side:スエナ「霊剣ターミネイト」
束の間の休息!素早い投稿!そして短い話!
どうも最新作です。よろしくお願いします!
◇
「うぅ…頭痛くなってきた……」
まさか、私の実家に地下があって、そこに勇者の纏わる文献が残っているとは思いもしなかった。
既に察しているだろうけど、ここは故郷のヴェクトリッヒにある私の家だ。
魔物退治や人助けをしながら各地を回ってエレキの情報を集めていた最中、村長から呼び出されて家に帰って来てみれば歴代勇者についての文献や、歴代勇者達が記した冒険日誌等、勇者伝説に纏わる多くの物が地下に広がる図書室に案内されて今に至る。
今までの苦労はなんだったのか。こんなのがあるなら村を出る前に言って欲しかったと思う。
正直、時間を返して欲しい。
それと色々読んでて分かった事だけど、本来勇者セスタは年齢的にも生きた年代的にも、現代で生きている事自体が可笑しい存在らしい。
赤髪紫眼の勇者。この特徴が一致するのは後にも先にもセスタのみ。
そして黒髪黒眼の魔王。一見普通のヴェクトリッヒ育ちの青年にも見えるが、生まれは魔界で残忍な心を持ち、魔物を引き連れて進軍している姿から彼は魔人と呼ばれ、魔王と言う名は後にエレキ自身が名乗り始めたものらしい。
セスタとエレキは魔界の奥地に聳える魔王城にて壮大な戦いを繰り広げた後に相討ちになったと言うけど、真相は誰にも知られていない。
そもそもセスタは強力過ぎるが故に仲間がセスタの高次元の戦闘に着いていけない事から常に1人旅だったとかで、最終決戦を目撃出来た者は誰1人として居ないとか。
ある噂では最終決戦の後にセスタは生き延び、放浪の旅を続けていたとも文献には書かれていた。
事実なのか、本当に単なる噂なのかすら分からないけど、確かにエレキは倒された。連なる勇者と魔王の戦いではその全てが観測されていて勇者は全てヴェクトリッヒから生まれ、魔王は魔界から生まれ、その魔王は倒された者全てエレキではない事が明かされている。
そんな始まりの勇者と魔王の名を冠する者達が今、何世代も経たこの世界を彷徨い歩いているのは何故なのか…それを解き明かせば今この世界に起こっている世界進化の原因に繋がるかもしれない。
ちなみに世界進化とは文字通り世界規模で確認されている文明が急激に進化している現象の事だ。
まだ最初の頃は言語や知識だけの変化くらいしか見られてなかったけど、今ではビルが建ち、車が走り、軍隊が銃器を扱っているレベルまで来てしまっている。
文明の発展は喜ばしい事なんだろうけど、これは明らかに普通ではない。
不気味なまでに人々はそれを受け入れ、当たり前の様に生活している姿はまるで元々そうであったと言わんばかりの様子だ。
「これじゃ、まるで世界丸々洗脳されちゃったみた、い………」
洗脳?普通に考えればあり得ない事を当たり前の様にしてしまう?
それはまるで、私の分身が淫行に及んでしまったり、村の皆、そしてラスケラルドの王様達がエレキを受け入れてしまったりした時の様な…。
「まさか」
「…どうかしたかの?」
同じ様に文献を読ま漁っていた村長が私の反応を見て首を傾げる。
「村長さん。私、分かったかもしれません!」
「分かった…?何をじゃ?」
「世界進化の原因です!勇者セスタ様、彼を中心に世界進化は起こっています!つまり、勇者セスタ様を探し出して接触する事が出来れば、世界進化を止める方法、そして魔王エレク・トロルについても新たに何か分かるかもしれません!!」
「ふぅむ…?しかし、どうするのじゃ?今まで探しても見つからなんだろ?」
「そこは…任せて下さい!必ず何とかします!…えっと、ここに案内してくれてありがとうございました!お陰で色々と分かってきた様な気がします!それでは!!」
「ちょ、ちょっと待つんじゃ!旅立つ前に勇者の抜剣へと寄って参れ!」
「勇者の…?分かりました!」
それだけ交わすと、私は年甲斐もなく家を飛び出し、広場にある勇者の抜剣の元へと駆けた。
ちなみに勇者の抜剣とはこの村が誕生するより前からこの地に刺さっている勇者のみに扱えるとされている剣で、未だ誰もこの剣を抜けた試しがない事からダジャレ混じりに勇者の抜剣と名付けられたらしい。
歴代勇者も誰1人抜けなかったし、勇者であるレイも抜けず、挙句の果てにはあの最初の勇者であるセスタでさえ抜けなかった頑固な剣だ。
一体そんな剣に何の用があると言うのか。
「―――――え…?」
「あ、どうも。勇者のサポート妖精、アリフェーです。どうぞよろしく」
「えぇ…?」
広場に着いて勇者の抜剣を見てみれば何やら鍔に羽を生やした小さな女の子が座っているではないか。
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。恥ずかしいな、もう。
「あ、スズキに知らされてなかったんだ?ちゃんと知らせてって言ったのに。酷いなあ」
「えっと、アリフェー…さん?」
「うん、アリフェーだよ。呼び捨てで構わないからね」
「じゃあアリフェー。勇者のサポート妖精って言ったけど、それならこんなところで何してるの?」
レイも村には居ないし、だったら一体何の為のサポート妖精なんだろう?
もしかしてレイが死んでしまったから戻って来た、なんて事もあるかもしれないけどそんなのは信じない。
案外しぶとい彼だから、きっと何処かで生きていると思う。
「何をしてるのか?それはね、レイがこの剣を抜いていかなかったからだよ」
「この勇者の抜剣を…?でもこれは誰にも抜けないんだよね?実際、レイも抜こうとしても抜けなかったんだよ?見てたなら知ってるよね」
「うん。でも彼はこの剣を抜こうとしただけだから。これの大事なのは中身」
ふわっと浮かび上がって宙で剣を引き抜く素振りをするアリフェー。
そんな彼女の手には黄金に輝く光の剣が握られていた。
「霊剣ターミネイト―――邪悪を断ち切る、本当の勇者の剣」
「これが…?」
「と言ってもこれは私が見せてるだけのイメージ。本来の霊剣ターミネイトは勇者の抜剣なんて名前を付けられちゃってるこの剣のサイズと変わらないかな」
霧散して消えていく光を無表情で見つめるアリフェーはそのまま続ける。
「魔王を倒すにはこの霊剣ターミネイトが必要になる。エレク・トロルなんて尚更だね」
「知ってるんだ…」
「これくらい知ってなきゃ。サポート妖精なんだから」
誇らしげに胸を張るアリフェーはすぐに肩を落として溜め息を吐くと、再び剣の鍔に力無く座ってしまう。
「どうかしたの?」
「うん。それがね…レイには村に居る間、何度も霊剣ターミネイトを抜く様に仕向けたんだけどね」
「……あぁ…」
何となく察してしまった。
レイは昔から妖精とかそう言うのは信じない主義で、何か不可思議な事があると私のせいだとか誰かのせいにして喧嘩に発展したりする事が度々あった。
恐らく、そこに関係しているんだろう。
「結果はスエナの知ってる通りだよ。彼はあまりに妖精の存在とかを信じなさ過ぎて私の姿も小さな光にしか見えてなかったみたいだし」
「…そう言えばレイが変な光が飛び回ってるとか言ってたような…って、そんな事言ったら私なんて今この瞬間までアナタの存在すら知らなかったよ!」
「当たり前。基本は勇者にしか見えない様にやらせてもらってるから」
「じゃあ今見えてるのは何でなの?もしかして、緊急事態?」
お、気付いたなと言わんばかりに飛び上がり、今度は私の肩へ座ったアリフェー。
思ったより重さを感じないから肩乗りマスコットキャラとしては最適かもしれない。
「うんうん、中々鋭い。実はサポート妖精としての勘が働いてね、どうやら勇者と魔王が接触したみたいなんだ。今は離れてるみたいだけど、きっとまた接触する…だから単刀直入に言わせてもらうね」
一息吐いて。
「―――――これから君には勇者代行として、この霊剣ターミネイトを勇者レイの所に持って行って欲しい」
それはとても衝撃的で、でも勇者を支える家系に生まれ、幼馴染でもあって、婚約を誓った私にしか出来ない…重大な使命だった。
山のようなバケツに入った蟻のようなプリンを貪る惑星規模のおっさんが主役のアースディフェンスストーリー。




