6
「マーヤ嬢、団長閣下とお食事に行ったって聞いたわ」
「団長閣下と言えば、過去何度も我が国を勝利に導いた戦士!マーヤ嬢の強さも、もう十分ってくらい分かってるし…ある意味、お似合いの二人よねぇ…」
「あら!白銀の騎士様のこと忘れないでよ!」
「意外なところでルヴァス様かもよ?」
「え、ルヴァス様って聖女様のことが…」
「しっ!…それは公然の秘密なんだからね?」
「あっ、ご、ごめんなさい…」
「それでね、団長のご両親も満足していただいたって!」
「そっか、よかったねマーヤ」
「うん!……どうしたの?」
「いや、今町の女の子たちの話題は君なんだなと思うと、なんだか不思議で」
「え、私が…話題…?どうして?」
マーヤは不思議そうに首をかしげた。…鈍すぎるけれど、まぁそれも、彼女のいいところだと思う。
「そう言えば、そろそろ騎士団遠征の時期じゃなかった?」
「あ、誤魔化したわね!……はぁ。そうよ、もうすぐ遠征だから、しばらく帰って来られないわ」
神殿騎士には年に一度、北にある大神殿までの遠征任務が義務付けられている。全部で四つの隊に分かれて、季節が変わるごとに一つの隊ずつ大神殿に向かう。マーヤは秋季の隊に組み込まれていた。
「君の隊には誰がいるんだっけ?」
「ええと、ジーン、アルス、ユーラン、ネファ、ノコンと…」
マーヤが指を折りながら人名を挙げる。…残念ながらほとんど知らなかった。城下まで響いてくる名前は主に白銀の騎士ことマーヤと、とルヴァスと団長の三人のことくらいだ。
「あと、ルヴァスが一緒ね」
「へぇ、彼も秋季隊だったんだ」
「毎年くじ引きで決めてるから、今年は秋季隊ってだけよ。冬季隊じゃなくてよかったと思うわ。冬季隊は遠征が終わった直後にくじ引きだし、もしそこで春季隊になったらまた遠征よ。遠征続きなんて、ちょっと考えたくないわよね」
「今年の部隊長は?去年は確か、君ではなかったでしょう?」
「今年は白銀の騎士が部隊長よ。…はぁ、私に務まるかな」
「ルヴァスもいるなら大丈夫じゃないか?彼も優秀なんだろうし」
「…協力してくれるかは微妙よね。何と言っても好敵手なんだから」
「その設定まだ続いてたの…」
「せ、設定じゃないわよっ。事実よ事実!」
…まぁ、どちらでもいいか。
なんにしても、マーヤが帰ってくるまで婚活は中断だ。遠征はおよそ一月。これを長いと見るか短いと見るかは別だけど。
「そう言えば、白銀の騎士としてはどう?今は団長の補佐をしてるんだろう?」
「あー…まぁ、月替わりでね。他にも次期団長候補はいるから。仕事は楽しいんだけど…なんか、団長が変なのよね」
「変?」
「そう。私の性別とか正体って、今の騎士団で知る人はいないのは知ってるでしょう?」
そう、白銀の騎士の正体を知るものは、今の騎士団には一人もいない。白銀の騎士は前の団長の時に騎士になったからだ。
「あぁ。だから君が騎士になったばかりの頃は大変だったね。他の騎士どころか代替わりした団長の信頼も得られないって。そもそも自分と君の出会いもそこに起因するのだし」
「懐かしいわね…あの頃は毎日泣いて帰って…って、そうじゃなくって。…なんか、団長の白銀の騎士への態度が、なんというか…まるで女性に対する態度みたいな感じというか」
「……それ、ちょっとまずいんじゃない…?」
マーヤは仮にも男爵家の令嬢だ。その彼女が騎士になるにあたり、男爵家夫妻はマーヤにいくつかの条件を設けている。
そのうちの一つが、『騎士団員に女と気付かれないこと』という条件があるのだ。もし気付かれたら即刻家に連れ戻されるという。
「まだ確かじゃないけどね。…でも、もしかしたら気付いてるかもしれない」
「…遠征は、ある意味で好都合かもね。団長と離れられるから、君もそっちの方が落ち着くだろうし」
「問題を先延ばしにしてるだけなのは分かってるんだけど…もし気付かれてるなら、実家帰り…」
「…そうならないことを祈ってる。さてと、じゃあ遠征の準備でもしようか。どうせ君のことだ、まだ何も手についてないんでしょう?」
マーヤが肩を跳ねさせた。…一応君の親友だからね。そのくらいは分かるんだよ?
「それくらいお見通しだよ。ほら、遠征用のカバンを出して。必要なものをリスト化するから、それから詰めるよ」
「はーいっ!じゃあ少し待ってて!」
マーヤが家の奥に向かう。そっちは物置になっていたはずだ。
「…団長ともし結婚するなら、自分は祝福するけど……どうなることやら」