第1の試練・業血の剣獅子
楽しく描かせてもらいました!
珍しく早い投稿にビビらないで下さいね!
◇
「―――ななな、何だこれぇーーーー!?」
絶賛、大驚愕中。しばらくお待ち下さい。
「ワッハッハッ!驚いてくれたみたいで儂は大変満足だ!」
隣で愉快そうに笑うセスタ。驚く俺。
さらに隣で愉快そうに見ているクンリ。驚く俺。
誰が予想しただろうか。セスタに案内されて俺がやって来たのは第1の試練が行われると言う場所。
その名も――パニック溶岩湖!
「第1の試練って感じじゃねえ!ほぼラスダンだぞこれ!?」
「言ったではないか、厳しいものになると」
「だからってこれは厳し過ぎだろ!10段階で言ったら10!!」
「つべこべ言わずに行け!既に試練は始まっておるぞ!」
突然始まった第1の試練。
背中を蹴られてとうとう俺はパニック溶岩湖に足を踏み入れてしまう。
軽く説明しよう!パニック溶岩湖とは!
瞬間移動して来たから正確な位置は分からないけどセスタランド内にある火山の麓に存在する超巨大な溶岩湖で時折火口から大量の溶岩が溢れだしてきてとても危ない場所である。
何より暑いし熱いしこれからこの溶岩湖の上にプカプカと浮かぶ足場でこれから行われる頭のおかしい試練を乗り越えなければいけないと思うと気が遠くなってくる。
何やるかまでは聞いてないから分からないけど。
「儂はこのままクンリに魔法を教えねばならぬのでな!また最後の試練の時に会おうぞ!」
セスタはそう言うとクンリを連れて瞬間移動して消えてしまった。
独り残される俺。
誰が試練担当してくれんの?
「ここで何するって言うんだよ…」
「そいつはだな…」
「どわぁっ!?」
「おっと危ねぇ!」
急に背後に現れて当たり前の様に喋り始めた男に驚いて危うく溶岩湖に落ちそうになると、男は間一髪のところで俺の腕を片手で掴んで助けてくれた。
すげえ力だ。
「驚かせちまったみてーだな、悪ぃ悪ぃ!」
ニカッと笑う赤髪の青年の名前は知らない。誰だこの人。
「えっと…アンタは?」
「俺は七英雄が1人、業血の剣獅子«ユリウス・ハルクレド»だ。よろしくな!」
「し、七英雄…それってセスタ、様が言ってた……まだ生きてんのか!?」
「死んだ様なもんさ。ここにいる七英雄は皆、とっくの昔にな」
一瞬悲しい目をしたユリウスはすぐにパッと明るい表情に戻ると俺の肩に腕を回してきた。
この男、赤髪好青年な成りして割とガッチリとしている。
身長なんかも190前後はあるんじゃないだろうか?
「それはそうと!第1の試練は俺が相手するから改めてよろしく頼むぜ!えーっと、名前は何って言うんだっけ?」
「聖月レイだ、こちらこそよろしくな」
「レイか!いい名前だ!じゃあ早速だが―――手合わせ願おうか?」
殺気。咄嗟にユリウスから距離を離し、腰に提げた黒桜に手を掛ける。
殆ど死の危機に対して反射的に動いただけだった。
それ程までに、重圧なモノだった。
一瞬で嫌な汗が吹き出し、今もまだ心臓が激しく救難信号を送り続けている。
「おうおう!割とイイ動きするじゃねーか!反応出来なかったら斬り伏せるつもりだったんだがよー!」
いつの間に持っていたのか、ユリウスが軽々しく回して肩に担いだのは真っ赤な刀身の大剣だった。
「おいおい、マジかよ…もしかして第1の試練って」
「その通り、この狭くて足場の悪いフィールドでの死闘…それこそが俺が課す第1の試練だぜ!」
「へ、へへ…!冗談キツイな…!!」
ユリウスは本気だ。本気で、俺を殺すつもりなんだ。
手は抜けない。いや、抜ける筈がない。
ユリウスがどんな英雄だったのかなんて想像もつかないけど、手を抜いて戦える様な相手じゃない。
全力だ。持てる力を全て出し切って戦うしか生き残る方法は――ない!
「悪いけど、手加減は出来ないぞ…!」
「ハッ―――ったりめぇだ!!」
戦いの火蓋は切られる。
黒桜を抜剣し、1本足を踏み出した俺の目の前には既にユリウスが迫っており、今まさに大剣を振り下ろそうとしている。
「させるか、よっ!!」
こいつが聖剣である事を信じて、受け止める――!!
「へー、やるじゃねーか!!」
「ここでくたばってちゃ…家にも帰れないんでな…!」
だが、重い。
予想はしていたものの、ユリウスの一撃は今にも押し潰されそうになるくらい重かった。
全力で競り合ってはいるが、いつ負けても可笑しくない。
やられる前に、行動に出なければいけない。
「うぐぐぅぅ…!ぬぁらあっ!!」
鈍い音を立て、何とか大剣を弾き返す事に成功する。
まだ手に痺れは残っているが、休憩する暇はない。
「今度は俺から行かせてもらう…!」
「やれるもんなら、なァ!!」
―――――不味い!
咄嗟に飛び退いた直後だ。尋常じゃない揺れが足場を襲った。
発信源は、やはりユリウス。
大剣を、軽々しく足場に打ち付けているのだ。
何度も何度も。何度も何度も何度も。
大剣を振り下ろしては持ち上げ、振り下ろしては持ち上げを繰り返している。
その速さは徐々に増していき、足場の揺れも刻々と酷くなる。
「クソ!なんて滅茶苦茶な力だ!」
「――おいおい、いつまで残りカス見てんだ、よっ!!」
「―――っ!?」
上だ。
いつの間にかユリウスは俺の頭上に移動していた。
では一体今足場を揺らしているのは――!!
「残像!?そんなのありか!?」
「使えるもんは何でも使わねーと、生きて残れねーぞ!!戦いを甘く見てんじゃねえ!!」
「ああっくそ!!化け物かよアンタ!!」
前転の強いやつで何とか回避すると俺はすぐさま黒桜を構えてユリウスの追撃を受け止めた。
「化け物?化け物か…あぁ、そうだ。俺だけじゃねーぞ!!他の七英雄の連中も!俺みてーに馬鹿げた奴らばかりだ!!つまりだな…俺に手こずってるようじゃ、魔王倒すなんざ夢のまた夢ってこったァ!!」
「ふざけんな、レベルの差があんだろうが!!」
だんだんこの理不尽さにも腹が立ってきた。
太古の七英雄だか太鼓の七味だか知らないけど、埋めようのない経験の差と言うものをもう少し理解して欲しい。
そもそも最初から言ってる通り、俺の目標は家に帰る事であって魔王を倒す事じゃない。
それはあくまで家に帰った後の今後の状況次第な訳で、とにかく早くこの試練とやらを全部終わらせて家に帰りたい。
ここ暑いし何処か分からないし。
ああそうだよこのタイミングでホームシックだチクショウ!
「ん…?おい、お前今何かしたか…?」
「何も」
「けど、だんだん押し返されて……っ!!」
「ああ―――この事か」
赤い光が黒桜の刀身に纒わりつく様に具現する。
「こいつはな……!」
そろそろ分かってきた様な気がする。
この光の発生条件が。この光は、この力は。
「俺の…!!」
身体の内で暴れ回る制御不能の止めどない感情の奔流は。
「怒りだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
怒りの奔流は赤き光となって解き放たれ、ユリウスを飲み込む。
それだけに留まらず光はそのまま聳える火山を削り、天を衝いて遥か彼方に消え去った。
気付けば周囲の溶岩湖は俺から放たれた光の余波で消滅し、足場も粉々に崩れてしまっている。
「ハァ……ハァ………やったの、か?」
とんでもない相手だった。大剣片手にあんなに動き回れる奴、どれだけ探し回ってもユリウスくらいだろうな。
「ユリウスは…?何処に……」
不意に、空から俺のものとは違う仄かに光る赤い球体が降りて来て、俺の胸に入り込んだ。
これは異物混入の内に入るんだろうか。
『よくやったな、レイ。お前になら、この力を託せる―――』
ユリウスの声が頭の中に響いたかと思えば、突然身体の内から力が溢れ出した。
同時に頭の中に流れ込んで来るユリウスの記憶と、得た力の名。
◆
俺は極一般の村に住む、人よりちょっと剣士に憧れを持った村人だった。
特に武の才能があった訳でもなく、頭が良かった訳でもない。
ただ、幼い頃に魔物に襲われていた俺を救ってくれた名も知らない剣士に憧れ、剣士を目指し始めたのを覚えている。
丁度20歳になった頃だ。
村が魔物の軍団に襲われた。
狙われた訳ではない。偶然、侵攻途中にそこにあったから襲われた感じだった。
当時は名などなかったが、後に魔物を統べる王―――魔王と名乗る存在となる人の形をした魔物の指揮官、«魔人エレク・トロル»の気紛れで滅ぼされたんだ。
情けない事に剣士を志していた俺は皆を守ろうと立ち向かったが魔物の軍団に一切歯も立たず、逆に村の皆に生かされて小国に逃げ込んだ。
悔しくて悔しくて、来る日も来る日も泣いて―――魔物共を心底憎んだ。
それからは人生の全てを憎き魔人エレク・トロルを殺す為だけに捧げ、剣士を志していた青年、ユリウス・ハルクレドと言う男は死んでしまった。
代わりに残ったのは復讐の為に剣を握る鬼―――業血の剣獅子と呼ばれるまでに至った哀れな1人の男だった。
名を馳せてしばらくして、魔人と何かしらの因縁があるロクデナシ同士が集まり、血反吐を吐きながら魔物を殺し回り、魔人のエレク・トロルの居場所を洗いざらい探しているうちに、結果的にそれが人助けとなり何時しか俺達は七英雄と呼ばれていた。
名誉も無ければ価値も無い。
魔物を殺す事だけが生き甲斐の俺達でも、チヤホヤされるのは嫌ではなかった。
しかし、事態は一変する。
俺達は長い時間を掛けてようやく魔人エレク・トロルを見つけ出すが、全員間抜けな事に奴の小癪な罠に掛かってしまい、操り人形と化して守りたかった人々を襲う様になったんだ。
丁度その辺りから魔人エレク・トロルは魔王を名乗る様になった。
それからどれだけの月日が経ったのかは分からないが、俺達は七英雄から一転、魔王の手先と呼ばれる様になった。
意識はあるが思考にモヤが掛かったような感じで、体の制御権を魔人エレク・トロルに握られていて抵抗する事も叶わない、もうダメだ―――そう思い始めた時だった。
1人の若者が颯爽と現れて目を覆いたくなる程の光を放ち、魔王を一瞬で消し飛ばしたのは。
彼の名は勇者セスタ―――伝説の勇者にして、俺達の英雄―――俺が、なりたかったモノ。
そして俺達は無事に魔王の支配から逃れ、恩人である勇者セスタと共に世界を見守る同志として外界を去り、セスタランドに身を置く事となったんだ。
◇
今のが、ユリウスの記憶…太古の七英雄の哀れな末路。
余りに壮絶な人生に気が遠くなりそうだ。
「そしてこれが、業血の剣獅子の力……」
今なら分かる。この力の使い方が。
ユリウスの記憶を追体験した事によってこの身によく馴染んでいる。
「使わせてもらうぜ―――換装・剣獅子!」
炎を全身に纏い、武装とする感覚。
具現した炎は不思議と熱くなく、寧ろ心地良ささえ覚えた。
炎はまるで俺に吸い込まれていく様に収まり、代わりに紅をベースにした衣装になった。
黒桜もユリウスが持っていた大剣の形に変化している。
ユリウスと戦い、記憶を追体験した事によって初めて目醒めた俺の新たな力、換装。
どうやら上手く成功したみたいだ。
「これは…ユリウスが導いてくれてるのか?次の目的地が分かる…」
衣装に付属しているマフラーが翼の様な働きをして体が空へ浮く。
まさか生身で飛べる日が来るとは思わなかったけど、これは便利だ。活用させてもらうとしよう。
次の目的地は、ここから遠く離れた場所に見える大きな湖だ。
「ちゃんと飛べるかな?」
多分飛べると信じて、俺は飛翔した。
尻叩きの達人(; 人 )




