41話 マジでド派手だったんだ
「うわっ、うわぁぁぁ?!」
「後ろだ、馬鹿もん!」
驚愕と叱責の叫びが同時くらいだったな。
さすがに新環境での新人練兵を任されてる隊長さんっつか、それなりに大きな羽音立てて新人兵隊さんの背中に飛びついて来た、人間の頭ほどもある大きな甲虫が居て。
隊長さんはそんな叱責と同時に片手剣の一撃で、見事に甲虫がしがみついてる三対の足だけを切り飛ばして、虫から新兵さんを解放してた。
「って、そういや隊長さん名前、……聞いた気がするんだが、バタバタしてて忘れちまった。もっぺん聞いていいかな?」
「明かりを持つ隊員を中心に、三人一組で全周囲に警戒しろ、お互いをフォローし合え! ……っと、失礼、私ですか? シス守備隊副隊長、ローデンの子ハダト、ハダト・ローデン=マハラーニと申します」
「アァ、そうだった、ハダトさんだった。悪いな、何度も」
新兵さんたちの緊張感が伝達したのか、かなり神経質にあちこちに細かく指示飛ばしてる30代前半くらいか? その、隊長さんに話しかけるのも気を遣ったけど。
……やっぱ、名前知らねえと不便だしな。
「いえいえ、とんでもない。今回はこちらの方でも、準備にかなり手間取りまして、予定が前後してしまい大変に失礼を」
「いや、準備っつか、そりゃ、いちばんの悪者はカスパーン爺さんじゃねえのか?」
そんな風に元凶の名を挙げたら、ハダトさんはひとつ大きくため息をついて、ものすごく何もかもを諦めてるんです、なんてどこか遠くを見つめてるような目線で、一言。
「……諸々の後始末は全て私に回って来るようになっているのです。我がシス守備隊『隊長』の思いつきで、大変に苦労をお掛けしております」
って、そうだった。隠居して仮の身分だけど、一応表向きは、シス守備隊の隊長ってカスパーン爺さん、ってことになってんだった。
――帝国全土に名が轟く大英雄を上司にして働くって、なんか色んなとこで胃袋へのストレスがマッハなんだろうな?
「っあー……、なんつーか、俺、医療にはそんな詳しくねェけど、一応胃痛とかあったら<治癒>使えっから、気軽に声掛けてくれれば?」
「ふっ、女神さまに直接癒やしの奇跡を賜われるとは、この任務に唯一の救いを見い出せましたな」
救い……、救いね。そうだなあ、確かに。
「いや、俺は女神なんて御大層な存在じゃねェんだが……、まあ、いろいろ準備して来たのは流石生粋の軍人さん、って感じがしたな」
言って、今しがたハダトさんに救われた新兵さんたちが、ハダトさんのさっきの指示通り三人一組で、たいまつやランタンを持って明かりを灯してる人を中心にして、かなり広い空間をそれぞれの小隊で探索してるのが見えて。
さすがに『魔導エレベーター』で10階層まで直通出来るようになってるっぽかったけど、新兵連れて初ダンジョンでいきなりボス階層到達、ってそりゃ危ねえだろ、ってことで。
手始めに第一階層からの探索をやることになって、一階分だけ降りてすぐに探索してんだけどさ。
一階層ってのが普通の鉄筋コンクリート造なビルより全然規模がでかくて、軽く30メートルは降りたもんだから、エレベーターが止まってからすぐに外に出てみたものの、上を見上げても天井が暗闇に隠れて見えやしねえ。
あちこちに幾何学模様の謎の光が光る、どこに繋がってんだかさっぱり判りゃしねえ柱がででんっ、って空間の端が見えないほど遠くにまで配置されてる辺りからして……。
たぶん、エレベーターを境界にして、ここは、ゲームのインスタントダンジョンみたいに異世界に接続されてんだと思う。
「まあ、通路の床と壁がほんのり光ってっから、完全な暗闇じゃねえのが救い、か」
誰にともなく呟いてみたけど。つっても、せいぜい足元に躓くもんがねえかどうかがなんとか判別可能、ってレベルで、お互いの顔なんかちゃんと明かり出さないと分からないレベルでは暗いからなあ。
「どう、でしょうか、我々のこの、探索のやり方、というのは? と申しますのも、正直申しまして、このような人工の迷宮に立ち入る経験は我々も初でして」
眉間にシワ刻んで、実態に即しているのかどうか分からない、ってハダトさんに続けられると、俺もちょっと困っちまう。
俺だって、この迷宮に入るのはハダトさんや新兵さんと一緒で初なんだからな。
「んと……、もしかしたらだけど、全員一か所に固まって、明かりをひとつに纏めた方がいいかも……?」
「ん? なんでだ?」
いつもどおりに、俺のすぐ後ろで俺の服の裾を掴んでちょこちょこついて歩いてたレムネアが、遠慮がちに俺とハダトさんの会話に割り込むもんで、そんな風に問い返したら。
「えっと、たぶん、だけど。さっきの甲虫ってたぶん、夜行性の虫、なんだと思うんだよね? だったら、普通の虫の習性が当てはまるんじゃないかな、って」
「虫の習性、っつーと。明かりに寄って来たり、とかか?」
そういや、地球でも窓の軒先に電気ショックの虫除け吊るしてたんだよな、俺の部屋。
あれも明かりで引き寄せて、触ったら電気ショックで落とす、って仕掛けだったっけ。
そんな風に思い出しながら、今更だけど、なんとなく視力を夜間暗視視力――<熱源感知>の視界に切り替えて、天井も見えないくらいに真っ暗な室内を見たら。
「――やっべぇ! 俺もボケてた、ハダトさん、すぐに明かり消してここに全員集合させてくれ!」
っつか、大声もまずいんだった、虫ってのは音にも敏感だよな!
ハダトさんがすぐに全員に指示を出したんで、そこら辺に明かりを慌てて放り出した新兵さんたちが、一斉に俺たちの方に駆け戻って来るけど。
――俺の『目』には、その新兵さんたちに向かって、天井から壁から、一斉に降り注いで来てる、すんげえ数の甲虫の大群がはっきりと映ってて。
「クソが、何が『一人も殺さない誓い』だ、ボケて独り善がりに浸ってんじゃねえぞ俺! <火球>……<炸裂>!!」
レムネアの神鉄弓じゃねぇが、こっちも実戦初使用だ! 左手一本で構えた神刀から引き出した魔力と呪文を連続展開させた<複合呪文>を、いつもみたいに外に出さずに。
……俺の両腕を通して、ムギリに作って貰った、腰の後ろに斜めにぶっ差してる増幅魔力の術式が入った小太刀を右手で引き抜いて、逆手・下手から上に向けて振り上げながら、蒼銀の刀身から飛ばした<火球>を、こっちに逃げ戻って来る新兵さんたちの頭上でド派手に<炸裂>させた!
「うおぉぉぉっ?!?!」
「きゃあぁぁぁぁっ?!」
俺の矢継ぎ早な行動に戸惑ってたらしいハダトさんも、瞬時に抜剣してたのはさすがガチの軍人さんだが……、やっぱり見えてなかったよな!
俺のそばに居たハダトさんとレムネアが、そんな驚きの声を挙げた理由はひとつ……、俺が爆破した炎が、どうやらアブラムシだったらしい虫の大群に引火して、部屋の中が飛び回りながら焼き焦がれる甲虫の乱舞するド派手なお祭り騒ぎになったからだ!
「総員、通路まで退避! 走れ走れ走れ!」
ハダトさんの指示が的確すぎて、混乱しながらも俺は舌を巻いちまう。
確かに、コイツら甲虫がどこから飛んでくるか分からない大部屋の中よりも、入り口だけに限定される通路に出た方が防ぎやすいからな!
「コテツ姉、明かりを、中央の上に!」
「危ねえぞ、下がってろレムネア!」
怒鳴りつけながらも、俺はレムネアの指示通りに、極大の<光球>を、部屋のかなり高い位置に放って。
その間にも、神鉄弓を構えたレムネアが、冷や汗流しながら目を閉じて詠唱を始めてたとこだった。
「――雷の精霊よ、我が名は雷神の使徒レムネア、我が求めに応じ敵を撃て、<雷牙>!」
呪文の完成と同時に、レムネアの周辺が帯電したみたいに、逆風に煽られたみたいに、髪や服が逆立って、耳に突き刺さるような、唸りを上げる轟音が、レムネアが右手に持った弓と、添えるように軽く曲げた左手の手のひら付近に無数に出現してる、ばりばりと稲光を放つ小さな雷球から発せられて――。
確かに、事前にレムネアが自慢してた通り、『俺の<炸裂>よりも何倍も派手』、だった。
もはや『弓』なんて表現していいのか解らねえその精霊魔法は、とても目では捉えられない速さで――雷と光の速さは確か一緒だったはず――、レムネアの手元から雷撃が落ちるような轟音と閃光と同時に一直線に撃ち放たれた、と思った瞬間に、狙った甲虫に狙い違わず確実に命中して撃ち落としてて。
それがいったいいくつ放つつもりなんだか、弓を構える右手の人差し指が指差してる方向に、まるで機関砲みたいなとんでもねえ勢いで無数に発射されてて――、レムネアの白で統一されてる衣装が稲光の閃光に溶けた、みたいにも見えて。
まるで雷の女神がこの世に降臨してるみたいな、そんな印象で、思わず見惚れちまった。
……でも。
「ふにゅうぅぅ、疲れたぁ」
「一発で魔力切れ起こしてどうすんだよ莫迦!」
それでも、いちばん奥まで行ってた新兵さんが撤退する時間稼ぎには十分だったんで、しんがりの新兵さんたちの隊が横を通過すると同時に、俺はその場にへたり込んだレムネアを小脇に担いで。
もう一発<火球>を放ってそっちに虫どもを誘い寄せつつ、俺たちは大部屋から通路に避難した。




