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迷子の村人は方向音痴を駆使して家に帰りたい!  作者: 風来坊ムラサマ
得た力の代償=帰り道
4/50

勇者の元仲間の相手してたら鳥に襲われた

お股せしま下!


「ここが空守の里かー!俺の村よりデケェな!」



そもそもそれ程大きな村でもなかったけどな。


里の入口で村の大きさを頭の中で比較しているとすぐ近くを男が通るのを見掛けた。



「あ、丁度いいところに!ちょっと悪い!尋ねたいことあるんだけどいいか?」


「なんだ?」


「5年前に魔王と戦った勇者の仲間がこの里にいるって聞いたんだけど」


「ああ…クンリのことか」



クンリ。それが勇者の仲間の名前らしい。


しかし、その名を口にする男は何故か表情を曇らせている。何かあったんだろうか?



「クンリなら、里から続く山道を登った先の家にいる」


「…そのクンリって奴に何かあったのか?」


「会ってみれば分かるさ。何の用かは知らないが騒ぎだけは起こさないでくれよ」



それだけを告げると男は去ってしまった。


あの様子だとクンリに何かしらあったのは間違いないだろう。



「…ま、行ってみなきゃ分かんねえよな!」



気合を入れて山登り開始!


そして10分が経った。



「ぬぅおお…!急斜面にも程があんだろうがぁぁ…!!」



最初こそはただの山道だったけど、進むにつれて斜面が角度を増していって今では地面にへばりつかないと転がり落ちてしまいそうな程に達していた。


こんなの山じゃなくて崖ではなくて!?誰だよこんな山頂に家建てた奴!正気じゃねえよ!


結局さらに10分掛けて山と言う名の崖を登りきった俺は、息絶え絶えになりながらクンリがいると言う家に辿り着いた。


疲れ切って地面に這い蹲ってるけどこれくらいは許してちょ。



「やっと着いたぜ…」



いよいよ家の扉と対峙することに成功する。この向こう側にクンリとやらがいる。


しかし、その前に警戒しなければいけない。


こんな急斜面の山に家を建てる程の奴だ。足を踏み入れればトラップが作動して即御陀仏だなんてことになりかねない。


ここは慎重に…。



「グレネード!!」



手榴弾を開けた扉の隙間から滑り込ませる。


ふはは!!このまま木っ端微塵にしてやるぜ!!


距離を取って二次被害に備えるが家の中が爆発しただけで済んだ。


既に騒ぎを起こしているような気もするが気にしてはいけない。



「…誰もいない、のか?」



一向に誰も出てこないので痺れを切らした俺は扉へと近寄る。


すると突然、扉が吹き飛んだ。


紙一重でしゃがんで回避することが出来たが扉は俺の頭上を通り越して背後で無残にも砕け散った。


そうはならんだろ。



「誰ですかこんな時間から花火打ち上げる馬鹿は?死ぬんですか?」



そう言って外に出てきて周囲を見渡したり空を見上げたりして多分花火を探している謎の女性。


花火の発生源外じゃなくて家の中ですよ…。



「って言うか何で全裸!?」


「ん?何ですかアナタ。見ないでください恥ずかしい」


「じゃあちょっとは隠そうね?仁王立ちしてる場合じゃないからね?」


「お風呂だったんです。仕方がないでしょう」


「せめてバスタオル巻くなりさぁ!?」



もう色々と丸見えなんだよなぁ!スタイル良いし可愛いから役得だけど!!



「うるさい人ですね。ん?うるさいと言えばさっきの花火…」



俺へと悪態をつきながら家の中へと戻ろうとした女性。


振り返ってそのまま固まってしまった。



「……大惨事じゃないですか!」


「気付いてなかったんかい!!」



まさかの盲点。家の中から爆発音が聞こえるはずがないと思い込んでいた故の見過ごしだろう。


いや普通気付くけど。



「誰がこんな事を…」


「すまん、俺だ」


「そうですか…」



女性は特に怒ることもせず家の中へと入っていく。


そしてその辺の木屑とかした椅子に座ると優雅にティータイムを始めた。


真っ裸で。



「犯人はアナタですね?」


「だからそう言った!!」



そして服を着ろ。目のやり場に困る。



「で?こんなとこに何か用ですか?」



なんとか服を着てもらい家の中も綺麗にリフォームした俺は改めて円形テーブルを挟んでティータイムをしていた。



「クンリって人を探してんだが」


「ああ、それは私ですね」



衝撃の事実。


この頭のおかしい女性の正体がなんとあの勇者の仲間であるクンリだった!


でも前あった時いなかったよな?



「マジかよ…」


「マジです。と言っても記憶がないんですけどね」


「記憶が?」


「はい。5年前の魔王討伐の旅の途中で深手を負った私を勇者エレキは足手まといに感じたのかこの里付近に捨てたんです」


「いやめっちゃ覚えてんじゃねえか」



と言うかここに来て勇者の名を知ることが出来た。収穫だろう。


知ったところでどうってことはないけど。



「記憶がないと言うのは言い過ぎました。実際には記憶が曖昧なんですよ。自分が誰で何をしていたかはなんとなく思い出せるんですが…どこ出身だとかはさっぱり」



クンリは暗い表情で俯いた。



「まあ取り敢えず思い出せるまではこの空守の里全体を見下せる絶好のスポットであるこの家でゆっくりさせてもらってるんですけどね?」


「里なんか見たって楽しいか?」


「楽しいですよ。だってほら、なんか里を支配する領主みたいな感じで優越感があるじゃないですか」


「それただの錯覚じゃねえか!ってか趣味悪ぃ!!」


「悪趣味とは失敬な。私にはこれしかすることがないからやっているんです」



勇者に捨てられ、記憶を失い、見ず知らずの里で帰る場所すらなく退屈な日々を過ごす。


確かに想像してみると苦痛だな。



「ふぅん。じゃあお前は勇者の居場所は知らないってわけか。邪魔したな」



そう言って颯爽とこの場を去ろうとすると、不意に俺の服の袖が引っ張られた。



「ちょっとそうやって去られると私がまるで役立たずのようではないですか」


「いやそう言われたって有益な情報がない以上俺もここに滞在する意味はないし…」


「もう少しゆっくりしていきませんか?この家、誰も来なくて退屈なんです」


「こんな場所に住むからだろ!?」



全て自業自得だ。俺の知ったことじゃないね。



「むぅ…それはそうですが。そもそもアナタは何故勇者を探すんですか?」


「…家に帰りたいからだよ」



嘘偽りのない事実。俺はただ家に、村に帰りたい。


欲を言えばスエナともう1度会って浮気?の真実を聞きたい。


既に吹っ切れた身だ。どんな理由だろうともう村を飛び出すことはない。


勇者を探す理由とは勇者が唯一俺が住む村に訪れた探しやすいヨソ者で、聞けば村の場所を教えてもらえるかもしれないからだ。


勇者ともなればその知名度は高く居場所もすぐ割れるだろうしな!



「勇者を探すことと家に帰ること、関係性が見当たりませんが」


「色々あるんだよ、お前が気にすることじゃないだろ?」


「いえ、少しアナタに興味を持ちました」


「出来れば持ってほしくなかったなぁ…」



絶対ろくなことがない。考えなくてもそれは分かる。



「とにかく!俺はもう行く!その手を離せ!」


「嫌です。私が満足するまでここから逃しません」


「お前が退屈とかそんなのどうでもいいから!俺は!行!く!の!」


「駄目です!」


「離せ!!これ以上お前と関わると疲れるから!!」


「それが本音ですか!?」


「ちげーよ!それもあるけど!!」


「なっ!?そ、それなら尚更離せなくなりました!」


「ちくしょう!なんだこいつ!!」



袖が千切れそうなくらいの引っ張り合い。


次第にクンリは袖だけでは飽き足らず俺の腕まで掴み始めた。



「ぐぬぬ…!そろそろ諦めろ!!」


「そっちこそ諦めたらどうですか!」



お互い目をクワッと見開きながら全身全霊のほぼ綱引き。


長く続く攻防にうんざりしていると、ついに救いが現れた。


カーンカーンカーン!


里中に響き渡る鐘の音。


反応したクンリが急に俺から手を離し、支えを失った俺はそのまま後ろに転ぶ。


何しやがんだこのアマ!



「ウブァッ!!」


「こんな時に空魔(くうま)ですか…」



情けない声を上げる俺をそっちのけで聞き慣れない単語を耳にする。



「いてて……その空魔ってのは何だ?」


「空に棲む魔物のことです。主にこの里付近の空域にしか存在しないらしいですが」


「ああ、運び屋がそんなこと話してたな…」



空にいる魔物なんてどうやって倒すと言うのか。


そう考えた時、不意に名も無き運び屋から聞いたことを思い出した。


空を守ると書いて空守。


もしこの里が本当にその名通りなのだとすれば、空魔相手にも渡り合えるかもしれない。


俺には関係のないことだ。寧ろこの騒ぎの間にこの里から出れるかもしれない。


雲を突き抜けて現れる翼を持った魔物に向かって幾つかの人影が里から飛び出す。


俺はそれを見て数歩後ろに退る。


そしてドンッと誰かにぶつかる。



「どこへ行くつもりですか?」



最悪なことにいつの間にか背後に回っていたクンリに捕まってしまった。


笑っているつもりなんだろうが目が笑っていない。


俺を捕まえてどうしたいんだこいつ。まさか餌にしようとでも考えているのではあるまい。



「ちょっとトイレにな?」


「トイレはそこですよ」



指差しでトイレの場所を教えられる。


視線を向けるとそこには範囲は狭いがそこの見えない穴が…。



「ボットン便所!?しかも外!!」


「解放感を得られます」


「プライバシーもクソもねえ!!」


「糞はありますよ」


「やかましいわ!!」



くだらない不毛な言い合いをしていると目の前に何かが降ってきた。


いや、正しく言えば降りてきた。


俺達を覆う影。恐る恐る見上げ、その正体を知る。



「ウマソウナニンゲン、ミツケタ」


「ミツケタ、ミツケタ」


「クウ、ニンゲン、クウ」


「こ、こんにちは…?」



巨大な鳥の化け物が二足歩行で俺とクンリの前に3匹立ち塞がる。


思った以上のサイズにチビるかと思った。


「コンニチハ!コンニチハ!」


「コンニチハ!コンニチハ!」


「ゴチソウ、コンニチハ!!」



両翼を大きく広げて癪に障る歓喜の声を上げる化け物共。



「やべぇこいつら!俺らのこと食う気満々だ!!」


「空気を食う、なんつって」


「別に上手くねえんだよ!呑気か!?」



急にボケだすクンリにツッコミを入れる。


どうやら気をおかしくしてしまったらしい……いや。元からか。



「ああー!クソ!なんでこんなことになってんだよ!ただ勇者探しに来ただけだろ!?」


「サワグナ、コロスゾ」


「クワレルカコロサレルカ」


「エラベ!エラベ!」


「だあーっ!!鬱陶しい!!カタコト言ってんじゃねえぞ!!」



ついに堪忍袋の緒が切れた。


次回、こいつらを始末する。

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