連れてこられたのは先祖の隠居先だった
本当に、長い事お待たせ致しました。
話の構造を練り直してようやく最新話をお届けする事が出来ました。
出来たてほやほやなので冷めないうちにどうぞ!
◇
―――光が収まり、ようやく目を開く。
さっきまでの宿の景色とはうって変わり、そこは大自然に溢れた見知らぬ土地だった。
「ここは…?」
「ここはセスタランド。«大剣者セスタ様»が暮らす聖地です」
大きいと書いて剣と書いて者で大剣者です、とどこからか取り出したスケッチブックで説明してくれるクンリ。
字で見てもよく伝わらない。一体どう言う人なんだ?
「大剣者セスタってのは?」
「様をつけてください」
「ぬぉ!?危ねぇな!?」
避けてなければ即死んでいた一撃を紙一重にかわす。
操陣術はマジで殺傷力しかないからやばいって。
「えっと、そのセスタ様って言うのは?」
「こほん。大剣者セスタ様は言うなればあなたの御先祖様ですね」
わざとらしい咳払いと共に語られる衝撃の事実。
もう色々と頭の整理が追い付かない。
「俺の先祖?」
「はい。始まりの勇者セスタ。一般的にはそう語られていますね」
全然知らなかったんですけど!
お構いなくクンリは続ける。
「まあ、どうせ自分の村の事すら知らなかったあなたですから?そんなの存じ上げないでしょうが?」
「喧嘩売ってんのか」
青筋が脈動してやがるぜ。今すぐその薄ら笑いをやめろ。
「で、そのセスタ様とやらの名を冠したセスタランドなんかに俺を連れて来てどうしようってんだ?ってかどうやってここまで来た?」
「無知な者よ。その原理はこの紋章にありまする」
ふざけた口調で突き出された右手。掌には不可解な紋様が描かれている。
クンリの使う操陣術に連なるものを感じられた。
「これは?」
「大剣者セスタ様より授かりし術、ワンチャンステレポートです」
「わんちゃん…?」
「犬のワンちゃんじゃないですよ」
分かっとるわ!
「なにやらセスタ様曰く、魔法と呼ばれるものらしいんですが」
魔法。魔法陣と呼ばれる術式を介して超常を具現する限られた者しか扱えないものだ。
……あれ?何で俺はこんな事を知ってるんだ?
「ちょっと待て。それじゃあその魔法を使えるお前は…」
「そうです。選ばれし者ですね…って、あれ?魔法の説明、既にしてましたか?」
「いや、なんかこう、頭の中にふわぁって浮いてきた」
知らない筈の知識が勝手に記憶されている経験はこれまでも何度かあった。
コタツ然り、手榴弾然り。
まるで忘れていた記憶が思い出されるかのような、そんな感覚だった。
思えば俺が大穴に落ちた時、知識の奔流が頭の中に流れ込んでくるような体験をした気がする。
もしかすると何かのきっかけで待機状態になっていたその知識の一部が呼び起こされたのかもしれない。
そんな予測を立てていると草木を掻き分け、黒く長い髪を背中で束ねた美青年が現れた。
自分で言って悔しいがその見目麗しい青年は俺とクンリの顔を交互に確認すると世にも綺麗な笑みを浮かべ、納得された。
「おお、クンリよ!ついに見つけたのだな?この時代の勇者を!」
「あ、セスタ様」
「セスタ様!?この人が!?」
初代勇者でしかも俺の先祖と言うのだからしわくちゃなお爺ちゃんを予想していたんだが。
と言うかやっぱり生きてるんだ。
「ふむ、我が一族の面影はあるがやはり儂ほど美形ではないな!」
わっはっはっ!と愉快そうに笑うセスタに本日2度目の青筋を浮かべる。言い返せないのが悔しいね。
「さておきクンリ。お主がここに帰って来たと言うことはついに魔法の会得に成功したのだな?」
「はい、恐らく」
クンリが魔法の会得に成功したなんて話、初耳だ。
少なくとも俺と出会ってからは使ってる姿を見たことがないしクンリは自分で操陣術しか使えないと言っていた。
「どう言うことだ?魔法ってもんをクンリは使えたのか?」
「そうだ。現にクンリは魔法を使い、お主をここに連れて来たのだぞ」
「でもクンリは操陣術しか使えないって」
「あなたに会って目醒めたんですよ、魔法の力が」
俺に会って目醒めた?俺が鍵になってたってことか?
「最初から説明する必要があるのぅ。まあ立ち話もなんだ、儂の家でゆっくり説明しようではないか」
丁度混乱していたところだ。一から説明してもらった方が手っ取り早い。
ここはセスタの提案に乗ろう。
「分かった。家はどこに?」
「うんと遠い場所にある。まあ目を瞑るがいい」
言う通りに目を瞑ると、間もなく全身を襲う浮遊感を感じた。
何事かと目を開くとまたまた景色は変わっていて今度はセスタの家であろう一見普通の部屋にいた。
「最初は転移酔いが激しい。どうだ、気分が悪かろう?」
「や、やるなら先に言っておいて欲しかった…!心の準備が…!」
「わっはっは!それはすまなかった!」
瞬間、転移酔いなる症状の全てが完治した。
さっきまでとめどなく押し寄せていた吐き気も治まって寧ろここに来る時よりも身体が軽くなった様にも感じる。
これも、魔法なんだろうか。
「今君に掛けたのは少しだけ時間を逆行させる魔法、サカノボリだ」
「魔法ってそんな事も出来んのか!?」
「魔法を極めた場合によるがの。まあ取り敢えず腰を降ろすといい!」
言われた通り、丁度真後ろにあった椅子に座る。
これから色々話してくれるらしいけど、ちゃんと理解出来るか不安だな。
俺何も知らないし。
「何から話そうか…まず、君は自分が何者なのか知っているか?」
「へ?」
「その様子だとしていないようだ。単刀直入に言おう!」
君は、と続けるセスタ。なんだかドキドキしてくる。
「―――勇者だ!」
「へ?」
まさかまさかの衝撃の事実が、俺に深々と突き刺さった。




