第3の試練・雷鉄の拳獣
また月を跨いでしまったのか…申し訳ない…!
あ、あと感想色々とありがとうございます!なんか皆レイが不幸になることを望んでて流石に草ァ!!
と言うわけで試練終わるまであと半年くらい掛かりそうですがどうかごゆるりとご愛読下さいませ!(震え声)
◇
どうも皆さん。たった今轟音と共に雷が劈く山を吹き飛ばし、留まる事を知らずにそのまま次なる目的地である山の麓の樹海に絶賛急降下中の隕石野郎、聖月レイです。
なんでこうなってるかって?俺も聞きたい。
多分飛ぶのが速過ぎたんだろうけどもうこれは速いの域を越えてしまっているのでは?
『―――――え?は?俺様の出番もう終わりかヨ!?』
山を吹き飛ばした辺りからずっと俺に並走してくる光が今ようやく現状を理解したのか、マヌケな声を出す。
「誰?」
『テメェこそ誰だ!?俺に何をしやがった!!』
「それが俺にもよく分からぶぇぶるぁばーーーっ!!」
地面に突き刺さった。突き刺さったと言うか埋まった。
足首から先が辛うじて地面から生えてる程度の深さまで。
何やら既視感を覚えるが声も出せないから誰かが救助に来るまでここで待機しなければいけない。
もしかして詰んだこれ??
「んーーーー!!んーーーーーーーー!?!?」
今出せる最大の呻き声を出してみたりするが一向に誰かが来る気配もなく、それからかなりの時間が経過する。
しつこいようだが誰も来なかった。
「んんんー!んんんん!!」
気持ち、換装!槍騎士!と叫んでみる。
落下の衝撃で換装が解けていたので再換装してなんとか脱出を試みようと思う。
換装の利点は何度でも使える事だ。疲れないし寧ろ力が漲る。
取り敢えずこのままでは何も進まないのでアリアナの水の力を借りてみる事にした俺はまず自分の周囲に軽く水を放出して土やらで構成された地面をふやかし、身動きを少しでも取れる様にする。
そこからは単純に、水圧で俺を推し出す。
命名、ジェット噴射。
イメージ的には頭頂部辺りから水をロケットの様に噴射させる感じだ。
「ん?ん?ん?ん?ぉ?お?おおっ!?出れた?出れたぞ!!」
徐々に体が推し出され、やがて地上に出た俺は水の噴射を止め、軽やかに着地を決める。
少しアクシデントに遭ったがこれにて一件落着した訳だ。
安堵していると近くに浮遊していた光が明らかに呆れを混ぜた溜め息を長く吐く。
『やれやれ、何やってんだかこいつはヨ…』
「誰?」
『テメェこそ――――ってこの下りはもうやったか?いや、何でもいい。まずテメェが名乗れや!』
「俺は聖月レイ。何気にアンタらに名乗るは初めてだったかな?」
『ってーと…そうか、テメェがセスタの野郎の言ってた今回の勇者かヨ?』
「一応そう言う事になってるな。じゃ、今度はアンタの番だぜ」
名乗らせたからには名乗ってもらわないと困る。
七英雄である事に違いはないと思うけど流石に知らずに倒しちゃったってのは可哀想だ。
『聞いて驚くなヨ?俺は七英雄の中でも最も強くて危険と噂されるかの有名な拳闘士―――雷鉄の拳獣の二つ名で知られる«ライオット・アグバスカ»様だ!!』
「へぇ」
『んだその反応はヨ!?鼻くそほじんの止めろ!!殺すぞ!?』
よく分からないうちに瞬殺してしまった奴が最も強いとか言われても実感湧かないし信じられない。
七英雄である事は確かなんだろうがそれでも今までの奴らと比べたら圧倒的に力不足に感じてしまう。
「殺すって言ったってアンタ今実体ない訳じゃん?話になんないね」
でっけぇ鼻くそを遥か彼方に飛ばしてライオットであろう浮遊する光を一瞥する。
「まあ?復活出来るなら話は別だけど??」
『テメェ…分かってて言ってんな!?こうなったらテメェの使命が終わるまで元には戻さねえってセスタとの約束なんだヨ!!』
御託はいいからとっとと俺に力を貸して欲しい。一刻も早く帰りたいんだが。
「あんな負け方して不服ならセスタに戻してもらえば?それなら戦ってやるよ」
『憎ったらしい奴だなテメェ!戻してもらえるなら戻してもらうっつーの!!あークソ!せめてルナさえいりゃあ復活出来んのにヨ…!』
ライオット弄りで暇を潰していると不意に足音と気配が俺達に向け接近している事に気が付いた。
数は1人。尋常じゃない力を感じられる…と言う事は七英雄だろうか。
『あ?この気配……へっ!早速運が回ってきたようだぜ』
「それってどう言う……」
「―――――何やら騒がしいと思えば、例の新勇者とライオットではないか?」
草木を掻き分けて現れたのは、着物と言う日本等で扱われる衣装を着こなした銀髪の女性だった。
日本って何処にあるんだろうか。
言われても分からないけど。
「あ、どうも。勇者らしいです」
ペコリと一礼。雰囲気がお偉いさん過ぎて自然としてしまう。
そんな俺とは違い、ライオットは速攻女性に駆け寄り何か抗議し始めた。
「―――なるほど、事情は把握した。そう言う事であるならばセスタ様より1回復活権を授かっておる故、私のワンタイムライフでお前を一時的に復活させてやろうではないか」
そう言うと女性は通称指パッチンを得意げに鳴らしてみせる。
俺鳴らせないんだよなあ。
「ふっかぁーーーつ!!やっぱ生身は馴染むぜ!!」
何度も鳴らない指パッチンの空振りを続けているといつの間に復活したのか、恐らくライオットであろう金髪のツンツン男が叫び散らかしていた。
余計にうるさくなった感じが否めない。
「相変わらず騒がしい男であるな…よいか、ライオット。2度目はないぞ。故に存分に本気を出して戦うがよい」
「ああ、解かってんヨ!ルナ!」
暫定ライオットが拳と拳を力強く叩き合わせると同時に消え失せていた黒雲が空を覆い尽くし、轟音と共に落雷がライオットへ降り注いだ。
「お、おい!流石に死んだだろ今の!?」
思わずそう叫ばずにはいられない程にド迫力な光景だ。
ルナに今の言葉を投げ掛けたのだが気付けばルナの姿はなく、ただただ俺とライオットが戦うだけのステージがそこに用意されていた。
森と雷とか災害にしかならないのでは、と言う考えはすぐさま拭い消し、今はただ目の前の男を倒す為に戦いのスイッチを入れる。
恐らく一筋縄ではいかない相手だ。
もう茶番は必要ない。
「―――なるほどそう言う事か…!雷は、力でしかないって訳だ」
「ご名答だ!そんじゃ、始めるとするかヨ?」
落雷に直撃した筈のライオットは逆にその雷を全身に帯び、色々な意味合いでも近づき難い雰囲気を纏っている。
「当然、待ったも手加減もナシだ。俺も全力で行くぜ」
「どっちが先とかねえ―――同時に!!」
「―――いざ!!」
「「勝負!!!!」」
第3の試練、開始。
黒桜を抜剣した俺は換装抜きでライオットへ斬り掛かる。
それをライオットは素手で受け止め、電光石火の如く帯電した脚で俺の横腹に鋭い蹴りを放った。
目にも留まらぬ速さに躱しきれなかった俺は為す術なく吹き飛ばされる。
「ぐあああっ!?」
横腹から全身に巡る様に流れる電撃。
その痛みに喘ぎながら俺は大木に打ち付けられる。
生半可な攻撃では、文字通り雷そのモノのライオットには届かない。
もっと力が必要だ。
「換装、槍騎士!!」
「アリアナの力…!新勇者はそう言う力の使い方すんのかヨ!反則だろそりゃあ!!」
「それでも負ける気はしないんだろう?」
「―――ッたりめぇヨ!!」
なんとか立ち上がり、槍騎士を纏う。
最早槍と化した黒桜を一度薙ぎ、構え直す。
その一連の動作が馴染む事を確認した俺は既に目前に迫るライオットの拳を敢えて紙一重で躱す事を選択し、通り過ぎる瞬間を目視でしっかり見届けてから黒桜で刺突を放った。
直撃の感触はあった。だが、貫けはしなかった。
「ケッ…中々やるぜ…!」
「今ので貫けなかったのか…!」
「ハッ!!雷に水が効くか…?普通ヨ!」
「属性とか関係してくんのかよ!それなら…!」
一度距離を置き、換装を解いた俺は叫ぶ。
「複合換装、槍騎士、剣獅子!!」
複合換装。殆ど思い付きだが出来ると言う確信がある。
力の使い方は、俺自身が本能で理解しているからだろう。
やがて炎と水は渦を巻き、俺を呑み込む。力が混ざり合い、1つに溶け合っていくのが感じられる。
これなら、行ける。
「待たせたな、これで―――――対等になれたか?」
ライオットですら俺が動いた事に気付けなかった。
それだけの速度で俺はライオットの背後に回り込み、力に任せて得物を振るう。
「ガッ――――!?!?」
「おっと悪い!もっと手加減した方が良かったかな??」
鮮血を散らし、倒れ伏すライオットを前に新たな衣装、青い全身鎧に身を包んだ俺は軽口を叩きつつ、変化した得物を肩に担ぐ。
それは、一般的に薙刀と呼ばれる武器であった。
――――刀身が大剣と言う部分を除いては。
柄と刀身がほぼ同じ長さのそれは槍騎士の槍と剣獅子の大剣が合わさった、普通ならば存在し得ない膨大な力と膨大な力の合成物。
その一目見て危険な武器を、2つの換装によって尋常ではないレベルに膨れ上がった力に任せて振るったとなれば流石の英雄と言えども立ち上がれはしまい。
高を括った俺は気を抜いて軽口を叩いてしまった。
瞬間、稲妻が俺を襲った。
「ぐっ!!」
「……な、に、勝手に終わらせようと、して…んだヨ?」
「チッ、流石にしぶといか…!」
「俺はま、だ……終わってねえぞ――――!!」
再び、落雷。既に周囲の森は度重なる落雷により轟々と燃え盛っていて収拾がつかなくなってきている。
全焼しても後で請求されないか一瞬脳裏に過ぎったがこの際どうでもいい。
やったのはライオットだし最終手段として槍騎士の力でなんとかなるだろう。
今はただ目の前の勝負にケリをつけよう。
「なら、これで終わらせるとするか」
黒桜の刀身に触れて力を解放する。
刀身から噴き出るは蒼き炎。
火と水と両方の性質を持った複合換装ならではの特殊な炎だ。
念じれば燃やせるし、念じれば火も消せる。
「上等、だ!!どっちが上か…思い知らせて、やる、ヨ…!!」
でもこれだけでは足りない。もっと、ありったけの力を。
俺自身の力を上乗せする。
怒りによるデタラメかつ瞬間的なものではなく、正当な制御による常時保つ事の出来る持続的な力を。
今まで怒りの力に頼り過ぎていた部分がある。克服しなければ、真の意味で強くなれたとは言えない。
今ここで、次のステップへ踏み出す。
限界を超えて、その遥かなる高みへ。
子供の頃夢見た、いざと言う時に皆を守れる様な人になる為に。
呼び起こされる過去の記憶。長らく忘れてしまっていた、強くなりたい、守りたいと言う強く、そして熱い想い。
◆
勇者誕生の地・ヴェクトリッヒ、広場にて。
「――――あのさ!俺、すげー強くなりたい!」
「えー?急にどうして?どうしてそう思うの??」
「だって、強くなくちゃ皆を守れないだろ?」
「何から守るつもりなの?」
「何って…んーと、悪い奴とか、人を困らせる奴とか!」
6歳当時。争いもなく、魔物に襲われる心配もなかった村で俺は1人だけ、何故か強くなって皆を守ると言った使命感に駆られていた。
何かに憧れた訳でもなく、いつの間にか存在していた感情だ。
その感情は15歳になるまで俺を突き動かし、村で何か起これば率先して動き、日々鍛錬に励んだり、魔物を退治しようと村を出ようとした事もあった。
だけど当然、村の皆は「お前にはまだ早い」だの「方向音痴のクセにどこへ行くつもりだ」だのと俺を引き留め、挙句には拘束されて倉庫に一晩放り込まれた時もあった。
そうこうしているうちに15歳になった俺は不意にこの強くなって皆を守ると言うこの感情が何処から来たのかも分からない異質なモノである事に気が付き、スエナや村の皆に相談して結果、思春期によくある事と片付けられて当時の俺はすんなりと納得し、黒歴史として記憶の片隅に追いやってしまった。
俺の体感としては5年越し、世界的には10年越しに呼び起こされたこの想いは恐らく、勇者としての本質だったんだろう。
強くなって皆を守りたい。
守る為には強くならなくてはいけない。
強くなるには、日々鍛錬あるのみ。
過去に積み重ねてきた鍛錬の日々と、村を出てからの戦いの全てが実を結み、俺を勇者たらしめる。
例え勇者の血筋が俺を強制的にそう想わせていたのだとしても。
例えこの想いが偽りの想いだったとしても。
俺はこの想いを無駄にしたくはない。
先祖が代々受け継いできたこの誇り高き勇気を、手放したりはしない――――!
◇
「―――――な、んだ、そりゃ…!?」
内から溢れ出る勇者としての俺の力。視認出来るまでの黄金の闘気が外に漏れ出し、場にいる者を圧倒する。
勇者の本質が生み出す感情から因んで俺はこの力に、勇気と名付けた。
さて、随分待たせてしまった気がするが、そろそろ決着を着けるとしよう。
溢れ出る勇気を好きに解放し、俺は黒桜を納刀した状態に構える。
「勇気限界突破―――――聖月流抜剣術其ノ弐«覇牙月煌武神撃»!!」
「チッ、手加減なし、かヨ!!«デストロイ・ラインボルト»!!!!」
ライオットがそうはさせまいと破壊の電撃を放つが、勝敗は既に決まっている。
――――今の俺は、誰にも負ける気がしない。
蒼炎を纏う黒桜を流れる様に振るい、ライオットを中心に捉えて一撃、二撃と目の前の空間を斬り裂いていく。
そうして計八撃にも至る斬撃は、電撃を消し飛ばし、離れた場所にいるライオットまでも斬り裂いてしまった。
ガキの俺曰く、遠くからでも狙ったモノを斬れる技らしいが、今の俺が使うとここまでとんでもない技になるのか。
斬撃を飛ばすまでもなく、遠くから直接敵を斬る。
恐ろしい技だ。
それにしても技名はもっと何かあっただろうに。名前と実際の技の差が激し過ぎる。
兎にも角にも、俺はこうしてライオットとの勝負に見事勝利し、第3の試練を乗り越えたのである。
今回はレイのちょっとした過去で幕を閉じます!ライオットの過去は次回の冒頭で!
え?長いし要らない?もおおちょっとだけお付き合いしていただければ嬉しい所存であります!!




