09話 従姉妹に懐かれたんだぜ
「コテツ、解ってんのかい? あんたは女の子なんだからね?」
……なんつーかこう、反論したいんだけど反論出来ねーっつか、涙目のサーティエとレイメリアににそう言われると弱いっつか。
俺の目の前には怒りながら涙目になってるサーティエと、サーティエの姉っていうレイメリアが並んで立ってて、正座してる俺を見下ろしててさ。
レイメリアってのはレムネアの母親で、心臓を弱くしてるんで診療のために定期的にシアの街の方に通ってるらしい。
そうだ、この世界の、っつかここら辺だけの慣習なのかもしれないが、人間が名前を名乗るときは親の名前が名字の代わりになるらしい。
だから、エルガーのフルネームはエルガー・アドン・サーティエ、レムネアのフルネームはレムネア・レイメリア、らしい。レムネアの親父の名前は不明なんで母方の名前だけ、なんだとさ。
俺だとコテツ・シンディになるのか? ……なんか語呂が悪いからただのコテツでいいよな、厳密に言えば俺はシンディの腹から生まれたわけじゃねェんだし。
で、エルガーの母親のサーティエとレムネアの母親のレイメリアが姉妹同士なんだから、エルガーとレムネアは従兄妹、ってことだそうだ。
レムネアは11歳だから俺らよりひとつ年下の妹、ってことか。
……そのレムネアは相変わらずけたたましい騒音兵器なレベルで泣き喚きながら俺の隣に座ってるわけだが。
「いや……、その、こんなに泣くとは思わなかった、っつか」
「あんたにとっちゃ大したことないことでも、この子にとっちゃ大切なものだったんだよ。
あんただって、ひとつくらいそういうのあるだろ?」
「………………ねェわ」
がくぅっ、とサーティエが態勢を崩すけど。
いやほんとに、俺ってあんましモノに執着しないタチなんで、なんでレムネアが『髪飾りを踏み壊されただけ』でこんな目覚まし時計レベルで泣いてんのか分からねえんだよな?
「あれはこの子の本当の父親から貰った唯一のモノだったからねー? 泣くのも無理ないわー」
「――形見、だったりするか?」
死んだ人間の持ち物だったりするのかね? 俺も前の世界に置いて来ちまったけど、死なせた妹の服のボタンを後生大事に持ち歩いてたりしたから、そういう気持ちなら分からなくもない。
「形見ってわけじゃないけど、今はもうどこにいるのかも解らないからねー? 作り直して貰うわけにも行かないしー」
「仕方ないね、コテツ! あんた、責任持ってこれ、修理しな!? 直るまで魔法陣の修行はお預けだよ!!」
「うえぇ?! 待てよサーティエ、俺、モノ直すとか苦手も苦手で」
「あんたは女の子なんだから! この機会に料理や裁縫でも覚えるんだね、とにかくレムネアに謝って、話はそれからだよっ!」
泣きながら怒るなんて器用な真似するのやめてくんねーかな、サーティエ。
涙脆いのは知ってたけどさー。レイメリアの方は苦笑しながらも口出して来ねえし、レムネアは俺の方をなんか恨みがましい目で見てるし。
くっそ、なんで俺がこんなクソガキ相手に、頭を下げる、なんてよ!
「………………悪かった」
「ごめんなさい、だろ?」
「…………………………悪かった、ごめんなさい」
下げた頭をサーティエのごつごつの手が撫でて来るのが判るけど、俺の心中は煮えたぎりまくってて。
あかんべとかして勝ち誇ってんじゃねェぞ、このクソガキ。必ずこの落とし前はつけてやっからな!
とか思ってたら、胸元に壊れた銀の髪飾りなんか押し付けられちまって。
「じゃ、修理の方、頼んだよ? あたしゃ姉さんの介護しなきゃいけないからね」
「済まないねー、面倒ばっかりでー」
「そいつは言わない約束だよ、姉さん。あたしら、この世でたった二人っきりの姉妹じゃないか」
……なんだか時代劇に出てきそうなやり取りをしてるレイメリアとサーティエに送り出されて、俺は森の一軒家からシャトー村に、レムネアと戻ることになっちまって。
マジクソどうしろっつーんだよ、図画工作なんざ小学校以来だっつの、小学校の破壊王とまで呼ばれた俺に修理なんか出来るわけねーだろ。
シンディは相変わらず居ねえし、タケミカヅチは異空間の向こう、アメノヒトツメの鍛冶場で神刀製作の手伝いやってるし。
それに――。
「……おい」
「……?」
「いつまでそうやって握ってるつもりなんだっつの」
「……だめ?」
「うぜえ!」
びしっ、とレムネアの手の甲に手刀を落として、それで俺のワンピースの裾を引っ張ってたレムネアの手が離れたんだが。
そっこーで逆の手で今度は肘の辺りを摘まれて、返す腕でそれを叩き、その間にも手や足を伸ばしてくるレムネアに対抗して俺も……。
「って、なんで村に帰るだけの道のりで突発で肉弾戦しなきゃいけねェんだよ!!」
「コテツほんっと動き速いよね! 楽しいー!!」
「楽しんでんじゃねえクソボケ!!」
確かに、村の男衆たちやアドンと比較にならないくらいレムネアの動きは速い、んだよな。素早さだけで言ったら、対抗できるのは俺くらいか?
弓と一緒にタケミカヅチに体術でも習ってんのか、多少の攻撃なら軽々と躱しやがるし。
同じようにタケミカヅチに体捌きと剣術を習い始めた俺でも、もしかしたらコイツが本気になったらついて行けないかもしれねえ。
まあ、コイツは普通の女子で俺みたいな力はねえから攻撃されても屁でもねェけど……。
「……ぶはっ?!」
「あははっ、ボクの勝ちーぃ! ほんっと、コテツって全身せいかんたい? みたいで敏感で可愛いー!」
「脇腹と背中は触んな、つってんだろうがクソガキィ!」
「ここまでおいでーだ、走るのもボクが速いもんねー!」
素早く位置を入れ替えて、村に向かって一直線に駆け出したレムネアを途中まで追いかけたけど、すぐ諦めて俺は裸足でてくてく歩き出した。
アイツに初めて会ってからそろそろ一ヶ月になるけど、アイツあれで村のガキどもに人気高いからなあ、俺が追っかけてったらまた大騒動になっちまう。
母親のレイメリアがレムネアの白髪紅眼でいじめられるんじゃねーかって心配して村に近寄らせなかったらしいけど、要らない心配だったよな。
レイメリア、俺の村の順応性の高さを舐めすぎだぜ? 何しろ、同じように黒髪黒瞳で、あからさまに異質すぎる俺が普通に暮らしてる村だからな。
……っつーか、あのガキどもと大人たち、魔物でも意思疎通出来たら村で受け入れるんじゃねえのかってくらい順応性高すぎだよな、さすが傭兵の村。
そう、シンディが村に入った頃から農作物の収穫が右肩上がりで上がってるから傭兵として出稼ぎに出る大人が減ってるんで忘れがちだけど、シャトー村って本来は男衆はほとんど戦士になって出稼ぎで傭兵やる傭兵村だったんだよな。
他の土地でも割りとこういう形態の村落ってのは多くて、北国で農作物が育ちにくい土地柄なんで、自然と傭兵やる村が多いらしい。
だけど、男衆が全員傭兵に出ると盗賊や魔物に襲われたときに危ないんで、全員いっぺんに稼ぎに出るんじゃなくてある程度交代制になってるらしくて。
出稼ぎに出たまま帰って来ないこともザラなんで、人と人との繋がりを大事にする村なのかもな。
アドンや他の大人に聞いた傭兵の不文律、ってのもカッコ良かったな。
『戦場で戦うからにゃ、恨み辛みで殺すな、復讐を連鎖するな、冷徹に計算で殺せ、そして潔く死ぬな、最後の最後まで足掻いて死ね』
だってよ? なかなか戦争の実態に即して実践的だよなあ、さすが傭兵、って感じでアドンや大人たちへの尊敬を新たにしたもんだ。
そんなことを考えてたら、少し先の方で飛び跳ねながら大声で俺のことを呼び寄せるレムネアが待ってて、俺は辟易しながら呼ばれるがままに村への道を走った。
まったく、さっきまで喧嘩して泣いてた癖に、泣いた白子がもう笑ってやがる。元気なもんだぜ、この従姉妹。




