side:スエナ「運び屋」
1日に2本もすまんな…あとテンペストドラゴン覚えてくれてる人いて嬉しいです!
今回も一区切りがついて次回、神黎山からのスタートとなります!
◇
「でも、良かったぁ。レイが生きてるって聞いて安心したよ」
「私の勇者レーダーはとても優秀で信頼出来るよ。しかも時が経つにつれて彼の力はどんどん大きくなってるから、尚更だね」
レイに霊剣ターミネイトを届ける為に村を出て3日が経った。
しかもアリフェーの話ではこの数日の間にレイの生体反応が大きく膨れ上がったらしい。
一体何処で何をしているの、レイ?
「ところでアリフェー。そろそろ何処に向かってるのか教えてもらってもいい?」
「んー、そろそろ教えてあげてもいいかな。私達の目的地は神黎山だよ」
「神黎山って言うと…あの星龍テンペストドラゴンが棲うって噂されてる未踏の霊峰だよね?」
「そうだよ。今レイの反応は神黎山の中腹部にある…つまり、今向かえば追い付ける可能性があるかもしれないんだ」
「本当!?」
「うん。でもその為には一刻も早く神黎山に辿り着かなきゃ」
「あとどれくらい掛かるの?」
「このペースで行けば4日は掛かるかも…」
「ええっ!?そ、そんなの間に合わないよっ!」
あと4日。気が遠くなってくる。
ただでさえ3日も歩き続けてくたびれていると言うのに、まだ歩けと言うのか。
こう言う時、世界中で話題の車に乗れたら楽ちんなんだけど…やっぱり乗るのは抵抗がある。
勇者セスタや魔王エレキの事もあるし、あんまりその対立の果ての産物には頼りたくないと言うのが本音だ。
うへぇ、と情けない声を出して足を進めていると、前方に何やら馬車の様なものが停まっているのを発見する。
「あれって馬車だよね?どうしてこんなところに…」
「困ってるみたいだね」
「取り敢えず話だけでも聞いてみようよ」
馬車の前で頭を抱える茶髪の青年に近付くと、その青年は私に気付いてパァッと顔を明るくさせた。
「どうかしたんですか?」
「それがですね…馬達が、逃げ出しちゃって…」
それだけ言うと再び青年は暗い表情になって項垂れてしまう。
そんなに暗いとこっちまで暗くなってしまいそうだ。
「馬が?どうして逃げたんですか?」
「柄の悪い奴らが車で煽って来たんですよ…クラクションって言うんでしたっけ、デカい音鳴らすやつ。それに馬がビックリしちゃって…これじゃあ何も運べない…運ばない運び屋だなんてそんなの運び屋じゃないですよ…」
「ああ…巷で噂の煽り運転ってやつね。それは災難でしたね」
「災難なんてもんじゃないですよ…!あー!僕はこれからどうすれば…!」
「―――馬がいればいいんですよね?」
「へ?あぁ、そりゃもう…僕の手にかかればどんな馬でも最速の運び屋に早変わりですよ…馬が、いればね…!」
一々暗い人だ。でも、これは使えるかもしれない。
最速の運び屋と豪語するそのお手並み、拝見させてもらおう
「じゃあ取引しましょう!私は馬を用意するので、アナタは私を神黎山まで連れて行ってください!」
「神黎山まで!?いや、それはちょっと…あ、でも!馬がいないと僕の存在理由が……ぁぁあ!!分かりましたっ!その取引、乗りました!!」
馬だけに。いや、これは面白くないな。口に出さないでおこう。
「取引成立!それでは早速馬を用意しましょう!」
もしこの人があの馬を扱いこなせたとしたら、神黎山までの道程も僅か1日で行けるかもしれない。
私には無理だったけど、この人なら或いは!
そんな期待の念を込めて、私はいつも通りに空間を叩き割る。
超越者の力が成せる強制使い魔召喚。私はそれで馬を引き摺り出す。
『ヒヒーン!!何しやがるこのじゃじゃ馬オンナ!?』
「馬に馬って言われた!?」
燃える様な赤い体毛。黄金の鬣。つぶらな黒い瞳。
そして、額から生える鋭く尖った黄金の角に黄金の両翼。
そんな特徴を持ったこの馬は自称ペガコーン族の«ユニゼル»と言う。
私には全然懐かず、背中にすら乗せてもらえなかった。
挙句には罵声を浴びせられる始末だ。馬刺しにしてやろうかな。
「ぅえっ!?今、何処からその馬を!?って言うかそれ馬!?」
『ァアーン?んだコイツァ?パッとしねー奴だなオイ!』
「あ?馬が俺に指図してんじゃねえ」
『へ?』
「馬が!!この俺に指図してんじゃねえっつったんだよ!!」
『ヒッ』
鬼の形相で掴みかかる青年に流石のユニゼルも怯えている。
私も怯えているし、アリフェーもドン引きしている。
そもそもこの豹変ぶりは何なんだろう。馬に対してこうなっちゃうのかな。
「テメェは黙って俺に従え…一生こき使ってやっからよォ!!」
『ひ、ヒヒーン!!』
尋常ならざる凄味をその一身に受け、従順な馬に成り下がってしまうユニゼルの姿に哀れみの視線を送り、豹変した青年を刺激しない様に黙ってその光景を見届ける。
馬車にユニゼルを繋ぎ、手綱を何度か引っ張って心地を確かめると、青年はニッコリと笑って顔を私に向けた。
「…ありがとうございます!これで運び屋復活ですよ!さあ、乗って乗って!神黎山までひとっ走りしますからね!」
もう元に戻っている。怖い人なんだなぁ。
私の中での青年のイメージが崩れ、最早いつ爆発するか分からない爆弾の様な存在になってしまったが、これで神黎山まで何とか行けそうだ。
馬車に乗り込んだ私は内心ドキドキしつつ、どんな速さで走るのだろうかと想像してみたりする。
「ではお願いします!」
「間に合うといいけど…」
今まで黙り込んでいたアリフェーがそんな不安を口にするが、次の瞬間には舌を噛んで涙目になっていた。
それくらい速かった。景色が見えないしこれはもう半日程で神黎山に着いてしまうのではないだろうか。
「待っててね、レイ」
長い旅の末、ようやくレイに会える。
そう思うと心が踊る。
私は鼻歌交じりに、物凄く揺れる馬車の旅を堪能するのであった。
エドラスもよかったけどラクサス破門のとこもすげーよかった




