勇者見習いとしてこれからお世話になります
おまたー☆
すみません、お待たせしました。
今回も短いと思うんですけど、どうかよろしくお願いします!
◇
俺が勇者だって?流石に勇者が誕生したって言う村に生まれたからってそれは飛躍し過ぎってもんだろ?
「マジで?」
「うむ、マジだ!」
マジかよ…。
「証拠にお主は聖剣を得ているではないか」
「聖剣…?」
もしかして黒桜の事を言っているんだろうか。そうだとしたら見当違いだ。
これは負の塊であって聖なる剣なんかじゃない。
………多分。
「これの事…じゃないよな?」
「それの事だ」
「え?嘘だよな?こんなのが聖剣??真っ黒だぜ??」
見た目からして魔剣そのものな黒桜を聖剣と言い張るには少し厳しくはないだろうか。
しかしセスタの表情は至って真面目だ。
セスタのこんな真面目な顔は初めて見る。初対面なんだから当たり前なんだけど。
「何か勘違いしておるようだな?聖剣とは勇者に不要である負を喰らい尽くし、それを糧に力を引き出す物。希望の光が闇を抱いていては話にならぬからの、剣が黒くなるのも当然よ!」
身に覚えはあった。
村を飛び出した時に落ちた大穴の中で、まさに負の感情全てを吸い出されたあの感覚だ。
「その様子から察するに心覚えがあるのだろう?」
「確か、大穴で…」
「そう、それこそが勇者にのみ呼応して現れる聖剣儀式の間…別名、アルバルド・ナラフ――太古の七英雄の名を冠した大穴だ!」
「アルバルド・ナラフ…?七英雄…?」
知らない言葉を並べられてクエスチョンが止まらない。
セスタの言う事全てが情報過多過ぎて頭が追い付かない。
「知らぬのか?最近の若者は皆こうなのか、クンリ?」
空気になり過ぎて最早いないのではないかと思われ始めていたクンリにセスタが声を掛ける。
まさかここで話し掛けられるとは思ってなかったのか私ですか?的な仕草をした後に口を開く。
「えっと、この人が特別疎いだけですね。ろくに教育も受けてないものと思われます」
ちょっと悪意のある言い方で腹立つなこいつ!
「なるほど!これは一苦労しそうだな!」
愉快そうにセスタが笑う。
確かに俺は世間知らずだが、そもそもどう言うわけか村では歴史に関する物等から必要以上に遠ざけられた生活を送っていたから余計にこう言った話はチンプンカンプンな訳だ。
そもそも俺が勇者だって言うなら教えてくれてもいいじゃないか皆!
「……あれ?」
ここで、1つ疑問が浮上する。
俺が勇者なんだとしたらあの日、俺達の村に訪れた勇者はなんだったのか、と。
「なあ…勇者って、複数人いるもんなのか?」
勇者と言うからには特別でなければいけない。名前の感じからして。
「それは有り得ぬな。勇者とは、魔王なる者が現れし時にヴェクトリッヒで産まれ、そして世界から選ばれし者だけが唯一なれる存在。決して誰しもがなれるわけでなく、もし外から勇者級の者が現れたとすればそれは勇者ではなく英雄と呼ばれる……」
途端に嫌な汗が背を伝う。
少し、動悸がする。余計な想像ばかりが脳裏を過ぎる。
駄目だ、考えるな。そんな事ある筈がない。
あの勇者が偽物だなんて、ある筈がない!
「―――どうしたのだ?」
「あ、いや、その…居たんだよあの日……勇者を名乗る男が…」
「何…!?それは誠か!?」
慌てた様子でセスタが俺の両肩に掴みかかる。
知っていたとばかり思っていたが、この様子から見るにセスタは恐らく今の世界がどうなっているか把握出来ていないらしい。
俺は戸惑いながらも何とか言葉を紡ぐ。
「確か勇者エレキって名前で、クンリに聞いて……ってそうだ、クンリ!お前そいつと旅してたんだろ!?」
またもや突然話を振られて呆然とするクンリ。
少ししてあっ!と思い出したように掌を打った。
「………あ、そうそうセスタ様。実は勇者を名乗る不届き者がいまして、勇者エレキと言う名前の…」
「今絶対忘れてただろ!?」
「そんなわけないじゃないですかータイミング見計らって伝えようと思ってたところですー」
わざとらしく口笛まで吹き始めやがった。
しかもヘタクソだ。
「…クンリよ、儂がセスタランドより外の事は魔王と勇者の存在以外把握出来ぬのは承知であるな?」
「はい。その為に私を外界に送り出したのも十分把握しています」
「…今、世界はどうなっておる?」
「正直、最悪ですね。本物の勇者はこの体たらくですし、偽物の勇者は魔王を討伐して以降、世間から姿を眩ませました。何より、魔王が死の間際に遺した呪いとやらで世界そのモノが変わりつつあります」
クンリの簡潔的な報告に少し考える素振りを見せるとセスタは深刻そうに告げる。
「……クンリよ、残念だが魔王は未だ健在しておるぞ」
「おっと……?」
「ちょっと待てよ。だったら魔王の呪いだとかそう言うのはどう説明するんだよ!」
「先程言った通り、儂は外界を覗き見る事が出来ない故、呪い云々についてはどうなっておるのかさっぱりだ。しかしな、儂とてかつて始まりの勇者と謳われた男……魔王の存在を認識する事は造作もない」
「じゃあ魔王は未だに生きてるってのか…?」
「間違いないだろう。何処にいるかまでは分からぬが…確実に魔王は生きておる」
本日3度目の衝撃の事実が俺の全身を駆け巡ってどこかへ飛んで行った。
「つまり勇者である俺が倒しに行かなくちゃいけない …」
「そう言う事だ。勇者しか扱えない聖剣の力でのみ、魔王を倒す事が出来るのだから」
「なるほどね」
ただ家に帰りたかっただけなのがとんでもない話になってきている事を自覚しつつ、1度冷静に考えてみる。
まずは勇者について纏めていこう。
そもそもエレキとやらが勇者なんてのは俺がいる時点でちゃんちゃらおかしい話で、それでもエレキは勇者一行を名乗ってヴェクトリッヒに訪れた。
クンリやキリエの話を聞く限り、勇者の仲間を名乗っていた者達は何らかの弱みを握られていたか、本気で魔王討伐を志していたかの2択になる。
キリエは恐らく最初こそは後者だったんだろうが性癖の問題もあり、勇者と体の関係を持ってしまった事もあり、結果的には弱みを握られた前者になるんだろう。推測でしかないけど。
クンリの場合は…ここに来てからの流れから察するにここから勇者を支えるべく送り出され、そして当時勇者を名乗っていたエレキの仲間に加わり、怪我して捨てられて今に至る。
正直クンリはお話にならない。
「…ん?そう言えばクンリって記憶が曖昧とか言ってなかったっけ?」
「ああ、それならアナタと1度別れた後、聖女キリエとビキニアーマー談をしている最中に全てを思い出しましたよ」
「ビ、ビキニアーマー談ってなんだ…?」
俺がいない場所で重要なイベント起こしてんじゃねえよ、と声を大にして言いたい。
それはさておき、偽勇者エレキが真っ当な勇者ではなくとんだクズ野郎だって事は把握出来た。
後はそいつを探して魔王云々を問い詰めるだけなんだが…。
「……にしても偽勇者は一体何処に消えちまったんだ?」
「勇者でない以上、儂でも感知する事は出来ぬな」
「それに関しては外界で地道に情報収集する他ないですね」
「うむ、それもそうだな!今はここで出来る事をやろうではないか!」
「ここで…?」
「もうお忘れで?そもそもここには力をつけに来たんですよ?」
そう言えばそうだった。色んな情報がいっぱいですっかり忘れてしまっていた。
今のままじゃ道中で殺られてお終いって言うんでクンリにここまで連れて来てもらったんだった。
「ああ、そうだったな。一刻も早く家に帰りたいし、その魔王ってのもどうなってんのか気になる。さっさと強くなって行かねえと」
「まあまあそう慌てるでない!ここの時の流れは多少、外界より遅いからの!」
多少じゃ困るんですけど…まあいいか。そう言うなら従っておこう。
「お主にはこれから8つの試練をこなしてもらう故な、ちと厳しいものになると思うのだが覚悟は出来ておるか?」
「……出来てるぜ。何でもドンと来い!」
そう、見栄を張って俺は啖呵を切る。
これから先に待ち受ける、試練の厳しさを甘く見て。
はなくそのみみくその小競り合い。




