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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 冒険篇
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40話 新しいダンジョンに潜ったんだ

「コテツ姉……、ほんとに、大丈夫?」


「……ん? アァ、別に問題ねェぞ? まァ、今は足手まといつっても、俺だってアドンに最初に鍛えられた頃はあんなもんだっただろうし」


 俺の隣から心配そうな目で俺の顔をじっと見つめて来るレムネアに言葉を濁しといて、すっ、と視線を逸して、俺は前方を歩いてる、カスパーン爺さんから預かってる新兵の一団を眺めた。


 迷宮探索を兵隊の練兵に利用する、って軍と盗賊ギルドの提携で、新米の軍人が冒険者カードを作るのが必須、って流れになって。


 それで、シンディが全ダンジョンの設定をいじって冒険者カードなしだと迷宮に入ろうとしても入り口に魔法転移される――、要するに内部に入れなくしたもんだから、必然的に全ダンジョンに入るのに、盗賊ギルドの許諾が必須になっちまってさ。


「ダンジョン自体の存在の探索も冒険者の努め、なんつって、アイツ、どこに在るのかすら秘密にしてっけど……、案外、俺が最初に入るのに拘ってんじゃねえのかな」


「大陸全土で宝探しブームになっちゃったみたいで、ちょっと楽しいよ? ……って、そうじゃなくて」


 話題を逸らそうと思って適当にダンジョンの話を広げたけど、俺の可愛い妹はどうやらその程度じゃごまかされねえっぽい。


「エルガー兄が北東に出てってから、コテツ姉すごく余裕ないっていうか、すごーくピリピリしてる、気がする」


「余裕はそりゃ、ねぇよ? 俺は不死身だっつっても、前を歩いてる新兵たちや、それにオマエは普通に死ぬんだからな?」


 死ぬ、って単語にびびったのか、緊張しまくりで青褪めまくりな兵隊さんたちが何人も最後尾を歩いてる俺たちの方を振り返って見て来るけど。


 ――悪いけど、こりゃ兵隊さんたちを鍛えるように俺に頼んで来たカスパーン爺さんも納得済の話だからな?


 まあ、俺がついてるから、目の前で死ぬこたねえと思うし、それに。




 ……命令違反して怪我するような間抜けは、適正なしってことで除隊して貰う、ってことにもなってるんで、真剣に進んで貰わねえと俺も困っちまうんだけどな。


「っつか。……軍人さんたちゃ訓練の一環だから仕方ねェが、なんでオマエがついて来てんだよ。『盗賊王の一人娘』って大事な立場だろ?」


「もうっ、コテツ姉もそれ言うー。ボクはただのレイメリアの娘、レムネアなのっ。ていうか、ダンジョンくらいのところに来なきゃ、『精霊弓』の鍛錬出来ないんだもん」


 そんな風に言いながら、レムネアの背丈の半分くらいはありそうな、背負ってる弦を張ってない大きな神鉄の弓を示して見せたもんで、そういやそうだった、ってレムネアがくっついて来てた思い出した。


「アァ、そうだったな……。精霊魔法と弓術のいいとこ取り、って奴だったか」


「ムギリおじちゃんとヒトツメさまが作ってくれなかったら、とてもじゃないけど重すぎて構えるのも一苦労、だったんだけど」


 さっきまで心配顔と不満げが入り混じってた顔を急に照れたような笑顔に変えて、白銀に輝く神鉄弓を一動作で右手に構えて――レムネアは左利きだ――、俺に誇示して見せる。


「神鉄にしてめっちゃ軽くなったそれ全体に片手で魔力通した状態で、逆の手で精霊術発動して複合魔法撃つんだよな? ……そういや、見たことなかったな」


「すーっごい派手でかっくいいんだからねっ? んと、コテツ姉の炎魔法の<炸裂(ラクラハ)>よりも、ずーっと派手っ!」


「マジかよ? そりゃ、見てみたいもんだが……、『ここはまだ先が解ってねえ』からなあ?」


 そんな風に言って、相変わらず、最初にレムネアが『水と炎の遺跡』でやってたみたいに目につくもんを片っ端から調べまくってる新兵さんを見やるんだけど。


 ……カスパーン爺さんが言うにゃ「たぶんないだろうと解っていても確実性を増すために完全に確認することも必要だし、調べる行為そのものが経験の足しになるんだから無駄ではない」ってことなんで。




 ……まぁ、今回来てる、新しいダンジョンの冒険は、軍人さんの訓練が主目的になってるのもあって口出しはしねえ、んだけどさ。


「オメエから見て、あれ、どうよ?」


「訊かないで欲しい……、恥ずかしいぃぃぃ」


 目を逸しまくりで恥ずかしがりまくりのレムネアの様子に失笑して、俺はがっちり肩を抱いてやった。


 そりゃそうだよな?


 自分がこの世界で最初にやって、今は実の親父って判明してる盗賊王のハインに全否定されたやり方を他人が繰り返してんの目の当たりにしたらなあ?


「っていうかっ! 話題逸しまくりっ!! ……ボクに話せないこと?」


「……時期が来たら話す。つか、オメエの親父のハインに話通ってっから、そっちに訊け」


「目の前に居るコテツ姉からは、話してくれないんだ……。シルフィンもシフォンも遠くに行っちゃったし」


 ぷぅ、なんて頬膨らませて拗ねまくる妹が可愛すぎて、俺の庇護欲は今まさに暴発しそうになってんだが、こりゃどうしたらいいんだ、オイ。


「って、ちょっ、コテツ姉? 近い近い近い、やぁん、どこ舐めてんのっ?!」


「……仲睦まじいところ、誠に失礼ながら。……コテツさま、我らでは恥ずかしながら、理解の及ばぬ魔道具のような構造があり、解析して頂きたいと思いまして」


「……んあ? ああ、ちょっと待ってろ、すぐ行く」


「待たなくていい、今すぐ行こっ!? あぁん、コテツ姉がそっちの道に進んじゃうぅぅ?!」


「……イヤなら、止めとくか?」


 俺に抱き竦められてめっさ暴れてたレムネアが、途端にぴたっ、と動きを止めて。


「えぅ? うぁ、うぅん、えっと……、イヤ……、じゃない、かな?」


「そうか。じゃあ。――やめとこう」


 ぽいっ、なんてあっさりと、首や耳を舐め回してたレムネアを腕の中から放り出して、兵隊さんたちの隊長さんの後に続いて先に歩き出したら。


 きょとーん? なんて表情で呆然と、俺の背中を見つめてたレムネアが、急に怒り出した風に俺の後を早足で追いかけて来て、ぺしぺしぺしっ、なんて俺の背中を猫手で殴るもんで。


 俺はまた笑って、可愛い妹を小脇に抱えて先に進んだ。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「アァ、こりゃ、たぶん……、『エレベーター』だな」


「えれ……? 失礼、もう一度発音して頂いても?」


「『エレベーター』だ。昇降機だな、魔法の。このチューブ状の空間を上下するもんだ、と思うが」


 そんな風に言って、俺は隊長さんと一緒になって、どこまで続いてんのか不明なくらいに垂直に続いて、真っ暗になって見えなくなってる、正六角形の穴を覗き込んでみる。


「確かに、こりゃ確認終わっても試すにゃ勇気要るよな……」


「なるべく軍人のみで探索すること、助言者(アドバイザー)のあなた方に頼らないようにすること、と命令を受けてはおりますが……、申し訳ない」


「いや、隊長さんのせいじゃねーし? 正直、こりゃ俺じゃねえと分からない構造だろうし、な」


 エレベーター、なんて現代建築物を見ただけで使い方分かる人間がこの世界に居るわけ、ねーし。


 シンディがついて来てたら無茶振りしすぎだ、ってぶん殴るとこだが……、アイツは『計画』を進行させるために、別行動を開始してっからな。


 アイツが作った全部のダンジョンに監視機構入ってるんで、別について来なくても『観察』は出来るらしいが……。


 たぶん最初のダンジョンでついて来てたのは、至近距離で生の反応を観察したかったんじゃねえのか、なんて思ってる。




 そんな風に考えながら、唐突に隊長さんの腕を掴んで、ぽんっ、って感じに、あからさまに怪しかった、ぱっくり口開けてる扉の横の、でっけー水晶の板に手のひらを押し付けたら。


 ぶううぅぅぅん!


 なんて重低音効かせた起動音と同時に、金色っぽい幾何学模様のラインがたくさん、脈動するみたいに水晶板から噴出し始めて。


「なるほどな。起動に魔力が必要、か。たぶんこれ、人間の魔力じゃねえと発動しねえんだろうな」


 でなきゃ、なんで今回に限ってシンディが大量の人間と俺を同行させたのかが解らねえし。


「ふう! いや、結構な魔力を吸われました! 同様の機構が内部にまだあるのなら、交代制で当たらねばなりませんな、これは」


「そんなに吸われたのか? 済まねえな、俺は魔力がねえもんで、手近に居た隊長さんの腕を使っちまった」


 なんのなんの、これしきのことならいつでも! なんて気さくな笑顔浮かべてくれる隊長さんに軽く頭下げといて。


 どうやらエレベーターの機能が起動したらしい、扉のない『昇降力場』みたいな、やたら複雑な積層構造の魔法陣がびっしり浮かび上がった半透明の板に片足を乗っけてみたんだけど。


「アァ、当たり、だなやっぱ。魔力通したら乗れるみたいだ。――ご丁寧に、内側に案内板がありやがる。コイツで地下10階層まで下れるみてえだぞ?」


「下れる……? なんと言いますか、その、垂直の梯子のようなもの、でしょうか?」


 理解に苦しんでる感じの隊長さんと、どよめいてる兵隊さんたちを見て、軽くため息。


 なあ、考えてもみろよ、なんで俺が、エレベーターなんてもんが存在しねえこの世界の住人相手に、コイツの機能を……、しかも俺が作ったわけでもなんでもねえもんを、細かく解説しなきゃいけないんだ、っつの。


「んーっと、コテツ姉が大丈夫って言うなら、ぜったい平気! たぶんだけど、乗ったら下に降りてくんじゃないかな? 乗ってみよ、ほら、ボクが乗っても全然平気だし!」


 エレベーターの内部、入り口付近で、床と天井に空間を挟むように出現した、その半透明の板の床に片足乗っけて、内部の様子を観察してた俺の横を素通りして。


 ぴょんっ! なんて勢いで中に飛び込んだレムネアの行動に、俺たちはマジで度肝を抜かれちまったわ。


「いや、俺はまだ一言も『大丈夫』だなんて言ってねえんだが……」


「……あれっ、そうだっけ? でも、コテツ姉も乗れちゃってるし、ボクも平気っぽいから、きっと平気!」


「まあ、確かに、定員が何人だか解らねえけど、全員乗っても大丈夫は大丈夫っぽいな。広さにも余裕あるし」


 隊長さんに部下の兵隊さんたち12人と、俺とレムネアで合わせて15人、全員乗ったって有り余るくらいに、直径10メートルはありそうな魔法エレベーターっぽいし。


 でも、ほんとに全員乗ってうっかり全滅でもしたら困る、ってことで、二人が様子見に残ることになって。


 残りの13人が、魔導エレベーター使って下の階層に下ることになった。




 ――ついでに言っとくと、このダンジョンはシンディの話じゃ全50階層、10階層おきに次の10階層へ繋がる道を守るボスが存在してるボスダンジョン、らしい。


 ……危険度で言ったら『水と炎の遺跡』を上回る難易度らしいんで、全階層制覇する気はねえんだけど、隊長さんは当然ダンジョン制覇目指してっから、そこんとこの認識の違いを気をつけなきゃな、って思ってる。


 シンディが言ってた『死なない迷宮』ってのは『神器の俺が探索する前提』で考えてたから……、最初のボスだったヒドラみたいに、初見で普通の人間が相手すれば、確実に、死者が出る。


 それっくらいに、人間が探索する前提で作られてるにも関わらず、凶悪すぎるほどやべえダンジョンだ、ってこと。




 でも。俺は、この先、一人も『仲間』を殺すわけには行かねえ、んだよ。



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