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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 冒険篇
36/116

27話 普段の朝食風景プラス一なんだ

のんびり日常回です。

「オォ、服着たのか、見違えたな……、っつか種族変わってんじゃねーか!」


 ノリツッコミの勢いですぐ横にあったシンディの頭をがつん、と少し強めに殴ったけど、コイツもたぶん俺と同じで都合の悪いときは痛覚遮断してんのか、堪えた様子はない。


「うむ、私もコボルトの生態に興味はあったし、それに、同行させるなら相互意思疎通が出来ないと不便であるので、人語を喋りやすい姿に『種族改造』を施した。それが合理的との判断だ」


 なんて、たった今しこたま頭殴られたってのに澄まし顔で答えるシンディと俺の前に出て来たのは、丈を詰めた俺の夜着を一枚身に着けてるだけの……。


 犬面の獣人――犬面族(コボルト)ではなく、全身の殆どが人間な姿に、少しだけ毛深い犬耳、尻尾って感じで申し訳程度に犬の要素が混じった獣人少女で。


「名前、アユカ。アユカ、言葉、喋れる、嬉しい。……感謝」


「礼はコイツ、シンディに言いな。俺は虎徹、コイツがシンディな。オマエを今の姿にしたのがコイツだ」


 人間の礼は見よう見まねってやつかね?


 おずおずと頭を下げた、犬面のメスから犬耳少女に変身しちまってるアユカに、俺は隣で座ってるシンディの頭を肘でぐりぐりと小突いた。


「さて、このアユカは道案内に使う予定だったな。私も奥の案内として同行するので、私とアユカはセットになるな」


「アァ、コボルト討伐の方がおまけだからな。――俺らの『冒険』の前準備、つってカスパーン爺さんがコボルト駆除をくっつけただけだし」


 シンディが大昔に作った古代遺跡の『冒険』が目的で街を出ることになったんだけど、その古代遺跡に至る途中の洞窟にコボルトが住み着いてることが解って、そんな話に発展したんだよなー。


 言いながら立ち上がって、俺とシンディ割り当ての天幕を出て外を見渡すと、一夜明けて、コボルト討伐としてやって来たカスパーン爺さん配下の兵隊さんたちはシスの街へ帰還を始めてて。


 昨日の時点で既に街に戻った隊もあったし、コボルトの数が多いからってかなり多めの百人近い人数が派遣されてたけど、今は捕まえたコボルトを輸送する十数人と片付けの数人の隊が複数居るだけで。


 俺らが寝てた天幕の集まってるとこから少し離れた方向で、その檻を積んだ馬車が列を組んで離れてくのが見える。


「……アイツら、ほんとに殺さねえんだよな?」


「コボルトが人間にもたらす害というのは総合すると、多産種族に起因する定住地域内での食料不足に陥った以降の農作物の食害に尽きるので、獣医の施術により、集団のある程度のオスとメスに不妊処置を施す」


 遅れて天幕からアユカを連れて出て来たシンディが俺に並んで、同じように遠ざかってく檻の中のコボルトたちを見てた。


「不妊処置すれば根絶させる必要はない。治療終了後に再びここに戻すことになる」


「アァ、言ってたっけ。それ以外にもなんかやるんだろ?」


「うむ、多産なのは死にやすいことにも起因する種族維持本能の発露であるので、死ににくいようにある程度の最低限の文明も与える。――ついでに人里に近寄らない教育を施すため、約半年程度はここは無人だな」


「ふーん。……アユカの家族や親兄弟もあれに入ってんのか?」


「母、いない、むかし、死んだ。父、兄、いた、裏を見に行く、言って、そのまま、帰って来ない」


 アユカに尋ねたら、たどたどしいそんな返事が返ってきて、なんだか思い当たる節が全開だ。裏、ってな、洞窟の裏口のことだよな?


「……しまったな、床と壁の染みにしちまったもんなあ……」


「きゃうぅん!?」


 俺の言葉にびびったのか、そんな小さな叫びを上げてシンディの後ろに隠れる様子がちょっと可愛かったが。


 ――じゃあ、アユカの親兄弟の仇って、俺か。


 罪滅ぼしってわけじゃねえけど、まあ、コイツが俺のことをどう思ってるのかは知らねえが、せいぜい可愛がってやるか。


 なんて思って、頭でも撫でようとアユカに手を伸ばしたら、素早くシンディの反対側に回って逃げた。


 ……ほほぅ、いい度胸してんじゃねーか、ガキが。



 遅めに起きて来たレムネアにメシを催促されるまで、シンディを中心に二人でバターになりそうな勢いでぐるぐる回って追いかけっこしてたわ。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「あっ、そっちのより、こっちがいい、これ、焼けたら甘い」


「オォ? 解ってんじゃねーか、料理上手だな、アユカ?」


 じゃあ残ってる全員分の朝食、っかもう昼にも近いんで、二食分まとめて豪勢に作るか、って感じで、いつも通りに俺が料理担当で調理準備始めたら。


 どうやら本格的ってほどでもねェけど調理準備自体が珍しいのか、シンディから離れてアユカがくっついて来て、別に邪魔なわけでもねェから自由にさせといたんだが。


 そういや、犬って人間の億倍も鼻がいいんだよな?


 料理に嗅覚だけを利用してる、味覚莫迦な俺よりも桁違いに鼻がいいってことで、実は料理に向いてる新しい人材なんじゃねーのか、アユカって?


「えぇー? それって苦いやつだよね? ボクそれ嫌いだなあ」


「莫迦。オマエはアユカより料理下手だな? こりゃ今アユカが言った通り、熱を通したら甘みが出るんだよ」


 出来上がる料理が待ち遠しいらしいレムネアもくっついて来たんだが、コイツの場合は『味音痴』だから目を離したら変な食材突っ込もうとするからな、アユカより全然要注意、なんだわ。


 そんなレムネアを軽く叱って、アユカから受け取った玉ねぎを手早く細かくバラバラに引き裂いて鍋に投入したら。


 ……風上に居たアユカには全然影響なかったみたいだが、風下でもろに玉ねぎ成分の影響食らったっぽいレムネアがぐしゅぐしゅ泣き始めて、少し笑っちまったわ。


 こういう人間臭い様子には少し憧れがないわけでもない。俺は『人間の姿を模した人形』だから、血も涙も出ねえからな。


「鍋で焼くって出来るんだねー? ボク、鍋は煮込むものだって思ってた」


「煮込んだ方が油も必要ねえし、いろいろ楽なんだけどな。ここんとこずっと煮込み鍋続いてたし、たまには焼いてもいいだろ」


 旅路に出るなら荷物が少ない方がいいのは確かで、焼く以外に用途がない食用油なんぞ最初から持たない方が重量物運搬担当なエルガーの荷物が軽くなる、ってんでここまでは基本全部煮込み料理だったんだけど。


 ……昨日、タケミカヅチから教わった<異次元収納>を試して俺も<異次元収納>を使えるようになったんだが。


 アイツ、いったいなんで入れててどこから入手したんだか――、生活必需品全部片っ端から内部に放り込んでやがったんで、調理しないアイツが使うはずがない調味料関係全部を俺の方に移してやった。


 つーか、全部アイツに必要ないもんばっかだろ、アイツも神族なんだし。神器な俺と違って食事は出来るみたいだけど。


「……おかげで、汁物焼き物なんでもござれ、だぜ。ちょいとスパイス少ないのと醤油と味噌がねえのは、まあ仕方ねえけど」


「ショウユ? ってなに?」


「っあー、『まだこの世に誕生してない珍味』だな」


 水の補給で調理中は常にそばに浮かべてある俺の<水球>から水を掬って目を洗ってたレムネアが、耳慣れない言葉に反応して質問して来たけど。


 俺の注意はもう、いつも通り鍋底に敷いた神刀で発現させてる火炎魔法の微調整に移ってたんで、それどころじゃなかったんだが。


 ……その後、レムネアから伝播したのか、仲間たちが全員で珍味のことを指して『ショウユ!』って表現するようになったのはたぶん俺のせいだ。


 こりゃ早いとこ、大豆を発見してこの世にほんとの醤油と味噌を誕生させなきゃいけねえな?


 まあ、シンディが居るから醤油や味噌単体を神の3Dプリンタで出すのは訳ねえけど、そうじゃなくて『食文化』として根付かせるにゃ、作物として原料が収穫出来てねェと意味無いからなあ。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――


「美味しいー!!!! なにこれ、なにこれ!?!?」


「苦い、でも、旨い、びっくり!」


青椒肉絲(チンジャオロース)、だな。まあ、苦野菜炒めって覚えとけ」


 鍋から人数分の木皿に中身を移してたら、調理中からずっと見てて待ちきれなかったのかレムネアとアユカが早速ぱくついてそんな声出してるのを、俺は苦笑しつつそんな返事を返した。


「前々からレムネアが野菜嫌いなのを何とかしなきゃな、って思ってたが、こりゃ当たりだったか?」


「これならボクいつでも食べるー!」


「……じゃあピーマン避けるんじゃねーよ、ちゃんと食え。年下のアユカだって食ってんじゃねーか」


「うっ?! だっ、だって見るからに緑色が苦そうなんだもん……」


「使ってんのは全部生で食ったら苦い野菜ばっかだろうがよ、ネギにピーマンにアシタバとか。……まあ、一度は食ってみろよ」


 皿によそった色とりどりの野菜類のうち、ピーマン――っつか色形がそっくりなんでそう呼んでて皆にも通じてるが、恐らく違う種類の存在――だけ見事に皿の端っこに集めて残しやがって。


 食わず嫌いに無理に食わせたって苦手を助長するだけだから口の中に突っ込むまではやらねーけど、そこんとこどうにかしてェよな、調理担当としては。


「ほう? 醤油と胡椒の代わりに岩塩と酒を使ったのだな。なるほど、干し肉が塩を大量に含んでいるからな、よく合っている」


「――そんだけ鋭敏な舌を持っててなんで壊滅調理下手なのか俺はそっちが不思議だよ」


 シンディの感想に俺はすかさずツッコミを入れてやる。


 後で聞いたら、コイツの場合は『味わって食べてる』んじゃなくて『舌を通して成分分析をしてる』から、どう作ったらその味に辿り着くか、の知識が欠落してるんで再現出来ねェらしい。


 全く、コイツらの中で見込みがありそうなのは新顔のアユカだけかよ?


「……どうだ? 旨いか?」


「旨い。アユカ、物、焼く、食べる、初めて。コテツ、凄い」


「……そうか。今晩からきちんと教えてやっからな」


「嬉しい、感謝。――コテツ、食べない? どうして?」


 今度は避けられずにちゃんとアユカの頭を撫でられたんだが、わしゃわしゃと撫でる手の下からそんな質問が返って来て、どう説明したもんかと少し悩んでたら。


「コテツ姉さんはね、この世の少し美味しい程度の食べ物では食べられないんだよ。……だから、アユカちゃんがもっとお料理勉強して、姉さんが食べられる料理を作ってくれると嬉しいな?」


「そうか! アユカ、がんばる、食べられる料理、作る!」


 俺と対面のいちばん奥からそんなエルガーのフォローが入って、少しだけじろり、と睨んだら悪びれもせずに、どきりとしちまう満面の笑顔を返して来やがったけど。


 まあ、まるっきりの嘘なんだけど、アユカのやる気スイッチが入ったみたいだし……、いいか。


 もう少し大きくなったらいろいろと、きっと理解出来るだろうさ。




 そのとき、そんな風に思ってた俺たちだったが、『三つ子の魂百まで』ってことわざは正しいんだ、って気づくのはここからずっとずっと後の話だ。



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