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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 動乱篇
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67話 アイスクリームを教える約束したぜ

「――ほんっとーにやらされるとは思わなかったぜ」


「シッ。静かに。平時で門番は少ないですけど、声が響きますわよ」


 がたごととかなり乱暴に運ばれてるらしい、俺が寝かされて入った長方形の木箱の中で、俺は外で周囲をガードしてくれてるアウレリア以下の俺のメイドたちに向かって、ぶつぶつと文句を言い募ってる。


「そうは言っても、暑いわ蒸れるわで辛いんだよ。俺、いつまでここに入ってりゃいいんだ?」


「荷運びの通用門から宿に入る手はずになっていますの」


「閉所恐怖症なのは理解してますけど、もう少し辛抱されて下さいね?」


「宿に着いたら、お背中お流ししますから」


「べっ、別に暗くて狭くて怖いなんてねえし……、それに、風呂は一人で入るっつの。――オマエら、何かにつけて俺の身体のあちこち触ろうとするからな」


 ……外で声殺して笑ってやがんな、アウレリア、イファンカ、ウィルペディ。


 体力は落ちたつっても、五感は鋭敏なまんまだから聞こえてんだぞ。


《でも、ほんとにそろそろやばそうだよ、コテ姉? 門番さんが臨検してる順番、もうすぐだし》


『あいよ。んじゃ、一足先に一眠りってとこか』


 不可視の霊体化して外の様子を監視してくれてるシィからも言われたもんで。


 俺は黙って身体を横にして、努めて明るい景色を脳裏に思い浮かべながら、右腕を枕に寝る体勢を作った。


 ……そうだ。ここは南国の楽園。狭くなんかない、さんさんと照ってる強い太陽の日差しの下で、俺達は水着で波打ち際を……。




 ――今は、シスの街を出て、西部国境へ向かう途中のひとつめの街、アントスへ入る臨検を躱してるとこなんだが。


 以前はカスパーン爺さんの治める領土地域内で臨検や検問なんか実施されてなかったんだが、皇都で勇者が影響力強めた影響がこんな辺境まで出て来ちまってるらしいんだよな。


 まあ、全土指名手配されてる俺以外にも、ハインの配下の盗賊ギルドの動きを止める狙いもあるんだろう、って話なんだが。


 ――ぶっちゃけちまうと、皇都で影響強めてる、つっても、政治ド素人の勇者とフヴィトルのやることだから、いろんなことが的外れで。


 政治に関しちゃ、新参の宮廷魔術師つっても、大賢者なんて称号持ってて帝国内外にたくさん魔道士の弟子って形の影響力持ってるインシェルドがいるし。


 盗賊ギルドの動きを止める、つっても、盗賊ギルドは元々は裏社会の人間の集団だから、こういう検問を潜り抜けることなんかお手の物、って感じで、実質的にゃ何の影響もないらしい。


 ……むしろ、影響がでかいのは一般民衆の方で、カスパーン爺さんの影響力が下がったもんだから、街の上部の方で勝手に検問通過料や街の入場料を徴収するようになっちまって、そっちの方が深刻な腐敗になりそうだ、ってハダトさんが話してたっけ。




「コテツさま? あとで、氷の料理、教えて、欲しい」


 爪先でかりかりっ、って箱を引っ掻く音で、俺は楽園の妄想を中断されて、真っ暗な現実に引き戻されて我に返った。


 ってか、どうやら珍しく人前に出て来てるらしいアユカからお願いの声が掛かった、ってのは理解出来たが。


『……あー、シィ? 代わりにおkって伝えといてくれ』


《らじゃっ。伝えとくね》


 さすがに、もう周囲に検問の兵士の声が複数聞こえてるくらいだし、返事返すのはマズすぎるからな。


「次の荷馬車、ここまで来い! ……っと、なんだ? 獣人がメイド服を着ているとは、どこの貴族の者だ? 悪趣味な」


「――北東方面軍指揮官カスパーン卿の、シスの街の別宅にお仕えしている者です」


「カスパーン? ああ、カスパーンな、あの耄碌爺いか!」


 ……ほんとに兵士の声なのか? ここら辺は川沿いまではカスパーン爺さんの領地内のはずだが……?


 どうやらアウレリアと誰かもうひとりが御者台に居て対応してるみたいだが。


 自分の所属する軍の司令官を笑い飛ばす、なんて、以前だったらハダトさんにそっこー首を飛ばされてもおかしくない無礼だよな。


 っつか、さり気なくアユカのことを嘲笑いやがったな、こいつら?


「なるほどなるほど、軍指揮官どのは趣味がお悪いようだ、人間の愛妾を囲うだけでは飽き足らず、犬面の獣人にまで手を出すとはな?」


「あの歳でおっ勃つ方が驚きだけどな!」


 どうやらアユカが居るんだろうって位置の周囲を囲むようにぞろぞろと兵士たちが集まって来てるのが気配で分かる、けど……。


 無駄に粘土まで詰めて完全密閉されちまってるこの箱はどこにも隙間がなくて、外の様子は完全に解らねえ。


『シィ! どうなってる?!』


《えっ……、と、ごめん、コテ姉! アユカちゃんに口止めされてて》


『クソが! 確信犯だなオマエら!!』


 念話で箱の外を見てるはずのシィに怒鳴りつけるけど、申し訳なさそうな思念が返って来ただけで、その間にも、アユカの周囲の人だかりは多くなってるみたいで。


「ほほう? 獣人の癖に立派なものをお持ちのようだ、司令官の獣人メイドとやらは?」


「……制服も、借り物。乱暴に、扱わないで、欲しい」


 何をされてんのか解らねえが、音で分かる位置関係じゃ、中央で静止してるっぽいアユカの周囲をぐるぐると三~四人の兵隊が回ってるみたいだが……。


「はっ! たまげたぜ、喋りやがった! オイ、いつから獣人が人間様の言葉を喋っていいことになったんだ?」


「おっ? すげえな、獣人の血の色も赤いのか! 見ろよ、剣先が赤いぜ?」


「なあ、こいつ、奴隷かスパイなんじゃないか? それなら、身ぐるみ剥がしたって別にいいよな?」


 アユカを弄んでる野郎どもの最後の声で、いい加減脳みそが沸騰しそうになってた俺は、はっ、と我に返って……。


 ――ああ、クソが、自分の莫迦さ加減に頭に来るぜ!


 アユカは獣人だ、そして、この先は西部国境に近づく。


 国境の向こうは獣人たちの領域で、獣人たちとこの国は数十年以上もずっと戦争してるんだ、って聞いてる。


 そして、国境のこっちは人間の領域で……、アユカは人間の領域で人間に仕えてる獣人、なんだから。


 ……一般人の理解じゃ、アユカの扱いは、獣人奴隷だ!


 一番危ないのは俺じゃなくて、アユカじゃねーか!


『シィ! おい、状況を教えろ! 答えねえなら、ぶち破るぞ!!』


《ほんっとに……、ごめんね、コテ姉! 後で怒られるから、勘弁! <強制睡眠(ロスト)>!》


「?!?!」


 魔力を集めた気配がねえ……、くっそ、呪符魔術か!


 抵抗力の落ちてる俺が、全開力任せのシィの眠りの魔法に対抗し切れるわけもなくて……、俺は、そのまま、昏睡した。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



 ぺろぺろ。ぺろぺろぺろ。


「……なんだ? 眠ぃ……」


 ぺろぺろぺろ。ちゅっ。


「んぁ? 誰だよ頬を舐めてんの……」


 横になったままで、誰かに上側の頬を舐められてる気配で、俺はやっと目を覚ました。


 身体の抵抗力が落ちてるのと血が通うようになったもんで、ガリガリの俺はすこぶる低血圧で、朝はかなり弱い方になっちまってる。


 以前みたいに目覚めてすぐに飛び起きて走り回る、なんてことをやろうもんなら、もれなく立ち上がった瞬間に貧血立ち眩み起こして轟沈だ。


 ぺろぺろぺろ。にゅるっ。


「うぉっ?! 馬鹿野郎、耳はやめろっつの、弱いんだよそこ」


 目覚めたっつっても、まだ目は開かねえ。


 もうちょっと待ってろ、もうすぐ起きっからよ……、あと五分……。


 そこまで考えて、急速に意識が覚醒して。


「アユカ!?」


 がばっ! って勢いで寝かされてた上質のベッドから起き上がった瞬間に……、やっちまった。


「コテッ、コテツさま!? 大丈夫?!」


「うおぉぉ、頭痛ェ……、大丈夫だ、貧血起こしただけだ」


 急に頭の位置を上げたもんで、脳みその奥が二日酔いみたいにズキズキしやがる。


 もう一度ベッドに倒れ込みそうになる俺の華奢な身体を支えてくれたのが、アユカだった。


「大丈夫かって、そりゃ俺の台詞だよ。大丈夫だったか? 怪我しなかったか?」


「怪我、ちょっと、した。びっくり。でも、治して貰った、問題ない」


「ったく……、無茶しやがって。他にも方法あっただろうに」


 言いながら、薄暗い部屋の中を見たら、あちこちに置いてある燭台にたくさんの蝋燭が灯ってて……。


 街に入ろうとしたのは昼過ぎだから、最低でも六時間以上は寝てたのか、俺。


「クソが、シィに文句つけてやりたかったんだが……、もう『お役目』で居ないな?」


「はい。伝言、預かってる。『帰ったら怒られる』と」


 いつものメイド服の格好で、よく見たら胸や脇腹や肩の辺りに間に合わせで縫った跡があって、ここが門番たちに剣で突っつかれたところなんだろう。


「オマエも、無茶してんじゃねえよ。殺されるかもしれなかったんだぞ」


 いつの間に着替えさせられたんだか、俺は箱の中で着てたはずのいつもの和装じゃなくて、寝間着代わりのロングのワンピースになってることに気づいて――、当然肌着着けてねえし――、アウレリアたちの仕業だな、って思いつつ。


 ばさっ、とスカートを広げてベッドの上にあぐらをかいて、いつものメイドの立ち姿勢に戻ってるアユカを、軽く手招きする。


「……何か? アンッ?!」


「自分の身を粗末にした娘にお仕置きだ」


「あっ、ダメっ、コテツさまっ、そんなとこっ、ああっ、はぁっ、んぅっ」


「なーにがダメ、だよ。オマエの方がよっぽどだろ」


「あっ、あっ、うっ……、きゃっ、……きゃははははは!」


 長い付き合いだ、アユカの弱点なんかとっくに掴んでるっつの。


 ――くすぐりに弱いんだよな、アユカって。


「珍しく人前に姿晒してっから、変だと思ったんだよ」


「はぁっ、はぁっ、ふぅっ。――最初、アウレリアさんたち、ひと騒動、起こす予定、だったけど」


 メイド服の乱れを直しながら、息を整えてるアユカが話し始めて。


「メイドが兵士に逆らうの、後で危ない。アユカなら、注目も集める、すぐには死なない、頑丈」


「オマエは女の子なんだぜ? 身体は大事にしろっつの。女の身体持ってんだから、それ以上のことされても、おかしくなかったんだぞ」


 きょとーん? って目で見つめんな、つか説明しづらいわ。


 ――身体は成熟してんのに、まさか、誰もそっちの教育してねえのか?


 俺とは違ってむっちむちばいんばいんなアユカのごく一部分に注目しながらそんなこと考えてたら、アユカが言葉を続けて。


「コテツさま、アユカの家族、皆殺し、したけど、アユカだけ、残してくれた。恩返し」


「……知ってた、のか?」


 アユカと出会ったのは、《水と炎の迷宮》で、小さかったアユカは、迷宮の入り口に続く地下洞窟に住んでて。


「知ってた。アユカ、鼻、いい。……コテツさま、初めて会ったとき、父と兄の匂い、してた」


 アユカの父親と兄貴は、レムネアたちに出入り口を燻されながら侵入されたもんで、人間から逃れて、俺が見張ってた裏口に脱出して来て。


「洞窟の奥、裏口、たくさんの同族、血、出た。誰も、帰って来なかった。みんな、死んだ」


 軽く戦って捕縛する予定だったのに、俺は血の匂いで暴走しちまって、裏口に来てた犬面族(コボルト)を全殺ししちまった。


「コテツさま、優しい。皆殺し、おかしくなかった。でも、アユカたち、生き残った。同族みんな、感謝してる」


「感謝? いや待て、おかしいだろ、そりゃ。……俺が殺したんだぞ?」


「コテツさま、強い。同族、弱い、死ぬ、当然。アユカ、コテツさまに、従う。当然。アユカ、弱い」


「そうじゃ……、そうじゃねえだろ!」


 本気でアユカは、家族を皆殺しにした俺を憎んでも恨んでもいねえ、ってのが理解出来て……、俺は、大声出しちまった。


 価値観の、相違って奴だ。


 ガチの弱肉強食の世界で育ったアユカにとっちゃ、例え家族でも強い奴に逆らったら死ぬのが当然で。


 自分が弱いから、強い奴には何されても仕方がない、って思ってて。


「そうじゃ……、そうじゃねえんだよ、アユカ。アユカは、幸せになっていいんだ」


「??? いま、幸せ。飢えない、暮らし、楽しい。料理、楽しい。人間社会、面白い」


「家族を殺されたのに、俺が、憎くねえのかよ?!」


 今度こそ、当惑した表情をはっきり浮かべたアユカは、答えを迷うように俯いて……、それからしばらくして、一言。


「アユカ、コテツさま、大好き」


 なんて答えたらいいか判んなくなっちまって、俺は、無邪気な笑顔を浮かべるアユカを強く抱き締めた。




「――それで、最初のお願いに、戻る」


 もぞもぞと俺の腕の中で心地良さそうに身を預けてたアユカが、ふと思い出したように、俺の顔を見上げると同時に、ぺろっ、と俺の下顎を舐めて来やがる。


「アァ? なんだっけ?」


「氷の料理、教えて欲しい。シィさま、言ってた、コテツさま、氷のお菓子、作れるって。氷、どうやって食べるか、アユカ、知らない」


「――アァ、そりゃ、たぶん……、アイスクリームだな」


 相変わらずの料理莫迦っつか、俺の葛藤なんか蚊帳の外で、そっちにしか興味ねえのか。


 子供の頃から大して変わってねえ犬目を爛々と輝かせて調理法を尋ねて来る様子に、俺はもう諦めたっつか、苦笑浮かべるしかねえじゃねえかよ。


「はっ、俺なんかより、アユカの方がずっと大人だな。――解った、教えてやる。まずは冷凍からだが、俺じゃ魔力が足りねえ。レムネアかタケミカヅチの魔力借りっか」


「解った、お二人のところ、ご案内する。……コテツさま、元気、出た?」


 ……アユカめ、全部計算づくなんじゃねえだろうな?


 にこにこと笑って耳と尻尾を全開で振ってるこの可愛らしい女の子に全部が負けてる気がして。


 俺は、先にベッドから降りて立ち上がろうとしたアユカを引き止めて、振り向かせると同時に――。


「んっ……?!?!」


 ――全身全霊の親愛のキスをお見舞いしてやった。




「ありがとよ、アユカ。なんか、肩の荷がひとつ下りた、気がしたぜ」


 口元押さえたまんまその場にへたり込んだアユカに手を差し伸べながら、俺は……、自分でも解ってるけど、すげえ不器用な笑みを浮かべて、そんな風にお礼を言っといた。



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