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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 成長篇
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19話 レムネアがいじめられてたんだぜ

「離して、ってばあ!」


 女の子の声が聞こえて、すぐに俺たちは誰の声か気づいて(・・・・・・・・)、顔を見合わせることすらせずに、声の方へ全力で駆け始めた。


 こういうときは軽量つってもフル装備のエルガーより、和装に神刀のみな俺の方が速い。


 日が落ちて薄暗くなり始めた街の裏路地で、真っ白い服だからすぐに判った。


 ……レムネアが、知らねえ男たちに囲まれて、サーティエの作ったワンピースの裾を引っ張られて下半身丸出しで引きずり回されてやがる。


 声を掛けることもせずに、俺は無言で路地に入った勢いを減速することもなくレムネアの服の裾を掴んでる男に突進して、その後頭部に軽く神刀の柄を叩き込んでやった。


「ぐふぉえっ?!」


 間抜けな声を出して吹っ飛んで、顔面を石畳にぶち当てて伸びた男は無視して、涙目で服の汚れを気にしてるレムネアを抱いてやる。


「どうした? ひとりで軽く片付けられんだろ? どっか痛くしたか?」


「だって、服を汚したら、コテツに怒られるぅ」


「……怒らねえよ莫迦。怪我はしてねェな?」


 相変わらず涙声で俺の胸の中でこっくりレムネアが頷いたんで、白髪をポニーテールに纏めた頭をぽんぽん軽く叩いたら声を上げて泣き始めた。


 ったく、こういう役どころは俺の役割じゃねーだろうが。


 ――タケミカヅチィ! 今すぐ戻れ!!


 ――……すぐに!


 念話で怒鳴りつけたらほんとにすぐに返信あったから、あとはタケミカヅチが戻るまでに。


「アァ!? んっだテメエ、ここが盗賊ギルドのナワバリだって知ってんのかヨォ!!」


「ッザッケンナよガキィ? んん? もしかして、女、か?」


「変な格好しやがって、どこの服だァ? とにかく、こりゃ盗賊ギルドを敵に回すようなもんだぜ、覚悟してンだろうなァ??」


 ようやく俺が飛び込んだ驚きから回復したっぽいチンピラどもが、俺の背中に向かってやいやい声掛けて来てっけど。


「……雑魚が、うるせぇ。うちの妹を泣かして、生きて帰れると思ってるたァおめでてェなァ?」


 チンピラどもの怒声なんざ知ったことか。久し振りにはらわた煮えくり返ったぜ、マジで。


 幼馴染の兄貴達が住んでる街だから初撃で殺さなかっただけだ、これが街の外だったら全員一撃で腹掻っ捌くか喉笛食い千切ってるとこだっつの。


「こっ、コテツ! ごめんっ、ボクのこと、ほっといていいから!」


「莫迦言ってんじゃねえ。ここで『妹』ほっといて帰る『姉』が居てたまるか、あほんだらぁ? 姉ちゃんに任せとけ?」


 ゆっくり男たちの方に振り返って、俺が背中で遮ったその背にレムネアが縋り付いて来るんで、軽く後ろに振り返ってそんな風に言った刹那。


 雑魚の一人が突っ込んで来たんで、レムネアの前で素早く身を屈めて左の後ろ回し蹴りで側頭部にブーツのかかとを叩き込んで吹っ飛ばす。


 連携に慣れてねェな? 動きがバラバラだっつの。


 初撃でぶん殴っていま伸びて失禁してる一人を抜いてもまだ四人、いや今ふっ飛ばした残り三人つっても、一人ずつ掛かって来たら戦闘訓練にもなりゃしねえし、それに。


「水の22、火の37!」


「遅ェよ莫迦、(ミス)! 火種(マスタラハ)!」


 両手に蒼銀ミスリルの剣と盾を構えたエルガーが突っ込んで来たんで、言われたとおりの<符丁>に従って、鯉口だけ切った神刀にキーワード呼び出しで支援魔術を唱えてやる。


 こりゃ俺の神刀に突っ込んである100の呪文を属性と通し番号で分けた俺とエルガー、あとシンディの間でだけ通じる符丁だ。


 今の意味は、さしずめ「霧で周辺視界を覆って、敵の身体に目印の火種をつけろ」ってとこか。


 すぐに俺の腰の神刀から溢れ出た魔力は路地裏一帯を覆い尽くして、元々薄暗かったのもあって真っ暗になって、それぞれ身体の一部に消えない魔法の火種をくっつけられた阿呆どもが熱がって慌てる声が聴こえる。


「風の48、後は任せて!」


「オゥ、任せた! 沈黙(ディーノ)!」


 エルガーの指定されたみっつめのキーワードを唱えた途端に、瞬間的に周辺の音の一切が遮断されて、完全な静寂が訪れる。


 それで、エルガーが自分に向けてサーティエとシンディに教わってる自分向けの効果の魔法を使ってるから、魔力を通すと光を放つミスリルの鎧の全身がうす蒼く光ってて、霧に包まれた視界の中じゃいい的だ。


 すぐに、残りの男たちがエルガーに向かって殺到するのが判る。


 そのすきに、俺はエルガーの目論見通り、いきなりの魔法連発で慌ててるっぽいレムネアの細っこい身体を肩に担いでその場を離れた。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「済んだか?」


「うん。一応、お互いに殴り合ったみたいな感じで転がしといた。しばらくはバレないと思うよ。……寝ちゃってる?」


「オォ。さっきまで必死に謝りまくってたんだけどな、埒が明かねえんでスキ見て魔法で眠らせた」


 宿に戻ってきたエルガーの方は振り返らずに、やっと寝息が安定して来たレムネアのベッドサイドに座って、俺はレムネアの目尻に残る涙の跡をそっと指で拭ってやった。


「なんかな、途切れ途切れでよく分からなかったんだが。あいつら、街でやべぇ奴らの下っ端なんだってよ?」


「前に言ってた奴じゃないの? レムネアちゃんが昔、そこに所属してたとかなんとかの」


「ん? ……あー、初めて会ったときにタケミカヅチが叱ってたな、そーいや。俺でも忘れてることをよく覚えてたなオメエ?」


 思い出した。タケミカヅチに初めて命令したときだ。一年くらい前か?


「最愛の妹のことだからね。最愛の姉と一緒で忘れるわけないよ?」


「……寝言は寝て言ってろ。めんどくせえな? 皆殺しにしちまうか?」


 ちょっとだけ胸の中で動揺したけど、バレねえだろ、顔色変わらねえんだし!


「今後も街と村を往復するんだったら、あんまり殺さない方がいいと思うね。――タケミカヅチさんは?」


「今戻ってる。予想外にかなり遠くまで行ってたみたいだな、あと10分ってとこか」


「エルフの姉妹は?」


「わかんね。気配は街の中にあるっぽいけどな、あっちはあっちで別の用事で出張ってるっぽい」


 それぞれ固有で抱えてる魔力の大きさがあって、俺は超感覚でその大きさをおおざっぱに探知出来るんで、それで居場所のアタリをつけてんだけど。


 あいつらが常人とはケタ違いの魔力抱えてる奴らで良かった、魔力の大きさだけ見る視界にしたら、やたら巨大な塊が動いてるのが見えるんですぐにどこら辺に居るのかは見当が付く。


 シンディは出血しない限り外見上は常人以下なんで居場所が分からねえけど、一緒に居たタケミカヅチの方はでっけえなんて言葉で表せねえくらいに巨大だからな、すぐに現在地が判った。


 でもアイツ、武器に乗せて使う用途以外で魔力使えないんだってな、まったく『創造神の制限』ってなめんどくせえ。神々のそれぞれで制限の種類が少しずつ違うそうだ。


「起きて一人っきりだと寂しがるだろ。ここで話そうぜ」


 俺の手を握ったまんま、俺の膝を枕に寝入っちまって俺も身動き出来ねえしな。


 なるべく動かさないようにそーっと振り返ったら、さすがに三人相手に戦ったからか、割りと上気しまくってたエルガーが予想外に間近に接近してて、心臓を鷲掴みされたみたいにどきっとしちまった。


「よく寝てるね。……で、捕まっちゃったわけだ、姉さんは」


「離さねえんだもん仕方ねえだろ。……コイツの速さについて来れるようなやつなんかそうそう居ねえはずなんだけどな」


「母さんの服を汚さないように頑張ったんだろうね」


 言って、エルガーは俺の肩越しに、少しだけ掴まれたらしいあちこちを汚え油や泥で汚したレムネアの服の部分を摘んで確認した。


「油と泥汚れだから、水魔法で浮かせたら落とせるかも?」


「泥はともかく油を浮かせたら余計広がるんじゃねーか? 頭のいいシンディが帰るまで待ってぶん投げた方がいいだろ。それよか、問題は」


 つーか、汗の匂いをそんなぷんぷんさせながら近寄るなっつの。意識しちまうだろうが。


「うん。問題は、レムネアちゃんがこんなに取り乱すほど慌てた理由、だよね?」


「オゥ。起きるまでは理由聞き出せねえだろうけど……、街出るまでもう宿から出さねェ方がいいだろな」


 起こさないように注意深く前髪をかき分けてやって、寝汗かいてるのに気づいて、隣に立ってるエルガーを肘で小突いたら、調理場から絞った濡れタオル持って来たんで、そいつでそーっとレムネアの身体を拭いてやる。


 しまったな、よく見たらあちこち擦りむいてんなコイツ。


「エルガー、俺は今動けねえ。オメエ、ヒール使えたっけか?」


「っあー、ごめん、僕のは自分専用」


「ああいや、仕方ねえよな。軽い擦り傷だし後でいいか」


 珍しく片手を立てて謝って来るんで、まあ仕方ねえか、で納得。


 コイツも俺と一緒でサーティエとシンディに魔術習ってるけど、戦士だから魔術向ける相手が敵や味方じゃなくて自分一択なんだよな。


 おかげでガキの身体の癖して耐久力だけで言ったら大人のアドン並み、っつー化物レベルになってやがんだよなー。


 ったく、どんどん倒しにくくなりやがって、練習相手になる俺の身にもなれ、っつーの。


 ――俺がやたら魔法織り交ぜながら攻撃するから対抗するために覚えてったらしいけど、もしかして俺のせいなのかもな?


 まあ、そんなことを小声で雑談してる間に、どうやら全力で駆け戻って来たらしいタケミカヅチが慌てた風に戻ってきたんで、眠ってるレムネアの手前怒鳴り散らせなかったけど、「俺の許可なしに二度とレムネアのそばを離れるな」って厳命して。



 あとはタケミカヅチに任せて、俺とエルガーは協力してレムネアを起こさないように俺の手を握り締めてるレムネアの指を解いて、そんで一旦女子部屋を離れた。



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