第6の試練・呪生の狂魔獣
もう誰も見てない…よね?|ω•̀ )
頑張りましたよ、僕!!(遅いけど)
◇
「«閃花槌迅撃»!!」
赤い光を纏う黒桜をライリアルへ投擲し、着弾と同時に爆発。
その爆発はまるで花を連想させ、奇しくも名前通りの技となった。
黒桜はそのまま手元に帰ってくるしこれは芸術点が高い。
「うボぁアアああァアぁあぅウぅううゥウルるるるるルッッ!!」
部位が欠損する程の攻撃を受けたライリアルは抉れた肉塊の再生を行いながらその大鎌を俺へと振るう。
勿論、理性のない攻撃等今更食らってはやらない。
尽くを回避し、オマケに黒桜で大鎌を殴り付けて少しヒビを入れてやる。
「アダっ、あだべ、ァだべれレ!!」
「ほらどうした!遊んでるだけならもう1回あのワザ行くぜ?」
「やらァああああああぁアアぁァっ!!」
「«千華終迅撃»」
さっきの技を強化し、放つ。
ワザの応用編だ。名前を与える事で効力を発揮するのなら、少し意味を変えるだけでまた違ったものへと変質するハズ。
そして目論見通り、投擲した黒桜はライリアルに着弾すると今度は爆発を起こさずに様々な方向よりまるで意志を持つかのようにライリアルへ猛攻を仕掛け、最後に連鎖爆発を起こして帰ってきた。
「やり過ぎちまったかな」
「――――そんな事、ない」
「…え?」
爆発による煙幕を掻き分け突然現れた謎の少女に思わず間抜けな声を出してしまった。
いや、厳密に言えば謎の少女ではない。
大鎌を片手に俺へと歩みを進めるその少女の容姿には見覚えがある。
「ライリアル…君なのか?」
「ん…そう」
「その姿は…」
確かにその少女はクレジアに諭されて人に戻った時と何ら変わらない姿をしている。
だけど何故、このタイミングで突然人に戻ってしまったのか。
純粋な疑問だった。
「あなたの、おかげ。私、あなたに負けたくないって思った。そしたら、こうなった」
「ええっと…原理全然分かんないけど、とにかく何がなんでも勝ちたいって想いが君を人に変えたんだな?ビーストモードでは勝てないと本能が知ってしまったから」
「癪、だけど、そう…私、勝ちたい。クレ兄倒したあなたと、純粋な力で、戦いたい……そう、心から想えた」
ライリアルが俺の前で立ち止まり、見上げてくる。
こうして見ると少し幼い気もするが、一体いつからこの場所にいるんだろう。
どれくらいの時をここで過ごしたんだろう。
知る由もないし知ったところでどうしたと言った感じだが。
「そいつは光栄だ。それじゃあ、戦う前に一つだけ謝らせてくれ。さっきは化け物だのなんだの酷い事言って悪かった、ごめん」
「ん、いいよ。事実、化け物だった。私も、あれは嫌いだった」
「そ、そうなのか…」
「もう、いい?戦いたくて、うずうず…」
「ああ、そうだな―――――やるか」
「ん」
もう口では多くは語らない。己の得物を通じて語り合う。
換装を解除し、勇気を解放した俺は元の剣へと戻った黒桜を構える。
勇気全力解放―――――!!
「先手必勝」
お互いその場で得物を振るえば十分に当たる距離。強者が殺す気で攻撃すれば回避はまず不可能だ。
先手を取ったライリアルが大鎌を常人では捉えきれないであろう速さで無造作に振るう。
しかし、そんなものに当たってやるつもりはない。
後方に飛び退き、着地と同時に黒桜の柄を両手で握り、肩に担ぐ様にして構える。
「…勇気・剣技転用」
黒桜の刀身が黄金の光に包まれ、眩く輝きを放つ。
「―――――«嵐壊閃光»!!!!」
それはまるで天をも穿つ閃光。
雲を裂き、木々を吹き飛ばして地面すら抉る必殺の一撃とも言えよう斬撃がライリアルを襲う。
ライリアルはそんな攻撃すらものともせず、ただその場を動く事なく大鎌で応戦する。
「«ブレンデス・デリバリー»」
たったの一振り。
それだけで光の斬撃は霧散し、消えていく。
「マジ…?」
「まじ。壊すのは、得意」
「そうかよ…だったらこいつはどうだ!」
複合換装・剣獅子×槍騎士。
ライオットの時は殆ど活躍させられなかった全身鎧の姿になった俺は大薙刀型になった黒桜を地面に突き立てた。
「«炎箱»!!」
青き炎が正方形を描く様に地を駆け、俺とライリアルを炎の障壁に閉じ込める。
ただの障壁であれば軽く飛び越えられるだろうが、それを考慮してこの炎の障壁は際限のない高さにしておいた。
俺ですら高さは分からない。恐らく空を飛ばない限りはここから脱する事は出来ない。
そして、俺のワザはこれで終わりではない。
「«残炎»!!」
よくもまあスラスラと恥ずかしい技名を叫べるもんだ。
突き刺したままの黒桜からグツグツと煮え滾る炎が溢れ、やがて床一面を溶岩地帯へと変貌させる。
ユリウスと戦ったステージを彷彿とさせるが、1つ違う点と言えばそれは足場が存在しない事か。
「やば…ブレンデス―――」
「もう遅いぜ」
嵐壊閃光を消したワザを使おうとライリアルが大鎌を振りかぶったその時だ。
辺り一帯を巨大な影が覆ったのは。
「―――――«終火»」
世界を終焉へと導く最後の火。
そう言うものをイメージして解き放った俺のワザの正体は、超巨大隕石だった。
中央に刺さる黒桜に導かれる様に迫り来る隕石は、ワザを放とうとしたライリアルの動きを止めるには十分過ぎる効力を発揮した。
逃げ場はない。壁も作った。地面もダメージ床になった。空は隕石。
残るは、ただただ死を待つだけ。
「…負けない」
だが、ライリアルは諦めなかった。
燃え盛る炎に焼かれながら、彼女は隕石に勇敢にも立ち向かう。
恐らくブレンデス・デリバリーとやらで掻き消すつもりなんだろう。
そして、それは可能かつ成功を収める筈だ。
「«ブレンデス・デリバリー»…!!」
「やると思ったよ」
「えっ…?」
見事に隕石は断ち切られ、まるで元から何も無かったかの様に消えてしまうが、元より俺の本命は終火ではない。
換装を解除するとともに滞空するライリアルへ跳躍して接近を果たした俺は、元の剣に戻った黒桜を鞘に収める。
「黒桜剣術・黄金ノ太刀«雷鉄剣»」
換装ではなく純粋な力としてライオットの全能力を刀身に篭め、抜剣。
雷の如く。
最早爆発に近い轟音を響かせ、不規則な軌道で宙を舞い、中心に位置するライリアルを何度も斬り付ける。
勿論、優れた技量を持つライリアルは咄嗟の判断で大鎌の柄で黒桜を受け止めるが、即座に離れて次の瞬間には死角から追撃を放つこの連続技に為す術なく、徐々にその若く柔い肌に切り傷を増やしていく。
「――――ッ!!!!」
そして、ライリアルの頭上から地上にかけての一閃、落雷の如く一撃。
この一撃が、ついに勝敗を決した。
一息吐き、空を見上げるとそこには漂う光―――ライリアルの姿が。
『ここまで完膚なくやられたら、文句言えない…』
「どうやら俺の方が上手だったみたいだな?」
『悔しいけど、そう…でも、楽しかった』
「そっか」
『うん…じゃあ、次で最後だから、気を付けて』
彼女は私達の中でも、ずば抜けて強い――――その言葉を最後に、ライリアルは一際大きな光を放ち、粒子となって俺へと宿った。
これで6人目だ。今度は何を見せてくれるんだろうか。
意識が、巡る。
◆
まず最初に言っておくと、私の記憶はクレ兄…クレジアと同じ人生を歩んだものだから省略させてもらう。
掻い摘んで、これから私が語るのはセスタランドに来てからの記憶。
実は私の呪生は、化け物への変貌してしまう他にもう1つ。近くにいる生き物の内面、所謂記憶や感情、心が勝手に流れ込んで来てしまうと言う便利なのか厄介なのか分からないものがある。
そのせいで、私の心はとても傷付きやすかった。
言葉以上に内に秘めたる人が人である以上心に押し留めておくべき言ってはいけない言葉がダイレクトに聞こえてしまうからだ。
それを今回の戦いで克服出来たのは僥倖、と言ったところだけどまあこの話は別にいいだろう。
本題に入るけど、私はこの呪生のお陰で七英雄になる以前の七神将の記憶を知る事が出来た。
この事は多分セスタ…じゃなくてエレク・トロルと呼べばいいのかな?―――略してエレキには知られていない筈だ。
それを今から君に伝えたいと思う。伝えてどうこうなるって話じゃないけど、きっと皆も君には知っておいてもらいたいと思う。
とは言え、既にルナの記憶は知ってるみたいだから、今から話すのはユリウス、アリアナ、ライオットの3人だけ。
クンリは私の呪生を持ってしても何も分からなかった。
何故、どうしてエレキに従っているのか。一切の情報を得られなかった。
感じられるのはただただ深い闇のみ。なんか、普通に不気味だった。
そうこう言ってるうちにタイムリミットも迫ってるみたいだから簡潔的に3人の情報を流す。
まずユリウスだけど、彼は異世界の剣士だったらしい。
悪名高き竜を斬り、悪名高き鬼を斬り、悪名高き巨人を斬り…腕っ節だけで世界を何度も危機から救った正真正銘の英雄だった。
しかし、人々はそんな有り得ない膂力を振るうユリウスを不気味がり、恐れ、何時か自分達も殺されるのではないかとある事ない事で彼を糾弾し、挙句の果てに辺境の誰も立ち寄らず、落ちれば二度と日の目は見れないと言われる断壁谷の奥底へと追放してしまった。
世界の為に戦った筈なのに竜や鬼、巨人以上に畏怖すべき存在とされ、実質裏切りにあった彼はそれでも、人々の幸せを願って断壁谷の底で絶望的な生活を送ったと言う。
次にアリアナ。彼女もユリウスと同じく異世界から来た存在だった。
ユリウスとはまた異なる世界で水の精霊と呼ばれる精霊族・水タイプのお転婆な女の子だった。
そんなアリアナはある日、水の精霊界の維持に必要な結晶体・アクアストーンを壊してしまい、他の精霊達から非難を受けた。
本当ならば追放、もしくは処刑モノなんだけど、水の精霊王の慈悲により、ひと月以内にアクアストーンの修復が出来れば全ての罪を許すと言われ、一旦追放状態となった。
アリアナは精霊王の呪いにより人の姿を得て、地上の何処かに存在するどんな物でも直してしまう伝説の修理屋を探す為に過酷な旅に出る。
水の精霊の中でも精霊王に次いで強大な力を持つアリアナの前では阻む敵など眼中に在らず、あっと言う間に蹴散らして徐々に伝説の修理屋の住まう秘境へと足を運んでいった。
その道中、誰もが認めるイケメンと出会い、彼女は初めての恋に落ちてしまう。
精霊が人とくっつくのは精霊界の法で禁じられているが、火が点いたアリアナはどんどんイケメンとの恋に落ちていき、ついに交わってしまった。
幸せの絶頂に浸り、翌朝目を覚ますとイケメンは綺麗さっぱりいなくなっており、同時にアクアストーンも失ってしまう。
そう、イケメンはアクアストーンを目当てにアリアナに近付いた盗人だったのだ。
慌ててアリアナは盗人を追い掛けるも、法を破ってしまったアリアナに呆れた精霊王が呪いを解いてしまい、彼女は地上で精霊へと戻ってしまう。
地上ではマナが足りず生きていけない精霊。誰かと契約すれば話は別なのだが、そんな契約をしてくれそうな知り合いは何処にもいない。
絶望と、初恋を踏み躙った挙句アクアストーンを盗んだイケメンに怒りを抱きつつも、アリアナの命は刻一刻と削られ、死も間近に迫る。
そこに現れたのは…。
最後にライオットだけど、彼もまた異世界の住人だった。
他の2人と違うところはただ純粋に闘争を望み、世界最強に至って暇をしていたところをスカウトされた根っからの戦闘狂だった事か。
最強に至ったは良いものの、強い者が現れず、自分が望む対等な闘争が出来ない為、世界に対し絶望していたとか。
―――この通り、3人とも理由は違えど絶望したタイミングで声を掛けられている。
何故異世界の住人ばかりなのかは分からないけど、私が得た3人の情報はこんなものかな?
七神将の頃はまだエレキに改竄されていなかったからこれは偽りの記憶じゃないって保証する。
とにかく、ここから先は気を付けた方がいい。
クンリは絶対に裏に何かを隠し持っているし、エレキだってそう。私の力では目的を暴く事は出来なかった。
辛うじて分かった事はエレキが本気で神になろうとしている事、そして勇者を利用して何かを成し遂げようとしていた事のみ。
後者に関して未だに継続しているかは分からない。くどい様だけど本当に用心して。
…もう時間かぁ。私から話せるのはもうこれくらいかな。
せっかくまともに話せる普通の人だったのに、もうおしまいかと思うと寂しくなるけど…。
後は頼んだよ、頑張って。
◇
「―――――いせ、かい?」
全員主人公級のエピソード持ってて俺の冒険(笑)が霞んで見えてくる。
そもそも異世界って何だ?なんで俺のいる世界でさえこんなに広くて迷いやすいのに別の世界があるんだ?
異世界にはどうやって行くんだろう。なんか複雑な道とか通って行くんだろうか。
一本道がいいな、迷わなくて済むし。
でも異世界に行ったら今の世界の何倍も迷うんだろうな。完全に知らない場所だし。
と言うかなんで行く体で話してんだよ。行かねーーよばーか!!
「なんかスケールでかくなってきたな…勇者を利用した陰謀だ?誰がいい様に使われてやるかよ」
最後の鍵を握るのはクンリか。
ライリアルですら分からなかったあいつの記憶次第で俺の方針が決まる。
エレキをどうするか、七英雄をどうするか。
俺自身が、どうしたいのか。
「はぁ…家に帰りたい……」
そんな嘆きさえも許されない選択の時が、迫って来ていた。
もう迷っている暇はない。
遅延型お急ぎ便