正直舐めてたけど1つ言わせてほしい、これなんて無理ゲー?
お、遅れちゃいましたけどなんとか今月中に投稿出来ました…!!
◇
通路が暗かったせいかステージに出ると陽の光がやや眩しく感じる。
(すげー歓声だな…)
見渡す限り人、人、人。
皆が皆声を上げるもんでその喧しさと言ったらステージにいる俺ですら耳を塞ぎたくなるレベルだ。
いや、寧ろステージにいるからこそ耳を塞ぎたくなるような歓声が余計喧しく聞こえるのか。
観客は出場者である俺達に向けて叫んでいるわけだから。
「よお、お前確か遅れてきた奴だよな?」
向かい側から鈍い足音を立てながら現れた4本腕の大男、ブラザージョニーがニヤニヤと笑いながら声を掛けてくる。
「そうだけど…」
「ハッ!残念だったな?初戦で俺様と当たっちまうとはよぉ!」
「確かに腕が4本ある奴に勝てるとは思わないなぁ。それ本物?」
「当たり前だろうが!」
造作もなく4本の腕でマッスルポーズを決めるブラザージョニー。
なるほど、本物らしい。
『さあ、両者揃ったところでお待ちかね!!早速第1回戦、ブラザージョニーVS聖月レイの試合を始めたいと思います!!両者準備は!?』
「いつでもいいぜ」
首やらをコキコキ言わせつつブラザージョニーは答える。
当然、俺も頷いてみせた。
『それでは!!Aブロック第1回戦、開始ぃーーー!!』
戦いの幕が切って落とされた。
「一瞬で終わらせてやるぜぇ!!」
始まりと同時にブラザージョニーが突進を仕掛けてくる。
確かにこれをまともに受けたら一瞬で終わってしまうかもしれない。
俺は半歩引いてブラザージョニーをギリギリまで引きつけ、渾身のストレートを繰り出した。
「ぬあーーーーーーっ!!」
悲鳴を上げて吹っ飛んだ俺は全身を打ち付けながら地面を転がる。
テンペストドラゴンすら怯ませた拳がいとも簡単に押し負けたことに驚きつつも強烈な体当たりに耐え抜いた自分の身体に心から感謝する。
「き、効かないだと!?」
「ぐっふっふっ…俺の鍛え抜かれたこの肉体にお前みてえな貧弱な野郎の拳が通るわきゃねえだろ?」
「確かに…!」
かと言って剣を使うわけにはいかない。相手は腕が多い怪物とは言え人間だ。
迫るブラザージョニーの筋骨隆々の巨体から放たれる威圧感に押されて1歩、また1歩と後ろに退いてしまう。
そして。
「おらぁ!!」
「ぐぼあっ!!?」
ブラザージョニーの鋭いボディーブローが見事俺に決まり、俺の意識はそこで途切れた。
圧倒的力の差に自分の無力さを実感した瞬間だった。
「―――はっ!?」
飛び起きるように目覚める。
「ご、5000万は!?試合はどうなった!?」
辺りを見渡すとどうやらここはビキニアーマー教徒に助けられて借りていた宿の一室みたいだ。
「……そう言えばブラザージョニーって奴にあっさりとやられたんだっけ」
テンペストドラゴンすら怯ませた拳があいつには効かなかった。
つまりブラザージョニーはテンペストドラゴンさえ上回る怪物なのでは、なんてことを考えつつ即否定する。
流石にドラゴンより上なんてことはないだろう。
だとしたらやはり俺の力不足が問題か。
山で魔物と戦った時にクンリが言っていた言葉を思い出す。
――「その様子じゃまだ空魔の時に使っていた光を使いこなせてないみたいですね」――
その光とやらを使いこなせるようになれば、俺は強くなれるのか?
「わっかんねーな」
「何か悩みでも?」
「どぅわっ!?」
いつの間にか俺の傍に佇んでいたクンリに驚いてベッドから転がり落ちる。
「お、お前いつの間に!?」
「今、そこから入ってきました」
親指で部屋の窓を指すクンリ。普通に入ってこい。
しかし何故ここにクンリがいるんだ。
遠くから微かに聞こえる白熱とした声援や実況が聞こえるってことは今はまだ大会の途中のハズ。
「で、大会はどうしたんだよ?」
「初戦敗退ですね。思えば私は操陣術以外に戦う術を持ってなくて、そもそも操陣術なんて使ってしまえば死者が出ること間違いなしでしたから」
「確かにあれで斬られたら…想像しただけでもゾッとするな」
試しに操陣術で両断された人を想像して身震いする。
クンリにまだ多少の常識が残っていて良かった。
「それにしても誰が俺をここまで?」
「私です。丁度アナタの次が私の番でしたから、負けた後残っていても仕方がないので待機室で伸びていたアナタを連れて宿まで戻って来たんです」
「そうか、サンキュー」
少しの沈黙。先に破ったのはクンリだ。
「…さっき、悩んでいたのは負けたことについてですか?」
「よく分かったな」
「そんな顔をしてました」
そんなに暗い顔してたのか。
確かに負けたことは悔しいしこんなに力が有り余ってるのに負けたことが納得出来ない。
でも俺の目的は村に帰ることで、勝ち負けなんかよりただ帰る為のお金が欲しかっただけだ。
…そのハズだ。
「1つ言っておきますと、今のアナタの実力ではヴェクトリッヒ、かの勇者生誕の地へは辿り着けませんね」
言い返せない。
剣が使えれば、などと言い訳出来ればよかったけど。
そもそも俺は外の世界のことなんて無知で、世界中に跋扈する魔物の強さなんて知る由もない。
その上で1度は勇者と旅をしたクンリが言うんだ。説得力がある。
「じゃあどうすればいいんだ。今から鍛錬して強くなれと?」
「アナタは、強くなりたいんですか?」
「そりゃ、そうだろ」
強くならないと村には帰れないって言うなら、強くなってやる。
俺は強い眼差しでいつになく真剣なクンリを見つめ返す。
「…分かりました。それ相応に厳しい修行になるでしょうが、覚悟は出来てますか?」
「ああ。それで家に帰れるならな」
ホームシック舐めんなよ。
「では、早速――」
クンリがベッド越しに手を翳してくる。
まさか操陣術を使う気じゃないだろうな。
その考えは思い過ごしだったみたいで、クンリの掌から放たれた光が俺の視界を遮った。
人生2度目のホワイトアウトだ。
m(_ _)m




