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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第四章 商会篇
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93話 最終話

「なるほどな? 動けないわけだ」


 年単位でさんざん探し回された結果を目の前に、俺は深々とため息をついた。


《完全に……、石化しちゃってるね》


「俺に血液を全部移した理由も判ったぜ。石化する自分の体内にあるより、動ける俺に移して使用させた方が『合理的』だからだ」


 シィに頷きながら、シンディの口癖を思い出して真似してみる。


 その俺らの目の前にあるのは、二人の女に両手を伸ばした姿勢で石像になってる、三人の女の彫像で。


「こいつらが……、《三人のロキ》か」


《白のフヴィトルの姉、黒のスヴァルトル、妹が赤のラウオル……、ってデータベースには記録があるよ》


「何が『心当たりがあるが確証がない』だ、シンディめ。――封印してしれっと戻るつもりだったのか?」


 石化しちまってる状況は判ったけど。


 白のフヴィトルもそうだったけど、こいつらは他所の世界の神だ。


 この世界では殆ど力を持たないから、同じく力を殆ど持たないつっても、やろうと思えばあらゆる魔術を使いこなすシンディの敵じゃねえだろ。


「ただ、なんでタケミカヅチすら連れずに、単身出向いたのか、って話だが」


《影響を受けやすいから……、じゃないかな?》


「影響を?」


《白のフヴィトルがそうでしょ? 力自体はそう強くもないのに、この世界の魔力に干渉して『変な神力』に影響を強めてて》


「アァ……、判った。『変質』させる力があるのか、コイツら」


 よくよく見れば、シンディの像に掴みかかろうとした姿勢で石化してる二体の女の石像は、フヴィトルに瓜二つで。


「虎徹よ? 我はこの女の像を破壊すれば良いのか?」


「破壊思想から離れろ、この莫迦」


 唐突に掛けられた声に、俺は振り返りもせずにその頭を思いっきりぶん殴った。


「我の頭は打楽器ではないのだが……」


「コイツらは世界は違うっつっても、俺らと同じ神族なんだよ。――不老不死だ、砕いたところで死なねえっつか、別のとこで復活したら困るだろうが」


 頭を押さえて涙目になるカグツチに怒鳴りつけておいて。


《シンディさんを起こして聞いた方が早い、と思う》


「同感だ。……起こす方法、分かるか?」


 ふよふよと俺とシンディたちの像の間をうろつくシィの霊体に尋ねたら、シィは少し言うのを躊躇う様子を浮かべた。


《えっとね。……コテ姉の身体を流れる、シンディさん由来の血の力を返すこと、だと思う》


「なんでえ、簡単じゃねえか」


《ちょっ、待って待ってコテ姉、早まりすぎ!!》


 言われて腰の小太刀を取り出して、腹にぶっ刺そうと上に振り上げた俺を、シィが慌てて止めて来る。


《前は一年も寝てたのに、今度そんな大きな力の損失したら、何年寝たきりになるか!》


「……今、俺が眠って、なんか困ること、あったっけか?」


《たくさんあるでしょ?! それに、新婚さんなんだよ、インダルトさんになんて説明するの!》


「……旦那は凄い怒るだろうけど。全力で起こすために頑張ってくれる、と思う。そういう奴だから、アイツ。――俺がオマエやレムネアやエルガーたち兄妹よりも信頼する、すげえ奴なんだぜ」


《認め、認めないから、認めないんだから! あたしよりも大事な人なんて!!》


 激昂するシィに、前世で看取ったシィの死に際がフラッシュバックして、ああ、ほんとにオマエなんだな、って思うと同時に。


「じゃあな、未来で待ってる。……ちゃんと起こしてくれよ?」




 不思議に確信して、俺は、思い切り良く、片腕で腹を掻っ捌いて、吹き出す血飛沫をシンディの像の全身に浴びせかけた。



――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――



「……で、そこから何度か目覚めたりしてちょくちょく旦那やレムネアたちと遊んでたんだけどな。

 剣聖になったり国王になった旦那のいい王妃を務めたり。


 つか、アゼリア王国の国王になったエルガーがしまいにゃフヴィトルごと俺の左腕を喰ったエルガーが大暴走始めやがったもんで、こうして俺の身体に合体させて身動きできないように封印。

 吸収したエルガーとフヴィトル双方の影響が俺の外見にも反映さrて、ついでに性別変わっちまったのはご愛嬌だな。

 旦那がめちゃくちゃ呆れてたのをよく覚えてるわ。


 ――つっても、さすがにむちゃくちゃしすぎで全身に無理が来たんで、長く寝るわ、つって《岬の迷宮》に安置されてたら、いつの間にか1,000年近く経ってたわ、って話だ」


 俺の話に、目を丸くして驚いてる幼女が居て。


 その顔にシィの面影を見た気がして、俺は声もなく驚き続ける幼女……、俺とシンディの娘、アリサを抱き上げた。


「コラ? 嘘だと思ってんだろ?」


「ううん? パパ大好きだもん、信じてるよ? でも。じゃあ、このパパの左腕って、弟さんが封印されてるの?」


「アァ、そうだぜ? 出すとめんどくさい奴だから出さねえ、っつか、出すと俺が片腕の美女になっちまうから、ママが嫉妬するからダメだぞ?」


 左腕の中でエルガーが蠢いた気配がしたが。


 オマエはフヴィトルを吸収したり、王国で戦ううちに本気で別人みたいに変わっちまったからな。


 せめて俺の娘が成人するまではそのままで居ろ。出してやらねえぞ、天然女たらしめ。


「ママも、美人さんなのに。……あれ、シンディさんと、シィさんが合体したの?」


「シィはシンディが復活するときに昔の記憶を取り戻して混乱しちまったんで……、最終的にゃ、アリサの言う通り、シンディに魂を吸収される形でひとつになった。――神のシンディがシィの感情の暴発に興味を覚えて執着を知ったのが成長のひとつかな」


「んー? わかんない」


「難しかったか。まあ、シィはシンディになったんだ。で、オマエは俺とシンディの子。生まれるまで時間掛かりすぎたけど、苦労してできた子だから、超可愛いぜ」


 アリサを抱えたまま、むっちゅー、とかキスしようとしたらめっちゃ嫌がられた。なんでだよ。


「パパ、お酒くさーい」


「アァ。さっきまで『暗黒神』と飲んでたからな。……飲みすぎたか?」


「お酒の匂いなくなるまで、キス禁止っ!」


 アリサがびしっと俺に宣言して、俺の腕から逃れて部屋の外に走ってく後ろ姿を、俺は苦笑しながら見送って。


 ぴったりのサイズになった左手の薬指にハマってる、旦那とお揃いの指輪に目を落として。


「タケミカヅチの神器になったら永劫の時を生きられる、つったのに。人間のままで死にたい、なんて莫迦抜かしやがって、インダルトめ」


 ふう、とため息ついて、そのまま俺は、ごろり、と横になって。


 気を抜くと容姿が女性の虎徹に戻っちまうんだけど、まあアリサも外に遊びに行ったみたいだし、いいか。


 身体のサイズが変化してくのを感じながら、ぶかぶかになって指から抜けるミスリルの指輪を摘んで目の前に持って来て。


「……まだ、ここに居るのか? ――あなた」


 返事なんかあるわけもねえのは解ってるけどさ。


『ちゃんと居るぞ、しゃきっとしろ、おまえ』


 なんて返事が聞こえた気がして、俺は盛大に顔をにやけ笑いでいっぱいにした。



後半は転神II [ http://ncode.syosetu.com/n9370dr/ ] のエピローグ前後のお話になります。

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