第7の試練・不明因子
えっと、はい…すごーくお待たせしました。
感想いつも読んでます!ありがとうございます!
感想貰えると励みになって続き早く描きたくなります!
とは言え、中々本腰入れられない状態なんですが…^^;
次も出来るだけ早く更新したいと思うので今暫くお待ちを…!!
◇
焼け野原と化した森を抜け、暫く歩き続けていると徐々に視界が白くなっていき、一面真っ白な所謂猛吹雪のエリアに辿り着いた。
寒いのでユリウスの換装で暖を取り、最早何処にいるのか分からなくなってしまった俺は路頭に迷っていた。
まあ、元々何処にいるのか分かってないんですけどね?
「あ゛ぁ゛ー!さ゛む゛い゛ぃ゛ーーー!!」
「本当に寒いですね、くちゅん!」
「どわぁっ!?いつからそこにいた!?」
聞き覚えのある声、そして何気に可愛らしいくしゃみ。
正面でお山さん座りをしているのは他でもない、クンリだった。
そりゃお前…ビキニアーマーは寒いって…。
「最初からって言ったら信じます?」
「信じない」
「それもそのハズ、なんたって今来たばかりですから」
立ち上がってドドン!と音が鳴りそうな勢いで胸を張るクンリ。
元気だなお前。
「つーかお前修行もう終わったのか?」
「元より修行など必要無いんですよ、全てを思い出した今となっては」
「…なら、聞いてもいいか?」
「駄目です」
「いや、そこは話してくれるパターンだろ」
「仕方のない人ですね、そこまで言うなら話そうではありませんか」
俺がしつこく迫ったみたいで癪に障る結果だがまあこの際良しとしよう。
「で、何が聞きたいんですか?」
「全部」
少し間を置いて、クンリは長く吐息を漏らす。
堪忍して話そうと言う気になったか―――――
「駄目です」
「なんでだよ」
「なんでって…」
次の瞬間、眼球の1ミリ手前にクンリの掌から現れた光の剣が突き出される。
個人的な目測だから正確な距離ではないが多分それくらいだろう。
しかも、尋常ではない速さだった。
これまでの戦いで格段と成長した俺の目で捉えきれない程の。
「言われないと分かりませんか?小さなおツムですねぇ〜?」
「……あくまでお前も七英雄って事かよ?あと一言余計だ!」
「はぁ…やっぱりダメダメですね」
「はあ!?どこがダメダメなんだよ!言ってみろ!!」
「内緒でーす。知りたければ私を倒してみろ、ですね。出来るなら…の話ですが?」
一々煽ってくるのがまた腹が立つ。そう言えばこいつはこんな奴だった。
「…いいぜ、だったら力尽くで聞き出してやる!!今更謝ったって手加減しないからな!?」
「手加減なんて器用な真似出来たんですね、驚きました」
はい、爆発。
「黒桜剣術・紅の太刀«業血剣»!!」
黒桜にユリウスの全てを纏わせ、抜剣と同時に零距離で必殺の一撃を放つ。
紅き閃光が周辺を薙ぎ払い、雪を溶かし吹雪を払い、凍てついた凍土を一瞬にして焦土と化す。
この中で生きていられる者はいないだろう。
俺はそう確信し、聞きたかった事がいっぱいあったのに、と若干凹みながら黒桜を鞘に納めた。
しかし、よく耳を澄ませば何やら音が聞こえるではないか。
ギュルギュル、ギュルギュルギュル、ギュルルルルルルン―――――と。
「ま、さか……!?」
聞き覚えのある音だった。
まだ俺が旅立って間もない頃、何度か目にし、助けてもらったり逆に危ない目にもあったあの不可思議なクンリの扱う武器の音だ。
「操陣術………!!」
「―――――ご名答。まあ?私のアイデンテテーですので」
幾何学模様が浮かび上がる半透明で薄い円盤の向こう側でしたり顔をしているクンリにしてやられた顔をする俺。
したり顔の反義語がしてやられた顔なのかは分からないが、とにかくしてやられた。
まさか操陣術が防御も兼ね備えているだなんて想定外だったし、さっき見せられた光の剣だって初見で、そもそも魔法とか言うチートを使える様になったとかで完全に存在を軽視してしまっていた。
操陣術とは、魔物さえ容易く両断してしまうトップクラスの攻撃力を誇った攻撃手段だった。
「だけどそれがどうしたって話だ」
操陣術のクセはある程度知ってるつもりだ。乗る事だって出来るし恐らく投げる事だって出来る筈だ。
それに、俺が触れる事で陣の色次第で様々な効果を発動させる事が可能だ。
赤い陣に触れれば爆発を起こせるし、白い陣に触れれば加速する。
多分、操陣術にはこれ以上の特性はない。
正直当たった時の被害を想像すれば身震いこそすれど、当たらなければ逆に隙の多い鈍足パワー系武器だ。
「そんなもの、俺の数多の力で尽く凌駕してやるぜ」
「ナイスファイト、私をラスボスだと思って掛かってくるがいいでしょう」
「お前なんざ中ボスで十分なんだよ」
ラスボスやら中ボスやら何処の言葉か分からない様な単語を投げ交わしつつ、俺達は臨戦態勢に移る。
ここからは真剣勝負だ。
この試練において、誰が相手だろうとそこは変わらない。
お巫山戯はここで終わりにしよう。
「それは聞き捨てなりませんね…訂正して下さい。ラスボスです」
「は?そんな大層なもんかよ!1つランク下げて雑魚でもいい位だぜ!」
「ラスボスがいいです!!今すぐ訂正を!!」
「そこそんなに拘る!?別に何だっていいだろ!雑魚だよ雑魚!!」
「あーーー!!また言いましたね!?許しません!!」
「許さなかったらどうなるってんだよ!?」
「こうなります!!」
不意に投げられた陣を飛んで躱すと、俺は両鼻に親指を突っ込んでベロベロベーを披露する。
どうだ屈辱だろう、もっとお前を翻弄して最後には魚のすり身の様にしてくれるわ!
「フフフ…馬鹿め!私の操陣術がただ投げられるものだとお思いですか!?」
「なっ……まさか!!」
振り返れば目前まで迫る高速回転し続ける陣。喰らえば即人生退場コース。
俺は死ぬ気で体を反り返らせ、ブリッジの状態でギリギリ飛来する陣を回避する。
そのまま陣はあらぬ方向へと飛んでいき霧散していった。
「くっ…!昔訪れた地球にあった漫画だとこんな感じの技で真っ二つになったハズ……あ、これ敵が自分でやって自爆してたんでしたっけ?」
何やらブツブツ言っているがチャンス到来だ。
俺は黒桜を再び抜剣し、悟られないよう高速移動で背後へ回り込むと袈裟斬りを放った。
そこで、肩を竦めたクンリと目が合う。
「―――――まあ、どうでもいい事ですね」
「やばっ…」
「«イラプション»」
足下に現れる隠された赤く発光する幾何学模様の陣。
それは普段クンリが武器に扱っている陣に他ならない。
何故こんなところに、そう考える暇もなく、それは天へ向け放たれた。
火山の噴火の如く、噴き上げた炎の柱が俺を焼き付くさんとする。
完全に陣に接触していた為、間欠泉に打ち上げられるようにグングンと地上から押し離されていく。
「かん、そう…ッ!!槍騎士!!!」
まだ意識がある内に、まだ体が動く内に、換装を終えた俺は槍となった黒桜を陣の中央へと穿ち、叫んだ。
「«デッドエンド・スパイラル»!!!!」
それはかつてアリアナが俺に対し放った必殺の一撃。
螺旋を描く怒涛の水流は全てを飲み込み、全てを流し尽くす。
火を消すなら水を持ってこればいい。火が燃え移ろうが容赦無く鎮火してしまう程の膨大な水を。
槍先に収束した拳大の水の球体が弾けると共に炎の柱を凌駕する水の奔流が放たれる。
視界は水流によってほぼほぼ埋め尽くされてしまっているが、微かに接近するクンリの気配を感じた俺は換装を解き、換装を身に纏う。
「来るか」
大鎌となった黒桜を振り被り、漆黒のコート風の衣装の裾をはためかせながら真下へと降下を始める。
刹那、水流を切り裂いて両手に陣を携えたクンリが突撃して来た。
「«ブレンデス・デリバリー»」
「むっ…!?」
ライリアルの破壊の一撃を浴びせ、両手の陣のみを破壊。
流石のクンリも片眉を下げて理解に及ばない様子だ。
実際、常識外れなワザだと思う。
使ってみて分かった事だが、このブレンデス・デリバリー、触れられるモノなら何でも壊せるらしいのだ。
「―――どうした?こんなもんかよ?」
クンリとすれ違いざまに挑発を滑り込ませ、地上へ向けて下降を続ける。
少し間を空けて、クンリが上昇を止めて最初に見せた光の剣を周囲に生成し始めた。
「―――失笑、寧ろこれからですよ…!」
合計10本。光の剣がクンリの振り向きザマに一斉に放たれる。
まさに光の雨だ。目にも留まらぬ速さで降り注ぎ、俺の衣服を裂いて頬や腕、脚に切り傷を残していく。
仕上げに1本、俺が着地したと同時に右肩に光の剣が深く突き刺さった。
鮮血が散り、焼けるようで痺れる痛みが右肩から全身へかけて流れ込む。
「«インパルスセイバー»」
直後、右肩に刺さっていた光の剣が小規模に爆発した。
「がッ、あぁアァっッ!!?」
視界が白黒する。
今までとは比にならない逃げ場のない痛みが俺の脳をこれでもかと言うくらい揺さぶってくる。
ズキズキ、ドクドク、ズキズキ、ドクドク―――――定まらない焦点を必死に合わせ、恐る恐る右肩を見てみると、そこにはあるハズのものが存在していない。
嗚呼、失くしてしまった。
「俺の、腕、が……」
俺の右腕が、爆発した右肩毎欠損していた。
その事実を脳が受け入れまいと警告音をびーびーと鳴らし続ける。
煩いな、それどころじゃないんだ。俺の腕が。
ふと、視線を離れた場所にやって見れば、無造作に誰かの腕が剣を握ったまま転がっていた。
そいつを捉えた瞬間、気付けば俺は叫んでいた。
「あ、あァァ……ぁ…ァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
ここまでするか?
本気で俺を殺す気なのか?
大体どうしてお前が魔王側にいるんだ?
どんどんと理不尽な言葉が頭の中に浮いては消えを繰り返し、視界は真っ赤に染まってまともな思考すらままならない。
溢れ返りそうな激情が俺の理性を蝕み、やがて全ての感情は怒りへと帰結する。
その怒りに呼応する様に離れた場所にある黒桜がカタカタと揺れ始め、挙句には独りでに宙を浮き、放物線を描いて飛んで俺の壊れた右肩に突き刺さった。
「――――――ぁ……?」
恐る恐る首を回して見てみると、そこには何事もなかったかのように存在する右腕があった。
黒桜の姿はなく、さっきまで絶え間なくあった不快感と痛みも消え失せている。
まさか、黒桜が治したと言うのだろうか?
勇者の剣とは言え、そんな事が可能なのか?
謎は深まるばかりだが、これでまた戦う事が出来る。
折れかかった心も、再び闘志を燃やしている。
「…ふむ?中々しぶといですね?」
「…何がふむ、だ。危うく死ぬところだったぞ」
白々しい態度を取るクンリにどう対抗してやろうかと考えるが、戦うにしても武器を失ってしまった。
換装が使えても黒桜が無ければ意味が無いし、ここでモンクにジョブチェンジもありか…?
あれこれ思考した後に真面目にジョブチェンジしようかと考え始めた頃、痺れを切らしたのかクンリが操陣術で陣を俺目掛けて投擲する。
「ちょっ…!?」
「時間切れです。次の機会があればまた会いましょう……多分ないと思いますが?」
眼前へと迫る回転ノコギリ陣。回避も既に間に合わない距離だ。
咄嗟に、俺は無いハズの黒桜で防ごうと構えてしまう。
そんな自分の行為にすぐに気付いて無理にでも避けようとした俺の手には、何時からそこにあったのか、黒桜が握り締められていた。
「…………うぐっ!!?」
惚けている場合ではない。防ぐ手段があるのならば何がなんでも目の前の死を回避しなければならない。
触れるか触れないかの距離。
そこで我に返った俺は半歩引いて、黒桜を振るい陣に喰らいついた。
流石は回転しているだけあって復活して早々に黒桜が折られるんじゃないかと気が気でなかったが、そこは勇者の剣。
治癒も神クラスであれば耐久度も神クラスだ。
歯を食いしばり、力任せに陣を叩き斬って事なきを得る。
本当に理不尽で凶悪な武器だなこれ。
「はぁ…はぁ……!どうだ、恐慄いたか…!?」
「やれやれ…このまま殺られていれば、勇者なんて言う巫山戯た呪縛から解放されたものを…」
「は?何訳の分からんねえ事言ってんだよ。それより、闘いはまだ終わってねぇんだ!気ィ抜いてんじゃねえぞ!!」
何だかいつも以上に興奮している気がするのだが、この際構っていられない。
ただこの高揚感に身を任せ、闘争に身を投じるだけだ。
既に目的を忘れ去っている俺は無我夢中に駆け、クンリも目をギョッとさせる様な速度で迫る。
そして、お互い得物を振るえば直撃は確実であろう距離まで近付いた時、それは来た。
「―――――クンリィィィィィィィッ!!!!」
絶叫にも近い叫びを上げながら突然降って来たそれに対し、俺とクンリは後方に飛び下がる事で事なきを得る。
同時に響く轟音。
先程まで俺とクンリが居た場所に落ちたそれはモクモクと舞い上がった砂塵の向こう側でゆらゆらと人影を揺らしていた。
「謀ったな、この儂を…!!謀りおったなぁぁぁぁぁ!!」
「おっと、もう気付かれてしまいましたか。完璧な分身だと思ったんですけどね」
「…へ?何?何が起こってんだ…?」
不測の事態に戸惑いを隠せない。
まさか空から降ってきたのがセスタ―――もといエレキだなんて誰が予想したでしょうか?
しかも滅茶苦茶ブチ切れている。
何をしたんだクンリよ。
「異界に転がっていたお主を拾ってやった恩を忘れたと言うのか…!!」
「確かに拾ってもらったお陰で目的の半分は果たせたので感謝はしていますが…まあ、それとこれとは別って事で」
「き、貴様ァ…!記憶喪失を装い儂と接触した理由は、目的はなんだ!?」
「記憶喪失はガチですよ。あとは偶然、アナタと接触出来たに過ぎません」
突然始まったエレキとクンリの問答にほったらかしにされた俺は隅の方で縮こまってその様子を眺める。
随分エレキがご立腹の様だが、一体全体何が起こってるのか誰か俺に説明して欲しい。
尚も、俺を置き去りにしたやり取りは続く。
「目的は―――――内緒です」
唇に人差し指を当て、ウィンク。
瞬間、空間が歪む程の圧力が俺達を押し潰さんと猛威を振るってきた。
「ぅおっ…!?なんだ、これ…!?」
辛うじて耐えられてはいるが、少しでも気を抜いてしまえば恐らく地面とキスする事になるだろう。
それ程の圧力がこのセスタランド全域に降り注いでいた。
圧力を放つ人物はやはり、エレキ。
彼は鬼の様な形相でクンリを睨み付け、一歩ずつ踏み締める様にして歩みを進める。
当のクンリは涼しい顔をしているが本当に彼女は何者なんだろう。
「―――クンリ。貴様はよくやってくれていた。これまで温情にも等しい念を抱いてもおった……が、それももうここまでよ」
怒髪天とはこの事か。
怒りのあまり、重力を無視して天を衝かんと靡く黒髪がエレキの感情を物語っている。
大気が震え、心做しか地面も揺れている気がする。
「覚悟せよ。最早生きて逃れるとは思うな?」
蛇に睨まれた蛙とはこの事か。
試練を勝ち抜いて大分力を蓄えたと思っていたのだが、よもや動くどころか呼吸すらまともに出来なくなるとは。
そして、当の怒りの矛先であるクンリと言えば。
「―――――だが断る」
このザマだ。煽りよる。
「……………死ね」
まるで弾丸。目視出来ない程の速さでクンリの間合いへと踏み込んだエレキは左手に収束した暗黒の炎を放たんとする。
対してクンリは人差し指を横にチッチッチッと振るうと舌を可愛らしくペロッと出した。
そこから飛び出した言葉は。
「それも断ります」
火に油を注ぐ職人か何かなんだろうか、この女。
「私はこれからアナタを倒す為に作戦を練らねばなりませんので」
そう言ってクンリは足下に生成された陣に飛び乗ると、まるで魔法の絨毯の様に空を飛び回り、エレキからあっという間に距離を取ってしまう。
まさかあれはこの間俺が乗ろうとして爆発してしまったやつでは、と思考するがその暇すら与えられなかったみたいだ。
クンリはその勢いで俺のところまで来ると俺をかっさらい、突如として開いた光の裂け目に身を投げた。
既視感のある眩い光に視界が埋め尽くされ、ホワイトアウト。
「―――必ずだ!!必ず貴様達を見つけ出し、惨たらしい死をくれてくれる!!それまで隠れ!怯え!いつ来るかも分からぬ死に恐怖しながら指をくわえて待っておれ!!」
最後に聞こえたのは、エレキのそんな酷く憎悪の混じった怒号だった。
なすびのおしり。




