勝ち目がなくても挑むのが漢だと思います
あ、どうも!感想ありがとうございます!
昨日は諸事情によりお休みさせていただきました!
モーニングなろうでご提供させていただきます!寝起きにどうぞ!!
◇
「取り敢えず進んでみたはいいけど…」
「押しても引いても開かない鉄の扉に怪しげなレバーと来ましたか…」
あれから特に何事もなく脱獄を続行した俺達は現在、見上げる程大きな鉄の扉と対面していた。
クンリの言った通り、押したり引いたりしてみたがうんともすんとも言わない始末。
最終手段はクンリの操陣術かと思いきや、扉の隣にあからさまに扉を開ける為のものと思われるレバーが用意されていた。
さて、どうしたものか。
「レバー…下げてみます?」
「いやあ…下げるしかないんだけど、怪しいよなぁ…?」
「これが罠である可能性は大いにありますね」
「でも他に行けそうなところは粗方探したけどやっぱりここしかないんだよなー!」
「…操陣術で切れるかやってみましょう」
アイコンタントで俺を離れさせたクンリはお馴染みの操陣術で陣を回転させ、鉄の扉の切断を試みる。
ちなみに今更だが操陣術で操っている陣は魔法を使う際に現れていると言う本来不可視の筈の魔法陣と呼ばれるものを使っているらしい。
なんでも俺に会うまでのクンリは魔法陣の展開は出来てもそこから魔法へと昇華させる事が出来なかったらしく、どうしても使いたいと試行錯誤した結果、なんと魔法陣を動かす力に目覚めたらしい。
要はゴリ押しで動かしている。
しかも魔法陣は魔法の待機状態みたいなものだから魔力を宿している人間が触れると暴発してしまうとか。
例えば爆発したり、加速したりとかね?うん、覚えがあるね?
って言うのをさっき教えてもらった。
「無理そうか?」
物凄い騒音を立てて鉄の扉をギャリギャリと切断しようとするクンリは俺の発言から少ししてから陣を消し、額の汗を拭った。
「無理ですね」
そう言ってガコン!と隣のレバーを下ろした。
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁっ………」
そして俺の足下だけが開いて俺だけが落ちる。
「なんぶぇっ!!!?」
やはり落ちる運命にあるらしい俺は結構な高さを落ちて顔面から激突した。
意識こそ保っているが顔が凄くジンジンする。痛いのだ。
己許すまじクンリ。
「いつつぅー…!今度は何処だここ?」
薄暗いが、とてつもなく広い事だけは分かる空間。
そこに響き渡る男の声。
「―――――ここは、脱獄囚処刑場」
「ぷりずれ…なんだって?」
「プリブレクス…いや、この際何だっていい。要は脱獄囚を処刑する為の場所って事さ」
声の位置は後ろ。振り返れば、そこには薄暗がりではあまりに目立ち過ぎるだろう白いロングコートを着た男が片手に鈴を持って立っていた。
「アンタ、誰だ?それとその鈴は何?」
「ナンセンスな質問だぜ。見て分からないか?俺は」
「あっ!あれだろお前!授業の終わり知らせる人」
「惜しい。命の終わりを知らせる人だ」
「カッコつけんなよ白コート」
「白コート言うな。俺には«シグレアン・デスソード»って名前があるんだよ」
デスソード。なんてカッコイイ名前なんだ。痺れるぜ。
「じゃあ俺も名乗る。リングバル・ダークセイバー」
「平気で嘘吐く奴だなお前。聖月レイだろ」
「なんで知ってんだよ」
もしかしてストーカーだったりするのか?
そもそも悠長に話してる場合なのか、今の状況は。
シグレアンの話ではここは処刑場。脱獄囚である俺は、処刑対象なのでは。
取り敢えず怪訝そうな顔をしておこう。
「俺の力は少し特殊でね。攻撃には不向きなんだが…」
チリィィィィン…と鈴の音が鳴る。
音の発生源はやはり、シグレアンの持つ鈴からだ。
「この目で生き物の情報を解析したり、解析した奴なら誰でも俺の下に呼ぶ事が出来る、夕闇呼鈴―――」
暗闇の向こう側、しかも俺とシグレアンを囲む様にゾロゾロと現れたそいつらには見覚えがあった。
「こいつら…牢の中にも似た様な奴らがいっぱい居たな」
「ご明察。こいつらは看守…お前達が囚人だと思ってたのは皆、囚人に見せ掛けた看守だったのさ。どうやってかは知らないが、牢の外に出て随分余裕こいてたみたいだな?実際のところはその逆―――外に出ようと進めば進む程、ドツボにハマっていくこのグレートジェイル…通称、逆鎖監獄の造りにまんまと追い詰められていたって訳だ」
俺を取り囲む看守達の目は尚も焦点が合っておらず、吐息も煩いくらい荒い。
牢の中でのあの暴れぶりは演技ではないと分かる。なのに看守だと言うのだから恐らくこの監獄自体が狂っているに違いない。
クンリが言っていた普通ではないと言う理由が少し理解出来てきた様な気がする。
「あのレバーはやっぱり罠だったって事か」
「中々どうして冴えるじゃないか。でもただそれだけじゃないんだよな」
「どう言う事だ?」
「あのレバーを下ろすと全ての牢の鍵が解錠される。この意味分かるよな?」
「…まさかっ!あそこにはまだクンリが…!!」
「ああそうだ!お前の連れがいる!それに確か…すげえ美人だったよな。ああっと!今思い出したから言っとくぜ。看守達は全員元死刑囚でな。しかもこーんなむさ苦しいとこに居るもんでそれはそれは女に飢えている…勿論、この意味も分かるよな、聖月くん?」
「テメェ…!!クンリに手を出してみやがれ、タダじゃおかねえぞ!!」
クンリは色々と面倒臭いし意味の分からない女だが、かけがえのない仲間だ。
もうアイツが傷付いたり泣いたりする姿を見るのは嫌だ。
だから。
「アイツは俺が守る…!!」
「おっ、粋がるねぇ。じゃあその余裕、どこまで持つか試してみようぜ?」
黒桜は使えない。と言うか無い。
ならば素手で戦うしかない。格闘戦は未経験かつ苦い思い出があるが、やらなければ殺られる。
どっちみち、俺には戦うしか道が残ってない。
「やれ」
「来やがれ!!」
勝ち目のない戦いの幕が、今下ろされた。
寄生虫に取り憑かれた親戚のおじさんが家の窓を全部叩き割る前に殺虫剤を5つ集めるゲーム




