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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 冒険篇
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30話 街で噂になってたらしいんだ

「意外と時間食ったな? ふやけてねェか?」


「……面目次第もございません」


 そう言って頭を下げたメレンゲ、じゃなかったタケミカヅチは、ぽたぽたと着けてる鎧のあちこちから今も水を滴らせてる状態で、水から上がって全力で俺らの邸宅まで戻って来たのが判った。


「だいたい三日くらいか。そんなにでかい水脈だったのかよ?」


「いえ、恐らくダンジョン内部はそれほど大きくはなかったのでしょうが、ダンジョン内部から外に出て以後は私が通過出来るサイズの地下流路を探すのに手間取りまして」


「小さい水路が無数に通ってる、ってことか」


 直立不動に恐縮顔で報告を続けるタケミカヅチにバスタオルを投げつけて、俺はそんな風に考えた。


「とりあえず、身体ちゃんと拭いて乾かして、レムネアたちに顔見せて来い。死なないのは解ってても心配してたからな?」


「では失礼して。誠に申し訳ございませんでした」


 一礼して部屋から下がるタケミカヅチに軽く『冷ややかな視線』で一瞥しといて、俺は全裸でベッドに腰掛けた状態からやっと立ち上がって、部屋に備え付けの風呂に向かう。


 ちょうど飯も終わって一人の時間だし、風呂でも浸かってさっぱりすっかー、ってとこでアイツが挨拶もそこそこに俺の寝室に駆け込んで来たんで。


 ……服脱いだ直後の状態、全裸で応対する羽目になっちまったからな。


 相棒の神刀を斜めにバスタブに突っ込んで、<水球>と<火炎>の同時使用でバスタブを温水で満たして、ざぶん、と水しぶきを上げて全身を浸ける。


「あー、やっぱ温水風呂は日本人の幸せだよなー……」


 147センチって背丈の今の少女の姿の俺じゃ、成人用のバスタブの外枠に両手両足を出して、ってわけにゃ行かねえが、それでも、やっぱ一日の終りにのんびり風呂に浸かるってのは贅沢に感じちまうぜ。


 髪は濡らしてまた変な跡つけるとレムネアがうるせーから、適当に頭の上に上げてタオルで巻いてるけどな。


 ……っつーか。


 水はいちいち魔法使わなくたっていくらでも街に引いてる水路から取れるんだし、魔法陣系の固定魔法で水ポンプや温水蛇口は作れるだろうし。


 俺は保有魔力がゼロだから神刀使わなきゃ、空気中の魔力集めた弱い魔法しか使えねえ難点あるけど、他の普通の人間は生きてるだけで全員魔力持ってんだもんな?


 もしかしたら、魔法利用の水道と温水風呂は作れるかもしれねェな、なんてことを、俺はのんびりと風呂を堪能しながら考えてた。


 なんでこんなこと考えるようになったかって、俺ら神族は全員、街に出て姿を街の住民に見せるのをカスパーン爺さんに禁止されてるもんで。


 まあ、街に来る前から知ってる村出身の兄貴たちみたいな例外は多少あるっつっても、邸宅内でやることが訓練と料理くらいしかねェもんだから――、暇、なんだよな。


「そういや、カスパーン爺さん紹介の熟練の盗賊が来るのも明日だったっけか」


 バスタブ横の備え付けの棚から瓶に入った香料入りの洗剤を手に出して、頭と身体に撫で付けながら、そんなことを思い出す。


「なんで爺さんの知り合いに盗賊が居るのかが不思議だが、まあいいか。明日は顔合わせして、明後日またダンジョンだな」


 ダンジョンも暇潰しの一環で、まあ、不老不死の俺って、それくらいしかここでやることねェんだよな。


 近場にダンジョンが幾つかあるのはシンディの話で解ってっから、一番近い隣のダンジョンの探索が終わったら遠征みたいな感じで遠出することになんのかね?


「あ。アユカに料理教える楽しみも出来たか」


 誰にともなくほくそ笑んで、小さな手足で厨房で台を使って慣れない調理道具を使ってたアユカの姿を思い出す。


「可愛かったよなあ、っつか、屋敷の使用人たちももうメロメロだったし」


 ほんとに、元コボルトだ、ってのが一見して分からないくらいに可愛らしい獣人幼女姿になったアユカに、――カスパーン爺さんが手配したっていう、元貴族の館で働いてたっていうお墨付きな立派な経歴持ちの高級メイドさんや執事さんたちが撃沈しまくりでなー。


(あつら)えて貰った、ちびっこ風メイド服も良く似合ってたしな」


 そう。いつまでもボロ布一枚纏っただけの姿じゃ屋敷の品位に関わるとかなんとかで、メイドさんたちが予備の制服持ち寄って、わざわざアユカのためにメイド服縫ってくれたんだよな。


 基本は調理が担当になる、ってことで、メイドさんたちのふわっとカーブして膨らんだスカートじゃなくて、すとんと下に落ちるタイプの、それでも動きやすいだろうミニスカスタイルで。


 でもすげえ手間掛かってんだろうレース編みの裾や靴やブラウスとか、全身全部ハンドメイド、かつ着替えも数着セットで貰ってて、アユカが感涙してたもんな。


「『お礼は俺が食べられる、みんなが美味しく思う料理をいつかきっと作る!』なんて言ってたけど。いつまで信じてっかな、あれを」


 苦笑して、俺はバスタブに立ち上がって、少し上の棚に置いてた紫の瓶から、お気に入りの香料油を片手ずつ掬って全身に馴染ませ始める。


 夜にこれやっとくと、翌日一日中ずっと身体からこの香りが漂っていいんだよな。


 これ、ここの邸宅に移り住んでからの習慣になっちまったんだが、レムネア以下、みんなに好評だし、俺もお気に入りだわ。


「んっ、ふぅっ……」


 てか、これやると敏感なとこに触れるんで変な声出ちまうけど、まあ、もう慣れたっつか。


 感覚が普通の人間の数十倍なんで、部分的にも感度が数十倍、ってことだ。


 ざばっ、と水から足を出してバスタブの外に出て、バスタブのふちに腰掛けながら、水に浸かってた両足にも香料をくまなく馴染ませて……、自然と、胸と股間に目が行っちまって。


「もう13年も付き合ってる身体だし、そろそろいい加減慣れて来た、っつっても。――ほんとに生前とは大違い、だよなあ」


 見慣れたはずのとうとう最後まで未使用だった不憫な息子と別れてもう13年、なんだよなー。


 ……いつか、ここに、エルガーを受け入れる日も来るのかねえ?


「いや、でも、想像してるほどすげえ絵面にはならねえな、きっと。……痛がりな俺なんだから、痛覚っつか感覚遮断しねェと受け入れられねェ、んだから」


 もやもや、と脳裏に浮かんだそのときの妄想を強く首を振って否定して、そんなことを現実的に思い浮かべる。


 ――だって、女の初めてってすげえ痛いんだろ? 痛覚過敏な俺が耐えられるわけねェじゃん。しかも。


「普通の女なら痛いのは最初の一回だけ、っつーけど。俺って神器なんだから、損傷した内部が毎回完全に復活するわけで。……毎回痛い、とか無理すぎだろ。……って、なんでこんなことずっと考えてんだよ!」


 本気で莫迦を考えてる気分になっちまって、俺は頭に巻いてたタオルを解いて髪を開放して、手早く全身を拭き始めた。


「別の話題、別の話題……。アァ、そーいやアドンとサーティエがちょっと北東の方に出かけた、って言ってたな」


 昨日の昼にカスパーン爺さんから言付けを聞いたんだった。


 ふたりとも爺さんとこに朝から出かけたっきり、昼にも戻って来ねえんで昼食が二人分余っちまったんだけど、カスパーン爺さんがそれ、持って帰っちまったんだよな。


 貴族な爺さんが食うような食材じゃなかったんだが、味がこっちの普通の食事と全然違うから気に入ったのかね?


「つーか、こっちの世界の食材って意外とバリエーションないんだもんなー」


 街に移って貴族の作法や食事マナー経験する過程で一般的な食事メニューも知ったんだけどさ。


 ハンマー大飛翔メレンゲさんじゃねーけど、卵白泡立てただけのメレンゲすら存在しないってこた、白砂糖も砂糖菓子みたいなもんも存在してないかもな?


「その代わり、ハーブなんかは俺が前世で知らなかっただけかもしれねえけど、すげえたくさん種類あるっぽいから、こりゃサーティエが帰ったらまた教わって、料理の種類増やしに役立てねえとな」


 シンディの口癖じゃねェけど、俺もせっかくこっちの世界に来たんだし、世界の全てを経験して楽しみてェな、って気持ちになってんのが不思議だが。


 こういうこと考えるようになったのもシンディの手のひらの上なのかもな? まあ、別に構わないんだが。暇だし。


 身体を拭き終わったタオルでバスタブに漬けっぱなしだった神刀を軽く拭いた後で適当に洗いかごに放り込んで、ベッドの部屋まで移動して、いつもの黒の夜着をすっぽり一枚頭から着込んで。


 さあ、寝る準備万端、って感じだ。


 ――いや、別に寝なくても全く眠くならねえもんで、つってもただベッドに寝転んでも暇すぎるんで、これから夜間徘徊するんだけどな。


「サーティエたちの用事ってなんだろな? ――最近噂の『炎の怪現象』に関わりでもあるのかねえ?」


 うちの邸宅に出入りしてる、シャトー村出身なパン屋の兄貴情報だけど。


 最近、何もないのに燃え上がる怪現象が帝国内のあちこちで噂になってるらしくってな。


 物が単独で焼失してて周りが全然延焼せずに、それで魔力の痕跡がない、ってのが不気味、ってことらしくて。


 魔力ゼロな俺にはちょっとピンと来なかったんだが、魔力が世の中に溢れてるこの世界じゃ、炎や水の流れや土を耕したり森が生い茂ったり、みたいな場所じゃ必ず魔力が動いたり消費された痕跡が残るのが普通らしくって。


「それが全く痕跡ひとつ残さず燃えてる、って状況だから怪現象、ってことらしいな。――魔法の領分ならサーティエが詳しいんだろうけど。心配ねえよな?」


 今んとこ物だけだ、って話だし、燃えるっつっても燃え尽きるまで相当時間掛かってて、気付かなかったから燃え尽きてるまで放置してただけで、人に火が付いたらすぐに消すだろ、普通。


「しかし、怪現象っつか、人が燃えてたら『人体発火現象』だよなー。オカルトかっつの」


 こっちの世界にオカルトなんてもんが存在するのかは知らねえけど、そんな風に思いながら、すっかり暗くなった邸宅の屋敷の廊下を目的も決めずに毎晩恒例の夜間徘徊ってお散歩、でうろうろしてたんだが。




 ……後々、『夜間に貴族の邸宅の廊下を歩く存在しないはずの美少女の霊』って街で結構なオカルト話になってるのが俺だ、ってことに気づいて少し落ち込んだ。


 そっか、俺の邸宅つっても、俺は邸宅に居ない建前になってっから、街の住民からしたら、街中にぜったい出て来ない俺って『存在しない美少女』扱いなのか。


 ……存在しないのはともかく、美少女ってなんだよ? ほんっとに、ここの街の住民も見る目がなさすぎだろ、俺は普通以下だ、っつーの。



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