バス停
夏なので蝉がよくなくのは仕方ないことだ。
たとえ鳴き声で暑さが増すように感じてしまったとしても。
早く涼しいところへ行きたいのだが、相変わらず地方のバスは来る本数が少ない。
そのために余裕をもってバス停へたどり着き、暇潰しのための小説を広げる。
バス停には同じようにバスを待つ男性がいた。
私は彼を知っている。
昔はよく話していたがいつからかお互いに話すこともなくなっていた。
私は異性が苦手なので多少見知った間柄でもたった二人という空間は緊張してしまう。
ふいに彼が声をかけてきた。
「いつもバスを待つとき本読んでるよね、俺もなにか読みたいからおすすめ教えてくれない?」
昔と変わらない彼の優しい声に昔よく遊んだという懐かしさと、その頃に抱いていた彼への気持ちを思い出していた。
いつもは早く来てほしいバスが今日はゆっくり来てくれたらいいのに、なんてことを思いながら彼との会話を楽しむのだった。