49話 寒村到着だぜ
「なるほど、確かに『寒村』だなあ?」
「寒村寒村っていちいち連呼すんなよ、コテツ? 俺の故郷なんだぞ?」
「ああ、なるほど。寒い村の生まれだったんだな、インダルト」
「――単語言い換えりゃいいってもんじゃねえだろうがよ……」
なんて、軽口言い合える程度にゃ持ち直したみたいだな、インダルト。
シスの街を出てからこっち、話しかけるのも憚られるくらい落ち込みまくってたんだが。
よくよく話聞いたら、コイツ。
神核の実験台をやるのは同意してても、自分が見聞した内容がハインに筒抜けになることまでは知らなかったんだってな。
あの、人を使うのがやたら巧いハインのことだ、コイツに話したらすぐにバレるのが解っててわざと話さなかったんだろうな。
でも、コイツの持ち味ってのは何やってもへこたれない強靭な精神力みたいで。
エルガーやサーティエたちが調査してたこの村への案内を買って出たのもコイツだし。
それに、出発時点じゃ罪悪感が一杯だったみたいだが、さすがに一週間もツラ突き合わせて旅してたら、いつの間にかいつもの調子に戻ってた。
「――で、寒い村出身のインダルト? 俺らはどこに向かってるんだ?」
「……そういう、年上に生意気な口利く悪ガキには教えてやらねえ」
「たった二つ違いで年上ヅラすんな、経済力も包容力も戦闘力も全部俺の方が上だっつの。――だよな?」
先頭を歩くインダルトのすぐ後ろを歩いてた俺が軽く後ろを振り返って、一緒に続いてる仲間たちを振り返ったら――、ほぼ全員が、俺の言葉に笑いながら頷いてた。
「ほれ見ろ。人望も俺の勝ちだ」
「俺の人望だけは得られねえからな!」
びしいっ! なんて擬音が飛び出しそうな勢いで俺の鼻先に人差し指を突き付けて来たもんで、俺は両手でその手を掴んで。
「うぉっ?! いてっ、いててて、離せよ馬鹿野郎!」
「人を指差しちゃいけませんって教わらなかったのか? それに、俺は『野郎』じゃねえっつの」
ちょっと個人的に焦りを覚えて、長期の旅路に出る、っつーシンディからたっぷり貰った神の血は、臨んだ方向性じゃなく、また胸と尻の方に成長が集中しちまって。
元が犬だからか、やたら成長の早いアユカほどじゃねえが、それなりのボリュームに成長した俺の胸に、これ見よがしに逆手に捻ったインダルトの腕全体を、むにゅるっ、と押し付けてやったら。
「一応年頃の女なんだったら、恥じらいとかそういうもんを身に着けたらどうなんだよ!」
「そんなもん俺の辞書にはねえよ。で、目的地はどこだ?」
「……っ! もう見えてんだろ、村外れの一軒家だ、俺の爺ちゃん家だよ! 爺ちゃんはこの村の開拓者の一人だ!!」
「へえ? そりゃまた」
顔を真っ赤にして俺の腕を片腕で掴んで引き剥がそうとしてるインダルトをさせるがままにしといて、俺はインダルトが示した方向を仰ぎ見た。
「……この人数は入れそうにねえな?」
「ついでだし、手分けして情報収集しましょうね。宿の手配も……、この村、宿ってあるのかしら?」
俺と同じことを考えたのか、途中で歩き疲れて寝入っちまったレムネアを背負ったレイメリアが、そんな提案をして。
「イササカ、我々全員ガ邪魔スルニハ小サスギマスナ」
「だよなあ。どう見ても人間三人くらいでもう一杯だよな、あの大きさの家だと」
シンディが別の用事でタケミカヅチを連れてかなり遠方まで長期の旅に出るっつーもんで、俺のフォローを任されたらしい大男サイズまで身体を縮められたヒトツメが、着け慣れなくて痒みでもあるのか、単眼全体を覆う眼帯の上からごしごしと目を擦りながらそんな風に言うんで、俺も軽く頷いて同意してみせた。
……なんか、俺が腕を押さえ込んでる奴がそろそろ涙目で泣き言言って謝ってる気がするけど、たぶん空耳だ。
「ワシとヒトツメさまは岬の方を調査しようかのう? あちらの地下に何やら金属の精霊が居るように思うでの」
「生身の高性能金属探知機みたいなこと言うなよ」
軽く笑って、離れるムギリとヒトツメに手を振って。
「んじゃ、アユカもレイメリアに任せていいか? 俺は一軒家の方に行くんで」
「女性だけで纏まった方がいろいろやりやすいかもね。じゃあ、アユカちゃんとレムネアは私と同行で」
「大丈夫か、アユカ? 疲れてないか?」
「コテツさま、ついて行きたかった、けど……、ちょっと、眠い」
少し眠そうに目を擦ってたアユカが、恥ずかしそうに頬を押さえてそんな風に言うもんで、俺は空いてる手で、もこもこの獣毛で覆われてるアユカの頭を軽くぽんぽんと撫でてやった。
夜中から降雪して来たもんで、雪の中でビパークするよりゃ強行軍で村に入った方がいいだろ、ってことで。
疲れ知らずの俺やヒトツメやムギリが他のメンツを担いだりしながら、今朝、村に着いたばっかなんだが。
村に着いた途端にいちばん耐久力のない子供のレムネアがダウンしちまって。
「元が獣人つっても、体格小さいアユカも頑張った方だぜ? オマエの嗅覚は頼りにしてんだ、今日はゆっくり休め」
「そうね、サーティエたちが泊まってた宿とかがあるはずよね」
「この手の寒そ……、じゃなかった、『寒々しい村』なら、空き家を借りてたんじゃねえかな? 一応、軍の指令書とかあったんだし」
「そこら辺の対応も含めて、先に村長の話も聞きましょうか。道案内はいいわよ、適当にそこらの農民を掴まえるから」
なんかもう会話するどころじゃなくなってるくらい、うんうん唸ってるインダルトにぱちり、とウィンクして、レイメリアたちが離れてった。
「で。オマエはいつまでそうやってんだ?」
「いてててて、マジ俺が悪かった、離してくれえ」
「エルガーなら体捌きで捻って外すんだけどな、これ」
どうやらマジで外せないみたいなんで、俺は両手を解いてインダルトを解放してやる。
剣の修行の合間にタケミカヅチから教わった、ただの合気道の立ち関節からの腕絡みで、インダルトの手首を右手で取って左手で二の腕を下向きに押さえて引っ張ってるだけなんで。
……そのまんまインダルトの腕を引っ張りながら上向き方向に回転させて、肘と肩を固めた状態で俺の右腰にインダルトの右腰を逆向きに乗っけてやったら「腕絡み投げ」って投げ技になるんだが。
……今は、その全然前段階だし、別に試合やってるわけでもねえんだから、打撃とか体捌きで外し方は幾らでもあるんだけどな?
「オマエ、ほんとにド素人なんだな、戦闘技術からっきしじゃねえか。よく《虫の迷宮》で無事だったよな」
「オヤジの指揮に任せときゃ、大抵の戦場は生き残れるらしいからな、心配してなかったよ。……うおぉ、痛かったー」
いつもの守備隊の制服に胸甲と手足甲って軽装で、俺に取られてた腕をぐるぐる回してるけど。
「オマエにゃ前衛は任せられねえな……」
「戦闘する予定あったか? 俺は調査だけとしか聞いてなかったんだが」
「ここにも二つほど迷宮があるんだよ。ひとつは山頂の方なんで、コトが済んだら帰りに足を伸ばす予定でな。――まあ、どっちも、後から装備整えて到着するハダトさんたち待ちだけど」
密偵バイトやってるのがバレてこっぴどく怒られた前科持ちのインダルトが、げっ! なんて声出して驚いてるけど、そりゃ俺の知ったこっちゃねえな。
一応は隠居してる身っつってもカスパーン爺さんの支配地域な領土内の出来事で、それでも隠居中で表向きの領主は皇族の第五皇子で?
第五皇子ってのがどうやら隠してはいるけど盗賊王のハインで、ってなんかすんげえややこしくなってて。
それに、軍を動かすとエルガーたちが脱走してる事実が皇都の本部に間違いなくバレる、っつーんで。
《虫の迷宮》で訓練積んだ、正式に俺の配下に収まった、インダルトも一応表向きの所属になってるハダトさんたち迷宮探索専門部隊が、いろいろ調査も含めて動くつもりで後から到着する予定、なんだけどな。
「……正直、迷宮探索よりもエルガーの行方を直接追いたい気持ちの方が強いんだが。契約がなー」
シンディと物理的に離れた、つっても、妹の魂の契約から逃れたり、行動の自由があるわけじゃなくて。
俺とシンディは神の血で次元的に繋がってる結びつきを持ってるんで、シンディは俺の行動全てを完全に把握してるし、血の力越しに意識を繋げることも出来るし。
俺の方も、やろうと思えばシンディの血の力を異次元空間越しに利用することも出来るんだが――。
それをやると、間違いなく血の本能で暴走しちまう、ってのが判明してっからな、やるとしても最終手段だよな。
まあ、神刀と小太刀持ってて不死身の俺がそんな手段使わなきゃならねえ相手なんて、そうそう居るはずもねえんだが。
「なんだ? コテツも悪い契約に騙されたクチか? 契約する前に契約条件確認するのは本当に大事だよな、俺は思い知ったぜ」
「テメエと一緒にすんな、借金小僧」
「俺の借金じゃねえよ、親父のギャンブルの借金が子供の俺に請求来てるだけだっつの!」
また、ぎゃーすか喚き散らし始めたインダルトが人目を引くもんで、俺はインダルトを軽く片腕で肩に担ぎ上げて。
村の入口から逸れて、坂の上に見えてる小さな掘っ立て小屋みたいな一軒家に向かって歩き始めた。




