力、知識、記憶を蓄え続けている。今発動したのはこの星に記憶されし、古代術式……その中でも生命循環術式に分類されるエンシェントルーンだ。使い手次第では生命を弄ぶ危険な術式になり兼ねないものだが…お前にはお似合いであろうな、魔王』
『ァガガガがァァァあああああああアァァァァッ!!!!』
『もう聞こえとらんか……今だ、トドメを刺してやれ!アリアナ!!』
『―――――はあぁぁぁぁぁッ!!«ナイトメラ・イデント»!!!!』
投擲された槍はみるみる形を変え、エレキが最も恐怖する存在、勇者セスタのものへと変化を遂げる。
ナイトメラ…多分ナイトメアを文字ったもので悪夢を意味する言葉だ。
エレキにとっての悪夢が、勇者セスタだったと言う訳か。
『ぬ、ぬおおおおおおおおおおっ!?!?』
一閃。勇者セスタもといアリアナの槍がエレキを袈裟斬り、絶命、霧散させる。
これで全てが終わったのだ。
「や、やったのか…?」
ダメだ、これはフラグだった。
「――――まだだよ、レイ!あれを見て!」
結界が消えた事で俺のすぐ側まで来ていたスエナが、今までエレキの居た空間を指差す。
俺の目が腐っていなければ確かにエレキは霧散して消えた筈だ。
なのに、そこには黒く脈動するひし形の塊が存在していた。
「あれは……魔王の核!レイ、アレを壊すんだ!早くッ!!」
アリフェーが焦りを見せ、俺もとにかく言われた通りにしようと闇桜を構えて魔王の核へ向かおうとした瞬間。
一瞬の出来事だ。
「………………は?」
『す、すまねえ…ドジった……』
『そ、んな…まだ、終わらないの…?』
『クソ…がヨ……』
『一歩、及ばなかったか…また、私達は……』
『あーあ…かっこ悪いなぁ……ごめんよ、レイ…』
『い、やだ……終わりたく、ない…怖い、怖いよ、クレ兄……レイ……』
「ぁ……ぁぁっ…―――――皆ッ!!」
魔王の核より伸びた黒い触手の様なものに、七英雄の皆が刺し貫かれてしまった。
「嘘、だよね…?こんな、の…!」
「間に、合わなかった…っ!!」
後ろでスエナとアリフェーの絶望を含んだ声が聞こえる。けど今はそんな事気にしている場合じゃない。
七英雄が、皆が、このままではやられてしまう。
一歩、一歩ずつ前へ進み、手を伸ばす。
もう少しで、ライリアルに触れ合えそうな距離。
そんななんて事のない距離でさえ、縮まらないと思える程、足が重たく言う事を聞かない。
動け、動け、動け!!
前へ、前へ、前へ!!!
ライリアルだけでも、助けるんだ!!!!
「ライリアル…!!」
こんな近くに居たのに、守れなかった。
すぐ近くに居たのに、俺は!!
『レ、イ……』
ライリアルも俺に気付き、力無く手を差し伸べる。
その手を掴んでやらなくちゃいけない。
あと少し、あと少しで手が届くんだ。
「今、助けてやるからな…!」
進んだ。前へ進んだ。もう手が届く。
あとは掴むだけだ。
「ライリアル!!」
『レイ!』
俺とライリアルの手が触れ合い、お互いに掴み合う。
接触した事で再び、俺の中へと戻ろうとしたライリアルが触手から逃れる為に光になる。
「そうだ、そのまま俺の中に―――――」
『させるとでも?』
『ぁ………』
しかし、それでも足りなかった。及ばなかった。一歩、届かなかった。
触手はそこからまだ伸び、光になって逃れたライリアルを再び貫いたのだ。
「―――なに、してんだよ……!」
『七英雄は、儂の物だ』
「何してんだって聞いてんだよッ!!!!」
触手を断ち切らんと闇桜を振るう。
それをヒョイと躱した触手はそのまま魔王の核へと縮んでいき。
『いただきます』
七英雄を皆、喰らってしまった。
文字通り、魔王の核が大きな口を開け、七英雄をがぶりと。
まるで串に刺さった肉でも食べる様に。
バリボリ、ムシャムシャムシャ、ゴックン。
ここまで聞こえる咀嚼音が、本当に七英雄を食べてしまったのだと実感させる。
『うむ、やはり美味であるな――――ご馳走様でした』
吊り上がった口角が、してやったりと語る。
とっくに頭に来ていた俺は魔王の核を斬るべく接近を果たし、闇桜にて真っ二つにしてやろうと全身全霊で刃を走らせる。
「―――――おいおい、食事のマナーがなってないんじゃないか?」
「何言ってやが………」
言葉を失った。
闇桜の刃が、魔王の核から生えた人間の腕が握る黄金の剣に防がれているこの状況に。
「神の食卓に、土足で踏み入れるなんて笑止千万。死刑に値すると思うんだが?どう思う!?グレイス!」
「はっ…全く以てその通りかと」
「ハハッ!だよなぁ?じゃあ、殺すか」
魔王の核が、役目を終えたと言わんばかりに粉々になって崩れ、そこから素っ裸の青年が誕生する。
金髪の髪を片手で掻き上げ、俺の全力の攻撃を軽くあしらうと蹴りを一発。
俺の腹へ放った。
「っ!!!!」
呼吸が出来ない程の衝撃が全身を巡り、刹那、気付けば俺は地面に衝突して巨大なクレーターの中心地に横たわっていた。
「ハッ………!ハッ………!ハッ………!!」
焦点が定まらない目で、空を見上げると青年はそんなに必要ないだろうとツッコミを入れたくなる大きさの黄金の翼をいっぱいいっぱいに広げ、愉快そうに笑い声を上げていた。
「見ろよこの力!軽く蹴り入れただけでこの威力だぜ?膂力が有り余り過ぎる!!こんな事ならもっと早く七英雄を吸収しとくべきだったよ!ハァーハッハッハッ!!」
「愉快な、野郎だぜ……」
「なあ、お前さぁ…」
「んっ!?!?」
「おいおい!ビビり過ぎだろ!?ウケるんだけど!!」
今の今まで空に居た筈の青年が突然隣で肘を突いて寝っ転がっているものだから普通に飛び上がって驚いてしまった。
そんな俺の姿に青年は笑い転げ、涙目で地面をバンバンバンッと叩き、地形を崩壊させる。
「あっ、やべ!星が壊れる!」
俺の服の襟を掴み、空へ飛翔する青年は崩壊して大穴と化してしまった地上を見て「おお〜っ!」と声を上げる。
闇桜あの穴に落ちていったんだけど大丈夫だろうか。
「ああ、そうそう!お前さ、よく見たら中々可愛い顔してるよな?」
「悪いけど、俺にその趣味はねえぞ…」
「ん?いやいや、お前の意見はどうだっていいんだって!面白い事言うなぁ、お前!これ以上俺を笑わせてどうしたいんだよ!」
よく喋る男だ。顔がいいのがまた腹立つ。
明らかに不機嫌そうに俺がそっぽを向けていると、青年は俺の顎を掴み、くいっと前を向かせた。
「本題に入るけど、お前、俺の女にならない?」
「………はあ!?」
頭のネジが全部取れているのか、はたまた目玉が腐っているのか。
確かに顔は中性的に寄ってるかもしれないがどう見ても俺は男だ。
そもそもこいつは誰だ?本当にエレキなのか?
「訳の分かんねえ事言ってんじゃねえよ!俺は、男だぞ!?」
「えー?性別なんてものは後から着いてくるもんだろ?ほら、現に今だってそうじゃん?」
「は?え…?んん……?」
「ほら、女だ」
見て、触って、確かめる。
いつの間にか肩に掛かるくらい伸びている赤い髪。
体格は良い方だったのに随分と華奢になった身体。
クンリに匹敵するふくよかな胸。
失くなった俺のマイサン。
ツンと突き出た我ながら惚れ惚れするお尻。
間違いない、これは女だ。
「なんだこれぇぇぇぇえ!?!?どうなってる!?どうなってるんだこれ!!!?」
「そんなに喜ぶなよ!」
「喜んでる風に見えるんだ!?お前には!?はぇー!すっげぇ目!!頭ァ!!」
ますます展開が悪くなってきた。
まるで力の入らないこの女体。
得体の知れない青年。
グッバイした闇桜。
詰んだ。
「取り敢えず落ち着けるとこで話そうぜ?空でデートもロマンチックだけどさぁ、やっぱ愛を育むマイハウス、欲しいよね」
「勝手に話進めんな!!」
「いや、何回も言うけどさ?お前に否定する権利ないんだって!いい加減自覚しろよな」
「うぜー!!殺してー!!」
「はいはいうざくないし殺せなーい」
青年は暴れる俺を片手で制したまま、指を鳴らす。
それが広大な空に鳴り響くと同時に、ここより更に遥か上空に巨大な神殿の様な建造物が何も無いところから現れるのを確認する。
「名付けて、神棲いの宮殿«オリジンズエデン»――――俺達の楽園へ招待しよう、聖月レイ」
俺はこれから、とんでもないところへ誘拐されるみたいだ。
まるで宇宙人にでも攫われる様な気分で、俺は首根っこを掴まれたまま雲より上の世界へ連れて行かれるのであった。
これからどうなってしまうの…?私には分からないわ。
ばい、シラヌイ伯爵。
誰?




