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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第四章 商会篇
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74話 貴族さんにえらいお願いされた

「コテツさま? モントラル子爵様の使者がお見えに」


「オォ? 早かったな。応接間にお通ししといてくれ、すぐ行く」


 厨房まで呼びに来たウィルペディに答えておいて、俺は手早くエプロンと頭の三角巾を外して、イファンカが用意してくれた車椅子に座って。


「悪いアユカ、続きは夕飯の後でな?」


「解った。アユカ、新作アイス、試作、続けていい?」


「あー、そりゃ助かるが。夕食の準備とか、大丈夫か?」


「問題ない。下拵え、もう終わってる。では、チョコチップアイスと、クリームアイス、試す」


「クリームアイスはマジで足が速いから要注意だぜ? すげえ勢いで溶けるからな」


 料理中は目がマジで、そんなとこも可愛いアユカに指示残して、俺は座った姿勢から少し精神集中して、座った姿勢で両足を霧化した。


「いててて。くーっ、長いことやってなかったからなー、痛覚万倍が辛いぜ」


「…………痛覚無効、すれば?」


「いや、それやっちまうと他の感覚も鈍くなるんでな? 丁度いい場所で、霧化を止められねえし、霧化した後に車椅子の下の容器――、オゥ、ありがとさん――、これに入れられなくなっちまうんだよ」


 車椅子の椅子の下に用意してあった、液化した両足の分量を収める専用の陶器を取り出してくれたイファンカに礼を言って、俺は空中に漂う気化した両足分の水分を内部に移して、液化させとく。


「結構繊細な操作必要なんだぜ、これでも。……で、肉体を気化させるときの境界の感覚が、痛いっつか、ヒリヒリするんだよ」


「…………軽い火傷のようなものか」


「そうだな、焼けすぎた日焼け、みたいなもんだな。――そういや長いこと屋内に籠もりっぱなしで、日焼けなんてすることもねえし。たまには外を出歩きてえなー」


「川、近く、水車小屋、ある。あそこ、建築現場、誰も来ない。今度、行く?」


 俺の不満げな呟きに即座に反応したアユカがそんなこと言うもんで、俺はムギリが新造した上水道の準備施設になってる水車小屋を脳裏に思い浮かべて。


「あー、そうか。今後に灌漑用水路広げる工事やるからって、資材置場にしてっから、一般人立入禁止にしてたよな、そういや。……アユカ、今度一緒に行くか?」


「行きたい!」


 即座に答えて尻尾振ってんのがマジ可愛いぜ、アユカ?


 じゃあ今度の休みにな、ってアユカに言い置いて、使者に会う準備が出来た俺は、イファンカに車椅子を押されて厨房を後にした。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「コテツさま、こちら、モントラル子爵さまの使者で、リンタンさまです」


 応接間に着いたらすぐに、アウレリアの紹介で、老年に差し掛かった、髭がよく似合ってる銀髪の老紳士がソファから立ち上がって会釈するもんで、俺も車椅子の上から片腕を胸の前に曲げて簡単な礼で応えた。


「初めまして、リンタンさま。わたくしがクレティシュバンツ商会の商会主、マキシと申します。――生憎とこのような成りでして、正式な挨拶が出来かねますこと、お詫び申し上げますわ」


「いえ、むしろそのようなお身体であると解っておりますのに、ご足労を申し訳なく思います。……主人から、話の内容はお聞き及びでしょうか?」


「……? いえ? 後ほど使者を、とお聞きしているのみで、内容については……?」


 後ろからまた、車椅子をぶるぶる震わせる誰かさんの笑いを堪える波動があるけど、そりゃ無視しといて。


「もしや、他言出来ぬ御用、でしょうか?」


「誠に失礼ながら、もし可能でしたら、お人払いを、お願いしたく……」


「――分かりました。アウレリア、イファンカ?」


 なんだべな? 初対面でいきなり人払い、って展開は予想外だったけど。


 俺は控えてたアウレリアとイファンカに声を掛けて退出して貰って、テーブルを挟んで、二人っきりでリンタンさんと対峙することに。


 ――なんつって、窓の横、カーテンの陰にウィルペディが射程距離三メートルの鞭持って隠れてんだけどな。


「側仕えのメイドまで離れさせるという不自由をさせてしまい、申し訳ありません」


「いえ、このような身ですが、多少なれば自分ひとりでもいろいろと出来ますので。――それで、用向きは?」


「はい。くれぐれも、内密に、ということで、これはお読み頂いた後、返事を貰って持ち帰るよう厳命されておりまして……」


 つって、辺りを伺う素振りを見せながら、リンタンさんが大事そうに懐から取り出した手紙を受け取った俺は……。


「…………スミマセン。開けて、頂けませんか?」


「……はっ?! あっ、失礼をば! 片手では、開けられませんでしたな!」


 慌てて貴族用の封蝋を破いて中身を取り出すリンタンさんに、苦笑を向けるしかない。


 俺って右手しかねえから、封蝋で閉じられてると開けられねえ、ってこたねえけど歯を使って破らねえと無理だからな。


 リンタンさん、手紙に返事貰って持ち帰る、つってんのに、一応いいとこの令嬢風に装ってる俺がそんな開け方したら、後で受け取るモントラルくんがびっくり仰天だろ。


「誠に失礼致しました! 我が主人からの手紙、こちらになります!」


「いえ、不自由な身ですので、お手数をお掛けしまして」


 アウレリアに爪と一緒で真っ赤に合わせられてる口紅塗られた唇を微笑みの形に薄く開いて、俺は片手で手紙を受け取って、一読する。




 ……どうでもいい話だが、この『妖艶に薄く微笑む』って表情はなんでかシィとレムネアとメイド三人の徹底指導で、鏡の前で何時間も練習させられてうんざりしたんだよな。


 不細工な俺がベールで目元隠して口元だけ見せてる、ってことで、他人から不細工な顔をまじまじとガン見されずに済むぜ、って喜んでたのに、なんでそんな表情に拘るんだよ、つったら。


『口元だけになって逆に魅力が増してるから、謎めいた笑みくらい作れないとますます言い寄られるからっ!』


 とか言われたけど、本気であいつら目ん玉おかしいんじゃねえのか?


 ……いや、この世界の美意識がおかしいのかもな?


 ベール越しにちらりとリンタンさんの様子を伺ったら、直立不動でなんかうっすら頬を染めてる気がするし。


 それはともかくとして、だ。




「このお話……、本気でしょうか?」


「本気も本気、というか、既にかなり切羽詰まっておりまして……。ご助力、頂けませんでしょうか?」


「即答致し兼ねますが……、正直申しまして、このお話に乗って、わたくしに何のメリットが?」


 ちょっと無礼になるかもだけど、片手で手紙の端を摘んだままで眼前でひらり、と振った俺に、リンタンさんは最敬礼級の勢いで、がばっ! と俺に頭を下げて来て。


「そこを曲げて、何とか! とお願いするしかなく! もう、期限が残されておらぬのです、我が主人は!!」


 忠節すげえよな、リンタンさん。


 マジでぶっちゃけると、この手紙……、俺に届けるんじゃなく、主君筋のメイティス公爵に届けた方が、きっと金になるんだぜ。


 だって、内容が、なあ。




『前略、クレティシュバンツ商会、マキシ嬢。


 突然の申し出に驚かれることでしょう。委細は省略させて頂きたく。


 この度、私、モントラルは、父メイティス公爵の領地を出奔し、村娘と駆け落ちを図ることと致しました。


 逃亡の相談にと盗賊ギルドを頼ったところ、たまたまアントスを訪れていた盗賊王の一人娘、レムネア嬢より、マキシ嬢の存在をご教授頂き、先日の夜会にて顔合わせした次第です。


 レムネア嬢よりお話を伺ったところ、身障者の身の上でありながら、その知略に比肩する者なく、レムネア嬢を筆頭に、さまざまな有力者とも縁故を結び、新興の商会でありながらも、クレティシュバンツ商会の名は皇都まで轟くほど、と。


 ここアントスに商会本店を置くことを決定されたとも聞き及び、レムネア嬢のお話に拠れば、情けは人のためならずを体現される慈悲深きお方とのこと、藁を掴む思いで、我ら二人の新たな門出の手伝いをお願い出来ないかと、恥ずべき願いでありながら、無理を承知でお願いするものです。


 どうか、どうか、色良い御返事を、一日千秋の思いでお待ちしております。


敬具。


モントラル・メイティス=クスナディ子爵




 ……全部レムネアのせいか、あの莫迦妹!!


《レムは優しいからさー、モントラルさんに同情しちゃったんだと思うよー?》


『ってか、帰ってたなら言えよ、シィ? そろそろお役目も終わりだろ、首尾は?』


 唐突に脳内に響いた声に、俺は周囲に魔力検知の策敵網を広げたら……、車椅子から動けない俺に寄り添うように、暖かい霊体の感触が感じられる。


 不可視霊体のシィをはっきり目視出来るのは<霊視>の魔眼持ってるロナだけだが、存在を感知するだけだったら魔力検知の応用で俺だって出来るしな。


《上々だよー。もう少し準備整ったら、順次合流出来るっぽい。それで、モントラルさんのお話、どうするの?》


『つか……、受けるしか、なくね? 断ったらレムネアの立場悪くなるだろ、これ』


 相変わらず全身震えさせて最敬礼のキツイ姿勢を維持してるリンタンさんが、目の前に居て。


 これ、きっと答えるまでずっとこの姿勢続けるつもりなんだぜ、きっと。


『モントラルくんのいろいろを利用しよう、って腹積もりだったのによォ? 大外れもいいとこ、っつか、バレたら領主を敵に回しちまうな、こりゃ』


《ふふっ、じゃあ、バレないように頑張るしか、ないね?》


 楽しげに抜かしやがって。――でも、まあ。


「お顔をお上げ下さいな、リンタンさん?」


「お答えを、お聞かせ願えますか?!」


「ええ。――いくつか条件がございますが……、お請け、致しましょう」


「有難く思います!! きっと、きっと我が主人も同様に思うと!!!!」


 感極まったのか、手紙持ってる俺の右手を両手で掴んでぶんぶん上下に振ってるリンタンさんが居て、マジで苦笑しか出て来ねえ。


 あー、これ、ぜってータダ働きだぜ?


 こういうお願い受けてたらキリねえから、この手の紹介はこれっきりだって、レムネアに拳骨込みで釘刺しとかねえとな?


 つか、貴族の息子の駆け落ち支援って、俺は『ロミオとジュリエット』で仮死毒を用立てたロレンスかっつーの。




 待てよ? どうせ合法的にモントラルくんが表舞台から消えなきゃならねえんだし……、それもいいかもな?


 とか考えを巡らせながら、大感謝しまくってるリンタンさんが一人で応接間を出てくその背を見送った。



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