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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第四章 商会篇
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75話 夜這いしてみた

「悪いな、転居したばっかなのに」


「ううん、ムギリがうるさくてなかなか外に出られなかったからぁ」


「呼び出してくれてー、ありがとー、な感じー」


 相変わらずの間延びした話し方が懐かしいぜ。


 久しぶりに会うシルフィンとシフォンはムギリへの不満全開でぶちまけて来るけど。


 なんつーか、以前みたいに心底嫌いまくってる、っつーよりは、頼り甲斐のある兄貴だけど細かい不満が、程度になってて。


 ムギリ向けの罵詈雑言全開なのに、聞いてて微笑ましいのが笑えてくる。


「それでぇ? なんかぁ、植物系の知識が必要ってムギリに言付かったけどぉ?」


「私達の精霊術ー、コテっちゃんのためにー、ばりばりお役立ちさせるよー?」


「オゥ、そこまで聞いてんのなら、話早ェわ。実はな……」




 つって、俺が説明したのは。


 モントラルくんとお相手の村娘さんの駆け落ち計画に必要になる、『仮死状態に陥る毒薬』を作って欲しい、ってお願いだ。




「ふぅん? なるほどなるほどなるほどぉ、植物毒か水系毒魔法かなぁ?」


「詳細は任せる。でも、後で回復させるんだから、<毒癒(ホルサロエア)>も効かない超猛毒とか作るなよ?」


「かしこまりー。でもー、ドラゴンの肉でも腐り落ちる腐敗毒とかー、水魔法系と相性いいんだけどー」


「それがダメだっつってんだろ! 魔法のど素人を誤魔化せる程度でいいんだよ」


 ムギリが苦労してんのがちょっと理解出来た気がしたぜ。ほんとにこいつら、手段と目的がすぐにひっくり返っちまうのな。


「つまりぃ、呼吸が止まってぇ、意識がなくなる程度ぉ?」


「オォ、それくらいで頼む。商会の中で毒薬生成までやってくれ。必要になるもんは、アウレリアたちに頼んでいいから」


 言いながら、俺は手早くいつもの黒ドレスを脱いで、忍者スタイルな真っ黒な忍び装束に着替え始める。


「相変わらずぅ、舐め回したいくらいの素敵ボディぃ?」


「って、オマエらまでそっちの趣味出来たのかよ? メイド三人だけで間に合ってるっつの」


「お出かけー? 帰りにー、アントスの街名物ー、一口サイズアイスクリームの詰め合わせをお願いー?」


「そりゃウチの商会の製品だっつの、厨房でアユカに頼めよ」


 口では適当なこと言いながらも、片手でいろいろ不自由してる俺の着替えの手伝いしてくれるシルフィンとシフォンの気遣いが有り難いぜ。


 でっ、最後に腰帯の後ろに斜めに小太刀を鞘ごと突っ込んで……。


「『クレティシュバンツ商会のマキシ嬢』にゃ見えない、よな?」


「見えないぃ、っていうか、かっこいいぃ」


「下着なしで身体の線出まくりでー、エロいー」


「ありがとさん。結構締め付けてっから、下着着けると窮屈なんだよ」


 言っといて、商会の俺の部屋から、外へ歩き出そうとして……。


「あ、毒薬は出来れば飲み薬でな? 瓶二つに分けて詰めといてくれ」


「二人に使う予定ぃ?」


「……そこからかよ。詳しくは屋敷に詰めてるウィルペディに聞いといてくれ、全部話してあるから」


「んー、コテっちゃんともっとお話したかったけどー、お急ぎー?」


「悪いな、マジで急ぎなんだ。帰ったらゆっくり一緒に飯風呂しようぜ?」


 名残惜しそうにしてるシルフィンとシフォンに片手立てて謝罪しといて、俺は深夜、商会の建物を飛び出した。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「誰だ!?」


「シィィィィ……、大声出すなって。マキシに聞いてんだろ?」


 さすがは形式上つっても軍事訓練参加必須な貴族のボンボン、ってとこか。


 俺が窓から部屋に入るなり、すぐに気づいてベッドから起き上がったモントラルくんに、俺は布で覆った口元に指一本立てて見せた。


「お前が……、伝令役、か?」


「そういうこった。今後は俺が坊っちゃんと商会との連絡を請け負う。魔法通信は傍受されるかもだからな、秘密を知る者は少ない方がいい。――だろ?」


 つっても、まあ、マキシも忍者も俺自身なんだけど。


 俺がほんとは両足あって動ける、なんて知らないモントラル相手なら、この程度の変装で十分だろ。


 こういう密偵兼交渉役ってな、危険もあるからな。俺が直接行くのが一番安全っつか、やられても痛いだけで不死身だし。


 ――また一年眠ったりすると、みんなにボッコボコにされそうだから気をつけるけどさ。


「それは……、そうだが。だが、坊っちゃんはよせ。モントラルと呼べ」


「それは失礼、『モントラル坊っちゃん』」


 あからさまにムッとした顔をしたモントラルだったが、どっちの立場が下なのかをすぐに思い出したみたいで。


「――いや、考えてみれば、僕は貴族の地位を捨てるのだった。こういう口の利き方は正して行かねばな。失礼した、伝令殿」


「平民はそんなかしこまった礼なんかしないぜ? 俺の名は――、マックスだ」


 そういや偽名決めてなかったわ。MAXI(マキシ)の偽名でMAX(マックス)、って安直すぎたかな。でも、この世界って英語ねえから大丈夫か。


 つか、コイツ、ますます持って本気で世間知らずの若造全開みたいだが……、こういう、自分の過ちを認めてすぐに謝れる男は、嫌いじゃない。


「じゃ、早速だが、『計画』の説明すっか」


 一応周囲を伺ったが、モントラルの屋敷の使用人がさっきのモントラルの大声に気づいた様子もないもんで。


 俺は備え付けの長椅子にどっかり大股開いて腰掛けて、軽く片手でモントラルを手招きした。


「……マックス殿……、女性がそのような、股を開くなどと、はしたない格好をするものではない、と思うのだが……」


「夜這いかけちまって奥さんに悪いが、そりゃモントラル坊っちゃんが説明しといてくれ。……それと、話は全部記憶しろ? 後で側仕えも寄越すけど、お前の演技が最重要なんだ」


「……解った。聞こう」


 覚悟を決めたみたいに、真剣な顔つきになったモントラルが俺の対面に座って身を乗り出して来る。


 その精悍な表情が確かに格好良くて、両想いになった村娘の気持ちがちょっとだけ解った気がした、けど。


 ――頭の上の真っ赤なナイトキャップだけがちょいと締まらねえけどな。




 まあ、俺がモントラルに語った『計画』ってな、ほんとにロミオとジュリエットの焼き直し、みたいなもんで。


 第一段階でモントラルが毒飲んで死ぬ。


 第二段階でモントラルが仮死じゃなくほんとに死んでる、って診断下す。こりゃ、商会と盗賊ギルドで裏から手を回す。


 第三段階で葬儀の手配して、貴族墓地に葬るまで。もちろん、本気で埋葬しちまう。半端にすると疑われるからな。


 第四段階で、埋葬されたモントラルを掘り起こして救出する。


 第五段階で、モントラルが貴族なのは知れ渡ってるから、国境抜けて奥さんになる村娘さんと国外脱出、の流れだ。


 ロミジュリを地で行くなら村娘の方も死亡を演出しなきゃだが……、ただの村娘の戸籍がどうなってんのかそこんとこ詳しくねえもんで、そこんとこは状況見て決定、ってことで、シルフィンたちには毒瓶二つ頼んだからな。



 ――ただ、今はちょいと西部国境方面がお祭り騒ぎで、すんなり通過出来ねえくらい、検問が厳しくなっちまってるから。


 カスパーン爺さんの紹介でローデン将軍と顔合わせしといて良かったっつか、それが前提にあった、っつか。


 幸い、モントラルはまだ領主の息子って立場でそんなに顔が知れ渡ってるわけじゃねえから。


 第四段階以降は迷宮探索隊に紛れ込ませて、村娘の方はメイドに偽装させときゃ、後はどうにでもなるだろ。


 だから、第四と第五の間で、ローデン将軍から受注してる国境方面軍管轄内の迷宮探索をやる必要があるんだが……、そこがエメリアス要塞の北、国境付近だ、ってのが有り難い。


 要塞を抜けちまえば、国境の最北端が山の切れ目、川になってっからな。そこを渡るくらいなら、夜闇に紛れりゃどうにかなる。




「……って流れだ。理解したか?」


「……上手く、行くのだろうか? マックス殿、こう言っては失礼かもしれないが……、この計画、成功率はいかほどか?」


「ねェよそんなもん」


 さくっ、と答えた俺に、モントラルは絶句で答えた。けど。


「最初から最後まで百パーセント上手く行くことが決まってる策謀なんかあるわけねえだろ、莫迦」


「それは、そうだが、しかし」


「家を捨てるってもう決めてんだから、どっかでバレたらその時点でケツまくって逃げりゃいいんだ。――こりゃ、どの段階で追っ手が掛かるか、ってのを段階的に遅らせる計画でしかねえんだよ。……割り切れ?」


「確かに……、そうか。国外で噂でも立ったなら、上手く逃げおおせたその後も、父らの追っ手が掛かることは有り得るのか……」


 両手で顔を覆って天を仰ぐ様子がいちいち堂に入ってて、なんか俳優さんを目の前に話してるような錯覚に陥りそうになっちまうな。


 けど、これが気品ある貴族、領主の跡取り息子の品格なんだろうなあ。俺みたいな半端者とはえらい違いだぜ。


「悪いが、マキシから言い遣ってる仕事は、アンタらを国外に出すまでだ」


「あっ、ああ! 解っている、それまででも大変だものな」


「そこから先は国外にあるこの街とは別の盗賊ギルドの管轄だ、俺ら商会としては請け負えねえ。自分たちで何とかしてくれ。それと、報酬の話だが」


 素っ気無く悩んでるモントラルに突き放すように言っておいて、商談を切り出す。




 ――インディラさんに教わったことだ、商会を動かすなら、慈善事業で無償で人を使うのは御法度。


 仕事と報酬は常にセットで、それが皆の仕事量と釣り合わなささ王なら、上に立つ者としてその仕事は受けちゃいけない。


 それが、仕事に責任を持つ、仕事の責任を取らせる、ってことだから。




「報酬……、そうだ、報酬が要るんだったな! 幾らでも言ってくれ、僕の屋敷から何を持って行っても構わない!」


「――そりゃ、お前の金じゃない。親の金だ。『お前の葬儀の後』は、領主メイティス公爵の懐に戻るんだ」


「?! そ、そうか。言われてみれば、当たり前の話だった。じゃ、じゃあ、僕の死後にも僕が自由になる、お金……?」


 もう一度頭を抱えるモントラルに、やっぱそうだったか、って思いを抱きながら、俺はその様子にため息を突くしかない。



 ――基本的に平民から入軍試験受けて成り上がる一代限りの軍人貴族と違って、世襲の貴族は生まれたときから常に金を貰ってる立場だから、『金をどうやって作るか』って発想がないかも? なんて、アウレリアたちが言ってたっけ。


「まさか、本気でその通り、とはな。――オィ、モントラル坊っちゃんよ? 国外に出た後の生活資金や生活基盤なんてのは、どうするつもりだったか聞いていいか?」


「――僕は栄えある帝国貴族だ、素性を明かせば、どこの国でも高待遇で迎えてくれるはず……」


「阿呆。だから、お前って人物は死ぬんだ、つってんだろが。実は自分は死んだ貴族本人なんです、なんつって誰がほいほい信用するんだよ」


「し、しかし、僕は貴族、子爵としてそれなりの立場にある者だぞ?」


「帝国国内では、だろ? 本気で解ってねえのか? 国外に出るってこた、国境の向こうに行くんだ。――紛争真っ最中の敵国で、あなた方が戦っている国の貴族です! なんて宣言したら、その場で殺されるぞ?」


 ごくり、とモントラルが生唾飲み込む音だけが響く。


「で、では、国内のどこかへ逃げる、というのは?」


「貴族の立場で貴族特権使った時点で軍に発見されるに決まってんだろ、莫迦。――どうも、考えと覚悟が足りねえみてえだな?」


 月明かりが差し込む薄暗い寝室の中で、俺は右手で軽く膝を叩いて立ち上がって。


 その、軽い音ですらどきり、としたみたいに身体を震わせてるモントラルを見下ろして、俺は。


「準備は進めとく。要求する報酬は、白金貨十枚だ」


「白金貨?! 待て、待ってくれ! いくら僕が子爵とは言っても、個人でそのような大金、すぐに用意出来るわけが!」


「死ぬ気で金作れ、後で紙くずになる手形なんて要らねえぞ? 二週間後にまた来る、それまでに用意しとけ」




 モントラルが慌てる様子も構わず、俺は背を向けて、来たときと同じように、開いた窓から外に広がる闇の中へ、身を躍らせた。



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