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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第四章 商会篇
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73話 自分の女言葉が気持ち悪かった

「まさか、アントスの街に転居してからの初仕事が、『このような内容』になるとはな」


「済まねえな。俺にとっちゃムギリは『制作物全般の達人』ってイメージなんで、『もしかしたら管轄外なんじゃねえか?』って思いはしたけど、もう頼んじまった後でさ」


 苦情とも取れる発言の内容とは裏腹に、車椅子に乗ってる俺に向けた満面の笑みを浮かべるムギリの言葉に、俺は感謝で答えた。


「なんの。ワシは師匠のヒトツメさまから頼まれてコテツ嬢ちゃんのそばに居る立場じゃからの? 今後も存分に頼ってくれれば、師匠への恩返しにもなると言うものじゃ」


 言って、座ってる俺と同じくらいの目線に立つ背の低いムギリが右手を差し出して来るもんで、俺はその手を取って、がっちりと固い握手を交わした。


「そりゃ、頼りにしてるさ。『商会』にゃ、欠かせねえ面子だからな? 創造物の達人、ドワーフのムギリは」


 って、握手したまんま素直に伝えたら、やたらムギリが照れ始めたんだけど。


「あら? アウレリアは頼りになりませんか?」


「あら? イファンカは頼りになりませんか?」


「あら? ウィルペディは頼りになりませんか?」


 なんて、茶々入れて混ぜっ返して来るのが、車椅子の周りを完璧にガードしてくれてるアウレリアたちでさ?


「頼りにしてっから、俺がこんなにのんびり外出出来てんじゃねえか」


 って答えたら、そういや普段は礼は言っても直接褒めないからか、三人揃って珍しく慌ててんのが笑っちまった。




 今日はアントスの街に『上下水道』が整備された記念日で。


 まあ、メインの記念式典は資金と労力を提供した盗賊ギルドがもう済ませちまってて、今は関係者のみが集まるパーティ会場で、それぞれを労ってるとこだ。


 つっても、まだ街の中央通りに下水管一本埋め込んで、元々あった川から引かれてた用水路から私水管伸ばして、ムギリが中央通りに噴水を設置しただけなんだけどな。


 新しく公共の掛け流し噴水が出来たんで、元々存在してた共用井戸に水汲みが殺到するのが避けられたのと、噴水に向かってる私水管を順次太くして街の通りに沿って延長する予定だ、つってたっけ。


 それはこの世界じゃ初の上水道になる予定、ってことになってる。


 つっても、各家庭に水道管や蛇口を設置するのが面倒なんで、適当な高い場所へ水を揚水して、そこから街の各所へ掛け流しの水路を作った方が、水圧とか管路の密閉性とか考える必要なくて楽だろう、ってムギリと話してたんだが……、時間も金も掛かるから、まだまだ先の話だな。


 最初は魔法を使えば何でも楽だな、って思ってたけど。


 それだと魔力提供する人員が必ず必要になるから、構造機構で解決出来るならそっちがいい、って設計担当のムギリと、資金担当のハインからも言われたもんな。


 金が足りなくなったら、また迷宮に潜って財宝を持ち帰らなきゃならないし。


 ついでに、まとまった水量を重力に逆らって上に貯める揚水設備作るんだったら、街を囲ってる外壁に水を通せば水の力をいろんなことに利用出来ていいだろ、とかも話してたけど。


 そこら辺はムギリが何かたくさん図面引いて考えてたみたいだし、全部丸投げしとけばいいかな?


 それはそれとして……。




「こういう集まりもいい加減慣れて来たけど、さ?」


「その割には、浮かない顔ですわね?」


「その割には、沈んだ顔ですわね?」


「その割には、仏頂面ですわね?」


 って、ちょっと呟いただけですぐ突っ込んで来やがって。


「いや、街の有力者たちとの顔合わせで、一応商会主ってことになってる俺が出なきゃダメだ、ってな解ってんだけどよ。――正直、めんどくせえんだよ」


 三人それぞれで楽しんでるみたいに代るがわる俺の顔、覗き込んで来やがるアウレリアたちに答えて、俺は更に口をへの字に曲げちまった。


「レムネアが居れば代わりに顔出させたのになあ……」


 ひとつ年下の最愛の妹のことを脳裏に思い浮かべて、ため息ついてみるけど。




 レムネアは新婚旅行名目で俺をここまで移送してくれたんで、今はシスの街に戻ってるんだよな。


 まあ、アイツ雷神のタケミカヅチの加護受けて『雷神の神器』って立場になってっから、俺が固有スキルで霧に変化して高速移動出来るように、やろうと思えば自分を雷撃に変えて一瞬で移動、……『だけ』は出来るんだが。


 ――前に『雷は光と同じ速さだから一瞬のはず』なんて簡単に考えてレムネアに言っちまったけど、正直、俺はその速度を舐めてたっつか、タケミカヅチがあんまし雷撃移動を使わない理由が解った、っつか。


 アントスの街からシスの街までの距離が、大雑把に、だが直線距離で約五百キロくらいで……、光の速度が一秒間で三十万キロだっけ?


 だから、もしレムネアが自分を雷撃に変えてここまで飛んで来よう、と思ったら、600分の1秒で到着出来る。……んだけど。


 そりゃ、『一瞬で通過しちまう』って意味でしかなくて……。


『出発して目的地に止まろう』と思ったら、600分の1秒で正確に停止しねえと、何万キロも明後日の方向に果てしなくぶっ飛んじまうんだよなー。


 そういう風にタケミカヅチに聞かされたんで、神力も万能じゃねえんだ、って思い知ったわ。


 思考加速とか制御系統のそういう権能持ってる神は自在に移動するらしいんだけど、そうじゃないなら異次元ゲート使う方が最速らしいんだ。


 でも、そのゲートの神術知ってるシンディは消息不明だし、シィが知識だけは持ってるけど神力系統は経験不足で試行錯誤出来ねえから、っつーことで。


 ……力技で。


 アントスとシスの街双方の盗賊ギルドのてっぺんに、ぶっとくて高い避雷針作って解決した。


 いっぺん上空にすっ飛んだ後で、避雷針目掛けて大雑把に降ったら、電気だから勝手に避雷針に吸い寄せられて楽なんだと。


 避雷針発明した地球の科学者さん様々、だな。


 でもまあ、レムネアは一応盗賊王の一人娘なんで、そうそう頻繁にこっちには顔出せねえんだけどな……、表向きには。




「失礼ながら、クレティシュバンツ商会の商会主、『マキシ』嬢でいらっしゃいますかな?」


「え? いや人違い……」


 どんっ! って車椅子の背を真後ろに立ってるイファンカに小突かれて、俺は呼びかけられたその名前が、自分で名乗ってる偽名だったことを思い出した。


「あっ、そう! そうです、わたくし、マキシと申します、お見知りおきを!」


 ……なんか自分で喋ってて気持ち悪い。女言葉喋るだけで、こんなに心に来るとわ。


「快活でいらっしゃいますね? なるほど盗賊王に聞いていた通り、見目麗しく銀鈴のような美声、とはこのこと。お目にかかれて光栄です」


 流れるように奥歯が頭上にロケットで飛んで行きそうな歯の浮く美辞麗句を俺に向けて、俺の右手を取って跪きながら手の甲にキスして来る、気障(きざ)ったらしい身なりのいい青年……、なんだが。


『シィ? 誰だっけ、コイツ?』


《知らないよー? 商会の関係者じゃない、と思うけど?》


 俺が不在の間でも商会内部であちこち回ってる、ぶっちゃけ商会主の俺よりも遥かに主らしいシィが知らねえ、ってこた、ほんとに商会関係者じゃねえんだろうな?


「こちらこそ、このような身体でこのような場にお呼び頂き、主催に感謝の念をしきり、でございます。――失礼ですが、お名前をお伺いしても?」


「これは、失礼を。マキシ嬢のあまりの美貌に、名乗ることすら忘れておりました」


 立ち上がりながら優雅に胸ポケットから取り出したハンカチで額の汗を拭ってる男を車椅子から見上げながら、俺は今、自分の口から出た令嬢っぽい言葉遣いの気持ち悪さと心中で戦ってるとこだった。


「わたくし、アントスの街を治める領主、メイティス公爵の息子でモントラル、と申します」


「まあ! わたくしったら、領主様のご子息に、なんという失礼を!」


「いえ、お気になさらず。私も息子とはいえ、立場は単に親の七光りで子爵を賜っているだけで、何の実績もない末端貴族でございますから」


「ご謙遜を仰らないで下さいませ? 見ればまだお若い様子、これから実績を育み、いずれは領地を引き継がれるのでしょう? この場で未来あるご子息、モントラル様と出会えたこと、クレティシュバンツ商会主として、幸運に思いますわ」


 ……なんか微妙な震えが車椅子の取っ手越しに伝わって来るんだが。後ろのイファンカが全身全霊で笑いを堪えてんだろうな。


「アントスの街に既に様々に貢献されておられるクレティシュバンツ商会のマキシ嬢にそのように期待して頂けますと、今後の励みになります。――では、そろそろ失礼を。追って、使者をお送り致します」


 相変わらず優雅に優雅な服着て優雅な足取りで歩き去ってく、優雅気障男のモントラルに軽く会釈して見送りながら。


「ふう。やっぱ車椅子で正解だったよなー。いつもならこの後で踊りに誘われたりするもんな」


「…………普通はそういう貴族との出会いの機会を令嬢は喜ぶものなのだが……」


 ぼそっ、と頭上から聞こえたイファンカの言葉に、ん? と俺はそちらを見上げて。


「イファンカは、ああいう気障男が好みなのか?」


「…………好みとは違うが。……あれほどの気品溢れる貴族の息子なら、見初められれば玉の輿だろうな……」


「あ、一応結婚願望はあるんだ?」


「…………結婚願望、というか、安定した生活……」


「「イファンカ?」」


 唐突にそこでアウレリアとウィルペディから声が掛かって、はっ、とした風のイファンカが、二人と目配せして。


「結婚願望は当然ありますが、コテツ様とでしたら性別を超えてでも?」


「結婚願望の話題をコテツ様がお望みなら、ベッドの中でいくらでも?」


「結婚願望にご興味を持たれるコテツ様も素敵ですわね?」


 っあー、くそ。イファンカは俺の車椅子押す担当でいちばん至近距離だから、最近は割りと『素』で喋ってくれるようになってたのに。


 ……他の二人、アウレリアとウィルペディに、気づかれちまった。


「ったく。身近なのに遠すぎるぜ、オマエら」


「えっ、そんなに深い関係をお求めだったなんて……」


「えっ、(ねや)を共にしたいだなんて、大胆……」


「えっ、快楽と背徳の宴だなんて、恥ずかしい……」


「言ってねえだろ一言も!」




 ……なんか話すのも疲れるくらい盛大に明後日の方向に誤魔化されまくってるうちに、その日の夜会は解散の流れになってた。


 一応俺って盗賊王の鳴り物入りで盗賊ギルドの庇護下にある、ってことになってっから、まあ、正面切って近づいて来る奴ってあんまし居ない予定だったんだけど。


 領主の息子っていうモントラルから接近して来たのは予想外だったっつーか。


 でもまあ、よくよく考えりゃ領主にいきなり接近するよりは、モントラルを抱き込んどけば今後もいろいろ街の中で動きやすくなる、ってもんか。


 どれくらい街で過ごすことになるかは解んねえけど……、カスパーン爺さんじゃねえけど、隠居のつもりで全力で遊ぼうって決めてんだから。


 あっちも身障者って見た目の俺に近づいて来て使者送る、なんて言ってたから、なんか腹づもりがあるのは明らかだろうけど……、まあ、お互いにせいぜい利用し合おうぜ、モントラルくん?




 ……この出会い自体、盗賊王ハインが裏で仕組んでんじゃねえのか、って考えるのは考え過ぎなのかどうか。



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