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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 動乱篇
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63話 お楽しみの夜だぜ

《まったくー、寝坊しすぎっ。苦労したんだからねー?》


「ねー、シィ姉? でもコテツ姉ったら、ボクらの苦労、ぜんっぜん汲んでくれてなくってさ?」


《だよねえ? でも、あたしは一心同体で繋がってるから、絶対起きる、って解ってたけどねっ》


「うん、シィ姉が居たから、ボクも信じられたの!」


「だーかーらー、悪かった、って何度も言ってんだろ」


 俺が生まれて初めて泣いた日から三日くらい経って、遠くまで探索に出かけてた密偵頭のレイメリアと、なんでか一緒に同行してたらしいシィが街に戻って来て。


 レイメリアは忙しい身の上なんで後でまたゆっくり、ってことで、シィだけがこの、俺の今の居室になってる結界部屋に残って。


 それと、妊婦ってことで今はギルドから一歩も出ずに俺の世話を焼いてくれてるっつか、毎晩俺と抱き合って寝てるレムネアが、俺の身体のリハビリに付き合ってくれてるとこだ。


「つか、無事だったんだな、シィ。消滅しちまったかと思ってたぜ」


《うん。っていうか、シンディさんが、あのとき消し飛んだあたしの意識をかき集めて、また復活させてくれたの》


「シンディが?」


「それでね、時間かかったけど、完全に凍結して埋まってた坑道の出口を掘り出して、お姉ちゃんとヒトツメさんを発見したんだ。……シィ姉が居なかったら、ぜったい、見つからなかったよ」


《ううん? 実際に見つけたのはレムのおかげだから。あたしは、物に触れられないんだし》


「そうか。……つか、その、『シィ姉』と『レム』って? てか、シィ、オマエ、存在は秘密だったろ?」


 レムネアとシィの会話に少し違和感を覚えて、突っ込んだら。


 霊体のシィがちょっと困った風に笑って、レムネアとも顔を見合わせて、二人して苦笑い。


「んと、事情は解ってるんだけど、シィ姉が復活したのが、ムギリさんのところでね」


《ムギリさんのお宅で、小太刀を拠り所にして小太刀に宿る形で復活しちゃって。それで、シルフィンさんやシフォンさんと一緒に作業してるところだったから、言い逃れ出来なくって。……ほら、あたしってシンディさんの姿の元だから》


「そりゃ、そうか。あの、ばりばりの神気を発してなけりゃ、瓜二つだもんな」


「それでね? シィ姉、コテツ姉のほんとの妹なんだったら、ボクとも姉妹でしょ? シィ姉の方が年上だから、シィ姉って!」


《あたしは年齢18歳で止まってるから、そのうち追い抜かれるのにね? レムったら、何度言っても聞かないんだもん》


「いや、マジで仲良くなったもんだな? 驚いてる」


 くすくす笑いしてるシィと、霊体だから触れねえんだけど、べったり寄り添うようにして身体を半分重ねてるレムネアが、お互い愛称で呼び合ってる光景ってな、そりゃ驚くだろうよ。


「ほんとに、一年経ってんだなあ……」


「……うん。一年経ってるの。それで、っていうか」


《だから、っていうか。コテ兄……はもう違うか。今はね、コテ姉がここに居ることが絶対秘密、になってて》


 急に深刻そうに眉根を寄せるタイミングが二人同時で、血が繋がってるわけもねえのに、マジで似た者姉妹だよな、って思ったら笑っちまった。


「どしたの? 急に」


《あたしたち、何か変なこと、した?》


「いや、何でもねえ。――『敵』のせいか?」


「うん、そう。……もう、誰だか、気づいてるよね?」


「解ってる。――迷宮で得た財宝と、無尽蔵の魔力がある超絶な神刀使ってる無敵の戦士サマ、だろ?」


 ――名前は、解ってるけど口に出したくねえ。呼ぶな、って言われたしな。


 アイツらは俺の神刀と俺の左腕を持ち去っちまって、代わりに残されたのは、俺の身体に突き立てられたままで発見されたっていう、アイツの蒼銀(ミスリル)の愛剣。


 ……と、洗脳されてる状態でも律儀さは変わってねえのか、ほんとに無傷でアイツの支配下から解放されて我に返ったらしい、アドン、サーティエ、シルフィン、シフォンの四人。


 つか、四人は坑道の中で解放されたんで発見が早かったらしいが、俺とヒトツメは氷漬けにされた上に坑道出口の岩盤崩されて下敷きにされちまってたもんで、掘り出すのに苦労したみたいだけどな。


《そう。その人は今、北東の動乱を鎮めた帝国の新しい英雄になってて、だから王侯貴族に任命して領土を与えよう、って動きが宮廷にあってね》


「んと、悔しいんだけど、お姉ちゃんが北東の村を壊滅させた殺人鬼で女神の名を騙った邪神、って風聞が広まってて……」


「いや、確かに俺が村人の過半数を皆殺しにしたんだから、間違っちゃいねえんだけどな」


 悔しそうに唇を噛むレムネアの前で、ベッドの端に腰掛けた俺は、残った右腕の手のひらをじっと見下ろして。


 ――その、手が血に塗れた感触を、思い出す。


「つか、俺は化物なんだぜ? 霊体のシィはともかく、オマエだって盗賊王ハインの一人娘だ、俺を隠してるなんて知れたら、立場悪くなっちまうだろ?」


「またっ! もうっ、前のコテツ姉に戻ってよ!? どうしてそんなに弱気に……」


 どんっ! なんてちょっと強めに肩を押されて、俺はよろめいてそのままベッドに横倒しになっちまった。


《ていうか、もう既に立場悪いもん、今更だよね?》


「アァ? なんでだ?」


 横倒しになったまんま、首だけ捻って二人に尋ねたら、レムネアが指折り数え出して。


「だって、ボクら、『邪神を受け入れた街の住民』で、『寒村の惨事を防げなかった、役立たずで耄碌した軍指揮官カスパーンの庇護者』で、おまけに『犯罪者集団として悪名高い盗賊ギルドメンバー』だもん」


「犯罪者集団ってとこにゃフォローは入れらんねえが……、他のふたつは、アイツだって同じだろうがよ」


「あの人は、今はカスパーンお爺ちゃんより立場が上になってるの。最強の英雄、邪神……を退治……して生還した『勇者』の扱いだから」


 邪神、ってのは俺のことだよな。そこんとこ言いづらそうに言い淀んだレムネアに、俺は右手を差し出した。


「神器になったんだったら、身体の使い方も学べっての。常時強力な身体固定効いてっから、力も半端ねえんだよ」


「夫にも……、タケミカヅチにもよく怒られてる。ごめんー。でも、そこまで力は入れてないよーだ」


 俺の手を引いて俺を引き起こすついでに、俺の胸に顔を埋めるように抱きついて来やがるレムネアに、俺はその真っ白な髪をぐしゃぐしゃに撫で回してやった。


「ずいぶんとご出世なされたもんだ、勇者さまとやらは。じゃあ、この街にゃ、もう居ねえんだな?」


《うん、帝国の賓客扱いで皇都の、皇城に部屋を与えられてそこに住んでる。それで、あちこちで勇者の持ってる資金力で、シンパが増えてて》


「そりゃ、アイツのそばに居る、フヴィトルの影響もあるんだぜきっと。フヴィトルは死霊使い(ネクロマンサー)で、おまけに洗脳の神力使いで神刀まで手に入れちまったし」


《そう、それ。そこが問題。ていうか、神刀取られたの、本気で不味いの》


 ずうん、って部屋の空気が重くなった感じがあって。


《神刀があっちにあって、神刀の中の神力や魔術式には使用制限みたいなものがなかったから、あいつら、やりたい放題でさ?》


「裏で、反対する勢力をどんどん潰して勢力伸ばしてるっていうか、あれ、現世最強の戦士と魔道士のコンビ、になってるし」


 ぶつぶつと眉根を寄せて言ったレムネアが、ふと思い出したように、俺の胸に顔を埋めたまんまで、くぐもった声で。


「そういえば、エル……ううん、勇者って、ずっと仮面で両目隠してるけど……、あれって、お姉ちゃんの仕業?」


「アァ、そうだ。――両目を切り裂いて、<呪傷(カースディシーズ)>で傷が癒えない呪いを掛けてある。だから、<治癒(ネスタ)>が効かないし、二度と<魅了眼>を使えないはずだ」


《それで、か。決して素顔を見せない謎の勇者、って噂でね》


 納得したように頷くシィを横目に、俺の胸に顔を埋めてるレムネアが泣き出した気配があったもんで、俺はその後頭部を力いっぱい、俺のでっかいだけで邪魔くせえ胸に押し付けてやった。


「ふむぅっ、なっ、何、なに?!」


「次に泣き顔見せたら、全力全開の『大人のキス』をお見舞いしてやんぞ?」


 こりゃ予測っつか、コイツの夫になったっつータケミカヅチが未だに遠慮してるっつか、恐れてるっつかそんな理由で俺の前に姿を現さない辺りでそんな予感がしたんだが……、コイツ、たぶん、『初体験』してねえ。


 妊娠した、っつったから、当然そっちの経験も済んでるのか、って思ってたけど、そういや神話の神は、そういうことしなくたって子供作ってたし。


 レムネアの妊娠発言も、そういう理由だろ?


 慌てて両手で顔の辺りを全力で擦ってる辺り、たぶん当たりで、顔を上げたレムネアは一所懸命笑顔を取り繕ってたもんで、俺は吹き出しちまって。


「ちょっ、ちょぉっ? ボク泣いてないー!? コテツ姉のうそつきぃぃ!!」


 ――問答無用で『大人のキス』かまして、ついでなんで、そのまんまベッドに押し倒してやった。




《うわぁ……、地球だったら薄い本出ちゃうよ、これ? やらしいー》


 なんてシィの言葉で、どれくらい俺がその後、反応がうぶなレムネアで遊んだかは推し量れるかもだけどな。




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