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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 成長篇
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24話 新しい場所へ移るんだぜ

「結論から言えば、アドンたちをシスの街の守備軍で迎えたいと、そういうことじゃな」


 一夜明けて、そんなことを貫禄のある、それでいて一定の愛嬌を持ち合わせた老戦士な指揮官が言って、がっしりと引き締まった身体を揺らして笑ってて。


 隣で肩を抱かれてるアドンが苦笑しつつも嫌な顔はしてないから、そういう話で纏まってんのかねえ?


「まあ、今回の事の発端は強欲領主が盗賊ギルドの甘言に惑わされた結果の出兵じゃったが。

 ……このわし、カスパーン・クルマルスが守備兵を率いておるのにそのような無理が通るわけもなかろうて」


 仮にも自分の雇い主を強欲とか言い切っちゃったぞ、この爺さん。


「確かに、カスパーン殿のご勇名はこの村にも聞こえるほどですが、それと、アドンをシスに迎える、とのご提案の関係は……?」


 事情がよく解ってないっぽい村長が、そんな間抜けなことを聞いてやがる。


 村と軍との交渉ってことで、当然ながら交渉の場は村長の家。


 アドンが交渉に深く関係してる、ってことで、アドンとその妻のサーティエは当然、息子のエルガーももちろん、そして俺も『アドンの娘』として交渉に参加してる。


 ……話がややこしくなるんで、一応対外的には俺の実母ってことになってるシンディは外してる。


 っつか、郊外の方で心労で具合悪くしてたレイメリアと、二日目で本格的に重度の貧血で起き上がれなくなったレムネアの面倒を見てる。


 シルフィン、シフォン、ムギリは俺とエルガーの家で待機中。


 無駄に広い家なんで部屋を分ける分には困らなかったが、あいつら夜中まで騒いでたもんで、エルガーが若干寝不足気味なのがなー。後でお仕置きだな、まったく。


「村長殿ら、村の住民たちが知らぬこともアドンに聞いた。――隠しておったようじゃが、それでこの騒ぎを招いた故に、公表し知らしめた方が良かろう、との儂の判断じゃ」


「隠していたこと、とは?」


 ちょっとどころか派手に緊張しまくってる様子の村長がいかにもびくびくしてるんです、なんて様子で尋ねてるが。


 ケツを蹴っ飛ばしたくなるくらいの臆病さ加減だな、見た目がガキな俺には高圧的にあちこちベタベタ触りまくる癖によ、まったく。


 それも見透かしてるぞ、なんて様子で、顔は笑いながらも目だけは鋭く村長を一瞥したカスパーン爺さんは隣席のアドンを抱いた腕を外して背中をばんばん叩きながら言葉を続けた。


「このアドンと、そちらに居られるサーティエ殿は、かつて西の国境で名を馳せた傭兵のひとりでな」


「傭兵、ですか? しかし、この村のほか、近隣の農村は殆ど、冬季には村の男手が殆ど傭兵として出稼ぎに行く傭兵村でもありますから、別に珍しくは」


「いいや、珍しいから名を馳せたのじゃ。戦うだけの戦闘傭兵なぞ、珍しくもないのには同意するが。――このアドン、現役時代のあだ名を『魔法戦士』と言う」


「魔法戦士……、ですか?」


 村長をやってるつっても、コイツは元々は村を作った親を継いで村長に成り上がったってだけの小物で、村の外に殆ど出たことがないただの農民だからな、知らなくても無理はない。


「魔法使いが戦士と組んで、魔法で格段に身体能力を上げて、そんで魔法使ってる最中に無防備になる魔法使いを戦士が守りながら、お互いに助け合って戦う戦法だろ? ――アドンとサーティエが始祖ってのは知らなかったが」


「そちらの見目麗しいお嬢さんは容姿だけでなく頭脳も明晰のようだ。その通り、その戦法の発案者がこの、アドンとサーティエ殿のご夫婦である」


 見目麗しいってなんだよ、お世辞にも程があるっつーの。美人ってのはだなあ。……今ここに居ないんだった、シンディは。


「しかし……、それですと、二人で魔法を利用して戦う、ということで、いささか卑怯なのでは? 褒められた戦法に思えませんが」


「……あのな、村長。実際の戦闘ってのはなァ?」


「戦闘に綺麗も汚いもありませんよ、『どんな手段を使っても、最後に立っていた方が勝者』ですから」


「応! 息子の方も聡明とは、アドンよ、良い娘と息子を育てたのう? これは先行きが楽しみじゃな!」


 村長の『ドシロウトの世迷い言』に異議を唱えようとした俺の言葉を遮って、軽く出された茶を口にしながらぼそりと澄まし顔で述べたエルガーと、それを間髪入れずに褒め称えたカスパーン爺さんに、村長は明らかに狼狽したみたいだった。


 つか、『清廉潔白、正しく強い正義の騎士!』なんてな、お伽噺の中だけの存在だっつーの。


 自分の正義に酔って、勝てる手段を捨てて正々堂々と戦って負けたら、そりゃただの『勝てる戦いを負けさせた人間のクズ』だ。


 それで勝てりゃ確かに英雄なんだろうが、そんな博打打つような奴に率いられて命を落とす下っ端が可哀想すぎるだろ。


 ――指揮官っつか、戦士ならどんな手段を使ってでも自分が生き残るのが第一、自分が生き残れたなら余力で仲間を助けるのが第二、正義や正々堂々なんぞクソ喰らえ、が第三。


 それが、この村の大人たちが戦場から生きて帰って来て、俺たちガキどもに淡々と伝えてる『正しい戦場での生き延び方』だ。


 生き残るのが第一、戦果が第二、功を焦って雰囲気に酔うのがど素人、って戦訓もあったな。


 正々堂々なんざ、一度も戦場に出たことのない、村長って役職にしがみついてる臆病者の考えそうな反吐の出る頭のおかしい理屈だぜ。


 ……つっても、村の農地経営や収穫物の販売や備蓄の割合なんかはシンディの助力や計算予測なんかも考慮のうちに入ってるつっても、俺の足りない脳みそじゃ全然及びもつかない難しい話なんだろうから。


 その点に関しちゃ、このスケベ村長がこの村で負ってる役割の重さはそれなりに理解してる。――だから俺やシンディやサーティエの身体をベタベタ触るのを許す、とまでは言わねえけどよ。



 話が逸れた。


「儂もアドンも現役を離れて久しく、このような東の果てにまで退いてしまったが、儂も現役時代にはそれなりに名を知られた軍人じゃてな……、熱ぅ?!」


 そろそろぬるくなった、と思い込んだお茶を一息に煽ったカスパーン爺さんが、慌てて口元を覆ってるのが見えて、ふとサーティエを見ると、しれっと澄まし顔しながらちょっと舌出したのが見えたぞ?


 大方、テーブルの裏辺りに保温の魔法陣仕込んでんだろ。こういう、たまーに茶目っ気出すサーティエも俺は嫌いじゃねェけど、エルガーは困ったもんだと思ってるっぽい。


「むぅ、サーティエ殿じゃな? こういうイタズラは止めて欲しいと現役時代から幾度となく伝えておったであろうに」


「私のアドンをベッドのクッションみたいにばんばん叩くのを止めて欲しいと、現役時代から幾度となく伝えておりますよねえ?」


 意趣返しですよ? なんて言外に言われて、カスパーン爺さんが盛大に苦笑するのが見えて。かなり仲いいんだなあ、っつか。


「えーと。話ここまで進んでて今更なんだけどよ? カスパーン爺さんとアドンとサーティエって旧知っぽいけど、どういう関係だ?」


「こらっ、コテツ! カスパーン卿に失礼だろ、その呼び方は!」


 サーティエに怒られた。でも、カスパーン爺さんは気にしなかったみたいだ。


「ほっほっほ、良い良い。なかなかに聡明で麗しく、物怖じせず胆力のあるお嬢さんじゃの、先行きを間近に見守りたいのう。……儂はこの二人の所属する傭兵隊を指揮しておった当時の指揮官、という関係じゃ。納得したかの?」


「……指揮官としてだけではなく、父さんの剣の師匠でもあるのでは?」


 エルガーの言葉に、鷹揚に大きく頷いたカスパーン爺さんが肯定したみたいで。


「戦士としての眼力はこっちの坊主にも遺伝しておったか。その通りじゃが、根拠は?」


「父さんの方がより実戦向けに簡略化されてますけど、基本の剣筋で言えばカスパーン卿の方がより洗練されているように見ました、先日の一騎討ちで」


「なるほど。領主の命令で新兵ばかりを選んで連れて参ったが、新兵とは言えわずか齢13にして60人以上を無傷で捕縛する技量、並々ならぬのう?」


「っあー、そうだ。それで思ったんだけどよ」


 相変わらず目だけはすげェ眼力で、エルガーのことを鑑定するみたいにじろじろと見据えてたカスパーン爺さんに俺が声を掛けたら、俺に目線を移して、先を促すように軽く首肯したんで。


「この話の流れだと『アドンとサーティエのことを公表してカスパーン爺さんの配下に置いて、莫迦領主の影響の届きにくいとこで保護したい』って流れなんだろ?」


「コテツ……、仮にも自分の村を治める領主を莫迦って、あんた。いやほんとに莫迦なんだけど、それを言っちゃダメだろ」


「サーティエも二回言ってんじゃん、大事なことだけど。……いや、それだと後々村にまた別の軍送って村ごと人質とかで面倒になるかもだから、村ごと爺さんの影響下に置いた方がいいんじゃねーの、ってことで」


「ふむ? 具体的には?」


「あー、こりゃガキの考えたことなんで、最後は主役のアドンと爺さんに任せっけどよ」


 カスパーン爺さんに更に先を促されて、無い知恵絞って曖昧に言葉を続けたけど。シンディを郊外に行かせたのは失敗だったな、アイツが居ればすぐに話を纏められただろうに。


 俺が提案したのは、要するにレムネアが発端の上納金云々っていう『裏社会の理屈』が、表の社会で軍を動かしたり村に危険が及んだり、なんて大事に発展しちまったんだから。


 領主や盗賊ギルドが欲しいのは単純明快に『カネ』で、アドンのことをレムネアの縁故で、カネの成る木だと思ってんだろ?


 それなら、確かにカネの成る村(・・・・・・)ってことで、実際にシンディの魔術で村の収穫率上がったりとか、引退した大人たちが元傭兵としてこれから戦場に向かうかもしれない俺たち村のガキどもに戦訓や戦術訓練してる実態があるんだから。


 ――シンディの収穫に関する魔術を広めたり、元傭兵が兵士の教官としてカスパーン爺さんに雇われたりして『表社会の理屈』の中に組み込んだ上で、お互いに『Win-Win』の関係になりゃ、諸々の問題は解決するんじゃねーの? って話で。


 シスの街周辺の村落の収穫が上がる肥料系統や成長促進系統の魔法を広めりゃ、街で行商される収穫物に税金掛けてる領主は大喜びだろ?


 単純に収穫物が上がるってこた、街で売られる品物が増えて、街に落ちる税金が増加するんだし、そのうちから幾らかが盗賊ギルドに流れるのかは知らねェけど、どっちも損はしねェだろうよ。


 カスパーン爺さんの方でも、ここに連れてきた兵隊の練度見る限り、軍人が現役退いた元傭兵や子供に惨敗してちゃ話にならねェんだから、兵隊を鍛える教官が増えても損はねェだろうし。


 ここの大人たちも、戦場から生きて帰って来て引退傭兵として村のガキどもを鍛えてるけど、それが儲けの話になる、ってんだったらまた危険な戦場に行って稼ぐ必要もねェし。


 ……で、村の大人たちがそういう定期的に稼ぐ手段が出来るんだったら、生きるか死ぬかの危険な戦場に行って稼がせるために村のガキどもを少年兵として鍛える必要もなくなるんだし、――傭兵村じゃなくなって普通の農村になっちまってもいいんじゃねえのかなー、ってな?




 ちょっと話大きくしすぎた感じはあったけど、それでなんか活発に話し合いが起こる契機にはなったみたいで、他の大人たちも交えて議論してみよう、って話と、カスパーン爺さんの方もノリノリで領主に提案も上げてみよう、って話が進んで。


 だいたい、それから一週間くらい話し合った結果。



 アドンとサーティエは正式にカスパーン爺さんに雇われて正式な国の軍人って待遇に移って、仕事場がシスの街になるんで、エルガーを連れて街へ移住。


 で、ついでにサーティエの姉、心臓の弱かったレイメリアと元気とは言っても基本的には病弱なレムネアを村に残せないから、ってことでこっちも街へ移住。


 ――カスパーン爺さんの口利きで豪勢な邸宅を用意して貰ったんで、これからは一緒に住むことになりそうだ。心臓病に関しても首都の方からいい医者を呼び寄せたそうで、そっちも心配はなさそうだな。


 ムギリは元々街の住人で、この村に来たのはヒトツメが作った俺の神刀が発端だったんだが、実際に会ったら思いのほか意気投合しちまったらしく、正式にムギリがヒトツメに弟子入りすることになったそうで。


 ヒトツメの鍛冶場へ繋げるゲートをシンディが森の一軒家からシスの街のムギリの鍛冶屋に繋ぎ変えたんで、先にそっちに戻ってふたりでごそごそ何か作り始めたみたいだ。


 シルフィンとシフォンはシンディに呼ばれて来ただけの奴らなんだけど、レムネアとやたら仲良くなっちまったのと、人間の世俗に興味を持った、ってことでレムネアと一緒に暮らして人間の世界で暮らしてみることにしたらしい。


 レムネアの方も精霊魔法の弟子ってだけじゃなくそういう同世代――実年齢はエルフたちの方がずっと上なんだが――の同性の遊び相手が出来た、ってのは嬉しかったみたいで、ときどき三人であちこち遊びに行ってるぽい。


 盗賊ギルドの上の方と話がついたから、レムネアを狙っていじめてくる下っ端も居なくなったしひとまず安心していいだろ。




 で、俺とシンディとタケミカヅチは。……素性がバレたっつか、隠し通せなかった、っつか。


 さすがに『神』が公然とうろうろしてる、ってのは不味い、政治や戦争の道具にされると取り返しが付かねえ、何より。


 ――シンディが新しく開発した神の術式による『人間の魂を不老不死』にする神術……、俺、っていう『神器』の存在がバレると不味いなんてもんじゃねェ、戦争が起こっても不思議じゃねェレベルの国家機密だ、ってことで。


 ――俺たちの存在は盗賊ギルドみたいな裏組織にはあらかじめ知らせとくけど国の上の方、特に不老不死を欲しがるだろう王族や貴族には報告しない、だから目立つな。


 基本的には爺さんが用意した邸宅内にアドンやサーティエ、エルガーたちと同居していいんだけど、なるべく悪目立ちするな、って意味。


 って感じでカスパーン爺さんとの間で話がついた。


 そこまで行って初めて知ったんだが、カスパーン爺さんって帝国の三本槍に数えられるくらいの超有名な将軍だったんだな。――道理で、どこに行ってもカスパーン爺さんの名前や紋章出したら話が早いわけだ。


 今は半分引退してシスの街で道楽がてら新兵鍛えたりして遊んでるらしいけど、案外、東の果てなシスの街で国内の睨み効かせてるような存在なんじゃねーの? なんて勘ぐってみたりしてな。




 そんなわけで、俺たち姉弟の、シャトー村での13年間は幕を閉じて。これからは、シスの街に住居を移して、新しい『冒険』の始まり、ってとこだ。



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