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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 動乱篇
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69話 ロナと遊び倒したぜ

「クソが。ぜってーバレねえと思ってたのに」


「ご自分の特異体質を軽く見積もられすぎですわよ、コテツさま?」


 俺の顔を後ろから覗き込んで来るアウレリアを右腕で軽く振り払っておいて。


 左右でせっせと石鹸を泡立ててたイファンカとウィルペディに俺は全身泡まみれにされながら、もう向こう側も見えないくらいの泡風呂の中で、深々とため息をついた。


「いつ、気づいたんだよ?」


「最初からですわよ?」


「アユカちゃんがああいう行動を取ったら」


「必ず報復を目論むだろう、という筋書きでしたから」


「――クソったれが。ハインの筋書きかよ」


 にこにこと笑みを絶やさないままで全裸でべたべたと俺の身体のあちこちに擦り寄って来る三人のメイドたちに毒づいて、俺はざぶん、と泡風呂の湯船に頭を沈めた。


 ――最初はアウレリアたちがひと騒動起こす予定をアユカ単独に任せた、ってこた、『途中で指示が入った』ってことだ。


 つまり……、レムネア、タケミカヅチ、ロナにべったりくっついて同行しててハインと直結の神核を持ってるインダルト以外にも、ハインと繋がってる奴が居るってことだろ。


「ぷはっ。……誰だよ、インダルト以外の盗賊ギルド員って?」


「あら、ご存知ありませんでしたか?」


「基本的に全員が」


「盗賊ギルド所属ですわよ?」


「そりゃ、盗賊王の一人娘なレムネアの新婚旅行って名目だから不思議じゃねえけど……、――ハダトさんやオマエらは、カスパーン爺さんの方じゃなかったのかよ?」




 言われてみりゃボケてた俺も俺だが、俺の妹って絆のあるレムネアと神格上の配下、ってタケミカヅチ以外はインダルトがそうだって自分で言ってた通り、盗賊ギルド所属の構成員で。


 ――前にシスの街でシンディがハインについて言ってたように、『アイツは全面的な俺の味方じゃない』んだよな。




「ううん、そこのところ、少し複雑なのですが」


「インダルトくんと同様に護衛戦士で密偵兼任で」


「雇用主が複数ある状態、ということですね」


「「「良い小遣い稼ぎですわよ?」」」


「……オマエら、マジですげえんだな」


 説明しながら三人揃って破顔した様子に、俺は感嘆するしかねえ。




 インダルトはハインと次元的に接続されてる神核を胸に埋め込まれてるから、ぶっちゃけると空を飛ぶインダールの目で見た情報すら、会話もなしに直通で把握出来る、って聞いてるけど。


 レイメリアに押し掛けて好奇心で密偵業も始めてみた! なんて言ってた精霊魔法の達人のはずのシルフィンやシフォンは最初から苦労の連続で、満足に密偵業務こなせなくて賃金貰えないー、って嘆いてたっけ。


 本業のムギリの鍛冶屋の手伝いを疎かにしてるから、ってムギリに怒られまくってたよなあ。


 お互いに仲悪いって公言してるくせに、傍目で見たら仲睦まじい兄妹にしか見えないのが笑えるぜ。


 って、話が逸れた。




「護衛戦士で万能メイドで密偵業までこなすって、オマエら、神器の俺やレムネアよりも全然上なんじゃねえのか?」


「それ以外でも万能ですのよ?」


「メイドの役割のうちには、ベッドの中でのお手伝いもあったり」


「コテツさまもお試ししてみませんか?」


「オマエらと一緒に寝たら、俺がおもちゃにされる未来しか見えねえよ。っつーか、どこに指入れようとしてんだっつの!」


「あら? 今日の石鹸はコテツさまの大好きな柑橘系ですもの」


「奥の奥まできちんと塗り込みませんと」


「また、特殊能力で移動した際に、気づきにくくなってしまいますし?」


「……ネタばらしありがとよ、それで気づかれたのか……」


 三人分、六本の手が泡の中から伸びてきて全身絶え間なく撫で回されるもんで。


 俺は全力で口から甘い声が出そうになるのを耐えながら、コイツらが俺が夜中に出かけたことを気づいた理由に納得してた。


「そりゃそうか、全身霧に変えたって、香りの粒子は一緒に移動するもんな……」


「生身で追うには骨が折れる移動速度でしたけども」


「近場で助かりましたわ、インダールちゃんも手伝ってくれましたし」


「インダルト経由で、わたくしたちも行き先が分かりました」


「ってこた、インダルトも知ってるのか?」


「むしろ、知らない方のほうが少ないかと」


「護衛団は全員レイメリア女史の配下扱いで」


「全て密偵で構成されておりますから」


「さり気なく股開かせようとすんなっつの。耳も舐めんな、弱いんだっつってんだろ」


 相変わらずの全力で俺を弄りまくろうとする三人から俺は耳たぶ押さえて距離を取って、広い泡風呂を少し端の方に移動しながら。


「まずったなー、全員知ってんのかよ。……しかし、逆に考えりゃ、良かったのか? 『血の贄』は多けりゃ多い方が、後々いろいろやりやすくなるだろうし」


「軽蔑されるのを気にしているのでは、ありませんか?」


「化物と罵られるのを怖がっているのでは、ありませんか?」


「味方が少なくなることを恐れているのでは、ありませんか?」


「……その表情で迫って来んな、マジ怖えよ」


 言ってるこた、はっ、とさせられる正論なのに……、だらしなくよだれでも垂らしそうな惚けた劣情まみれの表情で全部台無しだ。


「つーか、もう血の匂い、全部落ちただろ? いい加減、出るぞ?」


 元々アウレリアたちメイド三人と一緒に風呂に入らなきゃ、って連れ込まれた理由がそれだったけど。


 奥まで指突っ込まれて全身塗りたくられたんだし、これだけ石鹸の匂い満載の俺から血の匂いを嗅ぎつけられるって、まずねえ……、居ても、人間の数十億倍の嗅覚持ってるアユカくらいのもんだろ。


「「「皆、コテツさまが大好きですわよ?」」」


 ざばっ、と湯船から立ち上がった俺がまた貧血で倒れないように、って、さり気なく両脇と後ろを固めてくれるのはマジ有り難え。


 けど。


「オマエらの大好きだけは、頭に『おもちゃとして』ってくっつくんじゃねえのか、って疑いがな?」


 ……無言で返すんじゃねえよ、怖いだろ!!



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「ゆうべは、お楽しみでしたねー、だ」


「……鼻の頭にシワ寄せて、べーっ、とか舌出して来る妹が可愛すぎて仕方ねえんだが。こりゃソッコー拉致ってベッドに連れ込まなきゃならねえ案件か?」


「だっ、ダメっ! ダメだからね、今は! えっと、後で、二人っきりでなら……」


 ソッコーで全力否定する下の妹が可愛すぎて本気で押し倒しそうになっちまったが。


「レムネアお姉ちゃん、ずるいー。今は、ママとロナのお話のお時間なのよ?」


「あっ、ごめんね、ロナちゃん? そうだったね、ロナちゃんのお勉強の時間だったよねー」


 慌てて取り繕ったレムネアが、そろそろ腰の高さまで達しようかってくらいに背丈が伸びたロナを、軽く抱き上げた。


「改めて見ても、ほんとに大きくなったよなあ、ロナ? 初めて会ったときゃ、膝くらいまでしかなかったのによ」


「ロナはレディとして成長中なんだからね? いつか、ママみたいに美人になるんだからっ!」


 レムネアに抱き抱え上げられてる状態で、びしいっ! なんて勢いで間近の俺を指差して宣言しやがるもんで、その場に居た俺達は爆笑するしかなかった。




《まったくもう、レムネアちゃんもだけど、……ロナちゃんにまで、変なこと教えちゃダメだよ?》


『変なことって何だよ? 単なる姉妹の遊びの延長だろ』


 今は最近の日課になってる、高級宿の中庭でのロナの勉強会を見に来てるとこで。


 宿全体まるごと盗賊ギルドの財力で借り上げた、つっても、俺とロナは危険が多すぎて街に自由に出られねえから退屈しちまってて、こうして護衛団の皆で俺たちが退屈しないように、毎日中庭でいろいろ催してくれてんのが有り難え。


 ロナはロナで、インダルトが軍人貴族ってこともあって貴族令嬢の勉強以外にも、剣術の方にも興味津々らしくって。


 暇を見てインダルトの他、ハダトさんや俺直属の迷宮探索隊の面子たちが代るがわる剣術の基礎を覚えさせてんだよな。


 まあ、いきなり鉄剣は持てねえからってことと、身を守るなら長物がいいだろ、ってことで、薙刀みたいな短柄の槍術を重点的にやらせてるそうだ。


 でも、幼児にしちゃすげえ筋がいい――、ぶっちゃけると兄のインダルトより全然期待が持てる、ってことで、みんなすげえ熱心に教え込んでるのが、眺めてて微笑ましすぎた。


《っていうか、コテ姉の周り、みんなそっち系に行っちゃわないかあたし心配だよ? コテ姉ってなんか、すごく色気あるんだもん》


『色気って何だよ? こんなガリガリ不細工にそんな色気なんぞあって溜まるかっての、気のせいだろ』


 昼間はシィが『お役目』がないもんで、休憩がてら俺と日がな一日姿を消してくっちゃべってて。


 まあ、ロナは<霊視>の魔眼持ちだから、姿を消してるシィをはっきり視認してて、ときどき俺の隣付近に目線向けたり手を振ってるのがすげえ、って思うんだけどな。


《コテ姉、まだそんなこと言って……。いい加減、自分が絶世の美少女に生まれ変わったんだ、って認めちゃいなよ?》


『だから勘違いだ、っつーの。――まあ、この胸だけは美人の範疇かもな、って思わねえでもねえけど』


 むにゅりっ、って弾力のある重たい脂肪の塊を軽く右腕で持ち上げて、ちょいとため息。


 体力無双だった以前は気にも留めなかったんだが。


 これ、重いわ肩凝るわ、走れば振り回されて根っこが引っ張られて痛いわ、って感じで、いいことひとつもねえんだよな。


《むぅー。それは気の毒だと思うけど。――アユカちゃんやアウレリアさんたちも悩んでたよねえ。いい機会だし、女性下着、作っちゃう? 現代的なの》


『アァ? ああ、そうか。オマエ、短大で服飾専攻したんだったか』


《高校でも家庭科クラブだったもーん。自作でワンピースだって作ってたしー》


『……中学で自作ドレス着て街に出たの思い出したぜ。なんか肩から糸くず出てっから引っ張ったら』


《その黒歴史を掘り返すなー! あの後、肩紐外れたまんま腕組みで胸隠して帰宅するの大変だったんだからねー!!》


 今は姿消してっから声しか聞こえねえシィだが、こりゃ間違いなく全身真っ赤になってんな。


『でもまあ、やってもいいんじゃねえのか? いっこ先のエメリアスの街に行くまでもまだ時間掛かるし……、それに』


 明け方に三人で風呂ったときにアウレリアたちが言ってたのを思い出して、追加して。


『ハインの奴、カスパーン爺さんの影響力の端っこなここにも盗賊ギルド支部作るつもりらしいから。……なんか、新しい基盤産業で儲けを出した方が、「表の仕事」としてやりやすいんじゃねえのかね?』




 ぶっちゃけると俺たちゃ全員迷宮で稼いだ財宝の資金力を背景に置いて行動してるんで、金に困るなんてこたないんだが。


 最初の《水と炎の迷宮》でハインに言われた通り、それを全部そのまんま市場に流すと、手に入れた財宝や貨幣の価値が高額すぎて、インフレ起こしちまうらしい、んだよな。


 ここら辺が現代人だった俺やシィの理解が少し追いつかなかったとこ、なんだが。


 俺らの感覚だと「百円玉」や「五十円玉」は昭和のやつでも平成のやつでもどっちも同額、なんだけど。


 この世界だと、金貨は金の、銀貨、銅貨もそれぞれの金属の含有量で金銭価値が決まってて、だから同じ金貨一枚でも、金含有率99%の24金と、金含有率75%の18金とじゃ貨幣価値が異なるらしい。


 でも……、迷宮で見つかった金貨は全部24金だったし、市場に殆ど流通してない白金貨も純度99%に限りなく近かったし。


 そりゃ、そんなもんそのまま大量一気に流通させたら、18金が基本の帝国金貨が流通してる一般社会を大混乱させちまうだろう、ってのは経済音痴な俺やシィでも分かるわ。




《あっ、そうか。だから、「合法的に小出しで貨幣流通させる目的」と「雇用を促進させる名目」で表社会でいろんな業務を始めるんだ、って言ってたね》


『アァ、他にも道路整備や郵便に配達代行とかな』


《それって、コテ姉がハインさんに進言した、って聞いてるよ?》


『別に俺の発案じゃねえっつか……、誰でも思いつくだろ? 大量に人間雇用するんだったら土木事業だし、魚屋や八百屋みたいな一般人が身近で頻繁に使って助かる業種つったら配達業だろ』


《うん、ハインさんが頭いい、って褒めてた。モノがないと売れない販売業と違って、作り出す仕事と、右から左にモノを動かす仕事はどちらも需要が途切れないから、って》


 それも、元々はハインから聞かれていくつか現代知識から案を出しただけなんだよな。


 この世界の実情とかも一応考慮したつもりだが、案外、ハインの脳内で描いた絵と合ってるもんから優先して実施してんじゃねえのか、って気もしなくもない。


 ――アイツ、マジでこういう綿密な計画作る天才だからな。


 何しろ……、この計画、獲得した財宝を使える俺らも良し、雇われる側の一般人も給与貰えて良し、流通させた24金の金貨で信用上がる盗賊ギルドも良し、で三方良しなんだよなー。


 ……18金基本の帝国の財政力が下がる難点はあるんだろうが、そこんとこは俺の知ったこっちゃねえ。




『まあ、そんな感じの「作り出す仕事」の一環で、女性用下着類も作ってみていいんじゃねえのか? どうせ、この街に何か月も居ることになるんだし』


《そうなんだよねー。まだ「根回し」が済んでないんだってね》


『そりゃ、仕方ねえわな。国境方面軍はカスパーン爺さんの後輩の管轄らしいが……、爺さん、一線退いて長いし、隠居してる身分だから大っぴらに動けねえらしいしな』


 まさか国内移動で、国境に移動する途中で足止め食らう、なんて思ってなかったもんでびっくりなんてもんじゃねえんだが……。


 これも、勇者とフヴィトルが暗躍してる影響のひとつ、って考えりゃ、この程度で済んでるのは可愛いもんなのか。


『まあ、そんな感じで誰かに声掛けて進めとけ? 俺は俺で、いろいろやることあるからよ』


《うん、解った。……あっ、小さなレディからお相手をご指名だよ、コテ姉?》


『見えてるっつの』


 頭に鉢巻巻いてだぶだぶの布鎧のあちこちをめくり上げた小っちゃなレディが俺に短槍の先端を向けて、きりっ! って睨み付けて来てんの、可愛すぎだろ、全く。




 結局その日はロナに付き合って日が暮れた。


 本気でいろいろやるこたあったんだけど、たまにはこんな一日があったって、いいだろ。



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