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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 冒険篇
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29話 アイツはひとりで大丈夫だと思ったんだ

「ええと、入り口から通路通って一階層下って、橋を渡って左に曲がって一階層上がって、小部屋ふたつ通過して右に曲がって……」


地図作成(マッピング)か?」


 相変わらず、レムネアを先頭に探索を続けてる俺たちだが、手持ち無沙汰な前衛の俺とエルガーは手分けしてレムネアの助けになりそうなことをやってる最中で。


「うん、洞窟だからコボルトの他にも何か動物が住み着いてるかも、って思って着いてきたんだけど。これは要らなかったね、僕」


「要らねえってこたねえだろ、まだ序盤も序盤だからな、何があるかも解らねえんだし」


 そんな風にエルガーに答えて、俺はちらり、と後ろのシンディに目を向ける。


「――コイツがダンジョン作成主だから、マッピングは要らねえんじゃねーか? どうなんだよ、そこんとこ」


「現在までに走破して発見した部分に関しては情報提供することを約束しよう。道順も含めて」


「じゃあ、マッピングも要らないんだね。……どうしよう、僕ほんとにすることがないよ」


 淡々としたシンディの答えに、苦笑しつつそんな風に小さく呟いたエルガーの胸甲をがしっ、と捕まえて、俺は無理やり屈ませてその頭を乱暴にわしゃわしゃと撫で回した。


「ちょっ、姉さん、そんな引っ張られたら苦しいよ。どうしたの急に?」


「オメエはここに居るだけでいいんだよ。『家族』だろうが。――役に立つ立たないで考えたら、俺がいちばんの役立たずだっつの」


「姉さんが僕らの中で、いちばん強いはずなんだけどな……?」


 納得してない表情で、それでも笑顔を戻したエルガーにひとつ頷いて、俺は掴んでた胸甲を離してやった。


 コイツの方が頭一つ分以上背が高いもんで、弟の頭撫でるだけでも一苦労だぜ、全く。


 ……俺が居なきゃアユカの親兄弟皆殺しにすることもなかったし、ここはどうやらモンスターが湧くようなダンジョンじゃないからいいかもしれねェが、流血があったら――、特に、コイツの血が流れたら、俺はまた血に狂っちまうかもしれねェからな。


 役立たずっつーか、トラブルメーカーか、俺は。


 でも、『家族』だから離れがたい、んだよなあ。ほんとは不老不死で死ねない人形の俺ひとりで来れば、何の心配もなかったんだろうが。


「つか、レムネアのその『探索技能(スキル)』は、やっぱ母親のレイメリア譲りなのか?」


「うん。お母さん森の戦士(レンジャー)だったから、足跡見たり痕跡を発見したりっていうのはそうだけど」


 話題を変えるつもりで、相変わらず先頭で丹念に床を見てるレムネアに声を掛けたら、そんな返答が返って来て。


「……これはタケミカヅチには内緒なんだけど。罠を発見したり、物を鑑定したり、っていうのは盗賊ギルドの教育だよ」


「ヘェ? そりゃ意外だったな。……前にも思ったが、盗賊って名前で呼ばれてる割りにゃ、盗人らしいことを教わるわけじゃねェんだな」


「貴族や王族のお墓の盗掘をして副葬品を拝借したりとかしてるから、まるっきり外れ、ってわけでもないんだけどね」


 俺がそんな風に答えたら、レムネアは振り返って少し目鼻の付近を自分でぐりぐりと揉んでる様子が、かなり疲労溜まってるっぽかった。


 そりゃそうだよな、タケミカヅチが吹っ飛んでからこっち、四時間近くずっと全力集中で、ひとりで罠の痕跡探しまくってんだから。


「15年くらい前から盗賊ギルドの方針が大幅に変わって、生きてる人から物を盗むのは上の許可がないとダメ、って感じに変化したから、その分ボクらみたいな下っ端は世間一般で思われるほど盗みはしてないんだけど……なになに?」


 俺は床にどっかりとあぐらをかいて、ぽんぽん、と俺の太もも辺りを叩いて、喜んで駆け寄って来たレムネアをそこに座らせた。


「疲れたら早めに言え、つっといたろ?」


「まだ頑張れると思ったんだもん。わーい、コテツ姉の抱っこだー」


「ついでだし小休止にしようや? エルガー、朝作った携行食出せ」


 エルガーが背嚢(バックパック)にまとめて入れてた、エルガーとレムネアとアユカの三人分の焼肉の野菜巻き――、ほんとはキャベツじゃねェ、それっぽい白菜で巻いてんだけど。


 まあ、俺が適当な材料で作ったロールキャベツもどき、を取り出す間に、俺はいつもの<水球>を中央に出して、その間にも全員が円座になって座ってた。


「ああ、やっと僕にも仕事が出来たよ」


「アァ? 何して。……ハッ、なるほどな! いい仕事してんじゃねーか!」


「アユカ、手伝う! レム姉、お疲れ?」


「あうぅぅん、ボク今とっても幸せー!」


 両足を伸ばして俺の胸で俺に寄りかかってるレムネアの頭と首を俺が揉みほぐしてやってたんだが、人数分の携行食を手渡したエルガーがその後どうしたかって、俺の背中越しにレムネアの肩を揉み始めてな。


 それに、レムネアの伸ばした両足をアユカが揉み始めたんで、なるほど人力家族マッサージチェアだよな、こりゃ。


「シンディ? 全体のどれくらいを走破したんだ、今?」


「割合で言えば一割程度だ。タケミカヅチはもっと下の階層に居る」


 レムネア専用家族チェアには混ざらずに、中央の<水球>を挟んで反対側に横座りしてるシンディの無表情に、<光球>からの白い光が<水球>内部の波紋を投影して、なんか凄く清廉な印象があったな。


 こういうとき、コイツはほんとに人じゃねェんだな、って再認識する。


 ……もしかしたら、俺を見て同じようにエルガーやレムネアやアユカもそう思ってんのかもな?


「タケミカヅチをほっといたら、どっかから流れ出て外に出て来る、ってことにならねェか?」


「ダンジョン内部に流れる水脈は地下水路を利用した流れのあるものだ。

 ――水路に落ちたタケミカヅチに伝えて、水脈に逆らわずに流れの通りに歩かせれば、いずれシスの街の南を流れる川に行き着くだろう」


 シンディに質問したら、そんな答えが返って来る。やっぱ、そうだよな。


 ゲームのダンジョンだったらインスタントダンジョンとかで完全に閉鎖空間なんだろうが。


 ……普通に現実に存在してるダンジョンなら、水はどっかに繋がってて流れてねェと、ただ溜めてるだけのでっかい水たまりじゃ、流量を利用する罠が動くわけねェもんな。


「……仲間を見捨てる、ってこと?」


「いや、そうじゃねェ。アイツは俺らと同じ『神族』なんで、ぶっちゃけるとこのまま千年放置したって死なねえし。

 今もどうやらずっと水中に居るっぽいが、それで窒息死するわけでもねェ」


「死なないんだったら、後回しにしてもいい、ってことかな?」


 気持ちよさそうに片手で携行食をパクつきながら俺に揉まれてたレムネアが薄目を開けて少し不快そうに口の先を尖らせたんでそんな風に答えたら、エルガーが助け舟を出して来た。


「オゥ。朝から四時間掛かってまだ一割、じゃ、出直しを考えるとこだろ」


「ひゃんっ? やぁん、くすぐったいよぉコテツ姉」


 なんか仰け反ってるレムネアの美味しそうな首筋が目の前にあったんで、ぺろっ、とひと舐めしといて、俺はエルガーに返して。


「レムネアがこんだけ集中して疲労してるんじゃ、もう一人くらい盗賊をパーティに入れて交代要員を作らねェと、最奥まで到達するのに何日掛かるか解らねえだろ?」


「そうだね、持ち込んでる食料も数日分だし、それに、僕らは睡眠しないといけないけど、ここで眠っても疲労が抜けるかどうかは怪しいな」


「オマエらだと少し肌寒いだろうな」


 そう、気温の問題もある。


 壁や床にたまにガラスの意匠が入った化粧板があるんだが、その向こうに水が流れてるのが見えるんだよな。小魚も見えたし。


 で、壁と床の裏を水が流れてる、ってことは、部屋の温度を常に流水が壁床越しに奪ってる、ってことなんで。


 ここは、入ってからずっと、吐く息が真っ白い状態が続く、ってまでは行かねえが……、それでも時々、エルガーたち生きてる奴らの息が白くなってるのが見えてた。


「あっ、そうか。最初から神刀で<火種(マスタラハ)>か<火炎(ナーリエ)>出しとくべきだったな? 寒かっただろ」


「あー! そっか、コテツ姉が神刀でたくさん魔法使えるんだもんね!

 すっかり忘れてたよ、ボク。温かいお風呂気持ちよかったなぁ……、それに、コテツ姉が綺麗で」


「関係ねェこと思い出してんじゃねェよ」


 昨日の風呂での出来事を思い出したらしいレムネアが急になんか恥ずかしがったんで耳を軽く引っ張って、再度揉みほぐし作業に戻って。


「小休止中だが、ここはたぶん何日か通うことになるだろ。で、今日分かったのは、やっぱ俺ら家族だけじゃ人手が足りねえ、ってことだ」


「そうだね。野生動物や……、居るかどうか警戒中だけど、『魔力を持った魔物』が居ても不思議じゃないんでしょう?」


「ソイツが出ねェ、って解ってんならオマエがほんとに用無しになっちまうけど、どうやら居るらしいからオマエの参加は決定だ」


 再度シンディを横目で見ながらエルガーがそんなことを述べるんで、俺は先に釘刺しといた。


 一緒に育ったのに、つか一緒に育ったからか、どうもエルガーはシンディのことをあれこれ疑ってんだよなー。


 ――俺は前世で死ぬ前からシンディの契約で会ってるからかもだが、コイツの印象は『俺の育児放棄をしてる信用ならない母親』ってことになってるかもしれねェか。


 そりゃそうだ、俺らが『神族』だ、って話はしたし、俺が生まれ変わってここに来た存在だ、って話もしてるけど。


『実際のところで、どれくらいそういう異世界話をコイツらが納得して理解してるか』ってとこは、実際に実体験してる当事者の俺よりも理解度は低くなって当然だしな。




「まぁ、そこんとこも踏まえて、いっぺん街に戻って出直そうぜ。――とりあえず、タケミカヅチが自力で出て来るまで」


「うーん、そうだね。ボクが役立たずだからだね、ごめんね?」


「いや僕の方こそ全然役に立たなくて」


「アユカ、何もしなかった。役立たず」


 一斉にお互いに謝り始めた俺の家族たちに苦笑して、俺は全員の頭を乱暴にぐしゃぐしゃに撫で回してやった。




 ……ひとりだけ、この状況の元凶だけはかなり強めにぶん殴ったけど、相変わらず何も堪える様子がないのがちょいと憎らしかったけどな。



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