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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 成長篇
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22話 妹が調子悪いんだぜ

「川を下るとは、考えたね」


「考えつかねえ方がおかしいだろ」


 心底感嘆してる、って風なエルガーに答えておいて、俺は船着き場でちょいと拝借した誰かの小舟に乗ってるパーティメンバーに目を向けた。


 ほんとに数人乗ったらいっぱい、って小舟しか奪えなかったんで、乗ってるのは俺とエルガー、レムネアにシンディのみ。


 無駄に図体でかくて重かったタケミカヅチは神剣『天羽々斬(アメノハバキリ)』って剣の姿に変化してめちゃくちゃ軽くなって、レムネアの背中に背負われてる。


 ……剣の姿になると接触してる人間としか会話できなくなるらしくて、レムネアとときどき話し合ってるみたいだけど、元々レムネアたちと実父みたいに仲いい奴だったし、俺のそばに居るとなんかずっと緊張してる風だったし。――そっちのが俺もアイツも楽かもな?


 エルフ姉妹のシルフィンとシフォンは森の木々を介して、ドワーフのムギリは岩を介してそれぞれ異空間ゲートを通過出来る、っつーから先行して現地、シャトー村郊外の、レムネアの家がある森へ向かって貰ってる。


 どっちの種族も、この世界じゃそれなりに尊敬を受けてる人間じゃない異種族だから、そこで交渉して誤解が解けりゃ俺らが着いたときに戦いは発生しないはずだが。



 ――エルガーが交渉決裂して最後の手段で隠してた魅了眼使ったくらいだ、差し向けられてる軍隊の方も確信犯で金品強奪くらいはやるんじゃねーか、って気はしてる。


「街に行くのは四日も掛かったのに村に帰るのは一日半って、なんか不思議ー!」


「帰りも四日掛けて陸路行きたいなら別に止めねェぞ?」


 底抜けに明るい声を上げたレムネアに目線を向けたら、見るもの全て珍しい、なんて風にキョロキョロしてる癖に、よーく見たら細かく震えてやがるんだよな。


 いちばんガキの癖に気を遣いやがって。


「ふあっ? えっ、なに、何?」


「震えてんぞ? まだ到着まで長ェんだから大人しく座ってろ」


「……うわぁ、コテツの抱っこだっ! コテツが優しい! あうぅん、ボク幸せすぎるっ」


 小舟の上で小器用に絶妙なバランス取って立ち歩いてたレムネアを捕まえて、船首に背を向けて座る俺が胸に抱いて座らせたら、そんな声を上げやがって。


「うーん、やっぱりコテツって美人ー、綺麗っ! お肌もすべすべだし、胸もそこそこあるし手足長いし細いし!」


「そうだね、でも、本人がなんでそれを認めないのか不思議なとこでね」


「アァ? 莫迦言ってんじゃねーぞオマエら? 美人ってのは」


 暇潰しなのか、至近距離からエルガーとレムネアの弟妹が俺の容姿のことを話題にしやがるんで、俺はため息をついて、船尾側に静かに座って何かまた考え込んでるシンディをあごで指し示して。


「ああいう、ばんきゅっばーんなのを美女、って言うんだぞ? オマエらは美人の許容範囲が広すぎなんだよ」


「コテツは逆に許容範囲狭いよね……」


 何を呆れた顔向けてやがる、弟の分際でっ。


 舷側に背中を預けて盾と剣を磨いてる途中のエルガーをブーツの底で蹴りつつ、広げてる股の間で横抱きにしたレムネアを抱え直したら。


「こーんな綺麗で可愛いお姉ちゃんが居るボクって幸せすぎっ」


 なんて、喜色満面で俺の胸に顔を摺り寄せて来やがって、つか敏感なんだから揉むな掴むなっつか、オマエも美人の感覚が狂ってやがんな?


 俺から言わせりゃ、この中で一番妖精みたいに可愛いのはレムネア、人間じゃないほど綺麗な容姿なのはシンディだっての。


 ……そして、いちばんかっこいいのはエルガー、オマエだよ。


 だからあんまし身を寄せて来るなっつーの。柄にもなくどきどきしちまう。――心臓動いてねえけど。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「船着き場の方は押さえられてないかな?」


「『船着き場』なんて名前で呼ぶほど立派な場所じゃねェ、つーか、ただの子供遊び用の水たまりにしか見えねェから大丈夫だろ?」


「着いてから村の南門までにも兵士が居るだろうね」


「軍が村を囲んでるんだったらな。おおざっぱな人数とか聞き出せてねェのか?」


「80人くらいじゃないかな、と思うけど、領主の方も正確な人数を把握してなかったみたいで」


 エルガーとそんな会話をしながらも、コイツ、気安く俺の背中に抱きついて来て、俺の前にある俺が仕込み中の鍋の中身に注視してやがるんで、俺は正直緊張しまくってる。


 このメンツだと料理出来るのが俺しか居ない、ってのもあって、夕食当番は必ず俺、ってローテーションになってる、っつーか。


「そんなにボクの味付けってダメなのかなあ……」


「一人で食うときゃ別に何も言わねェけど、ちょっと『独創的』すぎるからな、レムネアの味は」


 往路二日目で『なんでもとりあえず完食するのが礼儀』って教育をばっちり受けてるエルガーが撃沈したくらいの不思議味覚なんだもんな、オマエ。


 街に居るときゃそれも楽しいし別に俺に直接の影響はねェからいいし、ひとつくらい欠点ある妹も可愛いもんだが、今はちょっとな。


「……私は人体に必要な成分をバランス良く配した上で摂取栄養価を調整しているのだが」


「オメエはそれ以前に味覚についてもっと理解して来い、死人でも生き返りそうな奇天烈な味に仕上げやがって。そのうち料理で人が死ぬぞ、あほんだらぁ」


 そう。また味覚、味覚、なんてぶつぶつ繰り返してるシンディが最凶の調理スキル持ちで。


 ――成分や栄養的には全く問題ないのに、一口で悶絶するレベルの味覚音痴、と来たら、このパーティで料理を任せられない筆頭に認定されてる。


 ガキの頃から一緒に暮らしてるシンディが調理してるのを一度も見たことなかったが、こりゃ案外俺の知らないところでサーティエに匙を投げられたのかも知れねえな?


 まあ、幸い俺が居るし、三食きっちり食うっつってもエルガーも一日食事抜いたところで死にゃしねェんだが。


 弟妹が飢えてるのが解ってて何もしない、なんてのは俺の信条に反する。


 あ。飢えてる、って言えば。


「レムネア? なんか食べられそうか?」


「……んー、ちょっとお腹痛いの。――スープだけなら」


「オゥ。無理せず寝とけ。後で冷ましてやるから」


「ごめんね、こんなときなのに。お昼まで全然平気だったのになあ……?」


「――アァ、まあ見当はついてっからな……」


 揺れの一番少ない中央部に、船首に頭を向けてごろんと寝かされたレムネアが被せた俺の陣羽織からだるそうに目だけを覗かせて申し訳なさそうな目線を向けて来たけど、その額を軽く撫でて熱を計って。


 そうだな、『出血を伴う』んだし発熱もするわなァ。


「コテツにも『これ』、来るの?」


「そんなもん来てたまるか、あほんだらぁ。俺は女の姿してっけど、人間とは別の存在なんだよ。――着いたらタケミカヅチに森に送らせっから、心配せずにゆっくり寝とけ」


「うん、判った。……ほんっとごめんね、肝心なときに役立たずで、迷惑ばっかりで」


「レムネア、俺は言ったぞ? 『心配せずに寝てろ』」


「うん。――コテツ、大好き」


 言うなり陣羽織で顔隠しやがって、照れるなら最初から言うなっての。


「見当がついてるなら治してやれないのかな?」


「……オマエは分からねえのか。こりゃサーティエやレイメリアの担当なんだ、『男』のオマエは知らなくていい」


 相変わらず俺の背中を抱いたまま鍋とレムネアを見比べつつ超至近距離からエルガーが囁くように言うんで、吐息が頬や耳に掛かってこそばゆい、っつかなんか変な気持ちになっちまう。


「っつーか、いつまで密着してやがんだ、あほんだらぁ。いい加減重てェんだよ」


 ぺいっ! と片腕で鎧を脱いで磨いてる途中のエルガーを押し剥がしたら、薄い肌着越しにエルガーの厚みを増してる途中の胸板が感じられて、また俺の中の何かが熱くなるような感覚。



 ……なんでか、俺の方が妙にコイツを意識しまくってる自覚はあるんだけど、なんだろな、これ。


 コイツの方はなんか自己解決したみたいで、今みたいに気軽に『姉弟』の感覚で接触して来るもんで、そろそろ他にも気づかれてんじゃねーかってくらい俺の方だけギクシャクしてる。



「んん? 女性だけにしか分からない病気とかそういうの?」


「病気ってわけじゃねェが……、帰ったらアドンに聞け」


 なんかはっきり口に出すのも食事時だしアレだし、実際それで具合悪くしてるレムネアが寝てるのに詳しく話して聞かせるのもダメだろ、と思って、俺はとりあえず問題を村に居るはずのアドンに丸投げした。


 俺は嗅覚が鋭敏なんで、レムネアの匂いが通常から変化してるし若干血の匂いが混じってるからすぐ気づいたけど、見た目上は全然変化ねェし。


 魔法使いの母と戦士の父を持ってそこらのガキより半端ねェくらいの知識と戦闘経験持ってる出来の良すぎる息子つっても、『女性特有の毎月恒例の現象』は知らなかったみたいだ。


 こういう知識を教えるのは多分俺の役割じゃねェ、っつかこりゃ俺の居た日本だと保険教育で教わった知識だが、この異世界だと誰が教えるのが妥当なんだ?



 程よく煮えた鍋の中身をエルガーとレムネアの分で分けながら、俺は足りねえ脳みそでぼーっと考えてた。



 明日はたぶん軍とガチの戦闘になるだろうから、生理中のレムネアは船から降ろさない方がいいかもな?



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