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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第一章 成長篇
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17話 街に到着したんだぜ

「うっは……、すげえな、こんなに大きな街だったのか」


「大陸北東最大のカーン帝国の中でも最も東にあるのがシスの街だが、周辺に無数に点在する村落の中継点で交易が盛んだからな」


 相変わらず事務的に事実を淡々と説明するシンディが、今日ばかりは頼りになりそうだ。


 半径10キロはありそうなばかでけえ街壁に囲まれて、積雪対策で北国特有の尖った真っ赤な屋根の高い尖塔がそこら中に生えてて、街中を無数の路地が行き交ってて。


 感覚を集中させて視力を上げたら、おっそろしい人数の人々が活発にそこら中で露店を広げたり店を開けたりって商売しまくってるのが見える。


「人口五万人くらい居るんじゃねーのか、あそこ?」


「五万はないな。居住しているのは半数以下、せいぜい二万人ほどか。殆どが近隣から出稼ぎに来ている行商だ」


「へー。あっ、そうか。シンディもこの10年、あそこで出稼ぎしてたんだったな」


「ボクも一緒にねー!」


 へへんっ、どうだっ! なんて素振りで、俺がくれてやった白いワンピースに初めて袖を通したレムネアが腰に手を当てて威張ってたんで、はいはい偉い偉い、なんて頭を軽く撫でて、振り返ったら。


「……姉さんがいろいろ規格外なのは知ってたけどさ。――怖くないの?」


「んあ? ――ああ、場所か!」


 すげえ青褪めたエルガーが少し震え声で奥から俺たちに声を掛けて来て、その両脇でエルガーの両腕を捕まえてるシルフィンとシフォンも同意するようにがくがくと頷いてて。


 俺とレムネアは小高くなってるちょっとした山の、街道から少し離れた崖っぷちで、眼下に見える街を見下ろしてたんだよな。


 シンディは多少不器用なんで一歩下がってはいるけど、まあ普通の人間の感覚なら今にも崩れそうなこんなフチまで来られねえか。


 しかし。


「で、レムネア? 街着用にって大事に取っといたお気に入りの服に着替えたのはいいけどよ。……なんで穿いてねえんだ?」


「……? コテツもこれ着てるとき穿いてなかったでしょ? 着けてないと楽だね、びっくりした!」


 崖っぷちに仲良く並んで立ってるもんで、そりゃ下から吹き上げて来る風に煽られることになるわな。


 俺は今は和装でブーツに絞った袴を突っ込んでるからせいぜい髪が乱れる程度だけど、普段のチュニックにスパッツって軽装をやめてワンピース一枚に着替えたレムネアは。


 上下つなぎのワンピースだもんよ、風に煽られて腹から背中にかけて派手にめくれ上がって、綺麗な真っ白い素肌を惜しげもなく晒してやがる。――そして、穿いてない。


 サーティエやエルガーが口を酸っぱくして俺に「ちゃんと穿け!」つってたのが今になって理解出来た気がしたぜ。


 従姉妹で他人つっても、妹みたいに付き合ってる娘のナマの股間やケツを人前で見る、ってのはこんなに抵抗感あるものなんだなァ?


 あの小さくて窮屈すぎる布っきれが鬱陶しいのは激しく同意なんでレムネアに強制で穿かせるつもりはねェけどよ、こりゃうっかりめくれねェように近くでガードするしかねェわな。


 家族ならまだしも、他人にこんなサービスしたら人攫いにでも連れて行かれそうだ。――面倒事に巻き込まれるのはごめんだからな。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「おじちゃーん! 来たよー!!」


「んお? おー、レムネアか。久しぶりじゃな。……ほぉ!? 見違えたのう、よく似合っておるぞ? 馬子にも衣装、か」


「まご? ボク、おじちゃんの孫じゃないよ??」


 ことわざってか慣用句の意味が解ってないらしいレムネアがむむぅ? なんて感じで首を傾げるのが後ろから見えたけど、可愛いもんだぜ。


「ものの喩えじゃ。そんなところで突っ立ってないで、中に入りなさい。用向きは何じゃ?」


「んっとね、今日はボクのじゃなくて、ボクのお兄ちゃんの用事なの!」


「ほっ? レムネアに兄がおったとは知らなんだな?」


 そんな言葉を呟きながら、のそり、なんて感じでレムネアを片手で軽く押しのけて、鍛冶屋の家から出て来た爺さんは……。


 典型的な酒樽体型の寸胴に短くて太い手足、胸元に伸びる長いモジャモジャの黒髭に、今まで飲んでたんだろう酒の匂いの漂う筋肉の塊な低い背丈の身体、の。


「おお? なんとも大所帯で来たものじゃの? ワシはドワーフのムギリじゃ。このシスの街で昔から鍛冶屋をやっておる」


 昨日出会ったばっかのエルフ姉妹もそうだけど、こうしてファンタジー世界お約束なドワーフまで見ると、ほんっとにこの世界って異世界なんだなあ、なんて訳のわからん感動がひとしお、だぜ。


 ……毎晩空に見えるふたつの月でそりゃ解ってたことだけど、人間じゃない異種族なんてもんにはシャトー村じゃ出会ったことがなかったからな。


 まあ、あそこの結界は人間と神以外を弾く結界が敷かれてっから、もし村まで来たとしてもシンディが結界を解かなきゃ入れないんだけどな。


「……戦士アドンの子、エルガー。戦士の試練によって参上した! 戦士の約定に従い、鍛冶師ムギリに挨拶を!」


「……鍛冶神の使徒、ムギリ。鍛冶師の約定に従い、戦士エルガーに挨拶を! ……戦士アドンの願いを果たし、アドンの装備を返そう!」


 なんかすげえ芝居がかった調子で唐突にエルガーと、ムギリって名乗ったドワーフのおっさんが大声で怒鳴り合ってるけど。


 周囲を忙しく歩いてる人間はちらっとこっちを見るだけでそのまま素通りしてくから、戦士と鍛冶師の間の決まったやり取りかなんかで珍しいもんじゃないんだろう。


 そのまま、あまりの大声に片耳を押さえて涙目になっちまったレムネアと、大荷物抱えて佇んでるエルガーの背に両手を添えて店の中に連れ戻ったムギリの後を追って、俺らも中に入ろうとするけど、そういや、エルフ姉妹のシルフィンとシフォンって?


「ドワーフの住居に立ち入るなんてー、臭くて無理ーっ!」


「ドワーフみたいなぁ、男臭い種族のそばにずっと居るなんてぇ、わたしたちには無理ですぅ」


「ワシの方もお前らのような女臭い種族を家に入れたくないわい!!」


 なんてやり取りが。あー、やっぱ、お約束通り、エルフとドワーフって犬猿の仲なのなー。


 まあエルガーの用事があるんで、とりあえずそこでエルフ姉妹とは別れて別行動することにして、俺らは中に入った。


 タケミカヅチが保護者と連絡役でついてったから、後で合流するときも問題ないだろ。適当なとこで叫べば勝手にタケミカヅチの方から駆けて来るからな。




「まったく、相変わらず胸クソ悪い女どもじゃ! さあさあ、奥まで入ってくれ。生憎と茶はないが、酒で良かろう? 酒は百薬の長じゃて、茶の代わりにもなるはずじゃ」


「……そりゃどうかな? まあ、くれるっつーなら貰うけど」


 ぷりぷりと怒りながらも、そこらに適当に転がしてた小さめの鉄の水筒をぽんっと俺とエルガーに放り投げて来たんで、片手で受け取ってコルク栓を抜いて。……うぉ、なんだこりゃ、すんげえきっつい酒の匂いだな?


 まあ俺の身体なら飲んでも影響ないんで、口につけてラッパ飲みしたら、珍しいもんでも見るみたいにエルガーとレムネアが俺の方を凝視してて。


 あっ、そうか。俺が水以外のもんを飲んでんの見るの、たぶん初めてだもんな?


「お前らは飲むなよ? 一口でひっくり返るからな」


 言い置いて、もっかいラッパ飲み。水と酒はなんでか普通に飲めるんだよ、俺。


 <状態固定>が効きまくりなんで酔っ払うなんてことはねえし、前世でも未成年で死んでるから酒が旨い、なんて感じるほど飲んだ経験もねえけど、「腹に物を収める」って経験が出来るのはこのふたつだけで、それに。


『香りを同時に楽しめる』のは酒だけだからな? 実は、村の人間には内緒で、同じように酒好きなタケミカヅチやヒトツメたちと神の鍛冶場でよく酒盛りしてた。


 ……血液も腹に溜まって香りがあって酒なんか比較にならねえほど甘美でとろけるように甘い、って事実に思い至っちまったけど、ぶるぶる頭を振って脳内から考えを追い出す。


 至近距離に男の汗の体臭をむんむんさせてるエルガーが居るんだ、血迷って襲っちまうかもしれねえし。


「……おー? ヒトツメんとことあんまし変わり映えしねえな? こっちの方が涼しくて快適だけど」


 話題を変えて、薄暗いムギリの鍛冶場を見回して……、俺の超感覚なら暗視視力に目を切り替えるのも造作もねえ。


 普通の人間なエルガーやレムネアに付き添いのシンディは、足の踏み場もないくらいに散らかってる屋内でつまずきまくってるんで入り口に近いカウンターみたいな場所で立ち止まってる。


 けど、俺は視力を切り替えて緑色に近くなった視界で、同じようにすたすたとそこら中のものをひっくり返しながら奥に進んでくムギリの後を追った。


「ほっ? お嬢さん、この暗さできちんと見えておるのか? 魔法の類かのう?」


「まあそんなもんだな。何を探してんだ?」


「アドンとサーティエに頼まれた制作物を渡してやろう、と思ったのじゃが。はて? 捨てるわけはないのじゃが、どこにしまったものか。……アドンの子エルガーよ! 装備を脱いで楽にしておれ!」


 ぐえっ、突然大声出すなよ、聴覚絞ってるっつっても脳内にぐわんぐわん響きやがる。


 どうも整理整頓とは程遠くてそこら中に作った端から放り出して積み上げてるような性格っぽいな、このムギリってドワーフは。


「やたら几帳面に整理整頓してるヒトツメとは対角だよな」


「……先程もその名を出しておったが、もしや、そのヒトツメとはアメノヒトツメノミコトではないじゃろうな?」


「お? 知ってんのかおっさん? フルネームはアメノヒトツメだったな、確か。

 俺の村の近くに住んでる……、いや、住んでるっつか異空間の門があって繋がってるだけだが、そこに居る鍛冶神だよ」


「ふむ? まあ、制作物を見ねば真実は分からぬな。ワシらドワーフは鍛冶神を祖神とする精霊族、本当であれば挨拶に出向きたいものじゃが……」


「疑り深ェおっさんだな? アイツの製作物ならここにあるっつの」


 相変わらずこっちを振り返りもせずにごそごそと奥のガラクタを発掘してるんで、俺は腰に差したアメノヒトツメとタケミカヅチが一緒に作った神刀を一息に抜き放ったら。


「……?!」


 愕然、なんて表現がぴったりの様子で、すんげえ勢いでムギリが振り返りやがった。


「判るか? これ、ヒトツメに作って貰った神刀だけど」


「なんと?! 透明な刀身とは、それに、なんじゃこの素材は?! 蒼銀ミスリルのようでいてミスリルではない、この圧倒的な放出魔力はそれでは説明が出来ん!! まさしく神の御業!」


 なんか俺から神刀を取り上げようと両手を伸ばして来るんで、高く上に上げて届かないように遠ざけたけど。


 あー、そうか、鍛冶『神』だもんな、アイツ。普通の鍛冶師からしたら文字通り雲の上の存在、なのか。


 でもこのままじゃ探しモノが終わりそうにねえから、エルガーの用事を終わらせたら持たせてやる、つったらさっきまでとは打って変わって鬼の勢いで探し始めた。


 ……最初からやれよ、その勢いでよ。



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