表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 動乱篇
74/116

58話 何の映画だよって思ったぜ

《多分だけど……、影響は出てない、と思う。あっても、極小?》


『シンディと連絡が取れねえ以上、シィの魔術知識が頼りだからな。信頼してるぜ?』


《うんっ、解ってる! なんで自分がこんなに魔術に詳しいのかは解んないけど……、あれっ、ていうかあたし、そもそもなんで異世界に》


『っあー、その辺はそのうち神のシンディの方に説明させっからな? とりあえず、目先の判断結果を先に、頼むぜ』


 シィの記憶が曖昧なのは、「魂の一部だけが憑依してる状態」で、本体自体は遠くに出かけちまってる神のシンディの中に大部分が残ってて、記憶に整合性がない「作られた人格」だからだ。


 深く思索すると自己矛盾するんで、注意を逸らすように、ってシンディに言われてたっけ。


《あっ、うん、そうだね。……みんなのこと、心配なんだよねコテ兄》


『心配なんかするかっての、俺の下僕たちがこんなつまらねえことでおかしなことになったら、後々俺が困るだろ?』


《……ふふっ、そうだね! そういうことにしとこっ?》


 逸らしたら逸らしたで、クソつまらねえこと言い出しやがって。憑依状態ってな、一心同体なんだからな?


 こそっと笑ってる気配が伝わって来るっつの、クソ面白くねえ。


「しっかし。レムネアやアユカ、ムギリは仕方ねえが……、インシェルドまで気絶しちまうとは、予想外すぎたぜ」


「マコトニ。――神力ヲ扱エルトハ言ッテモ、耐久力ハ普通ノ人間ト変ワラナイヨウデスナ」


「……だな」


 なるべく急いで地上に戻ろうとして、疲れ知らずの神族な俺とヒトツメが全員を担いで階段を駆け上がったんだが……、人間に耐えられない加速度出しちまったもんで、担いでた全員がブラックアウトしたらしくって。


 入り口を通過して地上に出たときには、俺とヒトツメ以外、全員気絶しちまってた。


「この機会に、あんだけ殴りまくってくれてたインシェルドの杖を徹底観察したいとこだが……」


 よっぽど大事なもんなのか、気絶しても手から離してないインシェルドの杖をしげしげと見下ろしつつ、俺は、軽くかぶりを振って、ひとつ大きなため息をついた。


「ヒトツメ、こいつらの様子見、頼めるか?」


「問題アリマセンガ……、虎徹サマハ、ドコヘ?」


「先に寒村に戻ってハダトさんたち呼んで来るのと、村の方で厳密に同じ神力溜まりがねえか調べてみる」


「カシコマリマシタ。オ気ヲツケテ」


 深々と頭を下げるヒトツメに、気絶して地面に寝かされたままのレムネアたちを任せて、俺は村へ戻る進路を走り始めた。




《そっか、村の内部はきちんと検知してなかったな……、「あんなこと」あったから、びっくりしたし怒っちゃったし》


「その話も後でな。ハダトさんに少しだけ匂わせて簡単に事情説明してレイメリアの世話も頼んだから、変なことにゃなってねえはず、と思うが」


 二人っきりになったんで、声に出して会話しても問題ねえんだよな、もう。


 ――でも、村人があんな風に<魅了眼>の下僕になっちまった背景に、それを使用してるエルガー自身が《岬の迷宮》に封印されてたっぽい、得体の知れない何か、に影響されてる可能性を考えたら……、村も安全じゃねえじゃねえか!


《そうだ、白い子供! 村の人達が、最初に出会ったときに言ってたやつ!》


「アァ、そうだ。インシェルドも最初に言ってたよな、「エルガーに白髪の子供が寄り添ってた」って。そいつがきっと、《岬の迷宮》に封印されてた存在、だぜ?」


 その会話の間にも、村に至る林の中の道を、俺は車両並みの速度で駆け続けて……。


「って、なんだ、この匂い?」


《解んないけど、何か……、いっぱい燃えてる、っぽい?》


 風向きが林の方に向いてるのか、林の木々の間から村そのものが目視出来るよりも早く、俺の嗅覚は、何か焦げ臭い匂いを嗅ぎ取って。


「シィ! 霊体になって上から見てくれ!」


《解った!》


 駆け続ける足は止めないまんま、身体からぬるりと抜け出るように、シィが俺の外に出て行く感触と同時に、駆けてる俺よりも速い速度で、霊体のシィが上の方に急上昇してく。


《やっば! 火事だよ、コテ兄! 大火事、燃えてるっ!!》


「くっそ、後手後手じゃねーかよ! シィ! 動いてる人間は見えるか?!」


 これだけ焦げる匂いが強いと、俺の鼻も役立たねえし、俺の五感を俺よりも自在に扱うシィに検知して貰った方が早ぇ!


《炎の勢いが良すぎて……、だけど、たぶん、西の洞窟に向かったっぽい? たっくさんの足跡が続いてるし、心音聞こえないし》


「寒村から炎村に変更だな!」


 適当に口からおかしな台詞を吐き出しながら、やっと村全体を焦がす莫迦でけえ焔を目に入れて、俺は背中の神刀に手を掛けて、気合一閃……!


「<炎牙(ラハ・カルヒ)>!」


《手伝う! 最大?!》


「オゥ、全力最大だ、小太刀使え!」


 村に人が居ない、ってんなら、消火するより破壊しちまった方が早ぇ!


 おあつらえ向きに、火種は今まさに盛大に燃え盛ってやがる、俺はシィの術式助力とムギリが作った魔力増大の小太刀まで動員して、最大規模、レムネアの<雷牙(ファンダカルヒ)>なんざメじゃねえ、2,048発に達する炎の牙を村の一帯に打ち込んで、燃え盛ってる建造物を片っ端から破壊してやった。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「やっぱ、あの神力の痕跡、あるよな。迷宮ん中よりは少ないが」


《あるね。この程度なら、迷宮内と一緒で影響はない、と思うけど》


 少しだけ残り火があるのを適当に<水球(ロルン・コロン)>で消火しつつ、俺とシィで破壊しまくった村に入って、そんな結果に辿り着いて。


「……ため息しか出て来ねえな。最初に来たとき気づいてりゃ、なあ」


《でも、迷宮の最奥まで行って初めて術式の痕跡に触れて、それで因果関係に気づいたんだから……、結果論、だと思うよ》


「だから、ってなあ。……割り切れねえよ」


 ハダトさんと合流してレイメリアを預けた家も、木っ端微塵のぼろっぼろ。


 中にハダトさんたちやレイメリアの装備類や死体もねえから、生きて食料保管庫だっけ? そっちの洞窟に移動してんだろう、と思うが。


《死体もそこそこあるけど……、言っていい?》


「いや、俺もたぶん同じこと考えてる」


 人目がないもんで、堂々とさっき出現した霊体のまんまのシィが――自分で意識すれば衣類着た状態で出現出来るらしいんで、今は裸じゃねえ――、思案顔で呟くもんで、俺もそっちを見て、顔を見合わせて。


「《どこのゾンビパニック映画》?」


 多分だが、燃える前から死んでたらしい焦げてる死体は、みんな『食われた』形跡があって。


「シンディの話じゃ、この世界じゃ死者の魂は死の女神(イザナミ)の管轄で」


《シンディさんよりもずっと高位の神だから蘇生魔法はない、って言ってたし》


「アァ。それに、死の女神に一度取られた魂は転生待ちで確保されるから、映画でお馴染みの『死人が蘇って人を襲う』って事態は有り得ねえ、って聞いてたんだけどな」


《――じゃあ、これは、きっと生きてる人間の仕業、だよ。<魅了眼>で、そういう風に支配された人間を、操作、出来たよね?》


「出来なくはねえ……、けど。そこまでやるか? やったら二度とまともに戻れねえぞ、あれ?」


 思わず腕を組んだ俺に、シィはどっか寂しそうな表情で。


《だって、最初に殺した村人のこと、覚えてる? あれだって、相当に重症の<魅了眼>中毒で、殺す以外に救う道、なかったし》


「――『本能の欲求に忠実に従うだけの怪物』に操作しちまっても、不思議じゃねえ、か」


 証拠はねえ、っつか、動いてる現物見るまで確証はねえが……、エルガーがこれをやってる、っつーんだったら。




 エルガー。俺はもう、オマエを殺すしか止められねえのかよ? 人の道を外れちまってるぜ? どうしちまったんだよ、一体。




「きゅぅぅぅううううう! きゅぴぃっ!」


 なんか、そんな風に考えて沈み込んでたら、元気のいい鳴き声と同時に、ずっと上の方から何かが急降下して来て。


「ぶわっ?! な、なんだっ?!」


《あっ、いいな、コテ兄! あたしもモフモフしたーい! ……はっ!? あたし、触れないんだった?!》


「悪いな、こりゃ俺のもんになった、今決めた。モフモフモフモフ……、じゃねえ、どうしたインダール?!」


 本人もモフモフに悪い気がしてなかったのか、めっちゃ和みモードで俺にモフモフされるがままになってたインダールが我に返ったみたいに、慌てた風で鳴きまくってるけど。


「……いや、悪い。けっこー語学は修めた方なんだが、フクロウ語はちょっとまだ無理でな?」


《むしろ、そんな翻訳辞書とか存在するのかな?》


 どうも説明が通用しない、と踏んだもんか、インダールが俺の両腕の中から、ぶわっ、と翼広げて飛び立って。


「シィ、先に行って見た物報告してくれ! 俺は走ってく、空の方が早いだろ!」


《うん、解った! インダール、お願い!》


「きゅぴぃっ!」


 甲高く鳴いたインダールが、隣を並んで飛ぶシィを連れ立って先に高く舞い上がって。


「俺も飛行の術式とか開発しとくべきだったな、畜生! インダール連れて隔離されてたはずなんだから、飛ばしてよこしたのは、インダルトたちだろ!」




 思った通り、ほとんど一直線に北西の方向に向かってすっ飛んでく一人と一匹の姿を追いかけながら、俺は二本の足で駆け続けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ