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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 成長篇
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03話 吸血する必要が出来たんだぜ

「済まないな? 私はあまり力のない神でな。この五年、退屈だっただろう?」


「アァ、確かにこの五年、いろいろあったけど、五歳の誕生日に『母親』からそんな辛気臭え話をされると旨い血も不味くなる、ってもんだぜ?」


 ベッドの上で、五歳の少女な裸の俺の前で無防備に身体を横たえる、同じく裸体のシンディが、真っ白な素肌の首筋部分から胸や腹に分岐する血流を流しながらそんなことを呟くもんで、興が削がれた俺はつい、そんな苦情を申し立てちまった。


 一階では同い年の弟エルガーとそのその父母が眠りに就いてるはずで、防音結界で室内を閉じてるから多少は騒いでも平気つっても、騒がないに越したこたねえから努めて静かに話してはいるんだが。


 ……ほんとは大声で黙れ! って叫びたいくらいだ。



 ――この世界に転生して五年が過ぎた。サーティエとアドン、エルガーの家族は一緒に育ってる俺を養育してるシンディの援助もあって、昨年からとうとう隣接してた双方の敷地を繋いで改築して、二階建ての一軒家として同居を始めた。


 だから、親は違うとは言っても、ほんとに俺とエルガーは『同じ家で同じ親たちに育てられてる姉弟』って間柄で定着した。


 まだまだ泣き虫で甘えん坊な手の掛かる弟だが、一度こうと決めたら頑として譲らない強情さは、父親や母親を困らせてるのはそうだろうが、姉――意識上は兄――の俺としてはかなり気に入ってる。


 あいつはほんとにただの人間だから、柄にもなく俺が守ってやらなきゃな、なんて思ってるのも本当だ。


 ――もしかしたら前の世界で『一撃で殺す』ことでしか救う方法を見つけられなかった『施設』の仲間たちや死に目にしか会えなかった妹のことを重ねてるのかもしれねえけど、別にそれであいつらに祟られる筋合いもねえから、俺はこの世界で好き勝手やるのさ。


 だけど。


 参っちまったのは、この『不自由な身体』だ。


 転生した当初は極端に頑丈でほとんど不死身の肉体、超感覚な五感、意識は21世紀の日本の知識をそのまま異世界に持って来た元吸血鬼の俺が、どんな問題でも解決してやるぜ、なんて希望に満ちてたもんだが。


 エルガーと一緒に育てられてる以上、俺も一緒に育たなきゃ、そら不味いだろうよ?


『施設』で捕まって実験動物扱いされた経験から骨身に染みて知ってる、人間って奴は善人だろうが悪人だろうが、とにかく自分たちと違う奴は徹底的に嫌って排斥して同族として扱わない、時には殺人さえも平気で行う。


 ――いや、あいつらは俺達のことを『家畜』扱いしてたんだから、俺たちだってあいつらを殺したことは別に後悔してない。



 だけどな、この身体の制約っつか、最大の欠点っつか。


『吸血しないと成長出来ない』ってのは、なんでなんだ、って何度もシンディに問い質したけどな。


 シンディの強力な神の術式――、『神術』で<状態固定>って強制魔法が掛かってる状態の身体だから、「耐久力が高い」んじゃなくて「術を掛けた時点で肉体の状態がほぼ停止・固定されてる」ってことだそうだ。


 だから、首を刎ねても心臓に白木の杭を突き立てても、この世界の俺は絶対に滅びることがない。何しろ、あらゆる外傷が魔法的に無効化されてるからな。


 ――さすがに物理的に切断して持ち去られると、取り戻すまで再生不能みたいだが。


 で、その状態で成長するには『固定してる魔法の力よりも更に大きな力で強制的に身体を成長させるしかない』ってことで、外部から魔力を取り込む必要が出てくる。


 その術を掛けたシンディが、じゃない、術を掛けられてる俺自身が、だ。


 その方法ってのが、全く、胸くそ悪いっつか趣味が悪いっつか、コイツの腹をかっさばいて内臓を残らず引きずり出したくなるくらいにはムカついてる。


 前世であれだけ忌み嫌われた俺の前の肉体の、呪われた食事方法――、神の血を身体に流してるシンディの血を吸血して取り込むしかない、って話だよ、クソが!


 献血やろうにも俺の身体に針は刺さらねえし、自分の血じゃだめなのか? そもそも状態固定されてんだから実は俺の身体は心臓が動いてねえ、それ以前に血液が流れてねえ。


 試しに激痛を我慢して小指を切断してみたら、血の一滴どころか断面は光ってるだけで肉や骨すらもなかった。


 つまり、身体の外側だけが人間に見えてるだけ、腹を裂いてもそこに内臓があるのかも怪しいもんだ、本当に「人間を模して作られた神の器」でしかないらしい。


 シンディは<神器しんき>なんて呼んでたが、俺に言わせりゃ<呪われた器、呪器じゅき>だぜまったく。


 だから、血を取り込む方法は唯一、自発的に血液を飲むしかねえ、ってことだ。


 おかげであれだけ努力して他人への噛み癖は矯正出来たってのに、生まれ変わって性別まで変わってるこの身体にあるはずもない、吸血鬼としての吸血衝動まで復活しやがった。


 あとは、胃袋があるのは血液が胃袋に溜まる感触がちゃんとあるからまあ確かだが、どうやら俺は、まともに食事が出来ねえ。


 前世の俺が吸血鬼だったせいか? 何を食っても紙を食ってるような感触しかねえし、胃袋の中で消化出来ないまんま腐っちまって、胃袋から口に腐臭が臭うようになるもんだから、後で全部吐き戻すしかなくなる。


『状態固定されてる肉体だから胃袋の働きが鈍くて、液体以外を消化吸収出来ないからだ』って話でまあ納得はしたけど、『まるで吸血に特化したような身体だな?』って質問には訳の分からない専門用語の連発で誤魔化されちまった。


 まあ、この世界で蘇った俺だ、一度は感謝した相手だから何か俺に言わない思惑が合っても別に構いはしねえ、それなりに二度目の人生を楽しませて貰ってるしな。


 ――なんで女の身体なんだ、って疑問はあったが、シンディの身体をコピーしたようなもんだから男よりも作るのが楽だったそうだ。


 それなら男の俺じゃなくて女の誰かを召喚すりゃ良かったんじゃねえのかよ?


 だけど、騙されてるみたいな話なら容赦しねえ、コイツが死なない神だってのなら、二度と甦れないように八つ裂きにしてバラバラに保管してやるだけだ。


 こりゃ前の肉体で俺が実験された封印方法だが、首だけにされて狭いところに押し込まれた経験は忘れられそうにねえ。


 転生した今になってもまだ閉所恐怖症の気があるのはアレのせいだ。


 コイツがどれだけ生きてる神なのかなんてことすら知らねえ俺だが、俺の前で莫迦みたいに従順になってるコイツ相手ならどんなことでも出来るだろうさ。



 ――妹のシンディに瓜二つでなけりゃな!!



 全く忌々しいことに、俺は必要だって言われて納得はしてても、シンディの身体に牙を突き立てることに慣れて、それで吸血をまた再開して習慣化してる、って事実に恐怖してる。


 今はお互い不死身同士の間柄、神のシンディ相手だから殺す心配はないが……、また、人間の血を欲するようになったらどうする?

 一番危険なのは、俺の後ろをいつもちょこちょこくっついて来てる金魚のフン、弟のエルガーだ。


 赤ん坊の頃からマジでも遊びでもちょくちょく噛み付いてたあいつを吸血しちまったら、俺はきっと、こっちでも人間の血を吸わずには生きられなくなるんじゃないか、なんて恐怖もありはする。


 お笑い草だ、肉体を捨てて転生したのに、なんでまた吸血衝動で悩んでるんだ、って話だよ。


 吸血衝動ってのはストレスから来る精神病の類だ、なんて説があるのは俺も知ってる。――じゃあ俺の吸血は、この精神が消滅するそのときまで治らないのかね?


「もういいのか、虎徹? 普段よりずっと少ないが」


「うるせえ、乳房切り取って口に突っ込んで塞ぐぞ? 黙って吸われてろ、ちょっと休憩しただけだっつの」


 そうだ、普段より全然少ない。エルガーの誕生日までには同じ程度の背丈になってなきゃ怪しまれるかもしれねえし、一気に成長しちまうのも考えもんだ、だから毎日少しずつ、決まった量を飲まなきゃいけねえ、それも解ってる。



 ――解ってるが、この蕩けるように甘美でうっとりとしちまう血の味が、理性を捨ててシンディの肉体をバラバラに分解して内臓を貪り喰いたい衝動に駆らせるのも確かな事実だ。


 衝動に負けて原型を留めないくらいに解体した実の妹の遺体を見たときの悲しみを、俺は転生した今でもはっきり覚えてる。あれは、繰り返さない。



 だから、あまり吸血しないようにしてて、そのせいで、俺の身体の成長度合いは弟のエルガーと比べたらかなり遅い方だ。


 ……女の身体なのは逆に良かったのかもな、背丈も体重もエルガーには全然及んでないが、シンディもこの村の人間と比べりゃ細身で小柄だから、今のところは怪しまれてる様子はない。



 ――だから、ほんとに、仕方なく、だ。


 ゆっくり、でも確実に、俺は、ぴちゃぴちゃと舐めるように、そしてずるずると音を立てて啜るようにして、シンディの首筋から神の血を飲み込み続けた。



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